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「遅かったわね」
屋上へと出るドアに寄りかかり、松園寺冬野が腕を組んで友樹を見下ろす。
冬野の横には、間唯、大和田幸緒、坂本美春の三人が控えていた。
思いっきりデジャブを感じる、この状況。
友樹は机に入れられた封筒に気づき、中の手紙に書かれていたとおり、この屋上へと続く階段を上ってきた。
数日前とまったく同じ展開に、友樹も少々怖気づいていた。
とはいえ、行かなかったら余計にひどいことをされてしまうかもしれない。
結局そういう結論に達し、友樹は素直にここまで来たのだった。
「な……なにか用、ですか……?」
やっぱり敬語になってしまう友樹。
「なにか用ですか、だって! あはは!」
「ほんと、あんたって暗いよね~」
「クラスの雰囲気を壊してるのよ、あんたの存在が」
取り巻きの三人が、罵声を投げかける。
「ごめんなさい……」
ついつい謝ってしまいながら、友樹は「あれ?」と疑問符を浮かべていた。
その疑問符は、続けられた美春の言葉によって、さらに大きくなる。
「謝って済むんなら、警察はいらないっての!」
友樹の腕をつかんで引き寄せる美春。
「きゃっ……!」
階段の上へと引っ張られた友樹は、思わず悲鳴を上げていた。
待ち構えていたように両手を広げる幸緒が友樹の背後に迫り、背中から羽交い絞めにする。
「大声出しちゃ、ダメだからね」
そう威圧をかけてくる冬野のセリフまで同じ。
(これ、どうなってるの……? それに、このあとボクは……)
なにをされることになるか想像して、友樹は青ざめる。
だが、その想像どおりの展開は訪れなかった。
「ねえ、仲良さん。あなた、笹雨くんと、その……つき合ってるの?」
心なしか頬を染めながら、冬野は友樹にそう尋ねた。
「……ほへ?」
このあいだと同じように、背後の幸緒がセーラー服の中に手を入れてくるのではないかと考え、ぐっと力を込めて身構えていた友樹は、思わず意味のわからない返しをしてしまう。
「だから、その……あなたと蛍風笹雨くんは、クラスの男子が言ってたように、本当におつき合いしてるのかって、訊いてるのよ!」
「え……、え~っと……。べつに、つき合ったりなんて、してないですよ……? それどころか、お話したことすら、ないし……」
「ほ……本当ね!?」
友樹の言葉に、語気を荒くして確認を促す。
「う……うん」
冬野のあまりの勢いに圧されながらも、友樹はどうにか頷き返した。
(でも、どうして松園寺さんは、そんなことを気にしてるんだろう?)
普通に考えれば、すぐひとつの結論にたどり着きそうなものだが、友樹は激しく鈍感だった。
「い……言っとくけど、笹雨くんはあたしの幼馴染みだから心配してるだけなんだからね! それだけなんだから!」
頬の赤さを増しながら、上ずった声を飛ばす冬野。
そんな冬野の様子を見てもなお、どうしてなのかと首をかしげているあたり、友樹の鈍感さの度合いがいかに凄まじいかを物語っている。
取り巻きの三人は、少々苦笑まじりではあるものの、温かな視線を冬野に向けながら成り行きを見守っていた。
「と……とにかく! あんたを呼び出してこんなことを言ったなんて、誰にも言っちゃだめだからね! それと、笹雨くんに近づいたりしたら、承知しないから!」
冬野はそう言い捨てると、取り巻きを従えて階段を下りて去ろうとする。
その背中に、友樹は声をかけた。
「あ……あの! このあいだここに呼び出されたときのこと、ボクは喋ったりしてないです」
だから、今回も喋ったりはしません。そういう意味を込めて、友樹は言ったのだが。
「は? このあいだって、なによ?」
「ここに呼び出されたって、前にもそんなことしてたの?」
「え~? わたしはしてないよ?」
「……あたしも、そんな記憶はないけど」
冬野たち四人は顔を見合わせて、怪訝そうに首を横に振る。
やがて友樹のほうに向き直ると、
「仲良さん、あなた、幻覚でも見てたんじゃないの?」
「なによ、この子。こわ~い!」
「早く行こう。変なのがうつっちゃうよ」
口々に怯えの声を吐き捨て、彼女たちはその場から逃げるように去っていった。
(……いったい、どうなってるの……?)
ひとり残された友樹は、混乱で頭がいっぱいになっていた。