事情聴取開始 ―(生徒会役員・)主人公―
第24話
生徒会も出てきますが、絡みは少ないです。
またもや主人公が色々考えるお話。
※一部顔文字が出てきます。メール部分で一か所だけですが、苦手な方はバックをお願いします。
特になんの対策も他の答えも思い浮かばないまま放課後がやってきた。これから生徒会室へ行って事情聴取という名の尋問を受けなければならない。あぁ憂鬱。
生徒会室に向かって廊下を歩いていたとき、メールが届いた。
***
FROM 日比野 歩
TO 安土 美穂
Sub (non title)
本文 生徒会室の前で上杉さん見かけたよ!
今日生徒会行かなきゃって聞いたけど、大丈夫?
***
…え、マジすか。行きたくないよー。とりあえず返信しておく。
***
TO 日比野 歩
Sub Re:
本文 そうなんだ(汗)ありがとう!
でも行かなきゃだし…しょうがないから捕まってくるよ^^;
***
送信っと。
携帯をいじっている間に生徒会室が見えるところまで来た。
うーわーほんとにいるー。ただでさえ憂鬱な尋問がもっと憂鬱になってしまった。最悪。
ていうか歩ちゃんはどうした。
「あ、来た!」
「…」
「待ってたんだ。一緒に行こう」
「…」
一緒に行くも何も、生徒会室は目の前ですけどね。歩ちゃんについて聞こうかと思ったが、その後の反応が面倒だろうからやめた。
私を見つけた上杉志信は、顔を輝かせて駆け寄ってくるとマシンガンの如く話し始めた。
まだ、私も一緒だから怖くないよ、とか、また会えて嬉しい、とか言ってるけど全部無視。生徒会室の扉をノックして、返事を待つ。
…隣の人がうるさいです誰か何とかしてください。
「はーい、どうぞー」
「失礼します」
「失礼しますっ!」
なんであなたもついてくるんですかどっか行ってください。なんであなたの方が緊張してるんですかおかしいですよね。
返事がきたので扉を開け、中に入ったら上杉志信もついてきた。何故かガチガチに緊張している。
そんなに怖いなら来なきゃいいのに。
「上杉さん、どうしたの?」
彼女の監視を担当している江陰先輩が聞いてくる。さっきまでパソコンを使っていたようだから、そこで監視カメラでも使って見ていたのだろう。
この世界の文明は、前世よりも進んでいる。特能持ちの協力で、様々な便利な機器が生み出されている。例えば、前世では夢のまた夢と言われたVRMMORPGとか、蚊並の小ささの自動追跡型監視カメラとか。その監視カメラはネットにつながれており、登録した機器でリアルタイムで映像を見ることができる。
だから、監視と言っても対象の行動に縛られず自由に行動できる。江陰先輩も彼女の監視をしながら作業をしていたのだろう。パソコンの横に書類の山がある。他の役員の机の上にも書類の山が築かれているが、皆手を止めてこっちを向いた。当り前だが生徒会室には顧問を含めた役員全員が揃っていた。
もちろん上杉志信は自身が監視されていることを知らないので、彼女がずっとそこにいたということは知らないという振りなのだろう。いつからいたのかは分からないけれど。
私は今日もほとんど眼操を使っていないのだ。よって、攻略キャラの居場所も分からなかったし主人公がいつ教室に来るかもわからなかった。だが、今日は何故か主人公が一度も来なかったので、もう飽きたのかとほっとしていたのだが――
「あのさ、離れてくれない?」
「やだ!久しぶりに会ったんだもの!かくれんぼも楽しかったけどやっぱり会って話したいよね!」
知らねえよ。やっぱりかくれんぼだと思ってやがったこいつ。ついでに昨日会ったけどね。半ば無理やり。
生徒会室に入って、ソファに座るよう促されたのでそれに従うと、隣というには異様に近い位置に上杉志信も座り、抱き着いてきた。なにがどうしてそうなった。
そもそもなんで彼女が私に懐いているのかが分からない。こんな邪険に扱っているのに。初対面でだって彼女のお願いを聞かずに逃げたし、それ以降も私を探していると知りながら逃げ回っていた。それに関してはかくれんぼだと思っていたみたいだけど、さ。今だってごちゃごちゃ言っている彼女の発言はすべて無視しているし、好感度が上がる要素が見付からないのだが。
「……でね、それから私、」
「うるさい、黙って」
…つい本音が漏れてしまった。だってあまりにも煩いんだもの。しょうがない。
私が上杉志信の話を遮って黙るように言うと、何故か彼女はぱあっと顔を輝かせた。マゾか。マゾなのか。
若干、いやかなり引いていると、それが伝わったのか、弁解を始める。
「へ、返事をしてくれて嬉しかったの!だから引かないでぇ!」
やっぱり彼女の属性はわんこみたいだ。私以外の人に発揮してほしい。正直ウザったい。
しかもこれ返事じゃないし。
「黙ってって言ったよね。五月蠅い。 林堂先輩、そろそろ始めませんか?」
彼女が私にべらべらと話しかけている間、生徒会の面々はぽかーんとして此方を見た後、ある者は不憫そうな眼差しを向け、ある者は面白がり、ある者はとうとう捕まったのかと溜息をついた。
おい最後の奴、お前賭けてたクチだろふざけんな。
