カラスの恋
しょうもない雑文だが。構造はわりと気に入っている。何かに生かせないだろうか。
とある喫茶店。私はアールグレイを口に運ぶ。独特な香りと茶の渋みが口に広がる。携帯電話が鳴った。ディスプレイには彼氏の名前。私は電源を切り机に置いた。カラスのストラップが揺れる。
「今日、彼氏と別れたの」
目の前の男に私は話しかけた。彼は私のいい友達だ。今日も急な呼びだしにもかかわらず駆けつけてきてくれた。こうして話も聞いてくれる。
彼氏と別れたのはついさっきだった。原因は彼氏の浮気だ。三ヶ月前、私は街を歩く男女を見た。男はもちろん私の彼氏。女は私の親友だった。二人は仲良く並んで歩いていった。私は尾行する気にもなれず二人を見送った。
私は吐き気をこらえながら家に戻った。軽いパニック状態になり、近くに住んでいる彼の友達を呼ぶことにした。目の前の彼とは違う男だ。事情を話すとすぐに来てくれた。私はなぜか大泣きした。まだ彼氏に未練があったのかもしれない。いやあったのだ。そんな私の話をはやさしく聞いてくれた。彼もつい最近彼女と別れたばかりだという。彼女の浮気によって。
私たちはその夜、互いの傷をなめあった。私の中の彼氏が消えたような気がした。
数日後、彼氏が私の家を訪れた。手にプレゼントを持って。その日は私たちが始めて付き合った記念日だった。そのプレゼントだった。私の親友にプレゼント選びを手伝ってもらったらしい。あの日見た二人は私のプレゼントを選んでいたのだ。
私の勘違いだったのだ。しかしあの日の記憶は消えない。私の中で消えた彼と、生まれた彼。どうすればいいのかわからないまま時がたち、とうとうそのときが来た。
私と彼の親友の関係が明るみに出たのだ。
彼氏は困惑していた。しかし、勘違いの原因が自分あると気づいたとき。私を許してくれた。
しかし彼の親友が忘れることができなかった私はそれからも会い続け、そしてついさっき正式に彼氏と別れた。
「……というわけなの」
「……」
目の前の彼は黙って目を落とす。
私も同時に携帯電話に目を落とした。カラスのストラップが目に入る。彼氏があの日プレゼントしてくれたものだ。今では私と彼をつなぐ唯一のものだ。わたしはストラップと外そうとした。
「カラスね……知ってる? カラスは一夫一婦制なんだ。基本的に生涯に一羽としか交際しないんだよ。仲のいい夫婦をおしどり夫婦って言うけどオシドリは結構ペアを変えるんだよね。つまりオシドリよりカラスのほうが貞操観念が強いんだ。これで僕が何を言わんとしているか察してくれると助かるんだけど」
私は愕然とした。プレゼントにカラスのストラップなんて変だと思ったがそんな意味があったなんて。同時に彼氏の愛情がストラップからにじみ出てきたように見えた。目の前が涙で歪む。私は後悔にくれた。
「……驚きだろ?」
「グスッ……何が?」
「人間より理性的な動物がいるなんてさ」