暴露と誓い ―生徒会役員(・主人公)―
第26話
ゲーム主人公まじ空気。なお話。
(正確性は保証しかねます←)
「私は――――…」
一度俯いて、覚悟を決める。
うん、大丈夫。これの結果何が起きようとも、私は後悔しない。
「――特能持ち、だよ」
はい言っちゃったー!直感で言ったしけど後悔はしてないし、彼らが既に知っていることは予想済みだけど、それでも反応が怖いな。
なかなか顔が上げれない。
勇気を出して顔を上げ、彼らの顔を窺う。
主人公以外は少し驚いていたけどそれほどでもないって感じだった。今言うとは思わなかった、って感じ。主人公は――まぁ言わずもがな。再び石化しましたよ。あ、言っちゃった。
沈黙が、流れる。時が止まったかのように誰も動かない。
時計の針が進む音が、やけに大きく聞こえる。
「――やはり、そうだったか」
「はい。やっぱり勘付いてましたか」
静寂を破ったのは、顧問だった。確かめるような口調に、苦笑して返す。
「気が付いていたのか? 俺たちが勘付いていることに」
「えぇ。と言っても気が付いたのはついさっきなんですけどね」
私の言葉に少し驚いたようにした会長。苦笑が止まらない。あれ、苦笑って長続きするもんだっけ。
「それにしては随分と確かめるのが早かったね」
「気になることはとっとと解決しちゃいたい主義なんです」
キリッ。
ようやく私の苦笑を止めてくれたのは監査だった。流石は江陰先輩!愛してるよ!嘘だけど。
「どうして隠してたのかなー?」
「面倒くさそうだったので」
「どうしてそんな冷たいのかなー…」
にやにやと笑いながら聞いてきたのは、書記。気持ち悪いからやめろ。つい冷めた目で見てしまったが、気にしない。なんだかいじけてるような気がするけど気にしない。
あからさまな嘘をついてしまったが、特にそれに関しては気にしていないようだった。答えは期待していなかったのかもしれない。
「何故、この学園に入ったのですか?」
嫌な質問を投げかけられた。質問した主である副会長を睨みたかったが、止めておく。この人は悪くない。むしろそう疑問に思うのは当然だろう。誰にも言わない理由があるのに、わざわざこの学園に入ったら意味がないのではないか、といった疑問は当然のこと。この学園が特能持ち用の教育機関だということは知られていないが、調べれば出てくる。
ま、誰にも言わなかった理由も彼らに今暴露した理由も至極単純なものなのだけれど。
「無理やり入れさせられただけですよ」
これは本当。あまり答えたくないし、話したことがバレたら殺されてしまうかもしれないが。比喩でもなんでもなく。それでも、話すと決めたからには話す。
「……安土の伯父に、か?」
おや、予想はしていたが、やはり顧問は知っていたのか。
暁学園に入学する生徒はかなり細かく調べられるらしいし、当然と言っちゃ当然。今まで誰にも言わなかった理由の一つは、それ。誰の口からどこに洩れるか分からない。
不思議そうに聞いてきた雷先生。無理やり、という言葉が引っかかったのだろう。それもしょうがない。彼らの外面は本当によく、誰も私たちが良好な関係を築いていると信じて疑わなかった。私の報告書にも載っていないに違いない。
「はい」
「両親ではなく?」
あえて突っ込んできますか。勇者ですね、林堂先輩。
分かりやすく言い辛そうにしている私に質問したのは、副会長。かなり聞き辛そうだったけど、こればかりは仕方がない。
「両親は幼いころに亡くなっているので、伯父夫婦が義父母なんです」
嘘だらけの私だけど、これも本当。
彼らは信用できると思う。ゲームどうこうではなく、目の前の、現実の彼らを見ているとそう思えた。あ、隣でまだ固まってる主人公はスルーの方向で。ここまで懐かれたのだから、まぁ大丈夫だろう。と楽観視してみたり。
「…詳しく聞いても?」
うっわ、そんな暗い顔しないでくださいよ。聞いてる本人がそんなでどうする。
先程の林堂先輩よりも聞き辛そうに聞いてきたのは、江陰先輩。こういった汚れ役を引き受けるって、いい先輩たちだよな、と思う。
「構いませんよ。私の中ではとっくに整理のついたことですし。聞いてもつまらないとは思いますが」
「いや、大丈夫だよ。 話せるところまででいいから教えてくれる?」
そんな遠慮がちに言わなくてもお教えしますよ。もう覚悟は決めたんだから。シナリオなんて知るか。とことん巻き込んでやる。
そうすればあの死亡フラグも叩き折れるだろう。別の死亡フラグが立ったような気がしないでもないが。
「――私が幼稚園の時に両親が亡くなったあと、私は伯父家族に引き取られました。ぶっちゃけいい暮らしじゃありませんでしたけど、別に気にしてなかったし、誰も気が付かなかったので、そのまま育ちました。
