負担の差の代償 ―主人公・会長・監査―
第40話
またまた遅れてごめんなさい><
固定されていたのが外れたので、書きやすくなりました。
プルルル プルルル
電気のついていない、暗い部屋に無機質な音が響いている。
部屋の端についていたドアが音もなく開き、一人の男が入ってきた。電話の方向へ足早に歩いていく。
「はい、こちら政府特能省特能課です」
男は、明らかに余所行き用の声で電話に出た。
「久しいな、広瀬」
「…なんだ、雷か。どうした」
電話をかけてきた相手が既知の人物だと分かるや、余所行き用だった声を変え、幾分か砕けた口調で話す。
「実は少し調べてほしいことがあってな」
「珍しいな、お前がそういうことを頼むとは」
「…どこからかは言えんが、本当だったら不味い情報が入ってきた」
「…ほぅ。言ってみろ」
「50年前に日本が起こした事件以後、海外から特能持ちが消えたと言われているだろう」
「そうだな。それが?」
「そうではなく、日本がハブかれているだけ、と」
「――何が言いたい」
「弱い特能も合わせると、世界の人口の3分の1は特能持ちだそうだ」
「…は!?」
「そういう反応しかできないよな。俺も聞いた時は耳を疑った」
電話の先で苦笑をする気配がした。
「特能持ちが多くいるのは、今や日本だけではなかったのか」
「それはまだ分からない。だが、この情報を齎した所は日本は先進国で最も特能持ちの少ない国だと言われている、と」
「…本当だったら、確かにまずいな」
広瀬、と呼ばれた男から苦虫を噛んだような声が出る。だが、それも当然と言えるだろう。
もしそれが本当ならば、あの計画は――
「それだけじゃなく、世界中に特能の研究所があるそうだ。」
「まあそりゃ、あるだろうな」
「そこに所属するのには、国籍性別年齢関係なく、頭脳さえあればいいとか」
「…聞いている話と違うぞ」
「だろうな。日本人は所属できないらしい」
「…それだけか」
「あぁ、今のところは」
「そうか。分かった、調べさせる。また新しい情報が入ったら知らせてくれ」
「了解。じゃ」
「あぁ、さんきゅ」
プツ ツーツーツー
電話が切れて暫くして受話器を置き、広瀬は来た時よりも急いで部屋を出て行った――
***
キーン コーン カーン コーン
全国どこも一緒であろうチャイムを聞きながら階段を下りる。
今日の授業は終わった。今は生徒会の活動中だ。このチャイムは完全下校時刻のチャイムのはずなのに何故未だに仕事をしているのだろうかと疑問に思わないこともないが、一度引き受けてしまったものは仕方がない。
その仕事が完成した書類を各先生に届けるという本来なら顧問の仕事であろうことをやらされていても仕方がない。ずっと腕に引っ付いて書類を一枚も持たずに話し続けている上杉志信が一緒でも仕方がない。
ふふ、現実逃避?そう思わないとやってられるか畜生!
