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「まあ最初に選んだ武器をずっと使い続けんといかんわけじゃないからな。」

土日がなかなか忙しい

 手頃そうな片手剣を手にとって握りを確かめる。無骨、と言ってしまえば其れまでだが装飾など無しに握って叩き切ることを簡略化し再現した形。

 コルタクの目の前の壁には様々な剣が立て掛けてある。横に目を逸らすと剣だけでなく斧・大鉈・盾・弓挙げ句鍋なんてものまで棚におかれたり壁にかけられている。当然だが全てに結界魔術が掛けられていて、コルタクが手にしている片手剣も頼んで取り出してもらったものだ。

 この街で過ごす分には気にならないがいわゆるネットゲームであるラスタンでは人を襲う魔物が多い。

 外を出歩いても何もしない限りほぼ安全なビルギンスが異常なのだ。第二の町―カンセド―へ行く道には魔物が出現する。牙猪や俊鹿(ハヤジカ)と違い狂暴性が強く人を見ると襲いかかってくる物も多い。

 ならば必然的に身を守る為に武器防具が要る。

 防具は革鎧があるとはいえ武器がなければ素手位しか使えるものはない。聞くところによると徒手空拳を駆使するプレイヤーもいるようだが、拳法を習ったこともないコルタクはそのプレイを真似する気は更々無い。

 

 と言うわけでコルタクは薬草採取の依頼を終え武器屋にきていた。ダイクが親しそうに挨拶していたのでプレイヤーかと思い注視してみるがNPCのようだ。

 武器屋の店主が言うにラスタンを始めたばかりのダイクが適当に入った店がここで今最先端の第六の街-イロノア-に居を構えるダイクも未だ時々放浪ついでに立ち寄るらしい。

 お前は好きに武器を選んどれ、儂らは酒でも飲んでやろうじゃないか。

 というダイクの自堕落な提案を瞬時に切り落とした店主は、何処かから取り出したテーブルと椅子に座り、アイテムポーチから切子細工のように模様が入れられた瓶に詰められた琥珀の酒を一人でちびちびと喉に下しているダイクに背を向け商品の説明をしていた。


「まあ最初に選んだ武器をずっと使い続けんといかんわけじゃないからな。」


 気軽に選べ、という店主はこっちはどうだ、と結界に手を突っ込む。

 店主のみに取り出せるようになっている結界、効率化の進められた日本人としては少し眉をひそめるコルタクだが、そもそも人入りの少ない裏通りの店だ。気にする所でもないのだろう。 

 先の剣より細身の剣を手に取ると揺らすように振ってみる。重みはあまりないが少し手が余る感覚がある。

 靴を買うような感覚で剣を握っていくが、コルタクの表情は優れない。

 魔法使ってみたいんだよなあ。と心中呟くコルタクは眉をしかめる。

 憧憬を滲ませるコルタクをほんのり酒気を帯びたダイクが物憂げに眺めている。 

 道すがらコルタクが訊いてきた事であからさまに残念に思っているのが見えたのが、魔法である。

 この世界でのゲームは魔力を引き換えに精霊の力を引き出すことによって魔法を起こしている。  

 のだが、性能が低く不遇とされている。威力の他にも、魔法そのものの修得にも問題がある。

 魔法の修得は、魔導書を読み解き修得条件を達成することで、修得ができる。発動の詠唱は、精霊の導きと言われているシステムで発動しようと思えば頭に詠唱が浮かぶのでそこに不満は出ていない。

 むしろ一人一人詠唱が少し違っていたりする所は人気だったりする。

 

 性能が低い、というのは攻撃力もそうだが魔法、というのは込めた魔力に応じて効果範囲や威力が変動するのだが、ある程度魔力を集中させると、力が抜けるように霧散してしまうのだ。制限されているかのように、一定以上の高みを求めると魔法事態発動しない、魔力が散っていくだけ。

 不思議なのは、魔導書の記述には、「魔力を込めれば込める程、負担は大きくなるが威力は大きくなる」とだけあるのだ。あくまで込める魔力の上限が記されているわけではないのだ。魔術ギルドで魔導書の研究をしている―学者プレイと言われている―プレイヤー達や魔法職のNPCの言葉を聴くに、「100年前位までは、そんなことはなかったはず」という。

 ラスタン暦上100年前、その頃に前触れもなく、精霊の反応が薄くなり、大精霊を介した魔法が使えなくなったのだ。

 というのは、女房の受け売りで、ダイクは殆ど理解していないのだが、それでもほぼ完璧に覚えていた説明をコルタクにしている。

 ここからは話していないが、ダイクは上位を行く鍛冶師であると同時に魔法職プレイヤーでもある。当然この謎の「魔法の不遇状態」は他人ごとでは無く、考察掲示板で論争されている中、一つの有力な説に当たりを付け、始まりの街にやってきた。


