ブラッディ・ケーキ
ブラックジョークや流血表現が苦手な方は観覧注意して下さい。
満月の夜の日。買い物から帰り、家で一息ついていたリュックに悲劇は起こった。
「リューックっ!」
ロゼは椅子に座って新聞を読んでいるリュックにっこりと笑いかける。
「なんだ?」
リュックはたいして気にも止めず、新聞を読み続けている。そんなリュックの視界に入らない所で、ロゼは途端に愛らしい笑みを消し、少女とは思えないような不気味な笑みを見せる。
「私のケーキ食べただろ!!」
「うわっ!?」
ロゼは背中に隠していた包丁をリュックに向かって振り下ろす。リュックは間一髪の所でかわした。吸血鬼でなかったら死んでいたかもしれない。
「何すんだよ、危ねぇだろうが!」
「私のケーキ!食べたのか!?」
ロゼの瞳には殺意が浮き上がっている。吸血鬼とはいえ普通、友達に殺意丸出しにしたりしない。
「あぁ!?食ってねぇよそんな甘ったるいもん」
「じゃあどこだ!?」
再び包丁を振り下ろす。リュックはそれを上手くかわしながら一定の距離を保つ。
「知らねぇっての!とりあえず包丁を置け!死ぬ!」
「死ぬか阿呆目が!」
「だれが阿呆だ!いいから包丁を置け!」
「………」
とりあえず素直にロゼは机に包丁を置く……というよりぶっ刺した。素直ではなかった。
「そんなに警戒しなくても」
「お前殺意あったぞ、元殺人鬼の俺が言うんだ、保証する」
「…そんなこと無いわよ、見間違いよ」
「…………どうだか」
はあとリュックは溜息をついた。頭が酷く痛い。
*****
「とりあえず言っておこう、俺は食べてない」
リュックはお茶の入ったカップを片手にそう断言する。それは本当のことだからそうとしか言いようがない。訴えるリュックの話をロゼは聞いているのか、聞いていないのか、クッキーを食べながらお気に入りのぬいぐるみをいじっている。
「あ、クマさん新しいお洋服が必要ね、今度作ってあげる」
「…お前、聞いてるのか?」
「聞いてるよ。そうね、あなたからは血の臭いしかしないからそうなのだろうね」
では何故、先程怒り狂って襲ってきたのだろうとリュックは思ったが、聞いた所でまともな答えは返ってこないのでやめた。ロゼは二重人格の呪いで二つ人格があるので、片方に聞いても分からないことの方が多いのだ。
「兎も角…俺たち以外に犯人がいるってこった」
「あら大変、泥棒は捕まえなくちゃね」
「あー、いってらっしゃい」
リュックは新聞とカップを手にソファに座り直した。
「リュックも行くんだよ?」
「あ?俺もか?」
露骨に嫌そうな顔をするリュックを気にせず、ロゼは続ける。
「当たり前よ、私一人で泥棒を捜せるわけないでしょ?」
「ったく、めんどくさい……」
リュックは重い腰を浮かせ、立ち上がる。
「飯の支度もあんだから、あまり遠くへは行けないからな」
「分かってるよ」
ロゼは先程机に刺した包丁を抜き取ると、スカートの中に仕舞い込んだ。