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混乱

神崎を置いて行った後も歩き続け、もう3時間は過ぎただろうか、先程の恐怖も何故かなく、それ以上に多分疲労が蓄積され、それどころではなかったのかもしれない。

何よりも、僕は神崎が暴走したのは恐怖によりモノではないと思っていた。

でも、万が一グリムス達に刃向う勇気なんてなく、ただ大人しく言う事を聞いておけば、命の保証や拘束される心配はないと、先程のグリムスに対する恐怖のせいで現実が見えなくなっていた。

いつの間にか急な坂に入って皆息切れしながらも、置いて行かれたくない気持ちが強く働き、休み休みは一切なく登り、緩やかな平面な地面へと変わった処で、グリムスは言った。

「よし、これ以上動くと危険だ。今日はここで休むぞ」

皆が漸く休めると心から思って、腰を下ろした。

その直後、グリムスが続いてこうも付け加えた。

「前、見回りの番決めた際、まだ回ってない者は、今夜やる様に」

太駄辺りが、「えっ!?」と声を漏らしていた。

そう言えば、コイツはまだやってはいなかった。

多分、動くグループだからやらなくてもいいなんて思っていたんだろうな。

太駄とグリムスの仲間の1人が見回り番となり、僕や残った皆は休憩を取った。

夜はたき火をしながら、持ってきていた毛布にくるみ、木に(もた)れて眠ろうとした。

しかし、やはり拘束して置いて行ってしまった神崎が気になって仕方が無かった。

あいつ、なんであんな場所で狂ったように暴れたんだろうと僕は思うも、もう忘れるべきだと思って、必死に眠ろうと目を思い切り瞑った。

そのせいもあってか、僕は眠っていた。

眠ってはいただろうが、たき火の木が軽く弾けた音に僕は目を覚ましてしまった。

横になって眠っていなかったのがそもそもの原因だろうと思い、今度は横になって眠ろうとした。

だが、グリムスがいない事に僕は気が付いてしまった。

「あれ? グリムスさん?」

丁度見回り番である太駄ともう1人はまだ戻ってはおらず、一緒なのかなと考えるが、なんか気になってしまい、少し探してみた。

たき火の無い場所は真っ暗であまり入りたくなかった。

しかし、一点の(ともしび)が見え、もっときっちり見たいと、僕は目を擦ってよく見た。

そこにはグリムスがいた。

なんだ、いるじゃないかと思い寝直そうと思い戻ろうとしたが、何をしているのか、誰かに話しかけているように見えた。

そういや、コイツだけ、妙にデカいカバンを肩に掛けていたなと思い出した。

神崎の奴はグリムスを殴ろうと飛びかかったように見えたけど、よく思い出せば、なんかそのデカいカバンに手を掛けようとしていた気もした。

あぁ、神崎を忘れようとして、変な処で思い出してしまった。

早く寝よう、もう明日に余計な疲労を残したくない、そうだ寝ようと何度も僕は言い聞かして、向うへ歩き出そうとした。

すると、グリムスの声が聞こえてしまった。

「アリサ、さぁコレを飲むんだ」

いきなりアリサの名が唐突に僕の耳に入ってきたのだ。

何故、アリサの名が?

アリサをグリムスが連れて行くと言った時、明らかに待つグループだと神崎と女性人達に言われ、渋々了承してたのはグリムス自身だ。

そしてアリサはグリムスを嫌がって、神崎の後ろへ逃げ、それでも近寄れば、今度は佐村さんの後ろへと逃げるほど嫌がっていた筈だ。

それなのに、アリサがここにいるなんてある筈がない。

僕は確認するか否か悩んだが、とりあえず寝ぼけて聞こえた、そう解釈して戻ろうとした。

直後、僕の足に何かが当たった。

枝かと思うが、ブニッとした何とも言えない感覚だ。

このブニッとした感覚は、そう芋虫の触った感触に似ていた。

恐る恐る下を見たら、

「……!!!!」

うっすらと見えたモノは、芋虫は芋虫でも、60㎝はあるではないだろうかと言う程の大きな芋虫で、ウニウニと動きながら僕の足の上を歩いていた。

本来なら恐怖で叫びたかったが、攻撃するつもりもない芋虫は、ただ僕の足をただの障害物としてしか認識していないのか、普通に歩いていただけだと僕はそう感じ、気持ち悪くても黙ったまま、動くのも騒ぐのも止めた。

