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デスサイズ  作者: LALA
Episode8 復讐
42/118

復讐1



「……さあ、力を試してごらん」



西園寺組(さいおんじぐみ)】と書かれた大きな看板が付けられている和風の屋敷の前に、2人の少年が立っていた。




1人は黒いコートに身を包んだ茶髪の青年――大神。


そしてもう1人は、両足をしっかりと地に付けて仁王立ちをしている恵太郎。




「…………」


恵太郎は己の右足を見下ろした後、深く息を吸いこみ顔を上げる。



吸い込んだ息をゆっくりと吐き出し、ゆっくりと門に向かい、握り拳でノックする。




「何もんだ!?」


数秒の間があった後、門の向こうからドスの利いた若い男の声が聞こえてきた。




「…………」


男の声には応答せず、恵太郎は無言のままノックを続ける。




「あんだゴラア!? 返事ぐらいしろやあ!」


門を開いて現れたのは、和服を着込んでいる小物臭が漂う男。


彼は恵太郎の存在に気づくと、怪訝な表情をして恵太郎を見下ろした。




「んだあ? ガキじゃねーかよ! お前、ここが西園寺組だと分かってんのか? あぁ?」


両手を腰に当てて、バカにするようにニタニタと笑う男。



相手が子供だと思い、完全に油断している状態だ。



そんな男の右肩を恵太郎はガシッと掴む。


「気安く触ってんじゃねえぞゴラア! ぶっ殺されてえのか、ああ!?」


唾を飛ばしながら怒鳴りつける男を無視して、恵太郎は肩を掴む手にグッと力を込める。



すると――




グワシャッ




生々しい音と共に、男の掴まれている肩から、握り潰されたトマトのように血と肉が飛び散った。




「ぐぎゃああああぁぁあっ!!!!」


突然の激痛に唾液を流しながら悲鳴をあげる男。


彼の周囲には鮮血と、潰れた際に飛び散った赤黒い肉片が散らかっている。



「……脆いなあ、鍛え方が足りないんじゃねえ?」


淡々とした様子で呟くと、恵太郎は男の肩から手を離し、顔についた返り血を乱暴に拭った。


一方、解放された男は力無く地べたに倒れこみ、パニック状態になりながら潰れた肩を押さえている。



「ぎっ、ひ……ひぃ……!」


ガタガタと震える彼の頭を、恵太郎は躊躇(ちゅうちょ)なく踏み潰す。


グチャリと潰れた顔からは眼球や歯が勢い良く飛び散り、顔から足を離した恵太郎は飛び散ったソレらを蹴飛ばしながら門を潜って中に入った。






「な、何だテメエは!」


屋敷の中に侵入した恵太郎が廊下を歩いていると、数人の組員達が姿を現した。


各々の手には刀や拳銃など得物が握られている。




普通の高校生ならば、極道の気迫や得物に怯えるだろう。


だが、恵太郎は複数の極道から殺気を一身に受けても怯える所か、これから起きるであろう血生臭い争いに心が浮きだつのを感じていた。



もはや彼は“普通”ではなくなっていたから――




「ククッ……」


不意に吊り上がる恵太郎の口角。




「アハハハハハ、ハハハハハ!!」


腹を抱えて笑いだす恵太郎に、思わず組員達は怯んだ。


気でも狂ったか――誰もがそう思った、その時。




「死んじまえ」


恵太郎に一番近い場所にいた、刀を構えていた組員の首が飛んだ。




「……は……?」


視界の端に、鎖骨の近くから噴水のように血を噴き出して膝から崩れ落ちる仲間の姿が映り、組員達は絶句する。




「アハハハ、コイツも脆いじゃん」


宙を舞っていた男の頭を片手でキャッチして、恵太郎は笑う。




今の一瞬の間に何が起きたのか誰にも分からなかった。



