上杉志信の扱いは
第9話
ゲーム主人公の扱いと、主人公のクラスの誰かのお話。
決意で固めた心が早くも折れそうです。
あの後主人公を振り切った私は、特能持ちだということをバレるように仕向けた。はずなんだけどなあ。
詳しく言うと、主人公が私に同行を断られて1人で生徒会室に向かった後、自分を周囲の景色と同化させ、生徒会室内を覗き見して主人公が生徒会室から出ていくのを確認し、生徒会室に飛んだ。張ってあった防御結界を破った時に少しバチッときて、痛かった。くそう、これ張った奴覚えてろ!
あ、同化とか飛んだとかは特能です、はい。
実は私、眼操の他に後2個ほど特能を持っているのだ。
周りの景色と同化させているように見せる特能と、眼で見て確認できる範囲に瞬間移動できる特能。名前は、恐らく「色操」と「移操」。きちんと確認したことがないので分からないが。
後者は私が眼操を持っているから、最大20km程度は一気に進むことができる。ちょっと、いや、かなり便利。
たぶんバレたら化け物扱いされると思うけど、死亡フラグ遺棄のためにはストーリーをかえなきゃいけないからな。仕方ない仕方ない。ていうかそろそろ寂し、いや何でもないです。
まあとにかく、個人的にはすーごくコントロールをゆるくして生徒会室内に入ったのに、誰も気が付かないってどういう事ですかね。生徒会がそんなんでどうする。
「どう思います?」
「上杉志信、か?」
「それ以外に誰がいるんです?あなたの頭は湧いているんですか?」
「いや湧いてねぇよ!」
「「「え!?」」」
「え!?」
漫才でもやってんですかあんたらは。面白すぎでしょう。出て行きそびれたじゃないか。
ちなみに会長の言葉に驚いたのは副会長と会計と監査である。監査にまで驚かれると思っていなかったのか、会長はちょっと涙目です。指差して笑っていいですかね?あ、だめ?はーい、自重しまーす。
「会長、元気出してください!」
「疾風…!」
「人生、そんなことだらけですから…」
「疾風……」
何かを悟ったような目をして言った書記に、会長はご同情なされた模様です。男二人で肩組んで泣き真似をし始めました。
あれだね、腐の付く方々が見たら狂喜乱舞して喜びそうな画だね。私的には気持ち悪いから止めてほしい。お前らがやっても可愛くねぇんだよ!
「二人とも何やっているんですか気持ち悪い」
「ずっちーもりょーちゃんもキモーい!」
副会長は私の意見に賛同のようです。会計はあれだ。単にからかいたいだけだ。
そしてますますダメージを受ける会長と書記。ざまあみやがれ!私の目を汚した罰だ!
「とにかく、上杉さんは違うみたいだね」
「あぁ、そのようだ。それに、昨日少し会ったくらいじゃ分からなかったんが、相当特能が強い。あれは癒操か?」
「うん、そうだと思うー。まだまだコントロールは出来てないみたいだけどねー」
「後天性というだけで珍しいのに、あそこまで強いとは…」
「早々に訓練してあのオーラをしまわせないと、狂っちゃうヤツが出るんじゃないんスかね」
「あぁ、あれもだが、香りもだいぶキツかった。一応特別に訓練を受けさせることになっているはずだが、それまで持つかどうか、だなあ」
あぁ、やっぱりふざけていても生徒会なんだな、と思う。監査の一言で緩んでいた空気が一気に引き締まった。あの会長ですら真面目な顔をしている。
それに、今まで黙ってた顧問が意見を言った。しかもまともな意見。いやただの疑問だけど。
ちなみに、これの答えは、持たない、だ。
一週間後くらいに一般人の男子生徒が主人公に対して暴行を働こうとする。他の特能持ちの活躍で未遂に終わるけど、これによって一気に彼女への注目度が高まる。一般人を狂わせるほどの特能持ちなんて滅多にいないからね。
そして、そこで選択肢を間違えると一気にバットエンド行き。一般人からしたら、その人のせいで自分が狂わされるかもしれないんだ。やりたくもないことをやってしまうかもしれないし、やらされてしまうかもしれない。そんな危険人物を放っておくわけにはいかない、という感じで死亡フラグがびんびんに立つ。もっともここで立った死亡フラグが回収されるのはたいてい後半になってからだが。
実際、ゲームでもその暴行未遂犯の男子の保護者からも抗議が来ていたとチラッと出てきた。主人公が特能をコントロールできないのが悪いのに、なんでうちの息子が退学にならくちゃいけないんだ、というわけだと思う。
「とりあえず監視体制に置いておきましょう。僕らが直接見てもいいですが、どうでしょう」
ルートの分岐点だ。今までの好感度によって監視する人が決まる。さてはて、どうなるかなー?
