好奇心と恐れ
第29話
遅くなって申し訳ありませんm(_ _)m
少々長めです。
新キャラが続々登場中!←
そろそろ登場人物紹介をのせた方がいいのかもしれない。。
欲しい方はご連絡ください~。
理事たちは大小問わず全員が特能持ちなので、正体までは分からなかったものの特能の香りに気が付いていた。
しつこい追究を躱し、安土のことは生徒会に任せることを確約させ、理事長室を出る。理事長室内に会議室があり、そこで話し合いをしていたのだ。ここに例の理事がいればまた違った結果になったかもしれないが、そいつがいないからこそ今日急いで確約させた。
「ふぅ…」
どいつもこいつも腹に一物抱えた奴らばかりで、渡り合うには少々気疲れするものの、何とか望み通りにことを進められた。後は、あいつらが結果を出すだけだ。
理事長室を出てきたときにはとっくに消えていた、恐らく学校中に広がったであろう香りを思い出しながら保健室への道を歩いていた。
と、その時。
プルルル プルルル
無機質な音が廊下中に響き、ポケットから振動が伝わってきた。
マナーモードにし忘れていたな。
ディスプレイで相手を確認すると、雷からだった。
「なんだ」
「あら、なんだとは随分なご挨拶ね」
「――…船見か。 いい加減あいつの携帯を勝手に使うの、やめろよ」
「そんなこと今はどうでもいいでしょ。 あと3分で会議始めるから」
「は!?俺が今、どこにいると思ってんだ!?」
「知らないわよそんなこと。間に合わなかったら昼奢りね」
言うだけ言って、切られる。俺も雷に対してやっていることだが、やられるのはいい気分じゃないな。
雷の携帯を使って電話を掛けてきたのは、俺とあいつの同僚の船見だった。小中高大、更には就職先もずっと一緒でも最近は顔を合わす機会も少なかったのだが――性格は相変わらずのようだ。
昔から女王様気質で俺や雷を顎で使う。俺は早々に流せるようになったが、雷も雷で相変わらず船見のいうことには逆らえないようだった。
もっとも船見のそれは、小学生が好きな子をいじめるのと同じで好意の裏返しなのだが。本人に行ったら確実にキレられるため、言ったことはない。
今いる廊下から会議室まで、急ぎに急いで約2分。あまり待たせてイライラさせないよう、走るか。
*
会議室にたどり着いたのは、電話があってから2分と少し経った後だった。
「遅い」
「まだ始まる時間じゃねぇよ…」
「5分前行動っていう言葉も知らないのね」
「俺が会議のことを知ったの、3分前だからな!?」
ギリギリ間に合ったのに何故か責められる。理不尽だ。
学生時代と変わらずに、今にも口論を始めそうな俺たちを止めたのはやはり雷だった。
「まぁまぁ。とりあえず会議、始めようぜ」
「…それもそうね」
「あぁ、すまんな」
室内を見渡せば、俺以外の、この時間に授業のない職員は揃っていた。随分と行動が早いな。
「では、緊急会議を始めます」
司会進行を務める教員が立ち上がり、開始を宣言する。
少しガヤガヤしていた室内に、程よい緊張が満ちる。
「今回みなさんに集まっていただいたのは、外部生で特能持ちでないはずの一人の生徒について話し合うためです。
その生徒の名前は安土美穂。B組です。詳しいことはお手元の資料に記されているので、ご確認ください。
まず、本日の3時間目に彼女のクラスは体育で、サッカーをしていた。これに間違いはありませんか?」
「はい」
やたらと腰の低めの司会が、あの童顔の体育教師に確認する。
「その途中に、彼女は急に気を失った。これも間違いありませんね?」
「えぇ、前兆もなく気絶していました」
「それと同時に彼女から香りがしたというのも?」
「正しいです」
まるで尋問のようだが、この教師の場合本当にただの確認なのだ。慣れたもので、その証拠に質問をされている彼女も苦笑いでスムーズに答えている。
「では、安土さんの担任の雷先生、彼女についてお願いします」
「そうですね…特に他の一般生徒と変わったところはなかったように思います。予習や復習もきちんとしているようで、先生方からの評判も良いようです。 それと、これは生徒会顧問としての立場からの発言なのですが、この件はしばらく生徒会に任せて頂きたい」
ざわっ
司会からの質問に答えた後の雷の発言で、室内がざわめいた。
当然と言えば当然だ。忙しい中呼び集められ、いざ話し合おうという段階でこんなことを言われればそうもなるだろう。