中学に入ったら、一人暮らしをさせられました。そちらの方が気楽だったので、やっぱりそのまま生活していました。
中2のある日、起きたら違和感がありました。頭が痛くて体が重くてだるくて少し動かすのも億劫で。何とか学校に電話をかけて休む旨を伝え、眠ろうとしました。でも、眠ろうとしても眠れず、なんだか体が変だったのを覚えています。
ようやく眠れて、目が覚めたら自分の特能に気が付きました。――伯父は特能が嫌いで特能持ちを同じ人間と見ていなかったので、私がそうだと知られたら殺されると思いました。どこから伯父の耳に入るか分からないので誰にも話さず、しばらく学校を休んで特能に関する文献を漁って、制御する特訓をしました。眠るときも制御できるよう、眠りも浅くなるようにしました。
まぁ結局気絶してバレれてしまったんですけどね。それがここに入ってからでよかったです。
――高校は暁学園に行くつもりはありませんでした。昔、友人の兄に特能持ちが集まるところだと聞いていたので。ですが、伯父はここが全寮制で特能持ちが通う所だと知るや否や、私にここに入るよう言いました。自分が嫌いな者たちは同じ所に集まっていてほしいとでも思ったんでしょうね。そうしたら避けるのが容易になりますから。
抵抗は、しました。ですがまだ幼く、大人の庇護が必要な身。ここ以外を受けることが出来ず、結局ここに入ることになりました。多分彼らは、これから先私が大学を出るまで、関わってくることはないと思います」
ここまで淡々と話し、勢いよく頭を下げる。
「お願いします!彼らには黙っていてください!知られたら本当に殺されてしまいます!」
昔、聞いたことがある。聞いたと言っても立ち聞きだけど。
もし特能持ちが家族にいたら、どうするか。事故を装って殺すか追い出すかする、と言っていた。彼の奥さんも彼の息子も、力強く頷いていた。彼らはやると言ったらやる。もしバレれば、確実に殺られる。
今まで頑張って死亡フラグを折ってきたんだ。こんな所でそれを無駄にされて堪るか。
頭を下げたままの体勢で返事を待つ。
誰も、何も言わない。
頼むから早く返事をしてくれ。上杉志信がまだ固まったまま腰にへばりついているから、重くてたまらないんだ。
まぁ是と聞くまで動くつもりはないが。
「分かった、分かったから頭を上げろ!」
痺れを切らしたかのようにそう言ったのは、雷先生だった。
よし、言質はとったからな。
「ありがとうございます!今ちゃんと聞きましたからね!暁学園は安土美穂の親権者及びその家族に安土美穂の特能について何も話さないと聞きましたからね!」
「そこまで詳しくは言ってないけどな」
「でも今の分かった、はそういう意味でしょう?」
あれ、違うの?違うならまた頭下げるよ。それで駄目なら土下座するよ。
そう言うと、先生は黙ってしまった。他の役員と目を合わせ、頷き合っている。
どうするかについての意思の疎通を図っているんだろうなー。早くしてくれないかなー。今私は駄目だと言われた時のために頭を下げる前の体勢、つまりは中途半端に屈んでいるんだけどなー。
「こほん」
お、結論が出たみたい。
火野先輩がすっごいわざとらしい咳払いをしてから、口を開く。
「生徒会は、お前の親権者及びその家族に対し、お前の特能を一切話さないと誓おう。更に、他の生徒にも箝口令を敷き、学園の外には洩れないように全力を尽くそう」
あら、随分と大盤振る舞いですね。まさかそこまでして頂けるとは。
それについてはもう遅いと思うんだけどねー。人の口に戸は立てられないし、私のクラスメイトが言わなくっても他クラスの子が言っちゃってるかもしれないしね。
伯父は特能に関する情報には敏感だから、すぐに気が付くかもしれない。けれど、彼は私がこの学園にいる間は手を出せない。彼以上の者の子息令嬢の守護のために、情報漏えい防止のためにこの学園のセキュリティは万全なのだ。少なくとも伯父が簡単に手を出せるほど柔ではない。
けれど、大学を卒業したら――それこそどうなるのか考えたくもないね。
そんなどちらかというと的はずれなおまけだけど―――
「ありがとうございます!」
とても、とても嬉しかった。心が少しだけ、軽くなった気分だった。
生徒会役員の優しさが、気遣いが、身に沁みるようだった。
私は本来ここにいちゃいけない存在だけれど。それでも、“私”を肯定してもらえたようで。
だから、私はお礼を言った。その時満面の笑みを浮かべていた、ということには気が付かないまま。
次はとうとうあの人が…!?
タイトルが誤字ってたのでこっそりと直しておきました…。




