空気な人たち ―生徒会役員・主人公―
第32話
またも更新が遅れて申し訳ありませんっ(汗
休日だったにも関わらずこの体たらく…(´・ω・`)頑張りますねっ!
どうやら主人公の毒舌は好評を頂いている模様。もっと毒を盛ってみましょうか…
さて、どうでるかな?
「――今空いている役職は庶務ひとつですが、それはどうするつもりです?」
「生徒会規約第5章21条、庶務は原則1名だが、必要であれば第3庶務までおくことが出来る」
「……」
ふっふっふ、暇人なめんな!生徒手帳に載っている校則その他をすべて暗記してるんだぜ、凄いだろ!どっやー。
もちろん顔に出さずに内心でどやってみた。たぶん顧問にはバレてるんだろうなー…。あの人の特能はそいういう特能だし、なんか生暖かい目で見られてるし。
うぅ、畜生、別に恥ずかしさで死にそうになんてなってないんだから!
どうやら私がどういう目的で主人公の生徒会入りを提案し、どういう反応を見せるかを探るつもりらしい。
副会長の質問に、規約の答えとなる部分を間をおかずに暗唱してみた。思った通りみんなぽかんとしている。
あ、これはただのいたずら心だから。別にフラグとかじゃないから。見たものを全て覚えられるとかそんな羨ましい能力持ってないから。ただの暇人だから。そこんとこ勘違いしないでよねっ。
「え、なに、まさか全部暗記してんの?」
「暇だったので」
まだ驚きが抜けていない顔で聞いてきた書記に、にっこり笑って答える。
うふ、すごいでしょ?これは自分でも自慢できると思うんだよね。無駄なことだっていう自覚はあるんだけどさ。
「……1日9教科15科目やっているっていうのは」
「飽きたのでやめました! ていうか先生がやめろって言ったんじゃないですか」
人が素直にその言に従って1日7科目にしたというのに。まったく、無責任な顧問だ。
にひひと笑いつつ心の内で毒を吐く。
「…はあ。 何故彼女も入れたいんです?」
「私ひとりが入ったとすると、私だけがあなた方の信者たちからの嫉妬の対象でしょう?でも、彼女も入ることで少しでも分散できます。
それに彼女はもともとA組ですから。私よりも――あー、うん、恐らく、多分、役に立ちますから…分からないことがあれば教えてもらえるし…と思ったんですが――訂正しますね、はい」
何かを諦めたように溜息を吐いた後、単刀直入に聞いてきた林堂先輩。
諦めたらそこで試合終了だよっ!
それに答えている途中で上杉志信を見るも、段々自分の発言に自信がなくなってきて最後には撤回してしまった。なんだってそんなに表情が緩んでるんだ!
いやだって、腰に抱き着かれたままでれでれーっていう言葉が似合うくらいに顔の緩んだ人がこっちを見てるんだよ?これのどこが有能だよ!って感じじゃんか。
「……あー、はい、そうですね、分かりました。 では上杉さん、貴女は生徒会に入りたいですか?」
「え、えっと、美穂ちゃんが入るなら入りたいです、すみませんっ!」
信者発言に一切の否定をしない副会長。性格悪いですねー。人のこと言えないけど。
上杉志信は、緩みまくった表情を即座に引締め、私の背中に隠れようとしながら答えていた。心なしか冷や汗らしきものも顔を伝っているような気がしなくもなくもない。要はどうでもいい。そんなに苦手か、とは思うけど。にやにや。
そんな上杉志信をじとーっと見た?いや、睨んだあとで役員たちと目配せし合い、答えが出たのかこちらへ向き直る。
何がどうなってどういう結論に至ったのかは分からないが、一つ言わせろ。
お前ら心通じ合いすぎだろ。さっきから思っていたけど、目配せで意思の疎通ができるってそうとうだと思うぞ。あ、一言じゃなくなった。別にいいけど。
「…分かりました。では、2人とも庶務という形で生徒会に入っていただきます。 あぁ、安土さんは2年間ずっとですが、上杉さんは1年で任期切れですから」
「はーい…」
「は、はい、分かりましたっ」
2年間かー…攻略期間まんまやんっ!
…まあ、いい。どうせ上杉志信は来年もやるんだ。たぶん、だけど。
シナリオから大分外れちゃったと思うから、どうなるかはよく分からんが。少なくともゲームでは、生徒会入りするルートでは2年になっても続けていた。選択肢によっては生徒からの反感を買いまくってリコールされたりとかしてたけど。まあ現実には有り得ない選択肢だったので、現実でそうなることはないだろう。
あ、またフラグが立ったような気がした。いや、大丈夫。これもきっと気のせいだ。うん、主人公と私に死亡フラグなんて立ってない。立ってないったら立ってない。
「あー、では、続きの質問いいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「私も特能の特訓、必要ですよね? 誰がいつどこでやるのか、って決まっていますか?」
これ、さっきの処遇の質問で教えてもらえると思ったのだが…まさかの内容でぶっ飛んでしまいかけたので改めて聞いてみた。
上杉志信とは違う時間帯でありますように!
