比較対象
遅くなって申し訳ありません、お待たせしました!
前回初登場の彼視点です。
もうすぐ新入生歓迎会という名のお祭り騒ぎ、もといお茶会があるので、委員会に属しているほとんどの生徒は今の時期は忙しい。
斯く言う俺も風紀委員長という立場故に、こうして準備の進行を見守るために見張りに駆り出されているわけだが。
生徒同士の間にトラブルがあれば仲裁し、生徒会がいない場合はその代役を請け負う。お祭りごとがある時の風紀委員の役割なんてこんなもんだ。
じゃあ普段はどうなのかというと、普通の学校とあまり変わらないと思う。時々抜き打ちで服装チェックをし、登校指導を行う。喧嘩が起これば駆けつけて収める。
多少権限は強めだが、いたって普通だ。
ふと入口の方を見ると、生徒会に入ったばかりの後輩たちが来たところだった。
「よ、遅かったな」
「あ、こんにちは、篠崎先輩。先輩方は早いんですね」
片手を上げて声をかけると、美少女と形容できる女子生徒に引っ付かれた、大人しめな後輩がこっちに気がついたように挨拶を返してきた。
相変わらず仲がいいようだ。ついつい視線が生暖かくなってしまうのは仕方がないだろう。
「あぁ、先生たちもそろそろ牡丹祭の準備で忙しいからな。HRは短いんだよ。お前らのクラスは雷先生だろ?早く終わんねぇのか?」
「あー…あの先生、何故か話長いんですよねー…。いい先生なんですけど、そこだけはなぁ…。あ、内緒ですよ?」
「はいはい、分かってるって」
牡丹祭は生徒会が主催だが、先生にも役割は振られている。サポート役ばかりだが、忙しいことに変わりはないようだ。
それなのに生徒会顧問の雷先生のHRが長いのはどういう訳だろうか。
…考えても分からんことか。
この学園で行われるお祭りごともとい行事は、全て生徒会主催だ。しかも学園に通っているヤツには金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんが多く、その保護者が見に来る行事も多いため、下手に手も抜けない。
特にこの2人は、この牡丹祭で生徒会にふさわしいかどうか見極められるだろうな。入ったばかりだろうが、頑張れよ、後輩。
「どうだ、あいつらの様子は」
生暖かく割り当てられた場所へ向かう後輩ズを眺めていれば、雷先生に尋ねられる。
どうって言われても、なぁ。
「んー、上杉ちゃんはともかく、安土はそこそこ上手くやってんじゃないですかね?」
頭を掻きながら答える。
後輩ズのいる方へ目をやると、上杉は時折安土の方に視線をやりつつも聞かれたことにはちゃんと答えているようだ。ただ、自分からは指示は出していない。上に立つことに慣れていないのか。
この先ちゃんと慣れてくれればいいんだが。
まぁ俺には関係ないかと意識を切り替え、もう一人の後輩の方に視線をやる。
どうやら此方は何かトラブルがあったようだが、見る限り冷静に対応している。その間も周囲に指示を飛ばしていて、気を配ってんのが分かる。こっちは放っておいても良さそうだな。
一体どこで習ったんだか、と思う采配っぷりだと一つ下の後輩が言っていたのを思い出した。頼もしいのはこっちとしては助かるから、大歓迎だがな。
「あー…やっぱ、問題は上杉か…」
「ここが普通の学校ならあれでも問題ないと思いますよ?」
ここが特殊な学校だから、問題なんだろうが。今のところは大丈夫だろうし、急いで対処する問題でもなさそうだ。
安土の方をちょくちょく伺っているようだし、それを見て真似できれば上々だろう。
「にしても、上杉の特訓の方はどうなってんすか?」
あいも変わらずダダ漏れな気がして、つい尋ねてしまう。
持ってるのが癒操で良かったな、嫌マジで。
少し特殊な特能だが、もしあいつの持っている特能が物理系―炎操や移操などだ―だったりすると、このまま制御が効かない状態だと下手したら監禁される可能性もあるからな。
それに、特殊で希少な特能だがこの学園にはもう一人の使い手である直江先生もいるし。
「あー…正直、あんまり進歩は見えねぇんだよなぁ…」
「あ、やっぱりっすか…」
「おぅ…直江によく愚痴られる」
「ははっ、先生方も大変ですねー」
「まぁ、な……それが楽しくもあるんだが」
「おぉ、ご立派ですねー…じゃあ、安土ちゃんの方はどうなんです?こっちは心配いらなそうですけど」
多少皮肉っぽく雷先生のクサい発言を流し、安土の方の様子を聞く。
事前に知らされていなければ――いや、四月の頭に校内に充満した強い香りを嗅がなければ、そうと分からなかったほど安土は特能の制御がうまい。
恐らく初等部からいる奴らの大半よりも。
だからこそ、心配なんだけどな。
校内中に充満するほどの香りだぞ?どんだけ強いんだよって話だ。それを、ないと同じようにみせてしまうその制御の上手さも含めて、いつかパッと壊れてしまいそうな危うさがある。
…まぁ、本人を前にすると大丈夫かと思ってしまうんだが。
相当図太いし。
「あいつは平気だな。最近は気絶した時のコントロールも上手くなってきてる。多分無意識だろうが、な」
「へぇ…それはまた…すごいですね」
初等部からいる、普通の特能持ちは入学当初から制御の仕方を教えられ、無意識のうちに制御する。
それを今からやるのは相当大変だと思うが…まぁ安土だし。
何故か安土だからという理由で出来ても当然だと思ってしまう。図太いし要領いいし立ち回りうまいし、割と何でも出来そうなイメージだ。
「でも、困りますよね。どうしても比べちゃいますし」
「あ?何がだ?」
「上杉と安土ちゃんですよー」
同い年で、高入生で、後天性の特能持ちで、どちらも特能が強い。
それなのに、あの差だ。まぁ本人たちは気にしてないようだから良いと思うが、後々苦しむことになるかもしれないな。
「…そればっかりは、なぁ…。長所のベクトルが違うから、比べようもないはずなんだが…」
「ま、お互い補い合えるよう成長したらいいですねー」
それはそれで一歩間違えたら依存になりそうだけどな。
…あぁ、もうしてるのか?
「篠崎……お前、随分親父臭いのな…」
…ほっとけ畜生。
俺だって今の発言は正直ないと思うけどな!
全然色っぽくないよ!
早くいちゃこらさせたい!
…でも主人公は…なぁ……。




