お断り―書記―
短くなってしまいました…!甘くならない不思議(´・ω・`)
「まぁいいやー…ね、安土さん、オレと踊ってくれない?」
爆弾が落ちてきた。
特大というわけではないけれど、そこそこ大きな爆弾。
まぁ意図は分かっているから、どうというわけでもないけど。
「謹んでお断りさせていただきます」
もちろんお断り一択です。
「あははー、だよねー」
笑いながらあっさりとお断りを受け入れる書記。
私の性格をよくお分かりのようで、お姉さん嬉しいです。書記の方が先輩だけど。
精神年齢的には年上…なのかな。
前世で何歳に死んだのかはよく覚えてないんだけど、働いてた記憶はあるから二十歳は超えてたと思う。
ってことは年上か。流石に2〇+15とか3〇+15なんてことはしないし、今の私の精神年齢はせいぜい19とか20くらいだと思う。
個人的な持論だが、精神年齢って生きた年数をそのまま足せばいいってもんでもないと思うんだ。
「当たり前です。上杉さんとかに頼んでください」
「やー、オレも最初はそうしようと思ったんだけどねー。あそこから引っ張り出すのはちょっとっていうか、ねー」
前を向いたまま話す私に、書記は指で主人公のいる方向を示す。
その喋り方、女子っぽくてうざいです。察せってか。
それに、わざわざ教えてくれなくても知ってるんだな、これが。言わないけど。
そこで何が起こっていたのかというと――逆ハーが起こっていました。
や、まぁ見た目だけみたいだけどね。
主人公の周りには会長と副会長と顧問がいた。会計と監査はどうやら見回りの時間みたいだ。
何を話しているのかというと、実にくだらない。
「試食の時も思ったが、これ、美味いな」
「ですね…カフェテリアの方に話を通して、メニューに加えてもらいますか」
「あっ、こっちも美味しいですよー!」
「ほぅ、どれどれ…お、いけるな」
4人してあれが美味いこれが美味いと品評会を開いていました。
当たり前だろうが!不味いのをわざわざ並べる訳無いだろうが!と思わなくもないが、私も先ほど似たようなアクションを取っていたので何も言えない。ちっ。
あちこちでこれ美味しい、あれも美味しいという声が上がっているみたいだ。参加者にアンケートでも取って、一番人気があったものを学食か寮の食堂に加えてもらうよう後で進言しておこう。
少なくともパーティ中に言わないと間に合わないよね。忘れないようにしないと。
「あー…水地先輩、多分連れ出しても大丈夫ですよ」
とりあえず書記にGOサインを出してやる。書記のお相手は私じゃ不十分だし、そもそもやりたくないし。
くだらないと言うか何と言うか、会話の中身を知るといい雰囲気とは言えない4人を見てほぅ…とため息を付いているお姉さま方は多い。
皆に見守られて歓談している美男美女から美女だけを引き抜くのは確かに勇気がいるかもしれないが、本人たちは気にしないだろうし問題なしだな。
「んー…オレはどっちかって言うと意図を汲んでくれる安土さんのがやりやすいんだけどなー」
そんなこと分かってて主人公を勧めてるに決まってるじゃないですかやだー。
どうせファンの女の子たちとワルツが流れている間ずっと踊り続けるのは辛いから、私と最初に踊って牽制しておこうって言うんでしょう?
書記のファンの子たちは、書記が強く拒否しないしチャラいのもあって肉食な女子が多い。恐らくダンスの時間中女の子に追い掛け回されることになるだろう。
それを拒否したいのはわかるが、利用されるなんてごめんだ。利用の意図がなくても嫌だけど。
それに、きっと私ごときじゃ牽制なんて勤まらないと思うんだよね。なにせ肉食女子だし。
会長のファンも肉食だけど、あっちは毛色が若干違くて、こういう場ではそこまででもないのだ。
生徒会に入るだけなら、まだいい。だがしかし。だがしかし、だ。
攻略キャラとの最初のダンスを踊るだなんて、ただの特別扱いされてますよアピールじゃないか。
ただでさえ、多分、反感買ってるのに…これ以上注目を集めて学校生活が送りづらくなるのは嫌です。絶対に。
「私が先輩の意図を汲めるように、先輩だって私が断る理由は分かっているでしょう?」
「あははー、まぁねー。じゃ、貸し一つってことで…ダメかな?」
小首を傾げ、困ったような微笑みを浮かべて頼んでくる書記。
はぁ、と一つため息をついて書記の方に顔を向けて、一言。
「嫌です」
そのまま顔を背けて別のところへ歩いていく。
冷たいと思われようが、これでいい。これくらい一人で乗り越えられないようじゃ、いい男になんてなれないよ?
それにしても、あそこ、いい感じに人目のない穴場だったんだけどなぁ…。
次は誰のターンかなーっと…
誰のターンでもまだあまり甘くならないですが…!