伏せておく所は伏せ、話す所だけ話す。少なくとも雷は、嘘は言っていなかった…はずだ。
「…何故でしょうか?」
「顧問である俺の生徒であり、更に緊急性が低いと判断したためです。 普段は、俺たち教職員ですら気が付かないほどコントロールがいいんですよ?暴走する可能性は低いし、今回発覚したのだって気絶して熟睡したからだと予想されます。 更に彼女の特能は現生徒会役員よりも強い。彼女を乗り越えることが出来れば、一層の成長が期待できるでしょう。 もちろん彼らの手に負えなくなった場合はすぐに協力をお願いすることになりますが」
敬語、似合わねぇぇ。船見もそう思ったようで、顔をしかめている。
乗り越えるとか、安土はドでかい障害物かよ。
なにやらまともなことを言っている雰囲気で他の教職員は既に流されかけているが、言っていることは随分酷かった。
要するに自分の生徒の成長のために安土を差し出せと言っているのだ。もっとも、あいつは安土が暴走するとも今期の役員が失敗するとも露ほども思っていないようだったが。
「…そういうことでしたら、生徒会に任せようかと。みなさん、それで構いませんか?」
司会が他の教職員に尋ねる。ただでさえ忙しい中負担が増えることもないため、渡りに船だったのだろう。皆がまばらに頷く。そんな中、一人だけ手を挙げた者がいた。
「あの…、生徒会に任せること自体は構わないのですが、それではまだ不安が残るのでは?此方から数名、彼らに付けるべきでは?」
「それはもちろんです。 俺、直江、船見を付けようかと思うのですが…」
おい、聞いてねえぞ。そうなるとは思ったが。船見の方は聞いていたようで、鷹揚に頷いている。
皆の視線が集まる中、不承不承頷いた。
「分かりました。それならば…」
「ありがとうございます。 では、安土美穂の件は生徒会の管轄、ということで。 何か進展があり次第報告させていただきます」
納得して引き下がった職員に対して礼を言い、司会に確認を取る雷。どうせ計画通り、とでも思っているのだろう。
それに対し司会は頷いて、宣言する。
「はい、お願いします。 ではみなさん、これで緊急会議を終わりにします」
この司会、腰が低いと思っていたが結構強引だったな。少し意外だ。
次々と席を立ち、とうとう司会までもが会議室を出ていく中残ったのは俺、雷、船見の3人だった。
「おい、聞いてねえぞ」
「でも予想はしてたでしょう」
「お前がしてないわけがないな」
「…まあしていたが」
「それにしても雷、キモかったわぁ。敬語が似合わないのなんのって。ほら、見てよこの鳥肌」
「うわっ、ほんとだ。 お前なんで敬語なんて使ってんの?正直ドン引きなんだが」
「悪かったな!俺だって先輩相手にしたら敬語を使うさ」
「「先輩?」」
「あの議事進行の人、あの人部活の先輩なんだよ」
「…そう言えば見たことあるかも」
「てことは15年の付き合いか」
「そういうことだよ」
この男は、中学から大学卒業までの10年間、ずっと同じ部活に入っていたのだ。その時の先輩と大学まではともかく就職先までも一緒だったため、つい敬語を使ってしまうようだ。どんなトラウマがあるんだか。
「とにかく、生徒会に任せてもらえてよかったな」
「あぁ。 今教員に任せたらどんな扱いされるか分かんねえからな」
「あの強さじゃ、それもしょうがないんだろうがなぁ…」
思わず雷と二人、遠い目をしてしまう。
保健室で安土が寝ていた時のことを思い出したからだ。雷も同じ目をしているということは――まぁそういうことだろう。流石に手は出していないはずだ。
「ちょっと。私は直接見てないんだけど、そんな強いの?」
「…お前、Bの国語担当だろ? そん中に、地味なのにやけに印象に残る生徒、いなかったか?」
「えぇ、いたけど…。 彼女は一般人でしょう?」
「お前な…生徒の名前くらい覚えとけよ。 あいつが安土だぞ」
「うっさいわね、まだ1週間しか経ってないのよ――っては!?あの子が!?」
「ちょ、襟掴むな」
「だって、だってあの子からは香りなんて一切…!」
「おい、落ち着け」
「直接授業で接触のあった私たちですら気が付かないなんて…」
「おーい、そろそろ離してくれませんかー」
「それであの香りの濃さ、量なら確かに危険視されて然るべきかもしれないわね…」
「考えは纏まりましたかー」
「なのになぜ、生徒会が受け持つと言ったの?」
「息が苦しくなってきたんだが」
