恐怖とは生物を進化させる最たる要素である
3話投稿です。こんなハイペースで投稿してて大丈夫だろうか
今思うとネーミングセンスおかしいですね僕
始まりの街-ビルギンス-
ぐるりと街を囲む壁―壁と言っても民家の屋根の二倍くらいの高さしかない―には南北東西に丸太の柵を滑車と鎖で吊り上げる形の門が付き、出入りできるようになっている。
門は夜閉じられ、朝の鐘が鳴らされると解放される。外のモンスターが活性化する、とか凶暴化する、という事はないそうだが、週に一度、不定期に出現する黒大鹿という魔物の対策のためだ。夜であっても壁の通路を使って外に出れるのでそこまで不便ではないらしい。
正式サービスが始まり5か月、つまり約20回出現しているそうだが討伐数は1件もないらしい。
ラスタンウィキには夜明けとともに塵になる黒大鹿の動画リンクが張られている。
街並み、と言えば表通りは武器屋・宿屋・道具屋・が並んでいる。家を買うこともできプレイヤーの店もあるらしい。大きな街ではないがせまっ苦しいわけでもない。中央の噴水広間から東西南北に伸びる通りからわき道に入ると、プレイヤーやNPCの住宅や店が並んでいる。表通りに比べ地価が安いので小ぢんまりとした店や家が並んでいる。
謎の魔物にも、石造りの街並みにも、興味があるが、ひとまず、街に入ってすることは、決まっている。
出張版でなく弊社のホームページのタナカレビューを見ていてくれる人ならわかるだろう。
そう、ごはん、であるっ!!!
――――――――ライフスタイルオンライン、タナカ出張レビューページより
「コルさん、ギルド加入しないの!?まずはギルド加入してからじゃないんすか!」
「煩い!穴場の匂いがするんだ!!」
感じ取った瞬間に行かないと二度と会えないんだぞ、と怒鳴りながら赤らんでいた空が暗くなっていく中、二人がようやくすれ違える程度の道を早足で歩いていく。街の中央の噴水広場にある塔から鳴る鐘の音が数回、響いてきた。その音に思わず空を見るワルクだが、コルタクは露も気にせず足を止めない。
惟孝のモットーは「食べ物の出会いは一期一会」なのだ。
ーーーーー
青々としていた空が明らんできた頃、草原から門の前にきた二人、ワルクに街の説明された惟孝こと、コルタクはしきりに頷きながらも、頭は話の途中に出てきた裏通りの飯屋の事でほぼ埋め尽くされていく。
この後に書くレビューにワルクのした説明をまるまる載せるつもりなので全く聴いていないという事はないが、それでもご飯ご飯、と脳内で呪文を繰り返していた。
というのも、惟孝は会社のレビュー以外にも食べ歩きレビューという個人的なレビューを作っている。二つ共、食べることに関してのレビューだという事からも、分かるように彼は食事が大好きである。
お腹が出てきているのに食事の量を減らそうともしないことからも窺い知れるだろう。会社上がりに裏通りの小さな飯屋や居酒屋で晩酌を済ますのが彼の息抜きでもあるのだ。
たまたま入った気に入った店の主人にレビューの許可を得て掲載したりしているので、惟孝が勤めている会社だけでなく身近な会社員の呑みの参考として、実は知られていたりする。
蛇足も入ったが、要するに、食い意地の張ったおっさん、だという事だ。
コルタクが胸を膨らませて開け放たれた門を潜ろうとすると、門のそばで気怠そうにしていた鎧姿の門番が声を掛けてきた
「あれ、アンタ、ギルドの人間じゃないね。そっちの犬の兄ちゃんはギルドに登録してるみたいだけど…。旅してるんならギルドには入ってた方がいいよ、入領料とか言って街に入るだけでもお金取るとこもあるんだから、ギルドに入ってたら、そういうの割り引いてもらえるし、お店でもおまけしてもらえたりするからね、」
門番の彼は、兜で顔の半分が隠れて表情は読みにくいが、どうやら心配してくれているようなので、コルタクはお礼を言って、ギルドの場所を訊く。
依頼の斡旋をしている組織だとは頭に入れていたが、それだけじゃなく、各方面への信用証明として機能しているらしい。ギルド経由以外でもNPCから依頼を受け取ることも出来るらしいが、効率は圧倒的にギルドの方がいいだろう。