「風紀委員に任せてもいいが…俺たちがやった方が確実だろうな。癒操なら特能が暴走してもあまり困らないだろうが、あれだけ強いと風紀に任せるには不安が残る。そうだな、誰かやりたい奴はいるか?」
「んー…僕はいいやー。あの子、あんまり面白くなさそうー」
「オレは面白いってことなのかなー、それ。…オレも別にいいッス。ちょっと興味はあるけど、わざわざずっと見てるほどはないんで」
「当たり前じゃん!ずっちーは最高のオモチャだよ!」
「それは喜ぶべきか悲しむべきか悩むところだね…」
「僕も別にいいですね。今はこっちの仕事が忙しいので」
そう言いながら手に持っている書類をぴらぴらさせる副会長。確かに役員の机の上には書類が山のように積んである。お疲れ様です。南無。
そしてスルーされ続けている書記は沈んでおります。いい加減慣れろよ。打たれ弱い奴だな。
あと返事をしていないのは監査と顧問だけ。会長は質問した時点で違う。
「あぁ、俺がやるよ。俺にはあまり仕事、ないからね」
…監査か。まぁ昨日の時点で一番好感度上がってそうだったから、正直そうだろうな、とは思ったけど。顧問はどう出るかな?
ここで一番好感度が高いキャラが複数いた場合、修羅場展開になるらしいのだ。設定集に載ってた、気がする。
「すまんな、知尋。俺のクラスの方に申請していない特能持ちがいるかもしれないから、俺は今はそっちを見とくわ。」
修羅場展開にならなかった。
主人公が正しい選択肢を選んだっていっても、選択肢は最初のイベントで既に2、3個出てくるのだ。キャラによっては正しい選択肢が複数ある場合もあるしな。好感度にはどうしても初っ端から差が出てくる。
って……は!?おいこら顧問、今なんつった!?
知らない、こんなのゲームにない。いや、単純に出てなかっただけっていう可能性もあるけど、でも主人公と同じような奴がいたら確実に主人公と接点ができるはずだし。
しかも顧問のクラスって言ったら私のクラス、B組じゃないか。もしかして私か?
いや、それはない。顧問の前でばれるようなことはしていないはず。
しかもしかも、今の役員たちは、生徒会室を窺っていた特能持ちを探している最中。それは私だけど。主人公がそうじゃないと分かったから、また犯人捜しを再開させるはず。
つまり、1年B組に生徒会が関心を持つという事。
不味い。相当不味い…のか?いや、不味くないんじゃないか?だって私、バラそうとしてたじゃん。自分から生徒会と接点を持とうとしてたじゃん。あれ?もしかして、問題ない?
「ほぅ…。それ、誰なんです?」
「今は言えない。確証が得られないからな」
「えー、らいさんのけちー!」
「じゃあ、どんな特能か分かりますか?」
「けちって…。まだどんな特能かは分からんが、もしそいつが特能持ちだとしたら相当コントロールが強いことになる。上杉に比べて緊急性は低いな」
「物理系の特能なら、コントロールが強いってことは逆に至急対応するべきじゃないのか?」
「そうだな…。あまり物理系の特能持ちにも、進んで特能を使うヤツにも見えなかったが…」
「やっぱりここは俺らも行った方がいいんじゃないッスかー?」
「いや、それはいい。俺のクラスの生徒をさっきの上杉みたいな扱いしてほしくないしな」
「あれはしずセンパイが悪いんだよー。ムダに威嚇するからー」
「む、失礼ですね。あんなの怖がっているようじゃこの学園じゃ生き残れませんよ」
「いや生き残るも何も死なねえよ」
まあ確かにあれは酷かった。副会長が睨むせいで主人公は少し震えていた。可哀想に。別に思ってないけど。
あ、しずセンパイっていうのは会計の、副会長の呼び方ね。名前が静だから、しず。
しかし本当に誰だろう。顧問の言では大人しそうな人、地味めな人、内気な人、真面目な人というイメージが強いな。
まだ不確かなクラスの面々を思い浮かべてみる。
あの人か?いや、雰囲気はそれっぽいけど匂いはしなかった。あの人か?いや、あの人は初等部からいるらしいから、申請されている。うーん、分からん!お手上げだ畜生め。私は他の特能持ちにあまり会ったことがなかったんだ。分かるかこの野郎。
うん、先生を観察しておこう。そしたら分かるだろ。私ったら天才!
