2条―モナリザおじさん
グルコース堤下は平静を取り戻してあたりを見回すと、どうやら彼だけがこの空間に閉じ込められているようだった。
彼はグルコースを口にくわえると、火をつけることも忘れてすさまじい思考力を発揮した。そして体内のグルコースが彼の脳神経を最大限に発奮させた瞬間、彼は悟った。
「丸山は実刑をくらったようだ…」
そうまたしても話の本編はこの異空間ではなかったのだ!
赤の組織によってまんまとお縄にかかったポイズン丸山はまさにこの時、司法の拳にきつい一発をお見舞いされていた。
「はなせ!俺は無実だ!」
よくあるセリフを吐きながら丸山は故郷を思った。
-ああ、許してくれお静。私は決して義にそむく行いはしていない。君に約束したあの日から、天に誓ってだ…
剛腕の刑務官にねじ伏せられながら、薄れゆく意識の中で丸山はお静のことを思った。彼の妻であったひとであり、今は彼岸の果てから彼を見守るだけの存在となった女性だ。
お静
お前には苦労をかけたな
私が大志のためと言って家庭を顧みず
それゆえにお前につらく当たったこともあった
あれは三月のはじめ
まだ子供だったお前と私の初めてのデートを
覚えているだろうか
私はお前の小さな手を引き
幸せにするからと幼いながらに愛を告白した
お前がだまってうなずき
触れれば折れそうなその首筋を紅く染めた
その日から私にはお前だけだった…
目を覚ますと丸山の両手両足には金属の枷がしてあり、猿轡をはめられた苦悶の丸山を一人の刑務官が檻の外から見下ろしていた。深い顔の彫りに炯炯と光るその目に見つめられた丸山は、不思議と敵意の念を覚えなかった。
その男、刑務所では一、二を争う剛腕。
名はジャスティス佐原。
その苛烈な肉体には百戦錬磨の格闘家でさえ舌を巻くほどの豪気がほとばしり、あまりの威風に近寄るものは少なし。
丸山は瞬間、この男に賭けるほかはないと悟った。
二人の間には時が止まったかと思われるほどの長い沈黙と、そして対話があった。
フルチン男丸山に明日はあるのか。
つづく




