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デスサイズ  作者: LALA
Last Episode 罪と罰
100/118

罪と罰3

 



 その頃、地下室にて――




 十字架に磔にされたままの黒斗は身動きを とることが出来ず、ひたすら唇を噛み続けていた。



(…………クソッ……こうしている間にも、橘と佐々木の身に危険が迫っているかもしれないというのに……!)


 肝心な時に何も出来ない己の無力さに苛立ち、唇を噛む力を強める黒斗。


 歯が食い込んだ箇所に血が滲み、口内へ僅かに鉄の匂いと味が広がるも、そんなことなど まるで気にせずに彼は眉間へ さらにシワを寄せる。



 ウンデカが去って、どれだけの時間が経過しただろうか。


 時計も無い為 時間の感覚が おかしくなり、もう何時間も経っているように思えてくる。


 揺れは止まり、建物は静けさを取り戻したものの、それさえも嵐の前の静けさという不吉なものにしか感じられない。



 そのうえ十字架に魔力を封じる術が かけられているらしく、デスサイズを取り出してロープを切ることも、気を探って鈴や玲二達の様子を知ることも出来ない。



(……どうにか……どうにか出来ないのか……! それに橘……アイツをあの状態のままに しておく訳には いかない……!)


 周囲に視線を はしらせ、拘束を解く方法を探る黒斗。



 すると、不意に扉の奥から足音が聞こえてきた。




(……誰だ? 1人の足音ではないようだが……)


 警戒心を露に黒斗が肩を強張らせると足音が止まり、次の瞬間にはギイィという錆び付いた音と共に扉が開かれた。




「さー、誰か居るかーっ!? 居るのか居ないのかハッキリしろ! 居るなら居ると、居ないなら居ないと返事をするんだあああ!!」


「………………」



 開かれた扉からクルクルと回転しながら入ってきたのは内河。


 毎度お馴染みの正気を疑うような仕草と、聞いてるだけで頭痛が してくる奇声に、黒斗は内心で数秒前までの緊迫した空気を返せと呟く。



「…………何で お前が ここに居るんだ」


「んん!? 月影じゃあないか! お前こそ何で ここに居るんだよ! つーか、何ゆえキリスト像みたいに磔に されてんだ!? 新たなSMプレイか!? ついにサディストからマゾヒストに覚醒したのか!?」