 その説とは「黒大鹿関連説」である。

 

 実は大小問わず謎の多いラスタンだが最初期から解決されていない謎を関連させて考えようとする説、夜になると唯一プレイヤーが大精霊と思わしきウンディーネと対する生誕の泉のある森から現れ出でて壊れぬ門を叩く黒大鹿。

 確かに関連付けても違和感はない。否定する材料もなければ、しかし、肯定する要素も無いが、少なくとも無関係という事はないだろう、というのが最近の傾向だ。

 ダイクは、落ち込みながらも武器を選んでいるコルタクを見ながら酒気に任せて思考の海に沈んでいく。


ーーーーー


 剣だけでなく斧やナックル、弓などを奥にある練習場で扱ってみて、最終的にオーソドックスに片手剣を選んだコルタクが店内に戻ってくると、ダイクは腕を組み足を床に踏みしめて居眠りをしていた。


「ダイクさん、起きないと強制ログアウトさせられますよ。」


 ダイクが睡眠信号の発生時間でダイブ状態から浮上させられる強制ログアウトの時間設定をどれくらいにしているのか分からないが、一人で酒に浸っているダイクに意地悪も込めて囁く。

 強制ログアウトさせられると30分ほどシステム調整確認の為にダイブできなくなる。それに意識が急浮上するので、人によっては絶叫アトラクションで頭を振り回されたような感覚に陥るのだ。浮上酔い、なんて言われたりするがダイクはこの浮上酔いが激しい、と言っていた。


「おっ、おうっ…コルタク…お前」


 椅子の背もたれに預けきっていた身を無理やり起こしたダイクは笑みを頬に含んでいるコルタクを見て謀られたと気づいたのか睨んでくる。

 一つ、悪戯を忘れるようにため息を吐いたダイクは、にやりと笑うと、空になった酒瓶を中を確かめるように揺らすとアイテムボックスに収納すると、同じ瓶を取り出した。

 しかし仕舞った瓶とは違い、中に琥珀が詰まっている。封も開いてさえない。


「残念じゃ、お前と呑むのもいいじゃろうと思って取って置いたんじゃが、要らんようじゃの」


 わざとらしく鬱々と、口を尖らせて琥珀の宝石を名残惜しそうに懐に入れようとする。

 アイテムボックスに入れるには別に懐に入れる必要は無いのにわざと回りくどい方法を取っている。

 慌てて、ダイクの手を、というより切子の琥珀を掴み抑えると謝罪する。


「ごめんなさい、僕にも呑ませてください。」

「冗談じゃ、わかっとるよ。しかし、お前もう少し欲隠したらどうなんじゃ、謝るときくらい目を見んか」

「呑ませてください」


呆れて目を細めて指摘するダイクの言う通りに目を見て頼み込む。


「ったく、また呑むときがあったら呼んでやる」


 そういって、ダイクは手の中の酒瓶をアイテムボックスに直接送り、さて、と席を立つ。


「初討伐も見てやりたい気もするが、そろそろ寝る時間でな」


 そう思い、メニューを開くと既に22時を超えていた。明日の準備もあるコルタクもログアウトしようか、とメニューを再び目を向ける。

 メニューページはアイテムボックスと現在時刻と実績とログアウトの項目のついたスクリーンが宙に浮いている。


「実績ってなんだろ…?」


 疑問に思い、ページを開いてみると、ぴんぽーん、と軽快な音が響くと開いたページに何かが追加された。


「なんだ、実績か?」


 とダイクが聴いてきたのでこの音、周りにも聞こえるらしい。

 町中で開くのはお勧めされていないのかもしれない。ともかく、実績に新しく追加された物を見てみる。が、内容に思わず絶句してしまった。


「ほうほう?、「食いしん坊」「観光者」に…「魔王に喧嘩を売りし者」?最後のは聞いた事ない称号だな。…ん、どうしたお前」

「あ、いえ、お先落ちますね。今日はありがとうございました。」


 急に顔が青くなったコルタクに、ダイクの頭上にはてな・・・が浮かびあがっているような錯覚を覚えるが、失礼を謝罪しながらログアウトしていった。


ーーーーー


「レビューのネタとしては、面白いだろうけど、コレ怖いなあ…」


 浮上した後、ベッドの上で身を起こした惟孝は、笑顔で迫力を醸し出す彼女の姿を思い出し天井を仰ぐ。

 ちなみに称号の効果は「策敵能力の上昇・回避能力上昇/特定NPCからの敵性認定」だった。


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