首をはねられた組員は、恵太郎に一番近い位置に居たが、それでも距離は十歩分は離れていて隣接している訳ではなかった。


それなのに恵太郎は一瞬で組員に近づき、素手で彼の首をはねたのだ。



「あれ? どうしたの? まさかガキ1人にヤクザともあろうものがビビってる?」


手に持っていた首をゴミのように投げ捨てながら恵太郎が言う。



首が地面に落ちる音を聞いた組員達は我に返り、気合いを入れ直して武器を構えた。




「っ……怯むなあ! 殺れ、殺っちま……」



グシュ



拳銃を構えた中年の男性が叫ぶが、その言葉尻は何かがめり込むような音に揉み消される。



違和感を感じた腹部を恐る恐る見下ろすと、そこには人の腕が突き刺さっていた。




「なあ、今どんな気分?」


ニッコリと笑う恵太郎を見た途端に激しく痛む腹。



「が、はぁ……」


呻き声と共に、赤黒い血が口から零れる。




「キサマアアァ! 兄貴を離せええ!」


発狂した組員達が恵太郎に向けて銃を発砲する。



しかし恵太郎は腕を突き刺している男性の身体をグイッと引いて移動させ、彼を盾にして後ろへ隠れた。



それによって恵太郎を目掛けて撃ち出された弾丸は男性が全て受け、無数の風穴が開けられた彼の背中から溢れ出た血液がネズミ色だった和服をドス黒く染め上げた。



「あ、兄貴がっ!」


「このクソガキめ!」


「何と卑劣な!」



男性を盾にされた組員達は、拳銃を降ろして恵太郎を罵った。


大量の出血、そして力無く項垂れる首の様子から男性が既に死していることは明らかだったが、例え死体となっていても彼らには尊敬する兄貴分を傷つけることなど出来なかった。




「この腐れ外道! 兄貴を離せ!」



刀を持ったまま叫ぶ若い男。




「……分かったよ、離してやる」


醜悪な笑みを浮かべながら、恵太郎は男の遺体から腕を引き抜き、解放した遺体を組員達に向けて突き飛ばした。




「うおわっ!」


全身から力が抜けている為に重たい遺体を受け止めた組員達がよろめき、腕が刺されていた腹部を見て全身から血の気が引いた。



大きく開いた穴からゴポゴポと噴き出す血と、ちぎれた肝臓を始めとする臓器の一部。


嫌な予感がした彼らは視線をゆっくりと恵太郎に移していく。




視線の先で立っていた恵太郎の右手には、赤い血が滴り落ちる ふっくらとした胃袋が握られていた。




「ククク…………」


臓器を片手に笑みを浮かべる恵太郎は、人の皮を被った悪魔にしか見えない。




「全員、死んじまえ」


恵太郎が一歩踏み出すと、大量の鮮血が辺り一面に飛び散った。




数分後




血と肉が混じった赤黒い水溜まりを踏みつけながら、恵太郎は屋敷の出口に向かって歩いていた。



全身が真っ赤に染まっている彼の右手には、白目を剥いて薄く唇を開いている初老の男性――西園寺組の組長の首が抱えられている。




「……これなら、勝てる…………これなら、アイツに勝てるっ!! 兄ちゃんの仇がうてる!! ヒャハハハハハハ!!」


狂ったように笑いながら、恵太郎は屋敷を後にした。




******




「……ハァ」


学校への登校中、1人で歩いていた玲二は疲れたように溜め息を漏らす。




首を吊ったあの日――病室で復讐感に駆られてからは黒斗や鈴とロクに話が出来ていない玲二。


別にケンカをした訳でも、確執がある訳でも無い。


しかし、何処か気まずくて顔を合わせることも出来ないのだ。



今の自分ではあの2人と一緒に居られない、居てはいけないとさえ感じている。




(…………こんなオレじゃ……兄貴と鈴ちゃんと一緒に居られる価値が無い……何も無い、空っぽで弱いオレじゃ…………)