「お前のような変態と一緒にするな」


 内河の勝手な想像を冷たく切り捨て、ギロリと睨みつける黒斗。



 そんな漫才が繰り広げられている間に、佐々木も部屋に入ってきて、2人の間に流れている不穏な空気に引きつった顔をした。





「……あなたたち、ふざけてる、ばあいじゃ、ないでしょう?」


「いや、俺は ふざけてないぞ! ふざけているのは月影の方で……」


「いいから、はやく、なわを、といてあげなさいっ!」


「は、はひぃぃぃぃ!!」


 佐々木に叱られた内河は慌てて黒斗の元に駆け寄り、彼の手首を縛るロープを ほどき始めた。


 十字架は180センチメートル程度の高さだった為、台座など無くても背伸びをして腕を伸ばせば、縛られている黒斗へ簡単に手が届いた。



「このっ……キツく縛られてやがるな……!」


 固い結び目が中々ほどけず、手こずる内河。



 だが彼の必死の努力も甲斐あって、数分が経過したのちに黒斗の右手首を縛っていた縄が ほどけ、右腕が自由を取り戻した。



「いよっしゃあああ……と言いたいところだが、まだ左手が残ってんだよな…………クソ、縛られるのが好きだからってキツくさせんなよ! ほどく方の身にも なりやがれ!」


「……言っておくが、俺は自ら望んで縛られた訳ではないからな。それに、左手の方は自分で何とかするから大丈夫だ」


 ぶっきらぼうに言い切ると黒斗は右手で左手首のロープを掴み、そして それを一気に引きちぎった。


 そのことによって黒斗の拘束が完全に解かれて身体が落下するも、大した高さではないので簡単に着地が出来た。



 一方 そんな黒斗の様子を見ていた内河は、彼のロープを ちぎる程の怪力に恐れを なしたのか、血の気が引いた真っ青な顔を黒斗に向け、身体を小刻みに震わせている。




「な、何というゴリラ……! というか、自力で何とか出来るなら俺いらなかったんじゃね!?」


「……そんなことはない。だから、一応 礼を言っておく」


 ロープの痕が赤く残っている手首を(さす)りながら、無愛想に黒斗は言った。



 両手首を縛られている状態では十字架に身体が完全に密着していた為に、本来の力が発揮できなかった。


 だが内河に右手を ほどかれ、身体の半分が十字架から離れられたので、自力でロープを引きちぎることが出来たのだ。



 内河が現れた時は、彼の緊張感の無さに正直イラッとしたものの、助けられたことは確かなので感謝は しておく。





「……つきかげくん、だいじょうぶ……?」


 内河の後ろから心配そうに見つめてくる佐々木。


 そんな彼女に大丈夫だという意味合いで頷くと、佐々木は安心したように吐息を漏らした。


 どうやら心配してくれていたようである。



「…………アンタも無事で良かったよ。あの後、大神に何もされなかったか?」


「ええ、なにも、されなかったわ。あなたも、いきてて、よかった。あんなに、いっぱい、かまで、さされて……しんじゃうんじゃないかって……こわかった」


 お互いの無事を確認しあって緊張の糸が解けたのか、険しい表情が穏やかなものへと変わっていく。


 和やかな空気が部屋に舞い降りるも、2人の間に挟まれている内河は肩身が狭くて仕方ない。



「……あのよお……話すのは いいけど、俺を挟んで喋んのは勘弁してくれねーか?」


 頭をポリポリと掻きながら呟く内河。


 しかし黒斗と佐々木には聞こえなかったようであり、2人は内河に構わず会話を続ける。



「そう簡単には くたばらないさ。しぶとさには自信があるんでな」


「ふふっ……へらずぐちにも、じしんが、あるみたいね」


 軽口を言い合いながら、笑いあう黒斗と佐々木。


 だが、さすがの内河も我慢の限界が来たようで、いきなり腕を振り上げて叫びだした。



「くぉらあああああ!! なーに、人を挟んで恋人のような甘い雰囲気を出しとんじゃあい! この女ったらしがあああ!!」


 何故か その場でスクワットをしながら叫ぶ内河。


 そんな彼に黒斗と佐々木は冷めたような眼差しを送るも、こんなことを している場合じゃなかったとばかりに首を振って気を取り直す。



「……おふざけは終わりだ。内河、佐々木、お前らは どうして ここに居るんだ? まさか、教団の関係者に連れてこられたのか?」


 黒斗の言葉に内河は「そう! そうなんだよ!」と返事をして、さらに続ける。



「聞いて驚け! この俺様は篠塚さんが信者と一緒に居る所を見かけ、コッソリと2人を尾行していたのだ!


  だが、あっという間に篠塚さんは信者に連れ去られ、俺も力及ばず黒い穴の中に落とされてしまったのだ!


  そして気がついたら、教団のアジトと思しき場所に居たのさ! 大まかな あらましは こんな所だな! さすがに俺の お父ちゃんが信者の1人だったとは言えないから、秘密に しておかなければ!」



「………………」



 心の声を暴露する悪癖により、あっという間にバレる隠し事。


 さすがに それを追求しては気の毒だし、本人は知られたくないだろうから、黒斗も佐々木も敢えて何も言わないでおく。




「……大体の事情は分かった。だが何故 1人で信者を追った? 1人では行動しないという約束だっただろうが」


 (とが)めるように眉を潜める黒斗だが、内河は悪びれた様子もなく、胸を張りながら口を開いた。



「だってー、しょうがなーいだろー! お前にも ちゃんと電話したのに、繋がらなかったから仕方なく1人で篠塚さんを追いかけたんだよ、バーロー!」


「……そ、そうか……それは……悪かった」


 恐らく、電話が繋がらなかったのは自分がウンデカに連れ去られていたせいだろう。


 自分に非が ある為 内河を責めることも出来ず、黒斗は言葉を濁して軽く頭を下げた。




「ふむ! 素直に謝ったから許してやろう! で、お前は何で居るんだよ? つーか、まあ縛られてた時点で どうせ さらわれてきたんだろ? はっ、マヌケめ!


