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ねみみに水の吸血樹  作者: 沙φ亜竜
第2章 ねみみに酒は危険です!
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-2-

「遅かったわね」


 屋上へと出るドアに寄りかかり、松園寺冬野が腕を組んで友樹を見下ろす。

 冬野の横には、間唯、大和田幸緒、坂本美春の三人が控えていた。

 思いっきりデジャブを感じる、この状況。


 友樹は机に入れられた封筒に気づき、中の手紙に書かれていたとおり、この屋上へと続く階段を上ってきた。

 数日前とまったく同じ展開に、友樹も少々怖気づいていた。

 とはいえ、行かなかったら余計にひどいことをされてしまうかもしれない。

 結局そういう結論に達し、友樹は素直にここまで来たのだった。


「な……なにか用、ですか……?」


 やっぱり敬語になってしまう友樹。


「なにか用ですか、だって! あはは!」

「ほんと、あんたって暗いよね~」

「クラスの雰囲気を壊してるのよ、あんたの存在が」


 取り巻きの三人が、罵声を投げかける。


「ごめんなさい……」


 ついつい謝ってしまいながら、友樹は「あれ?」と疑問符を浮かべていた。

 その疑問符は、続けられた美春の言葉によって、さらに大きくなる。


「謝って済むんなら、警察はいらないっての!」


 友樹の腕をつかんで引き寄せる美春。


「きゃっ……!」


 階段の上へと引っ張られた友樹は、思わず悲鳴を上げていた。

 待ち構えていたように両手を広げる幸緒が友樹の背後に迫り、背中から羽交い絞めにする。


「大声出しちゃ、ダメだからね」


 そう威圧をかけてくる冬野のセリフまで同じ。


(これ、どうなってるの……? それに、このあとボクは……)


 なにをされることになるか想像して、友樹は青ざめる。

 だが、その想像どおりの展開は訪れなかった。


「ねえ、仲良さん。あなた、笹雨くんと、その……つき合ってるの?」


 心なしか頬を染めながら、冬野は友樹にそう尋ねた。


「……ほへ?」


 このあいだと同じように、背後の幸緒がセーラー服の中に手を入れてくるのではないかと考え、ぐっと力を込めて身構えていた友樹は、思わず意味のわからない返しをしてしまう。


「だから、その……あなたと蛍風笹雨くんは、クラスの男子が言ってたように、本当におつき合いしてるのかって、訊いてるのよ!」

「え……、え~っと……。べつに、つき合ったりなんて、してないですよ……? それどころか、お話したことすら、ないし……」

「ほ……本当ね!?」


 友樹の言葉に、語気を荒くして確認を促す。


「う……うん」


 冬野のあまりの勢いに圧されながらも、友樹はどうにか頷き返した。


(でも、どうして松園寺さんは、そんなことを気にしてるんだろう?)


 普通に考えれば、すぐひとつの結論にたどり着きそうなものだが、友樹は激しく鈍感だった。


「い……言っとくけど、笹雨くんはあたしの幼馴染みだから心配してるだけなんだからね! それだけなんだから!」


 頬の赤さを増しながら、上ずった声を飛ばす冬野。

 そんな冬野の様子を見てもなお、どうしてなのかと首をかしげているあたり、友樹の鈍感さの度合いがいかに凄まじいかを物語っている。

 取り巻きの三人は、少々苦笑まじりではあるものの、温かな視線を冬野に向けながら成り行きを見守っていた。


「と……とにかく! あんたを呼び出してこんなことを言ったなんて、誰にも言っちゃだめだからね! それと、笹雨くんに近づいたりしたら、承知しないから!」


 冬野はそう言い捨てると、取り巻きを従えて階段を下りて去ろうとする。

 その背中に、友樹は声をかけた。


「あ……あの! このあいだここに呼び出されたときのこと、ボクは喋ったりしてないです」


 だから、今回も喋ったりはしません。そういう意味を込めて、友樹は言ったのだが。


「は? このあいだって、なによ?」

「ここに呼び出されたって、前にもそんなことしてたの?」

「え~? わたしはしてないよ?」

「……あたしも、そんな記憶はないけど」


 冬野たち四人は顔を見合わせて、怪訝そうに首を横に振る。

 やがて友樹のほうに向き直ると、


「仲良さん、あなた、幻覚でも見てたんじゃないの?」

「なによ、この子。こわ~い!」

「早く行こう。変なのがうつっちゃうよ」


 口々に怯えの声を吐き捨て、彼女たちはその場から逃げるように去っていった。


(……いったい、どうなってるの……?)


 ひとり残された友樹は、混乱で頭がいっぱいになっていた。


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