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「ご馳走様でした」

はい、グルメ回です。やってしまった感がすさまじい(深夜3時)

 熱された油が鉄板皿の上で跳ねる。大判の漫画本程の大きさで2cm弱に輪切りにされたイノシシの肉が激しく音を立てる。

 胡椒と微かなハーブの香りににじみ出てくる唾液を柑橘の酸味と甘みを含んだ水で喉の奥に流し込む。ナイフとフォークを手に、端にフォークを軟らかく突き立てる。それだけで、フォークの先から澄んだ油が沁みだしてきた。


ポークステーキならぬ猪ステーキ。

 

 猪の肉と言えば特筆すべきはもちろん、その油、である。猪の肉、つまり野生生物の肉、という事だ。

 もしかしたら、生臭いというイメージがあるかもしれないが、それは丁寧に血抜き処理をしなかった場合で、その実、そこいらの豚とは比べ物にならぬほど上質な油を蓄えている。最上の豚に勝るという者もいる程に上質な油だ。

 この世界での血抜きは丁寧と言うほどでは無いが悪くもないレベルだという。

 というのも採取する時に手をかざすだけでその時点でアイテムボックスに肉塊として存在してしまうので血抜きの過程が存在しないからだろう。


 つまり、味の良しあしの差は素材の質の他に、調理前の処理が大きな要因となる。


 鼻をくすぐる様な胡椒の焦げる匂いに隠れて香草の香がするのは、香草を使った下準備をしているからだろうか。

 熱気を感じながら、フォークでおさえた部分にナイフを入れる。表面は程よく焼かれているが、かすかに見える断面は薄っすらと赤みを覗かせている。しかし少し切り込みを入れると、溢れる油に阻まれよく見えなくなり、切込みを深く大きくしていく。

 蛇腹になった鉄板皿の底にチリチリと音を立てながら流れていく油を勿体ないと思いつつ、フォークを持ち上げ、口に運ぶ。

 口に入れた瞬間感じたのは熱さと、甘みだった。

 その甘みは、言うまでもなく油の甘みだ。濃縮された肉のうまみと甘みが口の中に熱を押しのけるように広がる。噛み締める前に溶けるように肉が解ける。という事は無く、噛むと十分な歯ごたえを持って繊維がちぎれていく。

溢れる油の甘みが行き渡るとそのすぐ後を追うように、胡椒の辛みと香草の苦味と辛子のような刺激が舌を震わす。後でわかったことだが、この刺激は香草の刺激だそうだ。

 口を動かし、肉を咀嚼すればその毎に広がる風味。それを喉の奥へと下すと、多すぎるとも言える油にまみれた口を水でゆすぐ。


 柑橘の爽やかさを漂わせる水の清涼な酸味で油が流れていく。


 さっぱりとした口で横に添えられた赤緑白の野菜を齧る。程よい歯ごたえを残しつつ、青臭さを飛ばした野菜は塩だけで味を付けられて口直しにちょうどいい。

 もう一度、猪肉を切り、今度は鉄板皿の横に置かれた澄んだ赤黒いソースを絡めて口へ運ぶ。

 今度は鼻を通り抜けるワインの風味の後に油の甘みとベリーの酸味が絡まって隠れていたハーブが際立つ。恐らくベリーソースを赤ワインで割ってアルコールを飛ばしたソースか、と予想しつつ、先とは変わった風味を楽しむ。

 お互いがお互いの味を邪魔せず、噛みあって一つの味を作り出している。


 ソースに漬けずに食べると白米が欲しい味だが、ソースを付けるとお酒が欲しくなる味だ。

 因みに白米は別料金、友達の薦めで一緒に頼んだが、なるほど大正解だろう。これはご飯が必須だ。

 白米を挟みながら、猪肉を平らげていく。時にソースをくぐらせ、味に飽きない様に、と箸を―箸ではなくフォークとナイフではあるが―進める。


 あと一口、と言った所で二品目が来る。

 二品目、渡した素材の二つ目。そう、鹿肉の料理だ。

 

 ステーキとご飯茶碗一杯、それを空にして更にまた食うのか?と思われるだろうが、これまでの食生活でそれくらいは入る様な作りになっている。ここは精神世界だろう、と言われるかもしれないが体の限界というのは、脳の限界そのものなのだ。

 制限を掛けているのが脳であるなら肉体から離れた精神世界だろうと限界は同じだ。同じ量を食べられる。日頃から多く食べているからこれくらいならまだ入る。

 流石に現実に戻れば、満腹神経が刺激されていてもその身体の状態に合わせてすぐ空腹になったりはするのだが。

 