  ていうか、さっき この女のこと佐々木とか言わなかったか!? 確かに佐々木先生に似てるけど、だからって佐々木って呼ぶのは どうかと思うぞ!?」



「……その件については後で話をする。で、アンタは どうやってここに?」


 まともに内河に対応していては話が長引くので、適当に会話を打ち切って佐々木に顔を向ける黒斗。


 間に居る内河が「無視すんなネクラ!」等と騒いでいるが、気にせず佐々木の言葉を待つ。


 すると彼女も黒斗の気持ちを察したのか、内河を無視して黒斗の問いに答えた。



「わたしは、しにがみに、つれてこられたの。しばらく、かれらと いっしょに、いたけど、にげてきたの。あなたと、れいじを、さがすために……」


「……そうか」


 佐々木の言葉に頷くと黒斗は腕を組み、彼女と内河から聞いた情報を元に現在の状況を推測し始めた。



 内河はアナスタシオス教団の信者だった父親に よって、この本部へと連れてこられた。


 さらに彼の話通り、同じく信者に さらわれた邦之も この建物内の何処かに生かされた状態で捕まっているようだ。


 精神を集中させて気を探ると、僅かに彼の気配が感じられた。



 佐々木も今 話した通り、大神に連れられて ここへ やってきたのだろう。


 だが彼女が探している玲二の気配は全く感じられない。


 もう既に死んでいるのでは――その可能性は否めないが、結界の中に閉じ込められて気を探れない可能性も ある為、彼に関しては安否は不明である。


 生きていてくれていることを祈るしかない。




(……とにかく、この2人は ここから脱出させよう。さりげなくゲートを開いて、適当に言いくるめて(くぐ)らせるか……)


 そう考え、黒斗は2人にバレないよう右手を そっと前方に かざした。



 しかし、その手の前には彼が いつも使っている黒いゲートは現れなかった。



(……ゲートが開かない……?)


 一度 手を引っ込め、再度 突き出すも結果は変わらず、ヒュッと腕が風を切る音が響くだけ。


 ウンデカはゲートを開けたというのに、何故 自分は開けないのだろうか。


 この建物自体に何らかの術が かけられているのだろうか。




「おい月影、何やってんだよ? もともと おかしい奴とは思っていたが、さらにおかしくなったのか?」


「…………いや……少し、考え事をしていただけだ」


 怪訝な顔をしている内河に言葉を返し、黒斗は腕を組んで思考を巡らせる。


 ゲートが使えない以上、内河と佐々木を脱出させるには出口を見つけるしか方法がない。


 ならば、その出口を見つけるまでは2人を この部屋に待機させておくべきか――そんな考えが脳裏に浮かぶも、それは得策ではないと すぐに考え直す。


 何しろ ここはアナスタシオス教団の本部なのだ。


 黒斗が離れている間に、ウンデカや大神が2人に手を出す可能性は十分にある。


 多少のリスクは あれど、共に行動した方が良いのかもしれない。




(……これから先、何が起きるか分からない。ウンデカや大神……それに、死神化した橘が徘徊(はいかい)しているからな……。


  コイツらと別行動を とるのは(かえ)って危険だ……いざという時に、助けられないからな……)


