☆1
「…というわけなんだ」
俺は、日下部侑。今は高校生をやっている。都立芝公園高校の二年生だ。
今は放課後で、学校から少し歩いたところにある公園で、昨晩の出来事を話していた。
「魔法少女、ですか…」
少しつり目気味の大きな瞳に疑問の色を浮かばせているのは、永倉亜梨子。同じ高校の一年生で、猫の様な雰囲気の可愛い俺の後輩だ。
彼女の着ている紺色のブレザーは、もちろんうちの学校の制服。女子は紺、男子は黒のブレザーで、えんじ色のネクタイは男女共通だ。
「噂には聞いた事があるけど、実物を見たのは初めてだよ」
「それで、『夢だと思って忘れて』って、居なくなっちゃったんですよねぇ?」
ブランコに腰かけている彼女は、まだ半信半疑の様だ。
「そうだよ」
亜梨子の確認に肯定の返事をし、制服の上着のポケットからシガリロの缶を取り出した。お気に入りのクラブマスター スマトラだ。
「先輩!」
缶から一本抜いてくわえたところで、立ち上がった亜梨子の手がシガリロに伸びた。
「今は高校生なんですから、こんなところで堂々と吸わないでください!」
シガリロが俺の手に戻される。
「あぁ、悪い」
シガリロを缶に戻し、ポケットにしまう。
俺は、ある事情で高校生に若返ってしまったが、本当は成人している。
いや、若返ったという表現は正確では無い。
別人になってしまったという方が正しい。
見た目も高校生の頃の俺そのものだし、通ってる高校も同じ、高校以前の経歴も同じなのだが、名前と生まれた年が違う。
いきなり16歳の高校生に転生した様なものだ。
新しい人生の16年ちょっとの記憶はあるし、名前と年齢以外は元の人生と大差無いので、何とか順応はできているはずだ。
それが書き換えられたこの世界での俺だ。
元の俺を知っているのは、亜梨子を含めて一部の者だけ。
「うーん…、もし、またその魔法少と会ったら、どうするんですか?」
亜梨子が心配そうに聞いてくる。
ヴァンパイアとの戦いに影響する事を心配しているのだろう。
ちなみに、ヴァンパイアと戦っているのも、高校生になってしまった事情と関係している。むしろ、そのせいで高校生になってしまったとも言える。
書き換えられてしまったこの世界には、ヴァンパイアなどという、かつては想像上の産物だったものが実在している。
「まぁ、なるべく関わらないようにするよ。最悪、それが無理そうなら、せめて敵対しないようにするしかないかな」
魔法少女と呼ばれる、甦った現代の陰陽師の噂を聞いたのも、二度目の高校生活が初めてだ。情報は皆無に等しい。ならば、できる限り敵対しないのが一番だ。
それに、女の子と戦うなんて、気持ちの良いものではない。
「そうですね。それしかないですよね」
亜梨子にも、それ以上の案は浮かばなかった様だ。
話し合いは終了し、駅へと向かう。
「絶対に人前で葉巻とか吸わないでくださいね!それじゃあ、先輩、また明日!」
亜梨子とは乗る電車が逆方向なので、ホーム手前の階段でお別れだ。
「了解」
こちらに手を振る亜梨子を見送り、自分が乗るべき電車のホームへと向かう。
彼女の忠告をできる限り守れそうな喫煙場所を考えながら。