「あぁ、それは俺が担当する」
そう言ったのは――雷先生だった。
あ、まじすか。生徒会の仕事とか、忙しくないのかな?
「お時間、大丈夫なんですか?」
「あぁ、お前は上杉と違ってコントロール自体は出来ているからな。眠っているときのこと、それから特能の限界について試行錯誤するだけだから、ぶっちゃけ仕事しながらでも出来るんだよ」
ほんとにぶっちゃけやがった。
つまりそれはあれか、付き添いは必要だけど見ている必要はないってことか。
ここは高評価を貰っていることを喜ぶべきか、それとも放任主義を嘆くべきか…うん、別に放任主義で言いや。でも喜ぶほどでもないな。
「ちょっ、私だってだんだんコントロール出来るようになってきてますよっ!」
「はあ…ならいいです」
「え、スルー!?やっぱりスルーするの!?」
なんかまた騒がしくなってきたなあ…。
「うるさっ」
「ボソッと言っても聞こえてるからね!私が傷つかないと思ったら大間違いなんだからっ!」
「私があなたが傷つくことに堪えると思ったら大間違いなんだから」
「ひどいよっ!でも意外とノリいいんだね!」
あ、つい返事しちゃった。畜生、うるさくなってきた。
他の皆様は生暖かい目でこっちを見ているし。
「あー、いつどこでやるんでしょうか?」
「基本的に火木土の放課後1時間やるつもりだが、俺の予定によって変わる。場所は体育館内にある特能訓練部屋だ。ちなみに放課後ってのは生徒会の後だからな」
「えー…」
「当然だろ。罰なんだから」
「はーい…」
生徒会終わった後1時間かー…。寮に帰るの、何時になるのかな…。
思わず遠い目をしてしまった。
ていうか特能訓練部屋なんてあったんですね知りませんでした。わぁ行くの楽しみだなっ。
うるさい、似合わないとか言うな。現実逃避でもしなきゃやってらんないんだよ。
だって私が帰る時間、たぶんもう寮のおばちゃんいないし。もっと喋りたかったのになあ…。まあ朝は喋れるからいいんだけどさ。
それに出来立てのご飯が食べれない。きっとあのおばちゃんのことだから冷めても美味しいんだろうけど。
あ、そういえば私、おばちゃんの名前知らない。今度聞いてみよっと。
ちなみにこの世界の曜日は元いた世界と同じだ。平行世界みたいなものだから、当然っちゃ当然なんだけど。
今日が木曜だから…あれ、今日からやるのかな?
「じゃあ特訓って今日からやるんですか?」
「いや、流石に今日はやらんぞ。明後日からだ」
「よかったです…」
だって、こんな疲れる腹のさぐり合いした後に特訓って…ねえ?
「そう言えば、生徒会の仕事はいつ何時くらいまでやるんですか?」
「あぁ、それを言ってませんでしたね。 基本的に毎日、その日の仕事が終わるまでですよ」
にっこり。
そんな言葉が似合うように笑って言った林堂先輩の背後はとても吹雪いていた。思わず幻覚が見えた。幻覚だと思いたい。
それを向けているのは私たちではなく他の生徒会役員だったようで、会長とか書記は顔を青くしている。会計は気まずそうに目をそらし、監査は苦笑している。監査はちゃんと仕事をしているみたいだ。その他はサボりまくってる、って感じかな?
