「美人さんだからじゃないですかね?」
または「彼女はいつどんな時に排泄し、排泄した時の快感がどれほどであるのか」
今回はほぼゲーム設定回ですね
荘厳な神秘、とも言うべき驚きに迎えられた冒険者ギルド
鍛冶ギルド・魔法ギルドは向かいと隣の建物らしい、特に違いはないとの事だが、また見に行ってみるのもいいだろう。もしかしたら冒険者ギルドのような趣向がこらされているやも知れない。
もしプレイせずにスクリーンショットを見て楽しんでいる人で余裕のある方がいたらその人は是非買ってプレイしてみるといいだろう。景観に圧倒される、という感動は滅多にないものだ。この感動は直に感じなければ理解できないだろうから。
と、明らかに露骨な宣伝をしたところで本題に戻る。
ギルドの登録と、初任務の受領は滞りなく進んだ。受付の綺麗なお姉さんが優しく説明してくれたので頭によく残っている。なるほど人気があるというのにも頷ける。
簡単に説明すると、主として、食料・素材の調達や、何か力の足りない部分への派遣などの日雇い業斡旋をしているのがギルドだ。
冒険者ギルドの特徴はと言えば都市と都市の間、フィールドでの依頼が多く集まるといった特色がある、鍛冶なら鍛冶、魔法なら魔法、農業なら農業、といった風にそれぞれ冠している名の特色を持っているようだ。
私が登録したのは冒険者ギルドではあるが農業ギルドにも興味がある。ビルギンスには農業ギルドが存在しないが、ギルドを移ることに制限はないようだし、ギルドレベルも元のギルドに復帰すると移転する前のギルドレベルに戻ることが出来るらしい。農業ギルドがある街に着いたら、そちらに移ってみようと思う。
ギルドレベルというのはキャラクターのレベルとは別のギルド内での階級のようなもので、他のゲームや作品のギルドランクに相当すると考えてもらうと分かりやすいだろうか。
説明を聞き終わり、マップ―地図を表示する魔法―とライト―明かりを作り出す魔法―を受け取ると登録は完了し、依頼も受領した。まさしく生きた心地を味わった
さて、ここからが本番、真骨頂、タナカレビューの時間であるっ。
…説明しよう、タナカレビューとはっ!!
知っての通り、私の運営しているレビューサイトは食レポ、あのごはん、このごはん、美味しい。というのを書き綴る。という趣旨でやっている。弊社の食品も提携販売されているのでそちらは、特設ページを覗いてほしい。
ともあれ、要するに食レポである。と言っても今回の2時間ちょっとのプレイで口にしたのはポーションと焼き鳥、だけである。遺憾極まるという所だがゲームの話を多くできたので、よしとする。
そもそもこのレビュー、ゲームのレビューをしろ、と言われているはずなのだが
ゴホンっ、ともあれまずはポーション、
これは、スポーツ飲料を薄めたような味だったが、口通りがやけに滑らかで、さらさらしているという感覚だ、どうやら、製法にコツがあるそうで、(以下画像を多く掲載しての長文のため割愛)
――――――――ライフスタイルオンライン、タナカ出張レビューページより
動悸が治まりきらぬまま、逃げるようにギルドから出てきたコルタクの手首には数分前までは無かった青い宝石を填めた細い腕輪があった。
これが冒険者ギルドの証らしい。鍛冶ギルドは赤い宝石、魔法は黄の宝石がついているとのことだ。
施設としては、宿泊と飲食のほかに鍛練場もあるらしい。そういえば、まだ武器を選択していない。また武器屋にでも行って試してみないといけない。
「何を良いかけたんですかコルさん」
咎めるような口調でワルクが問いかけてくる。若者の怖いもの知らずからか、恐怖体験の直後だというのに気になるらしい。当然コルタクは答えない。ただ一言、
「知らない方が幸せと言うことは思っているより多いんだよ」
納得できない、としかめ面をしているが、ふと顔を宙に向けて、あ、と声を漏らした。何か問題でもおきたのだろうか。
「どうかしたの?」
「いえ、晩飯に呼ばれたので…」
困ったように答えるワルクに、そう言えば高校生だったか、と考え既に20時をまわっている事に気付く。
これから人が増えていく時間だろうか、一度落ちて夕餉をとってくるのも悪くはないな、と思う。このままプレイし続けていたらワルクに奢られてしまいそうだ。何せ、先ほどの時間だけでも露天は多かったのだ。
ログインのピークに達したら広間近くは様々な露店でごっちゃになるらしい。空いた腹ではそれらを全部気にせず街の外に出れるはずもない。
「うん、じゃあ僕も落ちるかな。ご飯食べたいし」
「あ、そうすね。じゃあ、フレンド交換して落ちましょか。ちゃんとご飯いっぱい食べてくださいよ?」
「よし、今度会ったら後ろから殴りかかってやる」
コレタクはからかうワルクに言い放つと一足先にログアウトしていった。
ーーーーー
ファンが回転を遅くしていく音がぼんやりと聞こえる。
ヘルメットからではなくパソコンの近くに置いた据え置き機の排熱音が小さくなっていくのを、ぼんやりと覚醒しきらない脳が捉えていた。ダイブ後独特の寝足りない時のような酩酊感に浸りながら、ゆっくりと身体を起こす。
惟孝は時計を確認して、20時半を回っていることを確認する。
「チュートリアルも終わんないうちに2時間以上たってるのか…てか森でゆっくりしすぎたかな」
反省反省、と呟いてベッドから降りる。呟いただけで、あまり改善しようとは思っていないが、レビューを書くことが趣旨なのだからネタが少ないのは困る。今回はポーションと焼き鳥串だろうか。
