嫌いの訳は―顧問・副会長・監査―
大変長らくお待たせしました…!待ってくださっていた方々、ありがとうございます!
「本日付で生徒会に入ることになりました、安土美穂です。上杉さん共々皆さんのお役にたてるよう精一杯頑張りますので、よろしくお願い致します」
壇上で上杉志信と並んで一気に言い、お辞儀をするとぱらぱらと拍手が起こった。
思ったよりも反発は少なかったみたいだ。ブーイングも起こらなかったし。それもこれも会長の細かい根回しとあれから何度か行かされた外回りのお陰かな。会長には少しだけ感謝してあげよう。ほんの少しだけ。
生徒会役員に用意された席に座り、最後の〆という形で話し始めた校長の話を真面目に聞くふりをして聞き流す。
あれから2週間近くが流れ、私と主人公が正式に生徒会役員入りする日がやってきた。今は生徒総会の時間で、無駄に広い体育館に高等部の全生徒が集まって校長の無駄に長い話を聞いている。やはり国と言うのは無駄な物が好きなようだ。ここ、一応国の施設だし。校長も国のお役人ってことだし。
表向きは私立なんだけどねー。
歩ちゃんを筆頭とした元クラスメイト達は、私の生徒会入りを止めようとしてくれたみたいだったが…上杉志信や書記が何か言った途端に意見を180度変え、生徒会入りを推してくるようになった。
あいつらが何を言ったのかって?ふふ、体育祭でチアガールなんていう言葉は聞こえなかった。文化祭でメイド服なんていう言葉も聞こえなかった。
絶対にチアガールの格好なんてしないから!メイド服?論外だね!
多分あの人たちは、私がA組に移るというのがどういう事か分かっていない。今までは同じクラスだったから毎授業一緒だったけど、これからは授業中はもちろん休み時間も自分から会いに行かなければ会えないのだ。
仮にも私をアイドル視しているなら、少し考えが足らなすぎじゃあないだろうか。アイドル視されるのは嬉しくないのだけれど。
私はこれからあまり歩ちゃんに会えないかと思うと絶望のあまり勉学に励むしかなくなりそうだというのに。嘘だけど。だって歩ちゃん何か変わっちゃったし。可愛いし好いてくれるのは嬉しいんだけどね!可愛いし!今でも大好きだよ!
3年の先輩方には、もう少し上杉志信に優しくしてやれと言われてしまった。同じ生徒会で働くわけだし、彼女がめげないし暗くならないから助かっているけど空気が悪くなるのは勘弁だとか。
同様に上杉志信の方にも注意をしたようだ。もう少し控えめに接すれば、私の態度も和らぐはずだとかなんとか言っていた。私がその場にいたわけじゃないけど。
確かに彼らの言う事はもっともだし、適度に接していればその内飽きて離れて行ってくれるだろうかと思い、それ以来少しだけ態度を和らげて接している。のだが。
未だに引っ付いたままなのは何故だろうか。彼女、私以外にも友達いるはずだよね。主に親友とか親友とか親友とか。
特訓の方は、私の特能の限界は分かった。これから更に伸ばしていくそうだけど。あと、コントロールも上手くなった…と自分では思う。
熟睡している間の匂いの制御は――まだまだ先が長そうだとだけ言っておく。望みが薄いとかそんなことはない。今はまだ試行錯誤段階なだけだ。
ほら、まだ一月も経っていないわけだし。希望を持つことは大事だよね。
先生も、特能を使いすぎたりしなきゃ熟睡することはないんだから大丈夫だと言っていたし。うん?それ大丈夫じゃないって?いやいや、そんなことはない。まだ先は長いんだ。それに、そこまで使い切ることも少ないだろう。短期間で2回使いすぎで倒れたヤツが言ってみる。大丈夫だと信じたいな。
具体的にどんな特訓をしているのか?――こういう平和な時まで思い出させないでください。お願いします。あの人あんな優男風な顔して鬼畜なんだもん。毎日ひたすら倒れるまで単調作業ってキツいんだぜ。
「安土」
そんなことを考えていたら、斜め前の方に座っていた雷先生が此方を向いて笑顔で私を呼んできた。
…え、なんでそんなイイ笑顔なんですか。まさかこんな所で特能使ったんですか。
「はい、なんでしょうか?」
同じく小声で平然と返しておく。ここで怯えた素振りを見せるなんて論外だ。
「お前、今何考えた?」
「え、今…ですか?」
「あぁ、怒らないから言ってみろ」
「…先生の有難いご指導のお陰で短期間で成長できたなぁと考えておりました」
黒い笑顔で聞いてきた先生に、にっこりと返す。きっと今の私の表情は先生と同じなんだろうが、そんなことはどうでもいい。
ここで仮に鬼畜と思ってたと勘付かれたとしたら、それはフラグへの第一歩だ。普段と違う素振りなんて見せちゃいけない。というか純粋に怖い。gkbrである。
「ちっ…まぁいい、ちゃんと聞いてろよ」
先生はそう舌打ちして前を向いてくれたが――校長の話を聞いてなかったのはあなたも同じですからね?
