保健室の先生代理
第12話
顧問の苦悩のお話。
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みなさんいつもこんな小説を見てくださってありがとうございます!!
「……寝たか」
授業もなく自分の準備室で暇にしていたのも幸いし、体育の授業中に倒れたという生徒を心配して駆けつけてみれば、そこにいたのは特能持ちではないかと疑っていた生徒だった。
名前は安土美穂、分厚い眼鏡をかけ髪を後ろで一つに縛っていて化粧っ気もなく、地味な装いをしているし、雰囲気も目立たないものだ。だが、入学初日のHRで俺のからかいを一刀両断してからは少なくともクラス中に顔と名前は知れ渡った。
本人は目立つことを嫌っているようだが、A組の外部生で色々な意味で注目を集める上杉が安土を探し回っていることもあり、かなり目立っている。
しかも本人は上杉が来たときにはいつの間にかその場からいなくなっており、いまだに見つかっていないというのも注目を浴びている要因の一つだ。
とはいえ本人の雰囲気自体は目立たないため、名前だけが独り歩きをしている状態だが。
入学初日のHRでの自己紹介時に、その安土から特能持ち特有の香りが微かにした。
高校からの外部生で、上杉のように後天的な特能持ちだという報告は来ていないので、可能性としては二つ。
一つ目は強い特能持ちと一緒に長い間暮らしており、その香りが移ってしまったということ。
外部生は全員、それまでの経歴を調べられる。どこに住んでいたか、誰と暮らしているか、どんな生活を送っていたか、どんな評判だったかまで。
安土は中学では一人暮らしをしており、周りに特能持ちはいなかったという報告は来ているし、そもそも特能持ちは暁学園に集まっている。社会人ならば自由に行動できるが、香りが一般人に移るほどの強い特能持ちは常に居場所を把握されているため、この可能性はほとんどない。
その強い特能持ちがそもそも申請していなければ話は違うが、それならばなぜ自身の特能がばれるリスクを冒してまで安土をこの暁学園に入学させたのかが分からない。
安土に両親はおらず、伯父夫婦が保証人兼保護者役だそうだが、この伯父の家族更に家系には特能持ちはいない上に2年間ほど安土とは会っていないらしい。
また、香りが移っている場合はずっと香っているものだが、安土は一瞬香っただけですぐに消えてしまったので、可能性は皆無だ。
二つ目は、安土本人が特能持ちであること。こっちの可能性はかなり高い。当り前だけどな。
この場合は、安土本人が自身がかなり弱い特能持ちだと気付いておらず、コントロールができていないために微かに香りを周囲に発している場合と、安土本人が自身が特能持ちだと気付いたうえでコントロールし、申請していない場合とが考えられる。
後者だとしたら、その時はたまたまコントロールが緩んでいたんだろう。
俺は前者だと思っていたかったんだが…どうやら違ったらしい。
今熟睡しているらしい安土は、周囲にありえない濃さの香りを発している。
俺が在学当時に生徒会を務める程度には強い特能持ちでよかった、と今ほど感謝したことは無い。正直長時間は持ちそうにないが、これが一般人だったら…と思うとぞっとする。
生徒会の奴らにはまだ隠しておきたかったんだが…バレただろうな。確実に。
あいつらは歴代最高、とまではいかないがこれまでの生徒会の中でも優秀な奴らだ。気が付かないわけがない。もっとも、あいつらがこれにずっと耐えられるかは分からないが。
「ちょっと、なんスかこれ」
「あぁ、いたのか…。ってまた授業さぼってんのかお前は」
「まぁまぁ、今はそんな硬いこと言わないで」
「…はぁ、まあいい」
「で、これが例のていほーセンセのクラスの特能持ち?」
「恐らくな」
「いや、ほぼ確実にそうッスよね。こんだけ強い特能…よくコントロールできるなぁ」
「お前も十分強いだろ」
「いやー、オレのはこんなに強くないッスよ。これの半分いってるかどうかすら怪しいッスね」
「…たぶん複数の特能持ちだろうな」
「それもかなり強いヤツ?」
「だろうな」
しかめっ面をして安土が寝ていたベッドの奥のベッドからカーテンを開けて出てきたのは、先程思い浮かべた生徒会奴らのうち、書記の水地疾風だった。こいつらしくない顔をしていたのは一瞬のことで、すぐにいつものへらへらとした顔に戻ったが。
こいつはよく仕事と授業をさぼっているらしいから、今回もそうなんだろう。
直江も追いだしておけばいいのに。
「うわー、オレ、帰りますね。長時間は耐えられそうにないッスから」