ダイブ中に得た腹ごしらえも、満腹中枢を刺激するだけでしかなく、ベッドに腰掛けている間に胃のすぼむ音を響かせる。
「あー、うん…食べるか」
レビューの下書きをするためパソコンを起動させながら、冷凍してあるご飯と気に入っている惣菜屋の和え物と少し電車を乗り繋いでいくとある寿司屋にこっそり教えてもらった製法で昨日作った味噌汁を椀にそそぐ。何度か作ってみたものの思ったような味にならないことに首を捻り、リビングに運ぶ。
食が大好きな惟孝ではあるが、調理そのものはあまり得意ではない。自分で作るより誰かに作ってもらった方が美味しく感じると経験則を持っている程で、舌は確かなのだが料理の感覚というものをよくわかっていないのだ。
プレイの内容を思い返しながら一汁三菜をつつく。2年ほど前から住んでいる1LDKの寂しさ相まり伴侶が欲しい今日この頃である。
ーーーーー
「お疲れ様です。田中さん、早速レビュー書かれてましたね」
昼休み、昨日も間部長がさぼっていた休憩室でコーヒーを喫んでいると階下の食堂帰りなのか、斉藤が自販機に小銭を入れながら昨日書いたレビューの話題を振ってきた。
「あー、そうですね。やっぱり技術革新実感しますね、グラフィックすごくきれいでしたよ。あれ」
「ですよねー、私も友達と食べ歩きしたりするんですけど、ああいうファンタジーな世界でアイスとかクレープ食べてたらちょっと変な気分するんですよね」
「ほぉ、クレープとかあるんですか、あの世界」
甘味のようなものはほとんどなかったように思える。あってジュースなどだった気がする。
「チュートリアルだけだったら、北通りって行かずに南通りだけじゃないですか?森から近い門が南門ですしギルドも南通りにありますから。北通りは住居区って言われててNPCも多いですから娯楽系は北通りに多いんですよ。
あと露店は休日がピークですし」
休日の北通り、と心にメモしながら、惟孝は気になっていたことを、そういえば、と訊く。
「あの、斉藤さん」
「はい?」
「聞きにくいんですけど、ラスタンのAIの人格ベースに斉藤さんがスキャンされたAIって、いたりします?」
ギルドの受付のお姉さん、サイトウさんの事だ。
「あ、ええ、あそこの会社に友達が勤めてて、どうしてもって言うから提供したんです。それでラスタン無料でインストールさせてもらってますから儲けものですよ」
無糖ブラックのコーヒーのプルタブを開けながら笑う斉藤だが、ゲーム一本最低価格が6000円だったろうか、それ程度でAIの基になる人格データはほいほい提供するものではない。
高度AI自体最新の技術であるし、人格データ、脳波の観測なのだが、これは一か月、装置を常に装着しておかなくてはいけない。最近ではチョーカー型の装置で生活に支障はないのだが、何せ常に着けて生活するのだ、就寝から入浴、排泄に至るまで常に脳波を観測されている。言うなれば排泄の時間や頻度、そして排泄に伴う本能的な快感まで見通されることになる。
つまり「彼女はいつどんな時に排泄し、排泄した時の快感がどれほどであるのか」という記録を毎日つけられるのだ。女性としては忌避するのが当然だろう。それを6000円ちょっとで受け、事も無げに口外する女性は珍しい。
「なんだか、斉藤さんって、変わってますよね」
受けとり方によっては嫌な言葉に取られる惟孝のほぼ無意識にでた言葉も、好い印象を持って発したことが伝わったのか、斉藤は笑って答える。
「よく言われます。」
斉藤は一口、唇を缶に触れてから離し笑うと、ふと首を傾げる。
「でも、冒険者ギルドの受付はお前しかいない、なんて言われたんですよね。なんでなんでしょう」
下唇に人差し指をつけて尋ねる斉藤の仕草に、喉仏が上下する。同時に昨日のサイトウさんとのやり取りが思い出され、広くなってきたと嘆く額に汗を浮かばせる。
「美人さんだから、じゃないですかね?」
飲んでいるコーヒーからとった糖分を消耗させる勢いで頭を使い、答える。ゲームのキャラであるサイトウさんには及ばないとしても、実際斉藤は十分な美人である。…少し丸っこい輪郭も愛らしいともいえよう。
斉藤は内心穏やかでない惟孝の状況を知ってか知らずか、もうお上手なんだから、そんな事ばっか言ってると女の子に嫌われますよ。と冗談めかして笑い、空いた缶をゴミ箱に放り込むと、それじゃ、とエレベーターを素通りして階段へ向かっていく。
ヒールで階段は危なくないだろうかと少し心配しながら彼女に手を振りながら、惟孝は心臓の鼓動が激しく打つのを耳の裏で聴いていた。
ーーーチラ裏設定3ーーー
惟孝の務める食料会社の食堂について、
食品会社の食堂だからといって、特に他会社の食堂と変わりがあるわけでもなく、ありがちな比較的安価で量と満足が得られる、といった食堂だった。
が、数年前何者かによる策略、洗脳、印象操作―という名の懇願―による改変で、自ら複数ある一品物から選んで、その皿の種類と数で、値段を決める。という選択定食制に変わった。
例えば、温泉卵や、おひたし等の最小皿―一品20円―だけという、超節約昼食から、食券を買って食堂のおばちゃんに作ってもらうメニューと加え、一品皿をいろいろ選び2000円を超えるような豪華昼食まで、選べるようになった。
食堂の一部を定食屋として一般開放していて、食堂の無い他会社の社員や、自社の食堂に飽きた社員等が利用しに来るので赤字経営にもなっていない。
なお、新メニューが作られるとタナカレビューに直前レビューとして更新される。
この変化にお小遣いのやり繰りに困っていたりする社員からは、誰とも知らぬ革命家に感謝の声が上がっている。