確固たる意思を持ち、強さを持っている黒斗。


真面目で優しく、正義感が強い純粋な鈴。




それに引き換え自分は、大好きな絵も描けない、将来の夢もない、取り柄もなければ、周りに流されてウジウジ悩んでばかりの面倒臭いヤツ。



あの立派な2人の側に居られる価値など何処にあろうか。




落ち込む度に自分を責めて、自分を責める度に落ち込む。


この悪循環から抜け出すことも出来ずに、今日も玲二は1人で悩み、落ち込む。



周りはしっかりしているのに、自分だけどうしてダメ人間なのだろう。




劣等感が消えない。


「あっ、レイちゃん……」


鈴の声が後方から聞こえ、玲二の肩がビクリと跳ねる。


恐る恐る振り向くと、心配そうな表情の鈴と、相変わらず無表情な黒斗が並んで立っていた。



「…………」


何を言えばいいのか分からず、玲二は黙ってこの場から立ち去ろうと走り出す。



「ちょっとレイちゃん! ウチ、レイちゃんと話したいことが……」


「ごめん鈴ちゃん! オレ、日直だからっ!」



そう言い捨てて、玲二にしては珍しく素早い動きで走り去った。




「……うぅ……何かレイちゃんに避けられとる気がする……」


後に残された鈴がガックリと肩を落としながら呟く。




「気がするんじゃなくて、確実に避けられてるんだよ」


「冷静に指摘せんといて……余計ヘコむわ……」


右手で目元を覆いながら言う鈴。




今まで仲良くしていた相手から、あからさまに避けられるのは結構堪えるものだ。


玲二が自分達を避けている理由は何となく分かるが、このまま互いに話もせず、すれ違っているままでいいのだろうか。



「なあクロちゃん……レイちゃんと仲直りせえへんか? このまま気まずいのが続くんは良くないと思うんや……」


「仲直りも何も、俺達は別にケンカをしている訳じゃない。それに俺達が普通に接しようとしても、佐々木が勝手に避けたりしているだろ。この状況は、佐々木自身から変えようとしなければ変わりはしない」



「そりゃあそうやけど……ウチらの方からも少しは歩み寄った方がエエで……」


「…………今の佐々木には歩み寄っても無駄だ」


抑揚のない声でキッパリと言い切り、黒斗は1人でさっさと歩き出した。



早歩きする彼の背中を、鈴は小走りで追いかける。




(……ケンカしてない言うけどな……クロちゃん、絶対レイちゃんに何か怒っとる…………意地の張り合いなんかせんでいいのに、このバカ師弟は……!)


心の中で悪態を吐く鈴。


どうにか説得したい所だが、何しろ相手は口が達者な黒斗である。



鈴が熱い説得を(こころ)みても、冷静に論破されて苦渋を味わうことになるのは目に見えている。



自分がもう少し、口が上手ければ――と内心で悔しく思いながらも、どうにか玲二とのわだかまりを解消すべく、鈴は必死に作戦を考えるのだった。




******




如月高校 1年E組




暗い気分のまま、ガラガラと教室の扉を開く玲二。




「おー、佐々木ー! おはよー!」


「佐々木くん、おはよう!」


「宿題やってきたかあ? 俺はもちろん、やってないぜ!」



玲二が教室に入った途端にクラスメート達は皆 爽やかな笑みを浮かべ、これまた爽やかな挨拶をした。




「お、おはよ……」


慣れない挨拶に戸惑いながらも、玲二は自分の席に向かっていく。



その途中、教室の隅で身を縮めている雅也と信男の姿が視界に映った。




「…………」


何も言わずに2人を見つめる玲二。



そんな彼の視線に気づいた雅也と信男が玲二の方を見て、目が合うものの、直ぐに雅也達は眉間にシワを寄せながら目を逸らした。




「………………」


目を逸らされた玲二は黙って席につく。


すると、近くに居たクラスメートが一斉に寄ってきた。




「なあなあ佐々木、昨日の魔人探偵見たか? 大迫力のアクションシーンだったよな!」


「あ、うん……」



「ブルーブレイの新作予約した? 新キャラ楽しみだよねー」


「そう、だね……」



口の端を吊り上げただけの粗末な笑みを浮かべながら、適当に返事をする玲二。




(……数日前は散々ヒドイ扱いしてきたくせに……変わり身早いよ……)


