☆8
翌日、かおりからの連絡があり、かおりの上司という人物に会う事になった。
「桜田門じゃないんだな」
俺達は、神保町駅と竹橋駅の間にあるオフィスビルへ来ていた。七階建てで、一階が駐車場になっている。
「警視庁に女の子が出入りしたら目立っちゃうから、私達のオフィスは学生が歩いていても違和感の無い場所にあるのよ」
エレベーターで最上階まで昇ると、一番奥の部屋に課長室と表札があった。
「失礼します」
かおりに続いて課長室へ入ると、若い男が笑顔で出迎えてくれた。
来客用と思われるソファーを勧められる。
俺と亜梨子がソファーに座ると、対面にその男が座り、かおりがお茶を淹れに部屋を出て行った。
「よく来てくれたね。話は聞いているよ。色々と不便も多いだろう?」
男は、テーブルの上の灰皿を俺の方へ押しやる。
煙草を吸いたいのはやまやまだが、制服のまま警察関係者の前で吸うわけにはいかないだろう。
「遠慮しなくていいよ。話は聞いてるって云っただろ?僕もね、君達と同じトラブルを解決するために、ここに居るんだから」
男の言葉に、俺達は固まった。
「僕はね、この世界の人間じゃないんだよ。君達に協力してる者と同じ存在。だから、君達の事は彼から聞いてるし、いつかこうして出会ったら協力しようと思っていた。不安なら、彼に連絡して聞いてごらん?」
男の言葉は嘘を言ってる様には感じられないが、念のために確認を取る事にする。
俺が送ったメッセージには、すぐに返信があった。安藤は味方であり、安心して良いという内容で。
亜梨子にも返信内容を見せると、少し安心した様だった。
「土方さんに、この事は?」
「いやいや、誰にも話してないよ。話せるような内容でもないしね。ここでの僕は、安藤明って事でよろしく」
「分かりました。安藤さんに合わせます」
「理解が早くて助かるよ」
高校生が成人男性に接する様な話し方にしたのが伝わったらしい。
「亜梨子ちゃんもよろしくね」
「はぁ」
笑顔の安藤に対して、亜梨子はまだ少し困惑している様子だ。
「さて、そろそろ、かおりちゃんも帰って来るだろうから、君達は外部協力員として協力してもらう事になったって事でいいでかな?そうすれば、こちらも協力しやすいし」
「分かりました」
「じゃあ、そゆことで。あぁ、侑君は魔法で若返っちゃってるって説明しとくから、ここでは煙草吸っても大丈夫だよ」
堂々と煙草を吸えるのは、ありがたい。
早速、ポケットからシガリロの巻を取り出す。
「先輩!」
亜梨子が、缶を開けようとした俺の手を握って押さえた。そして、安藤を睨み付ける。
「そんないい加減な事でいいんですか!?」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。侑君は、彼に煙草を注文しちゃうくらいの愛煙家なんだよ?側に居る君が一番わかってるよね?」
「それは…」
安藤の説得に、勢い良く怒鳴った亜梨子が口ごもる。
「使命ばかりで窮屈な生活は可哀想だろう?仕事は、気持ち良くしてもらわなきゃ」
「分かりました」
亜梨子は、ちらっと俺の顔を見てから、手を離した。
「ありがとう」
亜梨子の頭を優しく撫でる。
「こんな時ばっかり。でも、何だか昔の先輩みたいですね…」
「昔の、か…」
その一言に、亜梨子と出会った頃の自分を少しだけ思い出しながら、シガリロに火を着けた。




