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「なにかあったのかな」

一週間以上たっちゃいました。投稿9回目です。

 思えばまともな食事と言えるものを一回も出来ていなかった事に席に着いてから気づいた。

 ポーションに屋台の焼き鳥串、それだけだ。

 加えて、現実でも自分の持ち込んだ材料で作ってもらえる、というサービスも始めてだ。恐らく現実でもあるのだろうが惟孝自身は体験したことがない。

 ついでに言うと、あまりの部分を提供するという事で少し値段を負けてもらえる。

 すでに牙猪と俊鹿の肉を店員に渡している。牙猪のトラウマは既に解消済みだ。事前に把握して注目すれば突進は難なく躱せた。

 背もたれや腕置きのない丸椅子に尻を落ち着けるとテーブルを挟んでワルクを見る。

 2mほどあり大きな図体をしているので坐りにくいのでは、とも思ったがそんなことは無いらしい。

 思えばサイズも少し違っていた気がする。このテーブルに案内してきたNPCの計らいだろうか。


 この店はどうやらプレイヤーとNPCが協力して働いているようだ。

 オープンキッチンの厨房のプレイヤーとテーブルの間を縫って食器や料理を運ぶ女中の2人だが、時折交わされる会話を聞く限り、仲も良いらしい。


 街に来るまでの戦闘で会得したスキルを確認する。

 このゲームでのスキルは対価を払って会得するのではなく、剣や棒と言った武器を横に振る事を数百回重ねると「横薙ぎ」というスキルを会得でき、念じながらモーションをなぞることで発動させることが出来る。

 ここまで会得したものは「投擲」「耕作」である。


「耕す、耕す、って言ってましたけどホントに耕してる判定になってたんすねぇ」


 明らかに笑いを堪えているワルクが言う。


 それに対しては唸り声を上げる事で返答する。冗談すよ、とワルクは明るく笑って厨房を振り返る。

 正直、これが出てきたときは美味しいネタが出来た、等とほくそ笑んでいたがそれはともかく、「耕作」スキルの効果、作物のレベル上昇とある。

 ある、とは知っていたが農業が出来るという事だ。

 確かサディア、第三の街、に農業ギルドがあるはずだ。そこまで行ったら登録してみるのもいいかもしれない。

 農業に関しては子供の頃、従兄の土地で農業を手伝ったことがある、というだけだが。

 確かに疲れる作業の繰り返しではあったが、それでも疲れ以上の達成感のようなものがあった。

 達成感という堅苦しい物でもなく、落ちる夕日が体内に沁み込んでいく、そんな充実感だ。


 思えば、もう何年も行ってないな。と郷愁を覚えながらワルクに話しかける。


「僕さ、畑持ちたいんだけど、あれってどれくらいかかるんだろう?」

「農業、するんすか?一番ちっさい土地で10万くらいしたんじゃないかなぁ」


 肉以外の素材を道中売り払っただけの手持ち100G程のコルタクは、その価値に一瞬呆れるがサディアまでに積み立てていれば何とかなるだろう、とも思う。


「ん、まあ頑張るかなあ」


 テーブルに肘杖をついて呟くと女性NPCが盆を持って歩いてきた。油に胡椒の弾ける音と匂いが鼻孔をつつく。


「おー来たみたいっすねー。」


 ワルクが歓声をあげる。落ち着いているように見せようと抑えているのだろうが忙しなく手は動き視線は釘付けになっている。

 コレタクもワルクの様子を見て、これからの予定はさておき、目の前の食事を楽しもうと目の前に置かれたステーキをいただくとする。


ーーーーー


「にしてもコルさん食べますね」


 くちくなった腹をさすりながら満足げに息をつくと、ステーキを平らげたあと、鹿肉を食べるコルタクを呆れ顔で見ていたワルクが苦笑いを浮かべる。


「いやワルくんも成長期なんだから食べないと」

「ワルくんってなんすか、普通、ステーキ食ったらお腹いっぱいですよ」

「そうかなあ」


 コルタクは日本酒の酔いも回っているのか上機嫌に笑う。

 女性が水のおかわりを持ってきてくれたので冷ましに一気飲みすると、少しざわつく店外を窓越しに見る。

 よくよく見るとプレイヤーやNPCが南に移動しているように思える。


「なにかあったのかな」


 露天の賑わいに眠らないという様相の夜が徐々に静けさを纏っていく。

 露店を開いていた人も移動しているのが分かる。腹が満ちて店にいたプレイヤー達も少なくなってきたのであまり動きたくない、という堕落心が募るのを感じつつ呟く。

 ワルクはだれかから通信が入ったらしく俯き加減に空を眺めていた。

 不意にコルタクの視界の端にウィンドウが現れた。フレンド通信、ダイクからの通信が表示される。


 黒大鹿が出てきたから見に行かないか、との事だ。


「黒大鹿が出現したっぽいすね」


 ダイクの誘いに了承の旨を送りワルクに視線を戻すと、彼も通信を終えたようでそう言葉を発した。 


「見たいだね。僕は知り合いと見に行くけどワルクくんどうするの?」

「僕も友達と見に行こうと思います」


 どうやら先の通信は友達からの誘いだったようだ。じゃあ、南門まで一緒にいこうか。と言うとワルクは了承し席をたつ。

 この店は先払い制なのですでに会計は済ませている。ので奥のオープンキッチンの中の主人に挨拶とレビューの件の相談をし店を出る。


「レビューって、コルさんってタナカレビューの人だったんすか」


 驚いた顔をして問い掛けてきたワルクに吃驚した?と笑うと衝突音が響く南門を目指す。





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