しかし、60㎝のある芋虫なんて見た事もなかった。

幸い色まで把握は出来なかった為、僕は内心安心した。

だって、下手に緑と黒のシマシマ模様や黄緑一色、派手な色をした芋虫なんて、僕は自信を持って絶叫するだろう。

何より、万が一グリムスにバレると神崎のようにスーツケースベルトで拘束しそうな気がしたからだ。

そう、今の僕は、グリムスに気付かれないように、60㎝の芋虫にも耐えなければいけず、両方に耐えなければいけなかったのだ。

芋虫の動く掠れる音には、僕を何度も驚かせ、自分自身の心臓の鼓動ですら、恐怖を与えてくる程、ただ気になっただけでこんなにも緊張感を感じるなんて初めてだった。

普通の状況を考えれば多分アホ臭い状況だろうな。後、素直に何しているんですか位言えただろうと今更考えるが、先程のグリムスの言っていた“アリサ”の言葉に僕は違和感を覚えたていた。

寝ぼけていて聞こえた筈だったのに、芋虫の件でどうも頭が冴え、気のせいじゃなかった気がしたからだ。

どうしようか、たまたま気付かないフリして行くべきか、芋虫が去った後に気付かれないように動くべきかと改めて考えた時だ。

「誰だ!!」

グリムスの大きな声に僕は驚き、声は上げなかったが、尻もちをついてしまった。

芋虫に至っては僕が尻もちをついたと言うよりも、グリムスの声にびっくりして、飛び上がって、先程のウニウニと動作の鈍い動きが嘘のように素早い動きで逃げて行った。

僕はあの芋虫はどうせだったらその勢いで走ってくれればよかったのにと思うと同時に、近づく足音に気付き、怖くて動けず体が小刻みに震えていた。

何も悪さはしていないのに、まだこっちに気付いていないかもしれないのに、どうして恐怖とは意味もなくやってくるのか不思議なほどだ。

足音がすぐそこまで迫ってきた。

僕は咄嗟に息を止め、少しでも音を止めようとした。

でも空しくも足音が僕のいる方へと向かってきて、

「グリムス、見回り番終わったんだが、2回目はグリムスだろ?」

丁度仲間と太駄が見回りを終え戻って来ていた。

「そうか、もうそんな時間か」

グリムスは僕のいる方向を気にはするが、きっと何かの見間違いとして考えてくれたのか、渋々と先程の大きなカバンを肩に掛け、

「では、君らは寝ても良い、後はオリバーと見回りを行う」

そのまま仲間にそう言って、仲間オリバーを起しに行った。

グリムスの仲間と太駄は漸く眠れると、皆のいる場所へと歩いて行くのを見て、さぁボクも行かないとバレてしまうと、急ごうとした時だ。

一瞬の寒気にが走り、僕の後ろに何かいるのに気が付いた。

まさか、グリムスにバレたのか、怖くて後ろを向く事が出来ない。

もしグリムスだったら声位は掛けてくれる筈なのに、一切声を掛けてくれないし、もしかしたら僕が振り向くまで待っているのかと思うが、妙な息の音が聞こえた。

だって、普通の人間の息はそこまで、長く荒々しくも息を吸う時にじゅるっとした変な音を立てない無い筈だ。

僕は恐る恐るもゆっくりと、上を向いた。

例えれば、アニメや漫画に出てくる昆虫は必ず大きく、不気味で何故かイキイキとも取れる気味の悪い姿だ。

もし、そんなのが居たとしても、せいぜい30㎝位あるだろう、唯でさえ先程の60㎝の芋虫、あれだってまだ見つかっていない新種の虫として考えれば、耐えられた。

だって、僕の今見える虫は、ダンゴムシなのかムカデなのか、はたまたゲジゲジなのか分からないのが後ろを横切るのだ。

しかもこの虫は全長約2mもあり、足が一体何本あるのか分からない程の多さ、そして先ほどのじゅるりと言う息を吸う際の音は、口から出ているのは舌なのか何なのか分からないのが、何本も飛び出して戻る音だった。