「……でね、美穂ちゃん、そうしたら――」
生徒会室を出た所から一度も返事をしていないというのに、この人一度も喋りを止めないんだぜ?凄いだろう?打たれ強すぎて引くレベルだわ。
昨日私はいつの間にか眠ってしまっていたようで、寮に着いた時に雷先生に揺すられてようやく目が覚めた。それまで考えていたことも全部吹っ飛んでしまったような気がしなくもない。そもそも何を考えていたのかすら覚えていない。怖いわー、ほんと眠気って怖いわー。
車からは降りるときは自分ひとりで降ろさせてもらった。流石に先生の車から出てくる、なんてところを誰かに目撃された日には…ねぇ?それならばその車が誰の車か分からなければいい話だ、と。
先生には、私がいじめられてもいいんですか!と言って納得してもらった。先生の目はお前の場合いじめ返すだろう、と語っていたけど気にしない。よく分かってるじゃないか、とか思ってないよ。
目は口ほど物を言うって本当だったんだねぇ。副会長が既に証明済みだけど。
今日は特訓はないため、生徒会のお仕事だけだと思って生徒会室に入ると、分厚い書類の束を渡されて生徒会室を追い出された。
会長曰く、それぞれ違う人が管轄の書類だから、自力で探し出して今日中に渡してこい、と。
…何枚あるんですか、この書類。と思ったのは特に秘密じゃない。
それぞれの書類の担当は上から口頭で言われた。何で覚えてるの!?とも思ったが、攻略キャラだから仕方がない。チートだもんな。
既に20人くらいを見つけ出して書類を渡してきたが、一向に終わる気配がしない。
後何枚あるんだよ…。
っと、今そこを歩いていたのは――
「伊達先生!ちょっと待ってください!」
「ん?おぉ、どうした」
「先生に渡さなきゃいけない書類がありまして――あったあった。よろしくお願いします」
「はい、どーもね。ご苦労さん。正式に生徒会に入るのは5月からだっけ?頑張れよ」
「はい、ありがとうございます。それでは」
ふぅ。歩いているところを捕まえられてよかった。運がいいなあ。
「――なんでどの先生がどの書類か、一回聞いただけで覚えてられるんだろう…」
先生に話しかけている間は黙っていた上杉志信がまた喋りはじめたみたいだったが、何を言ったのかまでは聞き取れなかった。と言うより聞く気がなかった。気にしてすらいなかった。
ま、彼女だしいいよねっ。
「んー…あと34人、かな?」
うん、そのくらいのはず。か弱い女の子にこんな重いものを持たせるとか会長は一度地獄へ堕ちるべきだね!あと全部私に持たせてただ歩いてしゃべっているだけの主人公も!
なんで誰も止めてくれなかったのだろうか。この間5キロのダンベルを持ち上げていたところを見つかったのが不味かったのかね。
なんにせよ一度地獄を見ろ。会長と主人公は地獄へ堕ちろ。
「あ、いたいた。先生、待って下さーい!」
――――――――…
―――――…
―――…
―…
「ただ今戻りましたー…」
「戻りましたー!」
「おぅ、ご苦労さん」
生徒会室に帰ってきたときには既に7時を回っていた。何でこんなに時間がかかったのかって?そんなのもちろん、担当の人たちが一所に落ち着いて居てくれないからだ。ちなみにこういう言い方をしたのは、担当の人が生徒の場合もあるからだ。数ある委員会の委員長、とかさ。
もちろんその人たちにも用事があるから仕方ないんだろうけどさ!でもなるべく移動しないでほしいの!分かるでしょ。ほら、この学校、広いし複雑だし。
「お疲れ様」
自分の席にどかっとはしたなく座った私に苦笑しながらお茶を差し出してくれたのは、江陰先輩だった。
本当に江陰先輩は気が利くなあ。みんなに対して。
「ありがとうございます」
「一応あれでも、君たちが今後関わるだろう人たちとの顔合わせを先に済ませてあげようっていう気遣いなんだよ。やり方は少しアレだけど」
礼を言って受け取ると、耳元でこっそりと火野先輩が隠したかったであろうことを教えてくれた。
…本当に江陰先輩は優しいねぇ。火野先輩に、だけど。
「分かっています。 ……やり方はアレですけど」
私も苦笑で返すつもりだったが、後半が成功したかは分からない。何やら怯えたように上杉志信と火野先輩が此方を見ていたが、気のせいだろう。
私が怖い顔をするとか、有り得ないしねっ!