「そうですね。そろそろ始めましょうか。 あぁ、上杉さんはそのままで結構ですよ」
「ホントですか!? やったあ!」
お前完全に面白がってるだろ畜生。
いつもの微笑みなのに目が完全に面白がっている。実はこの人表情が豊かすぎるほど豊かなんじゃと最近思い始めた。
「暑苦しいし邪魔だから離れて」
「やだ!」
…わんこなら言うこと聞けや。
まぁこんなことで言い合っていても時間の無駄なので、上杉志信のことは無視することにして昨日起こったことを話し始める。
「昨日は、足りなくなった物を購買で揃えた後、帰ろうとしました。東館を出たところで―――」
生徒会役員も上杉志信も私の話に耳を傾けている。特能については何も言わず、縄についても昨日と同じように説明する。説明をしている間、役員を観察する。私のたどり着いた一つの答え。それが正しいのかどうかを確認したかったからだ。自分から言うのは確認した後でもいい。
とはいえ流石は生徒会役員。簡単には表情や考えていることを読み取らせない。しかも今は私が真面目な話をしているしなあ。どこか他人事のように考えつつ、ふと思いつく。
もしも今ここでコントロールを緩めたら。
そう思って、急いで打ち消す。そんなことしてもしもバレていなかったら。それこそ考えたくもない。
だが、それはとても魅力的な案だった。
特訓を受けた特能持ちは普段から無意識のうちに、色香を周囲に垂れ流さないようコントロールをしている。少なくともこの学園で特訓をした特能持ちはそうらしい。この学園以外に特訓を受けられる場所なんてないような気がするが、それは置いておこう。
けれど私は自分で特訓を積んだ。他の特能持ちと違って無意識にコントロールは出来ないため、常に気を張っている。眠っているときに垂れ流さないようにするために、眠りも浅くした。もし仮に私の出した答えが正しいとすれば、気絶した時は深く眠ってしまったのだろう。
だから、私はほんの少しコントロールを緩めて匂いを発する、という芸当も出来るのだ。恐らくここの生徒は出来ないことだ。
そんなことを考えている間に説明し終えたが、質問攻めにあっているのでまだ考える時間はありそうだった。
「――まだ一週間くらいしか経っていないけど、もう足りないものが出たの?」
「はい。中学から使っているペンのインクが切れたので」
まぁ嘘だけどな。小首を傾げて聞いてきたのは、書記だった。お前らその動作好きだな。似合うけどさ。
先程思い付いた案のどこが魅力的か、疑問に思うかもしれない。確かにリスクも大きいし私の出した答えが間違いで、彼らが今私の匂いに気が付いた場合、非常に厄介なことになると予想される。
だがしかし。だがしかし、だ。今の段階だともともとバレていたという可能性が残念ながらかなり高い。これを実行したところでもともとバレていたのならば特に問題ない。
それに、コントロールを緩めると言っても極僅かに、だ。気が付かないという可能性だってある。反応を見れば気が付いたかいないかは分かるだろうから、彼らの力量の判断材料にもなる。これは、今後の展開に必要になるだろうから、とても大きなメリットだ。
さらに、今後の彼らの動き方の参考にもなる。どうすればこう動く、どうすればああ動くと言ったことを考えるときにサンプルは多ければ多いほどいい。いくら私がゲームで彼らを知っていたとはいえ、それは二次元だ。二次元と三次元では違うことも多々あるだろうし、三次元での情報はまだ少ない。
今のところ、この案を実行した場合、4つのパターンが考えられる。どのパターンかは実行した後に分かるだろう。
1つ目、もともとバレていて、今回も気が付いた。
もともとバレていて何も言われていなかったということは泳がされていたということだ。そう考えると気分は悪いが、納得のいく面もある。彼らの実力も高いということで、今後は少し気を付ける必要があると分かる。気が付いた場合、クラスメイトの態度や特能に関する疑問も解消し、特訓を受けられるという可能性がある。まだ泳がされ続けるという可能性もあるけれど。
2つ目、もともとバレていて、今回は気が付かなかった。
彼らの実力は思ったより高くないということで、そこまで気を使う必要がないということ。泳がされ続けるわけだから胸くそ悪いが、まだ監視は付いていないようだし、こっちが裏をかくことも可能だ。
3つ目、もともとバレてはおらず、今回は気が付いた。
これが一番嫌なパターン。自ら特能をバラしたことになってしまう。彼らの実力も高いと分かるし監視はつくしで今後動きづらくなる可能性大だ。実力が分かる、今後の動向を探る手助けになる、というメリットもあるけど、デメリットの方が大きい。
4つ目、もともとバレてはおらず、今回も気が付かなかった。
これは現状維持なので特に問題はない。動き方の参考にはならないが、それはおまけなので別にいい。彼らの実力もあまり高くはないと分かるし。
まとめて考えると、やはりこの案は魅力的に思えてきた。なにより今の状況はもやもやとしたものが多すぎて嫌だ。ここは実行してしまおう。
さて、どうなるかな?
主人公、流されまくりです。