一体何をしているのか分からない虫は、ただ何かを求めて歩いていたように見えた。

叫びたい、でも究極の恐怖とは本来叫べないし、叫べても声の音すら出ないのだと、僕は気付いた。

でも、虫は僕に気付かず、何かを感じて何処かへと曲がって行った。

あっ……そっちは動くグループが休んでいる場所だ。

僕は動こうとするが、先程の虫の気持ち悪さと恐怖にやられ、体が震えあがり動く事が出来なかった。

だけど、何か僕のお腹の上を横切る何かがいた。

すぐさま僕はお腹を見た。

先程逃げた芋虫なのか別の芋虫なのか、分からないが、そいつが僕のお腹によじ登って必死に歩いていた。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

恐怖とは極限で無ければ、余裕で声が出るのを今知った。

芋虫もまた驚いて、

「ぎゅ!!」

何処から声を上げたのか分からないが鳴いた。

また跳ね上がるも、今度は着地に失敗して、後ろ向きだった。

きっとこの悲鳴でグリムスにバレただろうと僕は思っていたが、違っていた。

あの2mのある虫がわらわらと現れ、僕の近くに集まってきたんだ。

例の何本もある舌を出し入れしていて、そのヨダレなのか分からないのが、僕の近くに落ちた。

直後、焼ける様な音が聴こえ、これは胃液の酸なのだと知り、この時死ぬ、そう思った。

芋虫をそっと目だけで見ると、芋虫は何かに気付き、死んだ様に動いていなかったのを知り、こいつらは音に反応する、そう直感した。

だからか、息を止めてでも音を殺した。

心音まで聴こえる虫だったらもうアウトだろう。

でも幸いそこまで聴こえる程の聴覚はなく、居なくなったと虫達は判断し何処かへと消えた。

いや、この虫達もまた動くグループのいる場所へと動いて行ったのだ。

僕は虫達が恐怖から漸く解放され、ホッとするが、皆が心配になり虫達に気付かれないように、急いで走った。

目も暗闇に慣れ、(うっす)らと虫の形だけだが何とか見えた。

それでも、虫達が僕の足音に気付いては振り向いてこちらに来たり、じっと止まって来るのを待つなどしており、これはまずいと木の後ろへと隠れ、息をまた止め、その場を凌いだ。

