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1条―雪の結晶は女の友情のようだね

 グルコース堤下が目を覚ますと雪山だった。


 「またかよ……」

 彼はつぶやくとつまらなそうにあくびをし、首をもたげて嘆息した。

 世界の名だたるアナリストも舌を巻くトップアナリストである彼にとって、このような事態は珍しいことではないのだ。なにしろ世界の半分の経済の半分は彼の分析をもとに動いているというのだから尋常ではない。彼が白と言えば黒いしげるも白いしげるに早変わりというありさまである。


 幸いにも彼が目覚めたのは洞窟の中で、吹雪が強烈に山肌をさらう空の下には投げ出されずに済んだ。誰の仕業か知らないが、現代科学を最大限に駆使して彼を抹殺しようという企てはしばしば彼を悩ませてきた。そのたびに彼の専属マネージャーであるポイズン丸山が対処してきたのだが、今回のように丸山ですら手に負えないこともある。

 

 「僕を出しぬける経済スナイパーは世界にそう多くはない」

 そう言って丸山はどうしてもマネージャーの人員を増やそうとはしなかった。

 一度など堤下の屋敷に爆弾をもった侵入者を許してしまった時には、町内会から丸山を外せ、丸山を外せと猛烈に非難されたほどだ。


 堤下は薄暗い洞窟を見渡したが、丸山はみつからない。こういう事態に陥るといつも丸山は、シャーロックホームズのワトソン然としてふるまい、そのでしゃばりようはなまなかのものではない。しかし丸山はいなかった。

 

 堤下はとりあえず空腹を抑えるべくふところにしのばせたグルコースを摂取した。グルコースが体を駆け巡ると彼の本領が発揮される。グルコースがエネルギーとなり、彼のアナリズムが最大限に高まった時彼は悟った。

 「丸山は死んだか……」


 そう、丸山は死んでいた。彼は今回雪山に飛ばされることもなく、常日頃彼を恨んでいた町内会の何者に毒殺されていた。

 ポイズン丸山はこうして95年の短い生涯を終えた。


 「犯人は絶対に見つけ出してやる……」

 グルコース堤下は誓った。しかしまず雪山から降りねばならない。

 次回、ポイズン丸山を殺した犯人を追う。


 つづく

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