朝の食堂 ―会計―
第19話
会計との絡み!会計と顧問びいきですが何か!(オイ
感想、ありがとうござます!励みになります><*
1/22 最後の部分、改稿しました。
入学から7日目。
主人公が男子生徒に攫われる日。
そして、私が雷先生とちょっとした事故があったり、そのすぐ後に伊山君がいたずらを仕掛けてきたりした翌日。
制服に着替えた後いつも通りの時間に朝食を取りに食堂に来ていた。そこで、ばったり伊山君に会ってしまった。まだ少し不安が残るため、今日も昨日に引き続きなるべく特能を使わないようにしようと決心したすぐ後のことだった。畜生キャラの場所の把握くらいしておけばよかった!
どうしてここにいるんだ、とか。いつもはもっと遅い時間のはずじゃなかったのか、とか。低血圧のくせになんでこの時間に起きてるんだ、とか。聞きたいことやら言いたいことやらは沢山あったけど、ひとまず挨拶をしておく。
「おはよう、伊山君」
「んー、みーちゃん、おはよー…」
まだそのあだ名で呼ぶか。やめろと言ったのに。どうせ言っても聞かないだろうから、駄目元だったのだけど。
眼をこすりながら眠そうに言う伊山君は本当に可愛らしかった。少なくとも私よりは。
そう思って、整った顔をじっと見ていた。そんなことしてたらやってしまった。
「どうしたのー…?」
「いや、伊山君は可愛い外見をしてるなーって思って」
や っ ち ま っ た よ !
彼は外見をこういう風に言われるのが嫌いなのだ。あーあ、また機嫌が悪くなるに違いない。ゲームでも選択肢の一つとしてこんな感じの台詞が出てきたが、総じて好感度が下がっていた覚えがある。
中学生の時は鮮明に覚えていたのに、最近になってところどころ靄がかかったように思い出せないことがあるから、確かかどうかは分からないけれど。
「ふーん…。君も、僕を女の子見たいって言うんだ。ふーん…」
「ん?別に女の子みたいじゃないよ。中身は」
「ってことは外見は女の子みたいなんだ。へぇ~…」
「えーっと、ほら、少なくとも私よりは圧倒的に可愛いじゃん」
笑顔でつぶやき始めたので、後で何倍返しにされるのかが怖くてフォローしておく。
それはどうやら失敗に終わったらしい、ということは次の伊山君の反応で分かった。
「ま、そりゃそうなんだけどね。いいよ、女の子だなんて思えないようにしてあげるから」
その笑顔はなんだか我らが副会長サマに通ずるものがあってすごく背筋が冷えます。やめてほしいです。
さりげなく失礼なことを言った伊山君は、かがんで私に顔を近づけたかと思うと、またもや私の頬に口を寄せてきた。
「~~~っ!なにするのさ、昨日から!」
「無防備なのが悪いんだよーっだ」
頬に熱が集まるのを感じながら抗議する。いたずらっぽい笑顔で、生意気そうにそう言った伊山君は全然可愛くなかった。
「どう?これで僕のこと可愛いなんて言えなくなったでしょ?」
「~~~っ、そうだねっ」
首を少しかしげてにやにやと笑いながら言う伊山君は、相当意地が悪い。そんな彼に苛ついて顔をそむけて歩き出せば、なぜか付いてきた。
でもこれですっかり彼の機嫌は直ったようで、忘れたころに報復をされる、なんてことにはならないだろうと安心した。許しはしていないけど。
「なんで付いてくるの?私、一人で食べたいんだけど」
食堂のおばちゃんにトレーを貰って席に着こうとしてもまだ付いてきていたのでそう言って言外に邪魔だと匂わす。
「一緒に食べようと思ってー」
「は?嫌だし」
「なんでー?」
「いや、そっちこそなんで私なの。他にも君と一緒に食べたい子はいるでしょ。そっち行きなよ」
「んー、僕、この時間にはいつもはこないから、僕のファンの子いないんだよねー」
「……そう。じゃ、一人で食べれば」
「えー、そんなの寂しいじゃんー」
それが通常ですがなにか。
確かに伊山君のファンの子たちは食堂にはいなかった。というか、今の食堂には私たちを含めて数人しかいない。