すぐ近くに皆がいるのに、ここまで遠く感じたのは初めてだ。

このまま皆と合流し逃げれればいいとばかり思い、不安を必死に抑えていた。


だが、伊川が思う程、現実とは残酷だった。

皆は毛布に包まり、早く朝になるのを待つように眠っていた。

たき火を絶やさぬよう、客室乗務員の男性がたき火番をして、太駄達が戻ってきた時、立ち上がって頭を下げた。

「お疲れ様です」

グリムスの仲間が客室乗務員の男性に言った。

「お疲れ、後は俺がたき火を見るから寝なさい」

「ありがとうございます」

客室乗務員の男性は軽く礼を述べてから、たき火から少し離れた場所へと座って眠り始め、太駄もまた、

「それじゃ少しでも休んで疲れを取るか」

背伸びをしながら同じように少し離れた場所へと座って眠ろうとした。

そんな時だ。

息が荒々しく、吸う瞬間のじゅるっとした音に太駄が気が付いた。

「何の音だ?」

人間にしてはおかしな呼吸に、グリムスの仲間も気が付き、

「動くな……」

音を確かめる為、じっとして固まった。

先程の音はそれ以降止んでしまうも、太駄とグリムスの仲間の1人だけは音を聴いていた為、空耳ではないのは確かだ。

フワッと風が吹く、草木がその風に揺れる。

たき火の火もそれに合わせてフワッと(なび)いた。

空は、こんな暗闇なのに星は(まば)らで、雲が隠して動き、ゆっくりと星を見せたかと思えば、隠して動く。一体何分この状態なのか分からない程、静かな夜だ。

それに相応しくない音が混じってきた。

1人の男性がイビキを掻き出した。

なんとも平和そのものの音だ。2人はきっとコイツのイビキだと思って、気を抜いてしまった。

太駄はもう緊張も面倒だと考え、横になって寝だした。

勿論、グリムスの仲間もたき火番を始めた。

たき火は風もないのに小刻みに揺れ、グリムスの仲間は、不思議と感じた時、あの例の呼吸音が聴こえた。

やはり何かいると、持っていたカバンから何かを手に取るも、決してカバンからは取りだす事は無く、ずっと気配を探っていた。

ふと、あのイビキが急に消えていて、ただの無呼吸なのかもしれないが、それにしても、そろそろイビキを掻いても良いだろうと思えるほどの時間だ。

グリムスの仲間は、辺りを見渡し、イビキの男を探した。

確かこの辺にと、グリムスの仲間がたき火から離れた直後、ぐっちゃと言う気持ち悪い音が鳴ったと思えば、いきなり火が消えた。

グリムスの仲間は慌てる事無く、カバンから先程手にしていたのを離して、取り出したのは懐中電灯だ。

それを付け、辺りを見渡し、たき火の火を再度付け直す為近寄ると、何か水、とはまた違う、見るからに粘液みたいに粘るようなモノがたき火跡に付着していた。

恐る恐る手に取ろうとした瞬間、例の音が聴こえた。

しかも呼吸音ではなく、じゅっく、じゅっく、聞いた事の無い音で後ろを向き、懐中電灯で耳を頼りに動かした。

そして、懐中電灯の光が反射し、なんだと思えば、大きな大きな昆虫の目だ。

驚き、懐中電灯を落としてしまい、光のある方へ走り、慌てて拾い上げ、再度照らすも、そこには昆虫の目はなく、一体なんだったんだと、口にしようとした。

直後、あの客室乗務員の男性が、

「ぎゃぁぁっぁぁぁぁ!!!!」

悲鳴を上げ、そちらに懐中電灯を向けた。

何本もの長い赤いモノが客室乗務員の男性の頭から被る様に絡みつき、その何本もの長い赤いモノからはあの粘液が出ており、客室乗務員の男性がその液に付着した処は焼け(ただ)れ、必死に抵抗していた。

しかし、抵抗も空しく、頭から被る様に絡まれたせいで、息絶えてしまった。

「ひっ!」

グリムスの仲間の1人は、いきなりの出来事に驚き恐怖さえ覚えてしまう程だ。

客室乗務員の男性が息絶えた後、何本もの長いモノがずるずると上へと客室乗務員の男性を上げ、その先には虫の大きな口があった。

それがこれでもかと口が横や縦に広がり、頭が口に入ったのが分かると、思い切り粘液をかけ、頭を溶かし、骸骨が解けたのが分かると、口の中から口が更に出てきて食べ始めた。

グリムスの仲間の1人は咄嗟の判断で、

「皆起きろ!!!! くっそ!! グリムス!!!! グリ……っ!!」

起しにかかるが、その前に胸の辺りに強烈な熱さで苦しみ、手で触ると、自分の心臓部は、一体どこに行ったのか、本人すら分からず倒れてしまった。

その後、例の何本もの赤いモノが倒れた1人を見つけて、ゆっくりと上げ、開いた穴から貪った。


僕は、なんとか、皆が居るであろう位置まで来た。

だが、先程の静けさなんてまるで無かった。

この位置に辿り着く間に何人もの沢山悲鳴を聞いたんだ。

正直に言えば、戻りたくない。

何度足を逆に運びたかったか、この今の状況かに置かれればきっと他の人間だって理解や同情はしてくれるに違いないと僕は思う。

それに、明らかに連発する銃声の音、先程の虫の音ではない、人工の音だ。

「えっ……?」





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