「ギルド館なら、この南通りをずっと行ったら見えてくるよ。魔法ギルドも鍛冶ギルドも冒険者ギルドも集まってるからすぐにわかると思うよ」
「わかりましたありがとうございます。」
再度礼を言うと、今度こそ門を潜り街へ入っていく。
「…俺に聞いても良かったんじゃないすか?」
「いやぁ、なんか場所も聞く流れだったじゃない、今。信用してない、とか方向音痴疑ってる、わけじゃあないのよ?」
ワルクが不思議そうに訊くので苦笑しながら答える。場所の事を聴いたら何となく道も聞きたくなるものでしょ?と今度はコルタクが不思議そうに見上げて尋ねる。頭二つ程身長差があるのであまり顔を見て話さないが、質問するときは自然に顔を見てしまう。身体的な疲労はないが、なんとなく疲れるような気がする。
「言われてみれば確かに、そうすね」
「でしょ?まあ、なにはともあれ、まずはギルドからだよね、何を始めるにしても」
ーーーーー
「って言ってたのどうしたんすか!」
「知らん!」
「いや、知らないって!それにコルさんお金持ってないでしょ!」
そう言われてコルタクは始めて足を止める。やっと止まった。と呟いているワルクを余所目にコルタクはメニューを表示させ所持金の欄を確認する。その操作スピードは熟練プレイヤー並の早さだったが、コルタクはそんな事気にも留めずに所持金を凝視した。
どれだけ凝視しても「0」の数字が増えるわけでもなく、一瞬ワルクの存在が頭を過ったが直ぐに考えを吹き飛ばすように頭を振って拒否する。彼は親切でここまで付いてきてくれているのだ。これ以上迷惑はかけられない。
と、考えた所で思い至った。食欲に目がくらんで忘れていたが、彼は自分の時間を減らして付いてきてくれているのだ。
「ごめんワルク君、ちょっと欲に踊ってた。ギルドに連れてってくれないかな」
「え、はい、どうしたんすかいきなり」
「いやね、随分迷惑かけちゃったなと今更」
申し訳なく頭を掻き謝るコルタクにワルクは軽く微笑んで許した。彼自身コルタクの振る舞いに付き合うのは楽しかったので、むしろ謝られるとこそばゆい。
なんだか年下の子を相手しているようだ。
「じゃ今度こそ行きますか」
そう言い、ワルクは若干酷い事を考えながら表通りへ向かう。コルタクもその表情に釈然としないながらもその後をついていった。
ーーーーー
結論から言うと、食欲は抑えきれず、ギルドに着いた時、コレタクとワルクの手にはそれぞれ焼き鳥串が握られていた。
表通りの露店でプレイヤーが売っているのに目を奪われ脚を止めてしまった所に「しかたないなぁ」とワルクが焼き鳥串を二つ購入してしまったのだ。
「僕も食べたかったんすよ」
などと言われてしまえば大人しく受け取るしかなく、子ども扱いしてない?という抗議も軽く流されてしまった。
HP小回復の効果の付いたネギまの代金25G、意地でも依頼を早く完了させて返そう。と心に決め勇んでギルドの中に入る。
中は、意外な内装、というわけでもなく、市役所の受付の一角を切り取ったような空間だった。思えば外観も周りの家屋を少し大きくしたような感じだったな、と思いながら進んでいく。
開け放たれた扉から中に入ると初めに目につくのは、室内なのに生えている一本の木と大木の株だろう。中央に設けられた花壇の中心から伸びる細木が立派に葉を広げている。
小さな花と草と苔が覆うまるで森を切り取ったような花壇は、直径3mは優にある大木を斜めにへし折り、残った株をくり抜いたような形の外周でギルド内の石畳の床と区切られている。屋久杉の上の方を斜めに落として、外皮の近くだけを残した形といえば、わかりやすくなるかもしれない。
株の周りは削られ細工されていて、花壇と細木を背に腰掛けれるようになっている。
左側の壁一面には掲示板のようなものに紙が所狭しと留められている。明らかに重なっていて掲示板の枠からも外れ天井近くにも無理やり貼られているのが見える。
あそこから依頼を選ぶのは無理じゃないか、と思うが、掲示板の前でメニューを開くと依頼項目が増えているので、そこから選択すれば良いらしい。