「安土さんの性格によっては今の彼らが手におえるような相手じゃないわよ?」
「そんな性格をしてないことは香りを嗅げば分かるだろ?」
「確かにそうだけど…。 教師に任せた方が安全だわ」
「…雷までスルーか」
「安全パイばかり選んでたら成長しないよ」
「…分かったわ。 あの子たちに任せましょう。いざという時は私たちがいるし、ね」
「……そろそろ死ぬ。マジで死ぬ」
「感謝する」
「ふんっ、あんたのためだとは言ってないわ」
「……ラブコメなら余所でぐぇっ」
「なんか言ったかしら?」
「笑顔が怖いです姐さん」
「ん?もう一度?」
「今日も素敵ですね姐さん」
驚いた船見に襟を掴まれどんどん力を加えられていく。一人でぶつぶつ呟いて考えをまとめた後、雷と少し話し合うまではまだよかった。そこで何故ツンデレになるのか分からん。別にどうでもいいが、やるなら俺の襟を離してからやってくれ。いつもは止めに入る雷も流して船見と話し合ってるし。
「あら、分かってるじゃない」
「ふぅ…。 空気がこんなに美味いとは」
「改めて気づかせて差し上げた私に感謝なさい」
「へいへい、ありがたき幸せっと」
今日も我らが女王様は健在のようだ。
*
それからまた次の日も安土は保健室にやってきた。生徒会役員を連れて。
気絶した時に広まった香りにやられた生徒に誘拐され体育用具入れに閉じ込められていたというのだ。
髪や服は乱れ体中に汗がにじみ、腕や足には小さな傷が沢山出来ていた。
何かされたのかと疑えば、違うという。手足首を縄で縛られ口には猿ぐつわをはめられていたので、それを解くために四苦八苦していた、と。ほぼ9割がた嘘だろうが、今は信じたふりをしておく。こいつらが泳がすと決めたのなら口は挟むまい。
後日安土が自身の特能を認めたときにでも問い詰めればいい。
安土が帰った後に聞いた話では、用具入れ内には香りが充満していたそうだ。火野はそれを香水の香りだと思い込んでいたが、こいつは一体昨日何をしていたんだろうか。他の役員はちゃんとそれが特能の香りだと気付いていたが――火野は阿呆の子だからな。仕方がない。
***
そして今日、2度も特能の使い過ぎ―どちらもその可能性が高い、というだけだが―で倒れた安土の気が狂っていないかを確かめるために、尋問を受けているであろう生徒会室へ赴いた。
扉を開けてすぐの所にいて額に怪我を負わせてしまったのは予想外だったが、お陰で話す機会を得ることが出来た。しかも思ったよりも早くに特能持ちであると暴露しているし、気が狂っていないことも会話から察せられた。
「先生、もう大丈夫です」
「お、そうか?」
「はい。ありがとうございました」
「いや、俺の責任でもあるからな。 帰ったらこれで冷やすといい」
「湿布…ですか?」
「あぁ。何か問題でも?」
「いえ、ありませんが…多くありませんか?」
「そうか? 大は小を兼ねるってやつだ。受け取っとけ」
「はぁ…先生がそう仰るのならありがたく受け取っておきますが」
「それでいい」
未だ額に置いていた手を外し、治療のために近づけていた距離を離す。
大分腫れは引いていたが、今夜あたり痛むだろう。痛みがある、というのは身体が正常に機能している証拠だからいい事なのだが、あまり嬉しい事でもないだろう。そう思って湿布を渡す。
「で? 一昨日の気絶も、昨日の誘拐のも特能の使い過ぎでいいんだな?」
「…………はい」
明日説明すると言っていたが、気になって訊ねれば気まずそうに眼をそらして肯定される。
…やはりか。
「大丈夫なのか?」
「…私の気が狂ったか否かということでしたら、大丈夫です」
「…ならいいが――くれぐれも無茶はするなよ。 あれだけの強さで二日連続で気力切れになりかけてんだ。いつ狂ってもおかしくないぞ」
「はい。……ありがとうございます」
はにかみながら上目使いで礼をいう安土は…まぁ、その、なんだ。大分可愛かった。うん。
俺はロリコンじゃない。そういう目で見ているわけではなく、ただ単に感想を言っただけだ。うん。
「それでは、失礼します」
「あっ、あぁ。 また明日」
内心葛藤している間に彼女は去ってしまった。
――明日が楽しみなような反面、話を聞くのが、少し、ほんの少しだけ、怖かった。
深夜テンションで書いたので少々?おかしいです。
まともな思考回路の時に改稿したいと思います。
※医療関係については作者の適当です。ご注意ください。