確かに一人で食べるのは少し寂しいが、慣れてしまえばそんなものである。第一、他の人たちも皆一人で食べているのだ。ほら、一種の連帯感だよ。自分だけ一人なら恥ずかしいし寂しいけど他にも一人の人がいたら大丈夫な気がしてくるっていうやつ。
まぁ伊山君はいつも彼の友達と一緒に、いない時はファンの子と一緒に食べているようなので、寂しいと思う気持ちは分からなくもないが。
「ね、一緒に食べよ?」
「…はぁ。分かったよ」
「わぁい!ありがとう!」
窓際でカーテンが閉まっていて、柱の陰になる席にトレーを置いたら再度聞かれたのでしぶしぶと了承の返事をする。すると抱き着かれそうになったので、彼の顔に手を置いて動きを止め、回避した。伊山君の身長は私と同じくらいなのだ。私の頭からほんの少し出るくらい。
ちっちゃいなー、とか思っていたら睨まれてしまった。なんでばれた。
今度こそ接触回避成功。本当に油断のならない野郎だな。なにも私みたいなのに抱き着かなくてもいくらでも可愛い子はいるだろうに。
そう思ったが、口に出すような愚かな真似は今度こそしなかった。
「ん、美味しいねー!」
「…そうだね」
真正面からこっちを向いて満面の笑みで言った伊山君。私が彼のファンだったら狂喜乱舞するところなのかね。
こっちはいつあなたの友人もしくはファンの方々がやってくるかが気になって、味わうどころじゃないってのに。
こいつの友人は、私のクラスの男子も含まれているのだ。こいつと一緒にいるところを目撃されるのは非常によろしくない。まぁ既に目撃者は数名いるわけだからいずれ今日のことは知られるだろうが、目撃者は少なければ少ないほどいい。
「ね、その黒ごまプリン、美味しそうだね。ちょっと交換しない?」
「別にいいけど…」
またも首を少しかしげて伊山君が聞いてきた。こいつのこのポーズはデフォルトなのかそうなのか。
正直私も彼のココナッツプリンが気になっていたところだったので承諾すると、彼が自分のスプーンでココナッツプリンをすくって私の口の前に寄せてきた。
…どうしろと。
「はい、どーぞ」
にこにこ笑いながら言う彼に邪気はなく、本当にあげようとしているだけのようだ。
仕方がないのでぱくっと食べる。
「ん、美味しい。ありがとう」
「いーえどういたしましてー。ん」
思ったよりも美味しく、濃厚でとろけるような味に頬を綻ばせて言えば、口を開けてこっちに向けられる。
…私にもやれと、そういうことですね。
相手が攻略キャラでなければ、というか面倒なことに巻き込まれそうになければ特に躊躇いはないのでだが、生憎彼は攻略キャラでたくさんのファンがいて、面倒事もわんさかおきそうである。
でもたぶんこいつは私がやらなければいつまでもネチネチと攻撃してくるだろうから、自分のプリンをすくって勢いよく彼の口に突っ込んだ。
「美味しいねー。ありがとう」
「どういたしまして」
にっこり笑って何事もなかったかのように言う彼を見て、色々と考えた自分がバカみたいだと思った。
考えていたのはこれを見られていた場合に後々起こるであろう面倒事についてだが。
「ごちそう様でした」
「ごちそうさまでしたー」
二人とも食べ終えてトレーを片付ける際、伊山君がさりげなく私の分も片付けてくれたのに驚いた。意外と紳士だなあ、と思ったのは秘密だ。
「ありがとう。じゃあ、私もう行くね」
「うん、また学校で!明日もこの時間に会えるといいねー」
少し頭を下げてから行こうとすると、手を大きく振られてそう言われた。そろそろ人が集まりそうな時間なので止めてほしいです。
二度とこの時間に来てたまるか!と思ったが、どうせ彼の気まぐれだろ、と思いなおし、明日は今日みたいに変な気まぐれを起こしませんように!と祈っておいた。
「間接キス…あぁもう、なんであんなに無防備なのかなぁ……」
私が完全に伊山君から見えなくなった頃、彼はしゃがみこみ口を押えて、小さく呟いた。
それを見た彼の友人が言うに、その耳の色は真っ赤だったとか―――
お前からやったんだろ!という突っ込みは置いておいてください^^;
会計は主人公が挙動不審になるのを期待したんです、きっと。




