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暁学園  作者: surumeica
36/48

むかしむかし

第36話


主人公の昔のお話。久しぶりに生徒会もゲーム主人公も出てこない!


おばちゃんとの絡みはカットさせて頂きます。デートは次回になるかと思います。




 真っ暗な空間。そこにあるはずの全てを覆い尽くし、呑み込んでいる暗闇。

 そんな中に、一人佇んでいた。周りを見渡しても何も見えない。


 あぁ、またか。


 この後の展開は、分かり切っていた。


 完全な無しか存在しなかった空間が、私の目の前から割けていく。

 その瞬間、周囲に景色が戻った。

 息を呑む周囲の人々。目の前に迫るトラック。此方へ手を伸ばす両親。


 ほら、ね。


 いつの間にか手に小さな箱を持っていた。それを持ったままの私を、両親が、投げ飛ばして――。

 私は歩道に転がった。箱は、ぐしゃりと潰れた。

 辺りに血の匂いが立ち込める。

 あぁ、臭くてたまらない。いくら洗っても消えない匂い。


 分かっているのに。これが夢だと。

 呑まれちゃ、駄目なのに。

 いい加減、前を向かなきゃいけないのに。

 それでも、私は彼らの最期の表情を忘れられなくて。



 綺麗にラッピングされた小さな箱は原型をとどめておらず、挟まってあった『おたんじょうびおめでとう、みほちゃん』と書かれたメッセージカードは血の色に染まっていた。



***



ジリリリリ


 どこからか音がする。

 うー、まだ眠いー!

 暖かい布団の中でもぞもぞしながら携帯を探し当て、アラームを止める。そのまま時間を見ると、もう起きなければならない時間だった。

 当り前だわな。過ぎていたら目覚ましをかけた意味がないし。


「ふぁ~あ」


 欠伸と伸びをしながら布団から出る。

 うん、意外とあっさりと出られた。それだけ今日のお出かけが楽しみだったという事だろう。

 だって、今日は本当に久しぶりのallegro。もう一月近く行っていない。一月は流石に言い過ぎかもしれないが、それまで少なくとも週に三回は通っていた人間の一月は、相当だぞ。もうあそこのコーヒーが飲みたくて飲みたくて仕方がないんだ。

 一度雷先生の準備室で似た味のものを飲んだが、しょせんは似た味。本物には敵わない。

 別に雷先生のコーヒーを貶しているわけではなく。ただ、雷先生のものよりも、マスターのものの方が好きだというだけのこと。


「それにしても、久しぶりに見たなー…」


 外行き用の準備をしつつ、思い返す。



 あの夢。私が幼かった頃の夢。まだ何も知らぬ5歳だった頃のこと。


 私は5歳の誕生日を迎えていた。

 外の少し豪華な所で夕食を食べ、プレゼントを貰ったその帰り道。

 私は、貰ったプレゼントを開けたい誘惑と闘いながら歩いていた。


 そこに、トラックが突っ込んできた。


 念のために言っておくと、私たち家族が歩いていたのは紛れもなく歩道だ。ガードレールの内側。あれ、外側?まあいいや。とにかく、一般に歩道と呼ばれる部分を歩いていた。

 私はその時肉体と精神が同年齢だったが、プレゼントを落とした、とかで車道にいたわけではない。


 いきなりトラックがガードレールを突き破って、私たちのいた方へと迫ってきたのだ。


 私は両親に投げ飛ばされ、歩道の奥のお店の、ショーウィンドウに突っ込んだ。

 私の両親はどんだけ力が強いんだよ、とは思うが、気にしても意味がないと思うので気にしないようにしている。例えその時歩いていた歩道が3メートル程の幅があり、私たちが歩いていたのが限りなく車道に近い所だったとしても。私がショーウィンドウに突っ込むまで空中を飛んでいたとしても。

 先日は飛ぶのが羨ましいと言ったが、この飛ぶは決して羨ましいものではない。できれば二度と経験したくない。


 ガラスの破片が身体に刺さりすぐに私は気を失っていた、らしい。あまりよく覚えていないが、それを見ていた人がいたと看護師のお姉さんが教えてくれた。

 両親は、即死だった。救急車が来た時には既にこと切れていたらしい。

 後から聞いた話だが、トラックの運転手は酔っており、そちらも即死だったそうだ。


 葬式は、密やかに執り行われた。喪主は伯父が務めてくれた。

 私は怪我のため、欠席せざるを得なかった。


 腕、足、背中、うなじ。ガラスの破片が刺さっていた箇所。

 今でも傷跡が残っている。

 あの時はどこが痛い、なんて分からなかった。眩しい光が目に当たり、身体を鋭い痛みが襲う。そのことに対する既視感と激しい頭痛で、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 病院に運ばれてから私は2日間目を覚まさなかったらしい。

 その間、私はずっと夢を見ていた。懐かしい夢。大した楽しみもなく、それでもそこそこ幸せで充実していた日々だった。目を覚ましたころには、前世を思い出していた。


 それまでのいたずら好きでやんちゃなクソガキだった私は鳴りを潜め、大人しくいつも笑っている子どもになった。

 愛想笑いは大事。もちろん、笑うべきところは笑うし怒るけど、基本的にいつも顔に微笑みを浮かべているようになった。

 大人たちはそれを、両親を目の前で亡くしたことのショックからだと思ったらしい。何も言ってはこなかった。

 私は、伯父の養子となった。



 私が、この世界の真実に気が付く前のこと。




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