「…先生?」
初戦闘です。楽しいですね。
しかし、会話文が多くなってしまった。
そういえばお気に入りが2ケタ到達しました。ありがとうございます。
よし、武器も買ったし初戦闘といきますか!
楽しみではあるけど怖いのかなあ、と期待と不安を胸にフィールドへ歩み出す。狩るは最も大人しい俊鹿だ。決して牙猪が怖いのではない。牙が大きくて形相も厳ついじゃないか。
いやいや、それはともかく、だ。
ここからラスタンプレイの第一歩が始まる。この剣を手に私はこの世界の食道楽を全踏破するのだ。
私の戦いはこれからだ…っ!!
(続きます)
――――――――ライフスタイルオンライン、タナカ出張レビューページより
「よいしょっ」
街の武器屋で選んだ片手剣をビルギンス外の草原で警戒も薄く草を食む俊鹿に駆け寄り、降り下ろす。柄に布を巻いて厚さを増させた剣は渾身の勢いのまま明確な手応えを腕に伝え地面に突き刺さった。うぇ?と間抜けな声と共につんのめって痺れの走る腕を抑える。
凶器を降り下ろされたはずの俊鹿は数歩離れたところでコルタクを一瞥しただけで、すぐまた草を食み出している。
「ぶぁっはっはっはっはっ、こ、コルさん…っ、どうしてっ、うぇって…っ、どうして、そうなるの…っ」
地面に刺さった剣を抜いて刀身に付いた泥を払っている間、街であい一緒にきていたワルクがくるぶしまで掛かる草が一面に生える地面に蹲り、湿った土を拳で叩いていた。
草原らしく地面は草の根が複雑に絡まって、土と水をしっかり結びつけている。
ワルクの拳にぼすんぼすんと鳴る地面の鈍い音を聴きながら、苛立ちを押さえるためため息を一つ吐く。今だ震えるワルクに少し眉をつり上げる。
「ちょっとっ、笑いすぎじゃない?」
「いやだってっ、綺麗な…っ、綺麗なフォームで地面にっ…ザクって…ザクって…っ」
ワルクは、言いかけた言葉をくぐもった笑いで遮られ、地面に丸くなっていたが、とうとう抑えきれなくなったのか仰向けになると、子供のように暴れながら笑い声を上げ始めた。
ーーーーー
「落ち着いた?」
「…はい、」
ごめんなさい、と頭を下げるワルクは地面に正座しており、コルタクはその前に仁王立ちしている。先程の俊鹿は未だ近くで夕食を食んでいる。
この状況はと問うなら、言わずもがな、何時まで経っても笑いの止まないワルクに拳骨を下し、強制的に黙らせ正座させたのだ。
少なからず本気で怒っている事を察したのか跳ねるように動いていた尻尾も尻の下に引っ込んでしまっている。気まずそうに視線を横にそらして合わそうとしていない。
基本的に真面目な高校生なのだろう、少々かわいそうになってきた。
「ワルク」
「はい」
「こっち見て」
頑なに目線を宙に向けるワルクに指摘する。
そうして向いた視線は軽く震えていたがキャラメイクのせいで睨みを聞かせているようにも見え、少したじろぎながら言葉を続ける。
「僕に剣の使い方教えて、それでちゃらね」
「…ごめんなさい」
どうも落ち込みきっている様子に流石に心配になり正座しているワルクの前に腰を下ろして、頭の上に飛び出た耳の間を少し強く撫でる。
「なんかあったの?」
既に正座は解き胡座をかいているワルクは心地良さそうに目を細めている。
「いえ、特に何かって訳じゃないんですけどテスト前でピリピリしてて」
遠慮がちに言うに、進路も決めかねていて親からの重圧もあり、とちょっと不安定な時期なんだろう、とコルタクは判断した。
確かに街で会う時から少し変だった気がする。悪い言い方だが、調子に乗っている、という感じだった。空元気ともいえるだろう。
「確か、高2でしょ、今って進路そんなに早く決めるの?」
「決めてる奴も多いす」
撫でる手を止めて訊くと一瞬視線を手を追わすがすぐ俯いた。
「もしかして一緒にラスタン始めたっていう友達も?」
「決めてます」
既に推薦を出してもらう事を先生方と決めているらしい。
ワルクは俯いていた顔をあげると質問する。
「コルタクさんは進路ってどう決めました?」
コルタクは、あー、と唸ると顎をさする。
「僕は殆どなにも考えず、一先ず経済科に入って、そこから就職って流れだったなぁ。経済に行くってちゃんと決めたの高3の夏休みじゃなかったっけ」
「…遅くないですか?先生は高2の3学期までには決めてろって」
困惑顔で首をかしげるワルクにコルタクは苦笑を漏らす。
「実際それができれば楽にはなるだろうね。そこに行く為の準備にそれだけ多く時間使えるわけだから」
渋を噛んだように眉をしかめるワルクに、でも、と続ける。
「結局は、何を学ぶか、なんだよね。大学行ったって講義受けるだけじゃ学べる事も少ないし、エントリーシートの書き方なんて教えてもらえやしないもん」
大変だったよー。と一人ごちるコルタクはワルクに伝える。
「焦るのは良いけど、それで慌てて中身の無い答えに行き着くのは駄目だよ」
人差し指を口の前に立て片目を閉じてウィンクする。
「じゃあ、先生、…」
「…先生?」
「え、あ」