***
「美穂ちゃーん!」
「ぐぇっ」
学校集会が終わり、私のA組への移動も無事終わって生徒会室へ行った早々、上杉志信が抱き着いてきた。
重いです離れてくださいいやまじで。貴女のせいで変な声が出ちゃったじゃないですか畜生。
「あ、ご、ごめんね…?」
「いや、別にいいけど…。何か用?」
多少態度を和らげたと言ってもこの程度です、えぇはい。とはいえ以前の私なら平気とだけ言って後は無視していただろうから、大きな進歩である。進歩とも思いたくないけど。
顔は可愛いから、懐かれて嬉しくないわけじゃないんだけどね…これが「懐く」という程度で済むなら、ねぇ。
「ううんっ、何でもないの!おんなじクラスになれたのが嬉しくって!」
「…A組に行った時も同じ理由で抱きつかれたような気がするんだけど、気のせい?」
「あー……き、気のせいじゃないかなっ!」
目を逸らして言われても説得力とか皆無ですよ。とか思っても言わない。言いたいけど。
そう、本日付けで私安土美穂はB組からA組へ移動したのだ。これでクラスメイトの鬱陶しい視線から開放されたが、思ったより喜べなかった。というより寂しい。
学校が離れたわけでもないのに、何でまた…とか、アイドル視は嫌だったんじゃないのかとか、自分でも思ったが、私は案外あのクラスを気に入っていたらしい。歩ちゃん大好きだしね!他の子も悪い子じゃなかった。アイドル視されたのは勘弁だったが、実際に何かされたということはなく、ただ私の言動にクラス全員が一喜一憂していただけというか。それが若干アレだったんだが、私はいつの間にか慣れて、そして許容していたらしい。
そして何より、A組には私に友好的な人が少なそうだ。それはそうだろう。BからAへの移動は滅多にないことらしいし、私が移動したのはまだ入学して1ヶ月、中間さえ行っていないのだ。学力なんて分かるもんじゃないという考えの人が多いだろう。私もそうだし。
しかもA組というのは特能持ちがほとんどなので、メンツはほとんど変化がない。そんな中に、入学して1ヶ月で│あの《・・》生徒会に入った私が移動してくるのだ。歓迎しろという方が無茶だろう。
…何人かは私に異様に好意的だったけれど。もしかすると私の匂いでも嗅いだか?そうでなければ理由が思い浮かばない。
「――づちさん、安土さん、大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です」
すいません思考の波に飲まれて全く聞いてませんでした。なんて言えないよね。嘘だけど。
話しかけてきたのは監査だった。
「そう?それならいいけど…ぼーっとしていたから」
少し心配そうに言われる。もっとも、少しばかり考え事をしていただけなので無用な心配とも言えるが。
それに私はちゃんと聞きながら考え事してたから。うん、無用なフラグを立てずに済んだ気がする。流石私。
始まるまでまだ時間があるが今できる仕事は終えてしまったため、雑談程度に監査が話しかけてきたのだ。残りの仕事はメンバー全員が揃わなければできないものだったため、暇になるのも仕方ないだろう。
「あはは…大丈夫です、ご心配をおかけしてすいません」
「いや、それはいいんだけど…で、何でなのかな?」
監査が聞いてきたのは、何で私が上杉志信を嫌うのかということ。
最近は態度が軟化したとはいえ、冷たいことに変わりはない。上杉志信が私に懐く理由は聞いたが――曖昧な答えしか得られなかったけれど――私が彼女に冷たくあたる理由は聞いていないから、らしい。
雑談程度に話すことか、これ。いや、確かに上杉志信は先ほど副会長さまから仕事を仰せつかって生徒会室にいないけどさ。ちなみに今生徒会室にいるのは、私、監査、副会長、顧問の4人。
…これなら言ってもいいかな?そこまで騒ぎ立てそうな面子じゃないし。会計とか書記とかがいたら絶対言わなかったけど。
まぁ、実際はたいした理由じゃないんだけどねー…。
「あー…えっとですね、私、騒がしい人って嫌いなんです」
「ほぅ…それだけであそこまで徹底させるものですか…」
誤魔化されたと思ったらしい副会長が追求してくる。
人の話は最後まで聞けって!せっかちだなぁ。
「彼女と初めて会ったのは、彼女が生徒会室に呼び出された時だったんですよ。彼女がここに来る前に、電話で友人と話しながら昼ご飯を食べていた私の所にたまたま彼女が来て、初対面で延々愚痴られたんです。初対面ですよ?初めて会ったんですよ?これだけでもう図々しいこと極まりない気がします。人が折角久しぶりの友人との会話を楽しもうとしていたのに…」
それだけでも第一印象は最悪だった。
まぁ元々、会う前からあまり好きじゃなかった――ぶっちゃけ嫌いだったから、その先入観も大きいとは思うけど。生理的嫌悪っていうの?前世でも、自分でプレイしていて鳥肌が立った覚えがある。攻略キャラが好きだったから頑張ったけど。もちろん2次元での話。ディスプレイって最大の防護壁だと思うの。
「電話を切る羽目になったけど、流石に無視するのは悪いなと思いまして…時々相槌を打ったり色々教えたりしてたんです。そうしたら何をトチ狂ったのか、一緒に生徒会室まで来て欲しいとかのたまわりやがりまして。その上、腕にも引っ付かれましたし。私、あまり人にべたべた触られるの、苦手なんですよ…しかも初対面ですよ?あんなに可愛くっても、嫌なものは嫌なんです」
はぁ、とわざとらしくため息を吐き、顔を顰めながら言う。別に同情や共感を求めているわけではなく、ただただ愚痴りたいだけなので大人しく聞いていてもらおう。
会長や会計や書記がいれば色々と口を挟まれるだろうが、ここにいる3人は少し引き気味に聞いてくれているだけだ。助かった。まぁ聞かれたから答えただけだけどね!