受ける依頼を選択すると入口から右にあるカウンターに行けば以来受領完了するらしい。今は誰もいないので受付の女性は手元の書類にペンを動かしている。彼女の手元を見る限り中世ぽく万年筆が普及しているらしい。
「なんか、凄いね」
一言、思わずと言ったように漏らすと隣でワルクも苦笑する。
「俺も始めてきたときビックリしました」
あ、そうだ。とワルクは中央で存在感を主著する花壇の先を指差す。ギルドの奥は広い部屋になっていて、椅子と机が並べられている。受付のカウンターより大きなカウンターも目に入る。
「ギルドの奥は飲食店と宿屋になってます。安いですけど連泊はできないっすね、しようと思えば出来るんですけど、30人以上宿泊できなくって、他の宿泊希望の人がいたら、そっちを優先されちゃいます。」
だから大抵のプレイヤーはどこか街の宿で連泊しているんすよね。と続けた。
そのまた後に続いた、ご飯はまたあとで行きましょ。という言葉は無視する。
ふと、ワルクの言葉に思った疑問をすかさず訊いてみる。
「そいえば、宿屋とかって意味あるのかな?」
MMOであるラスタンは、リアルの時間経過と同じように進む。現実より日が暮れる時間が2時間ほど遅くなっていたりする当たり、ズレそのものはあるようだが時間経過そのものは同じである。
今20時前であるが、暗くなり夜の鐘が鳴ったのがつい先ほど、つまり現実での18時前と同じような日の落ち具合という事だ。
つまりソロプレイ用RPGなどとは違い、一人のプレイヤーが寝たからと言って急に朝になるわけでもない、メリットと言えば回復速度が速くなる、とか位じゃないだろうか。
というと、いやいやとかぶりを振って否定する。
「まず第一に倉庫が使えるの宿泊してる部屋だけですから、倉庫はどこの部屋で使っても自分の倉庫が使えるけど、倉庫機能そのものは部屋じゃないと使えないすから。
あとは、そうすね、施設のある部屋の中じゃないと使えないスキルとかありますし、たとえば料理とか鍛冶とか色々、コルさんの言うとおり、回復速度の事もありますし料理の追加効果の上昇とかもあるみたいっすね。あとNPC(宿屋の人)との友好度で依頼発生したり、てこともあるみたいす。
でも、まあ直接ベッドで寝るなんて事はほっとんど無いと思う。」
「へぇ…色々考えてあるんだねえ」
宿屋は考えていたより随分と重要な施設のようだ。それにしても友好度による個別クエストか、そんなものまであるとは。ほんと細かい所まで作られてるな。と感心しつつ、掲示板の依頼を確認する。
「あれ、これって受領制限とかないの?レベルみたいなの」
制限時間付きのお使いの依頼や薬草の採取など初心者用のものから子鬼の群れ退治、という、今のレベルでは明らかに無理なものまで含まれている。
「はい、選択は出来るんすけど、受諾が出来ないんすね。受付で、貴方にはこのクエストは危険すぎます、って言われて弾かれるんす。ちょっと無理したら行けるかな?いけないかな?ってラインは注意掛けされる程度らしいですけど。そこら辺の判断基準は謎につつまれてますね」
冗談交じりに言うワルクに促されるように受付を見るが、受付の女性は相変わらず書類に向き合っている。前髪で顔は見えないが美人さんの予感がする。
「あと、駄目だって言ってるのに何度も危険な依頼受けようとしたらだんだん怖くなっていくみたいすよ。したことないんでわかんないんすけど」
一部のファンが喜んでやってるみたいすね。と無駄な情報を聞きながらも、じゃあこれ、と選んだ薬草採取の依頼を選択し、受付の女性に声を掛ける。話しかけてからコルタクがまだギルドに登録してないことに気付き先に、そちらの手続きをお願いする。
「すみません、ギルドに登録したいのですが」
「あ、はい、少々お待ちください」
とポイントカードを作るようなノリで話しかけると、女性は肩にかかっていた髪を耳にかけると書類を横によける。
「初めて…ですよね?えっと依頼の受け方は、あらご存じみたいですね。ではそちらの説明は省かせていただいていいでしょうか?