クラスメート達に苛立ちを感じながらも、それを面には出さずに当たり障りのない態度で受け答えをする。



玲二が首吊りをしてから、あんなにも冷たい態度をとっていたクラスメート達は別人のように優しくなった。


いや、優しくなったと言うよりは“ゴマすり”が正しいだろう。



学校内で生徒が未遂で終わりはしたが、自殺を図ったのだ。



PTAや教育委員会からはいじめがあったのではないかと責められた学校は、玲二のクラスでいじめが起きていたのではないかと調べてまわっている。


教師達が普段からクラスの様子に無関心だったことと、玲二が竜二に「いじめのことは言わないでほしい」と口止めしていることがあり、今の所 雅也達3人組を始めとする1年E組のいじめは明らかになっていない。




そんな中でクラスメート達がとった行動は“保身”だ。


彼らも雅也達のいじめを知っているうえで彼らを煽ったり、教師に知らせなかった加担者であり、いじめが発覚した時には自分達も責められると危惧している。


そこで彼らは玲二に媚びを売り、親しく親切にしていることで教師達から疑われないようにする工作と、「雅也達に脅されて仕方なくやった」と申し訳なさそうに玲二へ言い訳をしておいた。


これで完璧なカムフラージュ――と彼らは思っているらしい。


玲二には完全に見破られているが。




ガラガラガラ




扉が開く音に反応し、出入り口を見るクラスメート達。


入ってきたのは秀だが、秀の姿を見た途端にクラスメート達から表情が消えた。




「…………」


クラス中からの冷たい視線を投げかけられながら、秀は自分の席に向かってゆっくりと歩く。




だが




「うわっ!?」


短い悲鳴と共に秀の大きな身体がドタリと倒れた。



「ああ悪い。お前、デブだから当たるわな~。デブのこと配慮せずに足を伸ばしてて悪かったよ」


そう言ってククッと笑う栗色の髪の男子生徒は、秀の歩いていた所にわざとらしく片足を伸ばしていた。




「秀っ!」


秀を心配して駆け寄ろうとする雅也と信男。


だが彼らが秀の元へ辿り着くより先に、坊主頭の男子生徒がペットボトルに入っている水を、倒れている秀の頭に掛け始めた。




「お前の頭、クッセーぞ? ちゃんと洗ってんのかあ?」


言い終わるや否や、他の生徒達がゲラゲラと笑いだす。



ちなみに秀の頭に掛けられている水は黒茶色に濁っており、泥水だということは誰の目から見ても明らかだ。




「この野郎! 秀に何をしやがる!」


信男が坊主頭の胸ぐらを掴むが、坊主頭は余裕の笑みを崩さない。



「あのさー、君ら逆らえる立場だと思ってる訳? 言っても良いんだよ? 君らが佐々木いじめの犯人だって」


黄色い髪をポニーテールにしている女子生徒がニヤニヤしながら言うと、信男は坊主頭から手を離した。




(ひざまずけ)よ」


栗色髪の男子生徒が言うと、雅也と信男はその場に膝をついた。




「頭を下げろ」


言われるがままに頭を下げ、土下座のポーズとなる2人。



そんな2人の頭に足が乗せられた。



雅也には栗色髪の男子生徒の足が、信男にはポニーテールの女子の足が乗せられている。




「アハハハハ! 今まで好き勝手やってきやがってよお! ざまあみろ!」


「今度はあたし達が好き勝手する番よっ!」


足を乗せたまま笑いだす2人。




「雅也……信男……」


泥水を掛けられながら、親友2人を見つめる秀。




黒斗の戒告の甲斐があったのか、あれから雅也達はすっかり大人しくなり、玲二をいじめることも無くなった。


だが、それと同時に彼らへの新たないじめは始まった。



今までクラスのボス的存在だった雅也達が萎縮(いしゅく)したのを良いことに、手のひらを返して玲二側についた生徒達は雅也達を標的としたのだ。



好き勝手されてきた怒りや、雅也達を快く思っていなかった気持ちもあるのだろうが、一番は退屈しのぎや刺激を求めての行為だろう。



対象が玲二から雅也達に変わっただけの、ただの遊び。




教師達は玲二へのいじめ“しか”重点的に見ていない。


それ故、この新たないじめには気づいていない。


もしかしたら、気づいていながらも厄介事を増やしたくなくて、見て見ぬ振りをしているだけかもしれないが。





「………………」


雅也達がいじめられているのを黙って見ている玲二。




(……自業自得だよ……元々、君達が悪いんだから……!)