 思考を終えた黒斗は組んでいた腕を解き、ボンヤリと こちらを見つめている佐々木に視線を移した。



「とにかく佐々木……いや、玲二や篠塚が捕まっているのなら、何か危害を加えられたりする前に助けないと……。


  本来なら分担した方が効率が良いだろうが、ここはアナスタシオス教団のアジトだ。何が出てくるか分かったもんじゃない。まとまって行動しよう」



「ええ、それがいいと、おもう」


「うーむ、まあ そうだな! ホラー映画では少人数で行動する奴らは死亡フラグが立つからな!」


 佐々木だけでなく、内河も黒斗の提案に納得したように頷いた。


 何しろ2人は黒斗と再会する前に、あの丸くて人の顔が浮かび上がっている化け物を目の当たりにしているのだ。


 あんなものが うろついている中、単独や少人数で動くなんて、自ら危険に突っ込むようなものである。




「……じゃあ、行こう。のんびりは していられない」


 黒斗の言葉に頷いた佐々木が先に扉へ向かって歩きだし、それを追うように黒斗と内河も歩みを進める。


 その途中で、不意に内河が黒斗の肩を叩いてきた。



「なあなあ、何か当たり前のように あの女と一緒に行動してるけどよお…………大丈夫かよ? 教団のスパイとか そんなんじゃないよな?」


 訝しげな顔をしながら声を潜めて訊ねる内河。


 先程 黒斗と親しそうに話しているのを見ていたにも関わらず、まだ彼の中では佐々木は怪しい人物という認識のようである。


 この ご時世、少しばかり疑い深い方が良いだろうが、下手に佐々木へ敵意を向けられては厄介なことになるので、誤解を といておくことにする。


 黒斗はチラリと前を歩く佐々木の様子を窺い、彼女に聞こえないよう内河に耳打ちを した。



「……アイツは敵じゃない……むしろ、教団の被害者だ。疑いをかける必要はない」


「うーん……でもよお、何か様子っつーか色々 変じゃねえか? ボーッとしてるし」


「彼女は記憶を失っていて、意思も希薄な状態だ。動いているのも本能に従っているだけに すぎない。」


「へえ~……」


 相槌(あいづち)を打ちつつも、どこか釈然としない様子の内河。


 やはり黒斗の言葉だけでは、素性の知れない相手への警戒心は拭いきれなかったようだ。


 しかし、だからといって彼に佐々木の正体を明かすべきではないだろう。


 事実を述べたところで内河が それを信じるとは限らないし、不用意に混乱を与えてしまいかねないのだから。



「……なーんか、納得できないけど……まあ、俺は器が大きい男だからな! お前が そう言うなら、その言葉を信じてやろうではないか! あっ、でも何でアイツのことを佐々木って呼ぶ」


「キャアアアア!!」


 突如 室内に響き渡った佐々木の甲高い悲鳴により、掻き消される内河の言葉。


 その切羽詰まった様子に黒斗と内河は会話を中断して、扉の隙間から外を覗いている佐々木に駆け寄った。




「おいおい、どうしたんだよ! この世の終わりみたいな叫び声を出しやがって! かなりビビったじゃねえか!」


 裏返った声で内河が佐々木に声を かけるも、彼女は返事を することなく、肩を わなわなさせている。



 部屋の外に何か居るかもしれない。そう警戒し、黒斗は息を潜めて佐々木の後ろに移動する。


 すると、鼻を つんざくような刺激臭が扉の隙間から漂ってきて、思わず鼻を摘まんだ。



 生ゴミにアルコールやアンモニア臭を混ぜたような不快感 極まりない異臭――それが何から発せられるものなのか、黒斗は知っている。




(……腐乱死体の匂い……何が居るというんだ……?)


 固まっている佐々木の肩を掴んで扉から引き剥がし、彼女に代わって外を覗き見る。



(……なっ……何だ、アレは……!?)


 部屋の外に居るものを見て、絶句する黒斗。


 彼の瞳に映ったのは、狭い通路を塞いでいる、いくつもの人の顔が集まったような巨大な化け物の姿だった。




「……そいつ、さっきも、みかけたの」


 目を見開き、茫然としている黒斗に佐々木が声をかけると、黒斗ではなく内河が反応を示した。



「さっき!? まさか さっきのキモい化け物が部屋の外に居るのかっ!?」


 内河の言葉にコクンと頷く佐々木。


 その仕草を見た内河は、あの化け物が再び現れるという恐れていた事態に頭を抱え、「オーマイガー!!」と叫びながらバレリーナのように片足で回転を始めた。


 完全に据わっている目から察するに、パニックを起こしているようである。



 まあ、あんな得体の知れない化け物が すぐ そこまで迫って来ているのだ。平静を保っていられる人間の方が少ないだろう。


 実際 佐々木も騒いではいないものの、全身から血の気が すっかり引いており、まるで死人のように くすんだ顔色となっている。



 そんな中でも黒斗だけは、動揺しながらも何とか冷静さを失わずにいた。


 自分が2人を守らなければいけないという責任感が、プレッシャーと共に彼の気持ちを奮い立たせているのであろう。




(……奴は、まだ こちらに気づいていないようだ。少し様子を窺おう……)