そのせいで帰るのが遅くなったりしたんだろうなー…。私が入るからにはきちんと早めに終わらせていただきたいです。
「じゃあ早く終わらせられるよう、頑張ろうねっ」
「うん、そうだね」
やる気を出して言ってきた上杉志信に、会長たちの方を見ながら返す。
心なしか上杉志信の顔が輝いたような気がするが、私が何かしらの反応を示せば嬉しそうにすることは分かっていたのでスルー。ちょっと眉が寄ったのはご愛嬌ってことで。
「えっと、この1か月で慣れてもらうと言っていましたが、具体的には何をすればいいんでしょうか?」
「そうですね…毎日ここに出入りして、此方が任せられると思った書類の処理をしてもらいます。まあ雑用が主になるとは思いますが」
「…そうですか、分かりました」
「上杉さんも構いませんね?」
「あっ、はい、大丈夫ですっ」
しかしこいつらはよくもまあ上杉志信を生徒会に入れることを呑んだな。
私を生徒会入りさせようとする時点で頭がおかしいとしか思えないが、こう言っちゃ失礼だが彼女は私よりも使えなさそうだぞ。
いや頭がいいことは知っているけど、実際に仕事ができることも知っているけど、この言動は…ねえ?あまりのゲームとの違いにお姉さん眩暈がしそうだよ。嘘だけど。
「私が5月にA組に移るというのはどういうことでしょうか…?」
「生徒には知らされていないが、特能持ちは特能が強い順でA、B、Cに分けられるんだよ。で、お前さんの特能は恐らくこの学園で一番強いから、Aに移動ってわけだ」
「…特能は弱いけど頭はいいっていう人とかはどうするんですか?」
「もちろん特例はあるさ。だが、ほとんどの特能持ちは特能の強さで頭の良し悪しが決まる。お前だって隠してるだけだろ?」
「…なんのことでしょうか」
買い被り良くない。
にやりと笑いながらこっちを見てきた雷先生に素っ惚けて返す。いや、別に隠してなんかないですよ。ただ主人公と同じクラスになりたくなかっただけで。
その制度自体は前から知っていた。
ゲームでは、2周目からは極々稀にC組から始まることがあった。その時に、ルートによってはその制度の話をされた上でCからAに移るのだ。そこで選択肢を間違えると、他の生徒の反感を買って一気にデッドエンドに転がり落ちるのだけど。
「まあ、いい。 お前が移るのと同時に俺もAに移るから」
「「…へ?」」
あの気分の悪くなるにやにや笑いを収めた雷先生は、そう言って私と上杉志信を呆然とさせた。
「なんだよ、なんか文句あんのか」
「いえ、そうではなく…当り前ですが既にA組にも担任の先生はいますよね?」
「あぁ、いるな」
「その先生はどうなるんですか?それに、雷先生がいなくなったらB組の担任は誰になるんです?他の生徒にしてみれば入学して1か月で担任が変わることになりますよ?」
「あー、そうか、知らないんだな。この学園では途中で担任が変わることは“あり”なんだよ。過去には1年に8回担任が変わったクラスもあるくらいだ。で、俺とAの担任の東雲先生が交代するんだ。外部生の奴らは慣れないかもしれないが、内部生は慣れっこだよ」
「「……」」
ナ、ナンテコッタイ。
思わず片言になるくらい驚いたぜ!嘘だけど。
いやまあ驚いたのは本当ですが。ゲームには無かった…ような気がする。いや、あったかなあ…?でも、たとえ主人公がCで始まっても顧問は始めっからAの担任だったし…。うん、今気にしたって仕様がないね。気にしない気にしない。
ていうか内部生は慣れっこって――まさか中等部でもこういうことがあったのか。内部生、外部生という言い方をするっていうことは、全クラスであったってことだよな。やべぇ、なんだこの学年。
「…そ、そうだったんですか」
流石の私も苦笑するしかないぜ!
「えっと、AとBで授業の進行度が違ったり、難易度が違ったりってします?」
「あー、化学は今の所大丈夫だ。他は教科によって様々だからよく分からんが、お前さんなら大丈夫だと思うぞ?不安ならそこの2人にでも聞けばいいさ。化学と数学と英語なら俺も教えられるしな」
「…それもそうですね」
それが嫌だから聞いたんだけどな。
まあ、いい。大変不本意だが、もしも万が一分からない所があれば上杉志信に聞こう。攻略キャラよりも主人公の方がまし…だと願いたい。それもないように、もちろんこれからは増々予習に励みますけどね?
「ま、そんなもんだ。で、他になんかあっか?」
「えぇと…」
あと何かあったっけな。昨日考えた質問のネタは尽きたし、今日この場での疑問も尽きたような気がする。
うるさい、もっと考えろよとか言わないの!仕方ないじゃん眠かったんだから!危機感にも勝る眠気があったんだよ!
「……特にないです」
うん、結局この場でももう思い付かなかったし。そろそろ帰りたいし。おばちゃんのご飯が恋しい。
時計を見れば、もう7時過ぎ。まさかそんなに時間が経っていたとは。驚きである。
「あー、じゃあこれで終了でいいですか?」
そろそろ帰りたいんですけど。
言外に匂わせてみた。よくやるんだけど、何故か皆なかなか汲み取ってくれないんだよねえ…。
「何かある方はいますか?」
私の言を受けて、室内を見渡して聞く副会長。
まさか汲み取ってくれるとは…感激のあまりお姉さん泣きそうだよ。嘘だけど。
皆、首を横に振る。
「では、これで終了という事で。帰ってかまいませんよ。 あぁ、2人とも明日はSHRが終わったらすぐにここに来るように」
「はーい…」
「は、はいっ!」
ひゃっほーい!やっと帰れる!万歳!
部活をやっていない人間にとって、こんな時間まで校内に残っていることなんて恐怖でしかないのだ。いや、むしろ楽しくなってくるかもしれないが。
「では、失礼しました」
「失礼しましたっ」
この際主人公と一緒に寮への道のりを歩くことには目を瞑ろう。
なんたって今の私は気分が良いからな!
あ、そういえば今日も生徒会役員は副会長と顧問以外空気だったな。
これでひとまず腹の探り合いは終了です!
次回はたぶん、恐らく、初のお仕事となります!




