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ねみみに水の吸血樹  作者: 沙φ亜竜
第3章 ねみみの声に月夜の涙……
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-4-

 休み時間のたびに、友樹をからかいに来る優助たちや、ねみみとお喋りしに来るクラスメイトで、ふたりの席の周辺は騒がしいことが多かった。

 だが、たまにまったく誰も来ない静かなときもある。

 クラスメイトにもそれぞれ用事などはあるのだから、そんなものだろう。


 優助たちにしても、いつでも女子にばかりちょっかいを出していると、男子から白い目で見られるという理由もあった。

 もっとも、ねみみに群がる生徒たちは、彼女の精霊の力とやらで可愛い妹のように扱っているだけなのだから、たまには静かに過ごしたいと思ったねみみ本人が、誰も近づかないように調整しているのかもしれないが。


「ねぇ、友樹ちゃん。ウチ、お水飲みたいですのん」


 不意にねみみが、友樹にそうお願いしてきた。


「え? うん、わかった」


 ねみみからグラスを受け取ると、友樹は素直に水飲み場へと向かう。

 グラスに水を注ぎながら、友樹は少々心配になっていた。

 ねみみの声に、いつものような元気がまったく感じられなかったからだ。


「はい、ねみみちゃん。持ってきたよ」

「うん……ありがとう」


 覇気のない声でお礼を述べ、ねみみは水をのどに流し込む。

 そんなねみみの様子に、友樹は思わず心配の声をかけていた。


「どうかしたの? 大丈夫?」

「ん……大丈夫ですのん。でも、友樹ちゃんこそ、大丈夫です?」

「え? ボクは、べつに……今は大丈夫だけど」


 急に自分のことを訊かれて、友樹はちょっと驚く。


「そうですか? 男子たちに、からかわれたりしてますですよ?」

「ん~、でも蛍風くんたちのは、そんなに嫌なわけじゃ……。って、べつに、蛍風くんのことを、どうこう思ってるわけじゃないからね!?」


 ほのかに赤くなり、ぱたぱたと両手を振りながら、友樹は否定の声を上げる。

 ねみみはそんな友樹に対し、根掘り葉掘りといった様子でさらに質問攻めを続けた。


「あは、わかってますです。でも、それじゃあ、松園寺さんたちはどうですのん? たまに、黒い波動のようなものを感じるんですねんけど」


(……松園寺さんたちのこと、気づいてはいるんだ……。いつもねみみちゃんのいないときに呼び出されるし、最近は呼び出されて戻ってきても、ねみみちゃん、教室にいないことが多いのに……)


 友樹は若干眉をひそめて、そんなことを考えてしまう。

 しかし、


「うん……。ちょっと、その、意地悪なこと言われたりとかはあるけど……。でも、大丈夫、だよ……?」


 嘘をついていることになるかもしれない、といった思いが働いたのか少々言葉に詰まってしまってはいたものの、友樹はねみみの質問にしっかりと答えていた。


「そうですのねん。……友樹ちゃんは、強いですのん」

「強くなんてないよ……。でも、ねみみちゃん、ほんとにどうしたの? 具合でも悪い? あっ、もしかして、このあいだのお酒がまだ残ってるとか?」


 弱気な口調のねみみに、心底心配している様子で言葉をかける友樹。


「それはもう、大丈夫だと思いますのん。ちょっと、いろいろ考えてしまっていただけですねん。気にしないで」


 そう言って笑顔を浮かべるねみみではあったが、その表情はとても弱々しく思え、友樹はどうしても心配の念を消し去ることができなかった。



 ☆☆☆☆☆



「ど~~~ん!」

「わっ、やめろよっ!」

「きゃあ!」


 しんみりした雰囲気をぶち壊す侵入者が突撃してきたのは、そんなときだった。

 いつもどおりといった感じではあるが、優助が笹雨を友樹のほうへと突き飛ばして、ふたりをくっつけさせるイタズラを実行したのだ。

 椅子に座っていた友樹の上にのしかかるように、笹雨が倒れ込んでくる。


「うんうん、これでこそ、恋人同士だな!」

「そうだな~」


 薪も言葉を添えて優助とふたりがかりで囃し立てる。いつもどおりの光景。


「もう、ちょっと、やめてよ~。っていうか、重いよ、蛍風くん……」

「ご……ごめん、仲良さん!」


 慌てて体をどけようとする笹雨の上に、さらにのしかかるように倒れ込んでくる優助。


「ど~~~ん!」

「うわっ! 重いってば!」

「痛っ。ちょっと~、檜山くん、やめて~~!」

「悪い悪い! ちょっと、こけちゃったよ~!」

「嘘つけ! お前、絶対わざとだろ!?」

「ははは、でも笹雨、あまり嫌がってるようには見えないぞ~?」


 少々ふざけすぎなほどの優助のおどける声に、薪も、からかいの言葉をつけ加える。


「べ……べつに、ぼくは……!」


 そんな男子たちの行動を、ねみみは黙って机に頬杖をついたまま眺めていた。


「ちょ……ちょっと、やめなさいよ! ほんと、男子って子供なんだから!」


 いつもどおりの騒がしさを取り戻しつつあった教室の片隅に、両手を腰に当てて注意を与える大きな声が響いた。

 声の主は、瑞菜だった。


「光林さん……」

「まったく、杉崎くんまで一緒になって……。檜山くんにそそのかされたからって、言いなりになる必要なんてないんだよ?」


 瑞菜はちらりと友樹に視線を送ったものの、すぐに薪のほうへと顔を向けて言葉を続ける。


「え? いや、おれはべつに、そそのかされてなんて……」

「光林さん、それじゃおれが一方的に悪者みたいじゃんか!」


 曖昧な否定を返す薪の声を遮って、優助が瑞菜に文句をぶつけた。


「わ……悪者でしょ~? 無理矢理男子を女子に抱きつかせるなんて~。セクハラ反対~!」

「う、うるさいな!」


 瑞菜の反撃に声を荒げるものの、そのあとが続かない。

 彼女の言い分のほうが正論なのは、優助としてもわかっているのだろう。

 と、そんな一触即発といった状況の中、チャイムの音が響く。


「ちっ……!」


 舌打ちの音を残しながら、内心では助かったと胸を撫で下ろす優助は、笹雨と薪を伴って自分の席へと戻っていった。


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