…調子乗りました。反省してます、はい。嘘だけど。
「ねー、ていほーセンセはどうしてその人が特能持ちかもしれないって思ったんスか?」
「ん?あぁ、一瞬だけ、微かにそいつから匂いがしたんだ。」
「へぇ、それはそれは。そんなに隠すのが上手いなら、僕らが捜している人かもしれませんね」
「あー、昨日の放課後、ここを覗かれてたんだっけか?」
「ええ、その通りです。昨日気付いてすぐに手分けして校内を探したのですが、見つかりませんでした」
「逃げ足が速いのか、そもそも校内にいなかったのか、だね」
「まったく、なめ腐った真似してくれやがる。見つけたらぜってぇ一発殴ってやる」
「掠センパイ、女の子だったら殴っちゃダメッスよー?」
「わー、りょーちゃんサイテー。野蛮ー」
「動矢、お前の言葉はもう聞かねえ!」
「掠…ごめん、少しダサい」
「知尋!?お前まで酷くないか、なあ!?」
会長はすっかりいじられキャラで定着したようです。楽しそうだね、君たち。
お姉さんはもうそろそろお昼休みが終わるので行かなくちゃいけませんが。
人のいない場所を探して飛んで、同化を解いた。そこでふと気が付く。同化、生徒会室で解いてたらちゃんとばれてたんじゃ…。
いや、過ぎたことを思っても仕方ない。うん、あんなにコントロール緩くしたのにばれなかったのは生徒会の能力が低かったか別のことに集中してたんだ。実際、話し合いながら書類作業やってたし。次があるさ!
とはいえ、冷静になって考えると流石にいきなりバラすのは不味い気がする。
しかしとなるとストーリーの変え方が分からない。え?私が生徒会を攻略する?論外だし。あれは主人公のキャラだから許されるんであって、私ごときがやろうなんてそんな、ねえ?
本音を言えば主人公の真似とか断固拒否。キモすぎで吐き気がするレベルだね。
うーん、とりあえず生徒会の観察を続けるか。あと主人公も。あとは、それっぽいクラスメイトも、かな?何があるかは分からないし。顧問を特に注意して観察するか。
そんなことを考えている内に教室に着いた。危なかった、あと2分で授業が始まるところだったよ。
「今日はごめんね!ギリギリだけど、大丈夫だった?」
「ううん、気にしないで。それに、面白いモノも見れたし」
「面白いモノって?」
「今度機会があったら見せるよ」
話しかけてきたのは、歩ちゃんだった。
含み笑いをしながら生徒会室での漫才を話したら食いつかれたので、機会があればと言っておく。
私が今日菖蒲園で一人寂しくお昼を食べようとして主人公に捕まったのは、歩ちゃんに彼氏と食べるから、と一緒に食べるのを断られたからなのだ。それはもう申し訳なさそうに。正直彼氏が憎すぎるが、歩ちゃんの手前気にしないと言っておいた。
少し話しただけで授業が始まってしまった。歩ちゃんとの時間が足りないよ畜生!
授業中は、生徒会は授業には出ていないみたいだし、生徒会室と主人公のいる1年A 組と顧問の準備室を一緒に見ていた。
主人公は真面目に授業受けてるみたいだし、顧問の方も特に面白いことはなかった。
生徒会の方はみんなまじめに仕事してたし、休憩がてらかは知らないが時々していた会話は面白かったけど、正直進展はなかった。
とりあえず私はバッドエンド回避の方法を考えようと思います。
あーあ、つまんない!
無意識でできることでも故意にしようとするとうまくいかないよね、というお話でもあったり。
主人公が前に見つかったのは意識せずに特能を使ったから。
今回見つからなかったのは意識して使ったから。