「何とか断って、それで終わりかと思ったんです。でも、次の日クラスにまで探しにこられて…私はその時たまたま居なかったんですけど、後で友達が彼女が私を探してたって教えてくれまして。またベタベタ引っ付かれるのはご免だったので友達に協力してもらって逃げ回ってたら、更に追いかけてくるし。しかもおいかけっことか思ってるみたいでしたし」
ほんと、あの子は阿呆なんじゃないないだろうか。いや、阿呆なのは分かってるけどさ。
ちなみにところどころに嘘が混ざっているのはご愛嬌。仕方ないよね、まだ眼操持ちだって言ってないし。
黙って聞いてくれているのをいいことにひたすらに愚痴っていく。誰かに言う機会がなくて、鬱憤が溜まっていた所だったんだよねー。いやー、助かった助かった。
「ただでさえ目立ちたくなかったのに、彼女が下手に有名だから名前が一人歩きしているような状態になってしまって…挙句の果てに特能持ちだってバレましたし…。八つ当たりだとは分かってるんですよ?でも、私が下手に特能を使う機会が多くなったのに彼女も一枚噛んでいるわけで…」
そう、八つ当たりなのは分かっているのだ。あのままだと私の特能がバレるのは時間の問題だった。ただでさえ怪しまれてたしね。
しかし私は、元々騒がしい人種は嫌いなのだ。なぜって?うるさいから。鬱陶しいから。それ以外に理由はいらないと思う。
「想像してみてください。会ったばかりの人に仲の良い友人との会話を断ち切られ、延々愚痴られ、腕をがっしり掴まれるんです。何とか振り切ったと思ったら次の日にはその人がひたすら自分を追い掛け回す。そのせいで休み時間はろくに友人と話もできず、ただ逃げ回るだけなんです。そんな日が続いて、おまけに自分の隠し事まで周りにバレるんです。これって一種の悪夢じゃありませんか?ただでさえ元々騒がしい――もとい五月蝿い人は嫌いなのに、益々嫌いになった気がします」
そこにKY要素まで足されると最悪だな。もはや天敵レベル。主人公とか、主人公とか、主人公とかね。
最後に遠い目をして言ってみたら、哀れみの目が2本ほど刺さった気がした。副会長は本に目を落としているため、監査と顧問だろう。
「あー…何というか、想像してみたら酷かったね…」
「…頑張れ」
「お2人が代わってくださってもいいんですよ…?」
本当に。切実に。
あー…主人公、早く誰かと恋愛して、そっちに目を向けてくれないかなぁ…。協力とか裏から手を回したりとかはしないけど。勘付かれそうで怖いです。
2人が首を振っているのを視界の隅で捉えながら、ペンをいじる。遠慮しなくてもいいのに。
と、そこで廊下から騒がしい足音が聞こえてきた。4つほど。会長、書記、会計、主人公、の4人かな。
遅れたせいで副会長がお怒りだと思っているのだろう。多分そこまで怒ってはいないと思うが…怒っているふりはするんだろうな。ここで許したら今後も許さなくちゃいけなくなるだろうから。
残念ながら主人公は怒られないだろう。副会長に用事を言いつかって外に出たわけだし。
「すまん、遅れた!」
「さっせんッス、遅れました!」
「ごめーん、ちょっと捕まっちゃって!許してしずセンパイ!」
「ただいま戻りましたっ!」
あ、うるさい。必死に謝っているのは分かるが、声がデカい。
ため息を吐くのを堪えながら副会長の方を伺うと、予想通り黒い笑みを浮かべていた。ただし目の奥は笑っている。
なんだろう、ここ数週間で副会長の表情が読み取れるようになった気がする。フラグじゃないといいな。主人公は分からないみたいだし、私も分からないふりはしてるけど。
実際、分からなくても支障はないのだ。必要なことは全部言ってくれるし。時々言葉が足りないのは、それだけ此方を認めているということ。嬉しいかと聞かれれば否だけど。
と、ここまで考えていたら副会長のお小言もどきが終わったようだ。何故か主人公まで一緒にお小言を受けていた。逃げるタイミングを逃したのかな。ぷぷ、ざまぁ。
「さて、全員揃ったことですし仕事しますよ」
はーい、分かりましたよっと。
さて続きを書こうそうしよう…(オイ