…あの、どうかしましたか?」
「コルさん、どうしたんですか?」
不思議そうに二人に顔を覗かれるが、コルタクは動かない。心なしか顔の色が褪せているように見える。
息が止まるような美人に困ったように微笑まれながらなんとか口を動かす。
「…斉藤さん…?」
「あ、はい受付のサイトウです。あれ、以前お会いしたこと、ございましたか?」
そこまで言葉を聞き、ふと気づく。ここはゲームだ。そしてゲームのクエストシステムを担っているギルドの職員だというこのキャラクターは、
「NPCの方ですよね…?」
「そうですね、プレイヤーの方を違ってAIで行動しています。言動に不自然な点ございましたか?」
流暢に会話をし、鮮やかな景色に囲まれていることで忘れがちだが、これはゲームなのだ。現実の住人である、それも多忙なはずの―勤務時間中に上司とゲームに精を出していたとしても多忙なはずの―社長秘書の斉藤さんが、ギルド職員なんてしているはずもなく、よくよく見ると、斉藤さんとは別人だ、髪型も違う、眼鏡もかけていない、体型もスリム、髪の色は透き通るような白色はしていない。
似通っているのは、目の形が少し釣り目になっていることくらいだろうか。
心の中で完全論破し、むしろ、なぜ錯覚したのだろう。と首をかしげコレタク安堵の息を吐く。
「そうだよね、第一、斉藤さんはもっと…」
安堵の息も吐ききらない内に漏らしかけた言葉に、騒がしくないとはいえそれでも誰彼の声が止まなかったギルド内の音が、音という音が全て消え失せた。
まるで時が止まったかのような無感情な寒気に、かくはずもない冷や汗が、立つはずもない鳥肌が、それでも感覚だけが体を覆う。
誰もがコルタクを見ていた、というより誰もがコルタクとサイトウを見ていた。
熱気のようにうねる事もなく寒さのように刺す事もない、温度も色も分からない、五感全てが感じ取ることを拒否しようとする異様な空間の中、漸くコルタクが喉を鳴らすと、サイトウは小さく、陽気な風に
「ふふっ」
彼女はと笑みをこぼした。
「何か、おっしゃいましたか、コルタクさん?」
恐怖に染まりながら直感した。何か言わないと何かをされる、下手な答えを返しても何かをされる。何かは分からない何かを。確信したコルタクは素っ空になった気合を捻り出し、声を絞り出した。
「何も、言ってないですよ、登録、お願いします」
若干しどろもどろに返した言葉。未曾有の危機に瀕した脳が超速稼働して出した答えを、果たして彼女は「合格」と判断したらしい。世界に色が戻り、肺は急速に空気を求めだした。
「はい、でしたら此方に手を当てて下さい。この水晶板から生体情報を読み取りますので」
誰もが小さく息を吐く中、どうにか生存したコルタクは真白になりながらも無事にギルド登録、薬草採取依頼の受領を完了した。
自分や周りの行動は全く覚えていないが、サイトウの説明だけは脳裏にこびり付いていた、一字一句一挙一動に至るまで再現できそうなほどに。
恐怖とは生物を進化させる最たる要素であることをコレタクは今日ここに確信した。
ーーーチラ裏設定2ーーー
恒例にしていきたいチラ裏設定
この物語の中のAI=人工知能は人間と全く違和感なく会話し、行動プログラムを発せます。
人型ロボットなどの現実世界での実用はまだ機体がその指示に追いつくことは出来ませんがデータとして流せるCGやVRでは確実に実装できます。
ここでのAIというのは特定の人物の行動、心理を脳波として解析し適応する事で優先度や行動を決めています。
一か月程脳波を観測すれば、大体その人物のような行動が起こせます。ある意味では怖いかもしれないですが、所詮はデータと本人は別物。本人は進歩していきますが、データはすり減っていきます。
初期データの改変は行われない(それをすると全てのAIが誰にも当たり障りのない似通った人格になってしまうからという設定)ので、「何か不自然な点はry」とサイトウさんは言ってますが、指摘されたとしても直す気はありません。ベースの人物がそういうことを言うんじゃないだろうかと思っての行動です。そう訊いてみただけです。
それにしても彼女、どんな人がベースになったんでしょうかね。