 というわけで、最後の一口を口に入れると、綺麗に平らげた鉄板皿の代わりに、ガラスの平皿が置かれた。

 透き通る平皿には薄切りにされ、さっと湯通しされた鹿肉が乗せられている。横に梅肉と紫蘇、すりごまと塩、ゆずの香りのする醤油、それと何かはわからないがさらさらした透明なたれの入った四つ小皿が添えられる。

 その後、こつんと置かれたのは日本酒だ。品に合わせた冷やし酒でガラスのコップに酌される。先程は我慢した酒精に少しも呑まないうちに頬が上気する。 

 花の様に盛り付けられた鹿肉を一切れ取ると、梅肉と紫蘇のタレを付ける。


予想を裏切らない、というのだろうか、唾液腺を強烈に刺激する独特の酸味と紫蘇の風味が肉のうまみを形作る。


 コップの中の酒を流し込む。広がる香りが梅の酸味と重なり鼻を通り逃げていく。紫蘇の香がゆっくりと消えていく余韻を感じながら箸を伸ばす。

 間を開けずに取った次の一切れを、すりごまと塩に付け口に入れる。ふわりと広がるごまの干し草を思わせる風味に塩が肉のうまみを引き立てる。再び鼻頭を刺激する酒をあおり、一息ついた。

 多くのたれをつけても楽しめる味相は鹿肉の特徴によるものだ。その特徴とは猪肉とは打って変わって、その淡泊さにある。油が少なく、腹が重くなるか、と訊けば猪には遠く及ばないだろう。が、淡泊であっても旨みは凝縮されている。肉は少し硬いが旨みが噛めば噛むほど…。と言える様に詰まっている。

 処理を怠ればもちろん強い臭みが残るが取り除けば、癖のない熟れた旨みが味わえる。

 味は淡泊である、しかし淡泊だからこそ、様々なたれにあう。たれによって小さくとも様々な変化が楽しめる。

 そして癖の無い味で日本酒にも合う。辛めの米酒を存分に引き立てるのだ。

 そして、また肉に箸を伸ばし、次は柚子の香のする醤油へつける。爽やかな風味にしっかりとした醤油が旨みと重なって唇を潤す。

 一口ごとに酒を入れ噛み締める。主張するようでもなく、淡泊に清廉に味わいを滲ませる。

 そして最後に残した、匂いも少ない透明なタレへ肉を運ぶ。これは何なんだろう、という期待と、そもそも付けるタレなんだろうか?という疑問を混ぜながら肉を潜らせる。 

 口に入れる直前、匂いを嗅ぐがやはり肉の匂いしかしない。

 そして舌の上に乗せた直後感じたのは、痛み、だった。痛覚を微かに刺激する辛み、唐辛子の辛みを感じた後、肉の風味を強く感じた。

 唐辛子の辛み以外、塩みもないただの水のようだが、そうでもないらしく、何もつけずに食べるのとは全く違う旨みだ。

 これも後で聞いた話だが、鹿肉を湯通しした後の湯に鹿の骨で出汁を取り唐辛子を浮かべたものだそうだ。タレ自体に旨みが詰まっている上に唐辛子の刺激によって舌を敏感にさせ、純粋に肉の旨みを、鹿の旨みだけを楽しめるように、と考えたものらしい。

 日本酒を舌の上で転がすと旨みが上手く絡まり滴るように喉を通っていく。葉野菜を肉で挟んで醤油タレにつける。

 しゃきしゃきと鳴る葉野菜と広がる苦味を楽しむ。肉をつまみ4つのタレを気ままに選んで楽しんでいく。

 此方も綺麗に平らげ、二杯目の日本酒もすっかり空になり、ほろ酔いの状態でそれでもきっちりと手を合わせる。


「御馳走様でした」


 いやぁ、おいしかった。と、私がくちくなった腹をさすりながら息をついて、最後のお冷に寛いでいた時、外が俄かに騒がしくなった。






――――――――ライフスタイルオンライン、タナカ出張レビューページより


ーーーチラ裏設定5ーーー


魔物について


牙猪キバ-シシ

 その名の通り下あごの牙が大きく発達した猪。

 現実世界の猪と同様大きさは中動物程度、食料は草、種、虫のため牙は殆ど威嚇用。

 攻撃は、突進と顔面による殴打。

 突進は強力だが、事前動作として頭を振り蹄で地面を削る動作が入るので避けるのは容易い。ちなみにどちらの攻撃も牙の部分に当たればダメージ増量

 肉は鮮度が落ちやすいが絶品


俊鹿ハヤ-シカ

 姿は鹿その物、しかし角は雌雄どちらも有している。食事は草や種を食べる。ポーションの材料の薬草を特に好む。

 攻撃は角を使った攻撃や足蹴

 回避能力に優れ、反射反応によって避けるため警戒心は薄い。後脚による足蹴は協力

 こちらの肉も足は早いが美味。決して足が速いと足が早いをかけているわけではない。

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