 手に汗を滲ませつつ、黒斗は化け物の観察を続ける。




「ア、ヴー、アァヴ……」


 その場に立ち止まったまま赤ん坊のような声を出している化け物。


 身体に ついている人の顔は何かを探すように 忙しなく眼球だけを動かし、周囲に視線を はしらせている。


 人の目玉が動く度に身体も揺れ、それを支えている小さな手が苦しそうに ぷるぷると震えており、よく折れないものだと黒斗は どうでもいいことに感心する。




(……しかし、移動する気配が全くないな……ゲートも開けないし、これじゃ閉じ込められているも当然だ)


 化け物の巨体は通路を隙間なく埋めており、一本道の為 化け物が道を塞いでいる限り、黒斗達は ここから出ることが出来ない。


 かといって化け物が去るのを待つとしても、その間に鈴や玲二、篠塚に危険が迫る確率が高い。



 ならば手段は1つ――力ずくで この化け物を どかすしかない。


 その考えに至り、黒斗は扉から離れて2人の元に近寄った。




「おい、ちょっと いいか」


「なに……? どうしたの?」


 佐々木は反応してくれたが、未だにクルクルと回っている内河には黒斗の声が届かなかったようである。


 だが、彼に付き合っていては時間が無駄になるので黒斗は内河を無視して佐々木に話しかける。



「……このまま、あの化け物が立ち去るのを待っていたらキリが ない。俺が出ていって何とか追い払ってみるから、お前達は この部屋で少し待っていてくれ」


「ええっ? でも……あぶない、よ……? なにを、されるか、わからないのに」


「そ、そうだぞ! 大体 別行動するなと言ったそばから、何 勝手なことしようとしてやがるんだ! お前のことは いけすかねえが、死んではほしくないぞ!?」


「……じゃあ、アイツが居なくなるまで ここで ずっと息を潜めているのか? その間に捕まっている奴らに何かあったら どうする?」


 もっともな発言に言葉を失う佐々木と内河。



 玲二や邦之のことは当然 心配だ。一刻も早く救出に向かいたい。


 しかし、だからといって黒斗に1人で化け物の相手をするという、自殺紛(まが)いのことを させる訳には いかない。


 だったら自分達も一緒に――佐々木と内河の脳裏に同じ考えが同じタイミングで浮かび、テレパシーで互いの気持ちを読みとったかのように2人は顔を見合わせて頷いた。




「テメー1人に良いカッコは させねーぞ! 俺にも活躍の場を よこせい! 正直、お前が居なくなったら恋のライバルが消えて張り合いが無くなるんだよ!」


「……れいじのことは、しんぱいだけど、あなたのことも、しんぱいなの……きょうりょく、させて」


 真剣な眼差しで黒斗を見据える2人。


 けれど、それでも黒斗が首を縦に振ることはなかった。


 彼らが心配してくれていることは分かるし、その気持ちは とても嬉しい。


 だが、これ以上 自分のせいで、力不足で、誰かに死んでほしくないのだ。




「……あんな狭い通路で3人が化け物を相手にするのは無理が?あると思わないのか?」


「うぐっ……まあ、そうだけどよ……」


 黒斗の説得力ある言葉に勢いを削がれる内河。


 そんな彼の反応を見て、黒斗は間髪入れず さらに続ける。



「……単独行動は するなと言ったばかりだが、こればかりは例外だ。1人の方が却って動きやすい。まあ、気持ちだけは ありがたく受け取っておくさ」


 ペコリと軽く頭を下げると、黒斗は2人に背を向けて扉に向かって歩きだした。



「ちくしょー、カッコつけやがって……この中二病が! 死んだら呪いをかけて悪霊に してやっからな!」


 止めても無駄だと悟ったのか、歯軋りを しながら演技でもないことを言ってのける内河。


 一方、佐々木は黒斗の背中を心配そうに見つめている。


 彼女は内河とは逆に、かける言葉が見つからず もどかしい思いを しているようだ。



 その間にも黒斗は扉の前に辿り着き、無言のまま躊躇(ちゅうちょ)なく部屋の外に出ていくのであった。

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