「待て。今他の奴らは生徒会室か?」
「あー、たぶんそうッスよ。休憩っていってたから抜け出してきたんで、そろそろ他の人たちも帰ってると思います」
「そうか。なら、あいつらにも伝えておいてくれ。対策を至急、と」
「りょーかいッス。じゃ」
「あぁ、よろしくな」
生徒会の奴らに対策を練るよう伝言を託し、会計を送り出した。
まだ耐えられそうだが、と思ったが、安土が保健室に来たときは気絶をしていたそうなので、その時もこの香りを浴びていたのだろう。
さて、どうしたものか
起きているときは一切香りがしないから、普段の安土のコントロールは完璧なんだろう。
安土の寮の部屋は一般人の部屋なので、眠るときにいつもこうなるなら既に問題が起こっているはずだが…そういう話を聞かないし、いつもはもっと眠りが浅いんだろうと予測できる。
今はそれほど疲れているのか、それとも特能を使いすぎたのか。
「なんにせよ上杉と一緒に訓練を受けさせる必要はなさそうだな」
起きてるときは完璧だから。
寝ているときのコントロールの仕方も心得ているようだが、普段の眠りが浅いかなんかで熟睡しているときのコントロールまではできていないんだろう。
倒れたときには既に香りを発していただろうから、クラスの奴らは知っているな。よく耐えられたもんだ。
安土は起きていたときには普段通りだったから、バレていることを知らないだろうな。
とりあえず、そろそろ起こそう。俺もきつくなってくる頃だろうから。
寝乱れてほどけかけた髪とか、少し胸元がはだけていて見える鎖骨とか、汗のにじんだ白い首筋とかに目が行き、くらくらしてしまう。それはこの香りを浴びているからだ。決して俺がロリコンだからじゃない。
「おい、安土、起きろ」
…起きない。仕方ない、触れるのはヤバそうだが、短時間なら大丈夫だろ。揺らすか。
「おい、起きろ!」
「んぅー、あとちょっと…」
「おい!寝るな!起ーきーろー!」
「…なんですかうるさいなぁ。起きます起きますよ起きますともええはい」
「起きますの三段活用とかいいから!低血圧だなおい!」
「気持ちよくぐっすり寝ていたところをわさわさと揺らしてまで起こしたんです、我慢してくださいこれぐらい」
無理やり揺すって起こした安土は、瞬く間に香りを消してこちらをじっと睨んできた。口をせわしなく動かす間にぱぱっと身なりを整えていた。
いやもう少しで気持ちよく寝るどころじゃなくなりそうだから起こしたんだが。そんな半眼で睨まれても。
「それにしても、流石だな」
「は?なんて言いました?」
「それにしてもよく寝ていたな、と言ったんだ」
「あぁ…疲れていたんでしょうね。最近睡眠時間が短いものですから」
「確か15科目分の予習やってたんだっけか?」
「はい。…これからは何日かに分けてやろうと思います」
「って今までは毎日やってたのか!?」
「?だからそう言ってるじゃないですか?」
「…はぁ、もういい。とにかく、無茶はしすぎるなよ。毎日15科目やったって体壊したら意味ないからな」
「…はーい」
流石、普段は一般人と変わらないだけあってあっという間に香りを霧散させたな、という意味で言ったが、ごまかした。バレてないと思っているならそのままにして泳がせた方がいい。
それにしても…バカなのかこいつは?
てっきりこの6日間で15科目分の予習をやっていたのかと思ったが、毎日15科目やっていたようだ。そりゃ体調も崩すわ。阿呆め。
しかも俺がわざわざ心配して言ってやってるのに、なんでそんな後ろめたそうな顔をしてるんだ。
さては嘘か。嘘なんだな。それか、それも本当だけど直接の原因じゃないんだな。
「…もう大丈夫ですから、教室に帰りますね」
「ん?もういいのか?」
大分顔色の良くなってはいるが、まだ少しふらついている。
過労で倒れた、ということは事実なはずなので、一応心配はしている。
さっきは明らかに無茶してます、って感じだったから止めたが、今回はぐっすり眠ったのがよかったのか顔色もよくなってるし、大丈夫という言葉に嘘はないだろうが。
「えぇ、おかげさまでぴんぴんしてます」
「それは死にかけたときに言う言葉だぞ。…これからは気を付けろよ」
「…はい、ご心配をおかけしました。失礼します」
反省した様子で頭を少し下げてから安土が出て行った。
しばらくして、完全に足音が聞こえなくなる。
あいつも行ったことだし、俺がここにいる意味はない。
生徒会室へ行ってあいつらと一緒に対策を練るか。
手を出さなかったのは流石というかなんというか。
いつの間にか主人公が予想以上のチートに…!Σ