「ん、え?」
脈絡もなく出てきた単語にコルタクは思考が止まるが、それ以上に目の前の犬似の狼獣人が手をばたつかせ右往左往している。
そうだね、あるよね。目上の人につい、そう呼びかけちゃう学生の頃特有の癖。と、慌てている彼を慈しみの目で見下ろし、
「ほお…先生?」
からかうような声色で再度問いかけると宙を掻いていた手は落ち、怨めしげに睨み上げてきた。恐らく毛の下は真っ赤に染まっているのだろう。
「…先生?」
「っコルさん!」
コルさん俺の事悪く言えないじゃないすか、とぼやきながらも気も紛れたのか、先ほどよりは楽そうに言葉を続ける。
「あんまり気にしなくていいって事すかね、コルさん」
「まあ、考えなきゃいけないけどね、息抜きの時は何も考えなくてもいいと思うよ」
さて、と立ち上がると、小難しい話は終わりとばかりに、大きく全身で伸びをする。
「そろそろ剣の振り方教えてよ」
「そですね、草原を耕しても意味ないですしね」
「君には、もう少し年功序列というものを教えてやらねばな」
言い合うワルクからは完全ではないにしても気負いは感じられない。コルタクは安堵の息をはいた。
「ひとまずコルさんは、ちゃんと敵を見て剣を振らないと」
「みてるよ?」
「視界に入れるだけじゃなくて意識して相手の動きを読み取るんです。」
ザクッと小気味いい音がして、剣が地面に突き刺さる。
「コルさんの場合、的に当てる感覚で振ってるんじゃなくて、地面に当たっても痺れないように振ってません?普通そんなに刺さりませんよ」
ワルクに指摘され、コルタクは地面に残った後を見る。
確かに最初に俊鹿に避けられた時より深く刺さっている気がする。力を込めるタイミングが無意識に地面に当たる直前に補正されてしまっているのだろう。道理で手の痺れもなくザクザク刺さるわけだ。
「俺なりのやり方ですけど敵の重心の位置を意識して、行動をある程度先読みすれば当てやすいすよ」
そう言って、ワルクは近くにいた別の俊鹿を初速の遅い大剣で以て切りかかる。
初撃は軽い動きで跳んだ俊鹿の胴体を掠める程度の浅いダメージだが、返す刀の切り上げで、前股を通り肩まで両断する。俊鹿が避ける方向を予見していたかのような剣閃に俊鹿は反撃する間もなく地面に倒れた。
「動きの無駄が少ない俊鹿ですけど、予備動作はありますから、そこを逃さなければさっくり行けますよ」
死体に手をかざしアイテムを採取するワルクが、事も無げに言う。今のは明らかに動きを読んだ上で誘導していたと思うコルタクだが、ちなみにワルクの、牙猪の方が動き遅くてやりやすいすよ。という意見はお前が言うか、の一言で押し黙らせた。
「何としても当ててやる」
あれから十数分経つが一撃も与えられず、反撃も無く疲労だけが溜まっていく。牙猪その他の魔物は当たらなくとも反撃してくるらしいが俊鹿はその限りではないらしく、避けては草を食み、また避けては草を食んでいる。
「こうなると、弓とかの方があってるかも知んないですね」
諦念の滲む声を後ろに聞きながら、俊鹿の重心を意識、意識、と心で唱えながら左下に剣を構えると俊鹿に右足を強く一歩踏み出す。
俊鹿が一瞬ひく、と震えるのが見えた。その後四肢を軽く踏みしめて重心が下がる、コルタクの中に確信がよぎった。右後ろに跳ねる、と。
今までの経験から考えると避ける距離は間合いの2歩奥、どれだけ踏み込んでもその間にまた避ける余裕を与えてしまう。
つい先ほどのワルクの言葉を反芻する、弓とかのほうがあっているかもしれない。
コルタクは、俊鹿が跳ぶと同時に大きく左脚を出し、中空を逆袈裟に切り上げると俊鹿に対し半身に、右肩の後方まで上げた剣を逆手に持ち替えると大きく右腕を引く。上半身を捻り正面を向き体のばねに力を溜めて、体重を前面に左足を踏みしめ、既に間合いの外に逃げている俊鹿へ、投擲する。
俊鹿は回転しながら飛来する硬質な金属を捉え反射的に体を動かそうとするが、しかし着地直後衝撃を抑える体制からの回避行動は数瞬の隙を生み、跳ねた直後伸びた後脚を切り飛ばされ、跳んだ先に崩れるように落ちた。
コルタクは地面に落ちた剣を拾うと足を失い、立てずにもがく俊鹿の首へ一閃、詰めていた息を吐くと、どうだ、とばかりに腰に手を当てワルクを振り返る。
「容赦ないすねコルさん」
若干引き気味に苦笑していた。
「足切り落としてから悠々と止め、ってえげつないすよコルさん、容赦ないっすね」
「なんで繰り返したの」
いやあ、と目を逸らすワルクだが、ともあれ初戦闘お疲れ様です。と声を掛けた。
「今日は、あと少し狩ったら戻って何か食べましょう」
祝勝会です。という言葉に頷く。が、ワルクが少し慌てるように言う。
「あ、採取しないと、消えちゃいますよ!」
慌てて、動かなくなり少し透けて見える俊鹿に手をかざし採取する。無事、角や肉を採取できたのを確認すると、ワルクと街の方へ歩く。途中、剣投擲をしながら訊くと、採取した肉で料理を安く出してくれる店があるとか。楽しみだ。