目を逸らして、授業の準備を進める。




ドラマや漫画に出てくる主人公ならば、ここで彼らを助けたり、許したりするのだろう。



しかし、玲二は彼らを助けようとも許そうとも思えなかった。



ざまあみろ、と――そんな気持ちしか抱けなかった。



今、雅也達をいじめている生徒達にも怒りはあるが、それよりも雅也達に対する怒りが勝っているのだ。



(……自分でも醜いとは思うよ……けど、許せないんだ……)


醜くて汚い感情――これも、玲二が黒斗と鈴と気まずくて話せない理由の1つである。



だけど、この気持ちをどうすることも出来ずに、玲二は自分を嫌悪するしかなかった。




******




同日 午前11時すぎ




「……ふわああ……」


交番の前で立っている中年の巡査が眠そうに欠伸(あくび)をした。



特にやることも訪ねてくる者もなく、暇を持て余している。




「あ~、眠い……何かこう、パーッと事件が起きないかねえ……」


警官でありながら不謹慎な発言をする巡査。


確かに事件を解決するのが警官の仕事ではあるが、たびたび事件が起きられては市民も堪ったものではない。




「あのー、すいません」


声をかけられた巡査が横を見ると、地図を持った青年――恵太郎が隣に立っていた。


いつの間に隣に居たのだろうか、と疑問に思いつつも張り切った様子で受け答えをする。




「はい、何でしょうか?」


「ここに行きたいんですけど、道を教えていただけますか?」


地図を指差す恵太郎だが、地図に書かれている文字等がよく見えず、目を細める巡査。



「すいません、地図を貸していただいても宜しいですか?」


「はい」


地図を手渡され、隣に立つ恵太郎が指差した場所を、巡査は食い入るように見つめる。




(……何だコリャ? こんな場所、ここにあったか?)


妙な地形に首を傾げ、暫し思考する巡査。




そして、彼が悩んでる間にそっと後ろへ回り込む恵太郎。




(……ん? これは違う街の地図じゃねえか!)


下の方に小さく書かれている異なる街の名前を見つけた巡査が、文句を言おうと口を開いた刹那――




ビシュッ




一瞬だけ聞こえた肉が裂けるような音を最後に、彼の意識は消えた。






「ははっ、簡単に人って死ぬんだなあ。たったの手刀一発で首チョンパだよ」


地面に転がる巡査の首と、頭を失いドクドクと血を流し続けている身体を交互に見て笑う恵太郎。



そんな彼には大量の返り血が掛かっており、身体を真っ赤に濡らしていた。




「さて、人が来ると面倒だし……さっさと貰うもん貰って帰るか」


ポツリと呟くと、恵太郎は転がっている首を蹴り飛ばし、膝をついて巡査の身体をゴソゴソと漁りだす。




「お、あった!」


目当ての物を見つけた恵太郎は、プレゼントを貰った幼子のように無邪気な笑顔を浮かべてソレをかかげた。




手に持っているのは黒く輝く拳銃。


その拳銃に恵太郎は頬擦りをする。




「やった、本物だ本物! 拳銃を撃つの憧れてたんだよなあ!」


満面の笑みで喜ぶ彼は、まるで新しいオモチャを手にした幼子のようだ。


拳銃をクルクルと回してベルトに差し込み、恵太郎は黒いゲートを開いて、中に入った。




(着実に準備は進んでる……ククッ……早く、この銃でムカつくアイツを撃ち殺してやりたいぜ……)


仇である黒斗の無様な死体を思い浮かべて舌舐めずりをする恵太郎。


今となっては武器を使うより、自分の拳で戦った方が強いのだが、わざわざ恵太郎は拳銃を奪い取った。


これは余裕の現れなのかもしれない。



狂気じみた表情は、殺された兄の仇をとるよりも、黒斗をどう殺して楽しむかを重要視しているように見えた。


今の彼を動かしているのは復讐心だろうか、それとも――

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