「はは…。あの量は二人で分けて持っても重いだろうし、ね…」
「二人で分けて持てればまだましだったんでしょうけどね」
この部分だけ声を大きくして言ってみた。もちろん上杉志信の方なんて見ていない。
きっと今の私は凄くイイ笑顔に違いない。
「…一人であの量を持っていたの?」
「えぇ、どこかの誰かさんがずっと人の腕に引っ付いたままだったもので」
「そう…」
チクっちゃってごめんね、主人公サマ?でもこれ、自業自得だから。
私がチクるまでもなく、彼らはその事実を既に知っているはずなんだけどね!彼女、監視されてるし。私もそろそろ監視が始まるだろうし。
その筈なのに江陰先輩は驚いたように目を見開いた後、上杉志信に向かって注意した。
「渡されたのは安土さんでも、こういう時は君も半分持つものだよ」
「は、はい。 ごめんね、美穂ちゃん。筋トレになるかなって思って…」
ひと言多いわこのKYめ!副会長と書記が噴き出しちゃったじゃないか。一睨みすれば気まずそうに黙ったけど。
先輩に注意された上杉志信は、すまなそうに私に謝ったかと思うと余計なひと言をのたまわりやがった。
傍観していた2人が噴き出し、江陰先輩があちゃーという顔をし、火野先輩がうわっと言って漸く自分の失言に気が付いた上杉志信は顔を真っ青にして此方を窺ってきた。
物凄く不安そうにしている彼女に、にっこりと笑顔を向ける。それに安心したらしい彼女も釣られて笑顔になっていた。甘い、甘すぎる。
「…前も行ったと思うけど、筋トレは体型維持のため。さっきのはお仕事。この違い、分かる?」
表情はそのまま、猫なで声を出した。思ったよりも甘い声が出た。これ、すっげー馬鹿にしているように聞こえるだろうなー。その通りだからいいんだけどさ。
そんな私に安心するのはまだ早かったと気付いた上杉志信が、再び顔を真っ青にさせた。今度は涙目と上目遣いのオプション付きである。
「ほ、本当にごめんね。今度からは気を付けるから…!」
うん、流石主人公だけあって可愛らしい。私が健康な一般男子だったらすぐに許してしまうだろう。
私がそんな簡単に許すはずはないんだけどな!
それにしても私、彼女に質問したはずなんだけどなあ。答えになりそうな言葉が一つも見当たらないのはなんでだろう。とかすっとぼけて思ってみたり。
「いいよ、別に。始めっから期待してなかったし?」
にっこにこー
「…!ごごごごめん、本当にごめんねっ!」
うるうる
「だからいいってば。 しつこいなあ」
ぼそっ
「っ、本当にごめんなさい! 次は私が全部持つから!」
はわわわわ
「なら私が付いていく必要ないよね。一人で頑張って」
ばっさり
それぞれの言葉に擬音語を付けると、こんな感じ?
ばっさりと切り捨てた私に、上杉志信は顔を真っ青から真っ白に変化させ、今にも泣き出しそうな顔をしてきた。
え、なんでそんな今にも世界が終わる!みたいな顔してるの。私が冷たいのなんていつもの事だし、その程度のことにそんな顔をする理由が分からない。彼女が分からないのもいつもの事だし、別にいいんだけど。
そんな顔をした上杉志信を放っておいて帰り支度を始めた私に、見かねた火野先輩が止めてきた。
ちなみに先輩方はとっくに帰り支度が終わっている。私たちが帰ってくるのを待ってくれていたみたいだ。雷先生と伊山君は家の用事があるとかで今日は来ていない。どうでもいいけど。
「ほら、そこまでにしろ。上杉もこの程度でそんな顔をするな。早く帰る準備をしろ」
うん、止め方が止め方だとは思うけどね。なんで全部命令形なんだろうね、この人は。
私は帰り支度終わっていますよ。後終わっていないのは上杉志信だけですよ。
「はーい」
「は、はい。急ぎますっ」
周りを見て皆帰り支度が終わっていることに気が付いた上杉志信は、慌てて机の上の物を片付け始めた。
「お待たせしましたっ!」
って早っ!と思ったが、ろくに物を出す暇もなく外に追い出されたからそれも当然なのかもしれない。
ティーカップを洗っていたらしい江陰先輩も戻ってきたし、帰りますか。
今日の感想。思いやりの心を持ちましょう。周りが、私に。
顧問は国のお役人ですから、ああいう情報が入れば知らせるのが当然。でも、一応気を使っています。
その証拠に主人公からの情報の出所を「齎した所」と表現して、自分の教え子(個人)だと思われないようにしています。
そしてまたフラグが増えた…orz




