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からかわれている感じではあるものの、頻繁に友樹のもとに近寄ってくる男子三人。
いつしか、ねみみまでもがそれにまじって、一緒に友樹をからかったりするようになっていた。
そうやって騒いでいると、瑞菜も積極的にその輪の中に入ってきたりして、友樹の周りはいつも明るい雰囲気に包まれるようになった。
笹雨や優助たちだけでなく、他の生徒も近くに集まってくることがあった。
それはたいてい、ねみみに話しかけるためなのだが、ともかく友樹とねみみの周囲にはいつも、誰かしら人の姿がある。
だから以前のように、寂しくひとりで本を読んでいるなんてことも、今の友樹にはなくなっていた。
だが、そんな様子を見て煙たく思っているクラスメイトがいるのも、また事実だ。
今もこうして友樹に冷たい視線を向けている彼女。
それは、松園寺冬野だった。
いつもどおり、取り巻きの三人が冬野のそばに控えている。
冬野がいつ動くか、それをじっと待っているのだ。
松園寺家が大金持ちだから、目にかけてもらおう。取り巻きの彼女たちにそういう思いがあったのは確かだろう。
とはいえ、それはおそらく最初だけだ。
わがままなお嬢様という、絶滅危惧種のような珍しい生き物である冬野の言動を間近で見て、それを楽しんでいる。
今ではそんなふうにしか思えない。
無論、当の本人である冬野は、そんなことに気づいてなどいないだろうが。
すっ……。
長い髪をしなやかに揺らしながら、冬野が席を立つ。
(ついに動き出したわね。今日はどうなるかな、楽しみだわ)
そんな含み笑いをたたえながら、三人の取り巻きも冬野に続く。
冬野はつかつかと足音を立てながら、まっすぐ友樹のそばへと近づいていった。
「ちょっとみなさん、通してもらえませんこと? 仲良さんに、お話がありますの」
腕を組んで、上から目線の高圧的なセリフをためらう様子もなく言い放つ。
「……なんだよ、いったい」
文句を言いながらも、男子生徒は道を空け、冬野は通した。
冬野は怯える友樹を目の前に見据えると、斜めに構えて立つ。
思わず周りのクラスメイトたちも口を閉じ、成り行きを見守っていた。
そんな注目されている状況もなんのその、冬野は高圧的な態度を緩めないまま、強気な言葉を吐き出す。
「仲良さん、あなた、何様のつもりなんですの? それに、こんなに人が集まっては、騒がしすぎます。あなたのせいで、こんなふうになっているのですから、どうにかすべきじゃないかしら?」
他の生徒たちもいるからか、屋上のドア前に呼び出したときのような言い方まではしなかったものの、冬野は聞いている人の神経を逆撫でするような口調でまくし立てた。
張り詰めた空気が、辺りを包む。
言われた当人である友樹は、どうしていいかわからず、おろおろするばかり。
ふとその背後で、ねみみが微かな笑みを浮かべる。
刹那。
「……そっちこそ、何様のつもりだよ」
ひとりの男子生徒が、ぽつりとつぶやきを漏らした。
と、それに便乗したのか、他のクラスメイトも次々と思い思いの言葉を冬野にぶつけ始める。
「だいたい松園寺さんって、可愛げがないよな」
「お嬢様だからって、なんでもわがままが通るわけじゃないってことを、思い知るべきだ」
「そうよね、ちょっと威張ってる感じで、わたしも苦手だし~」
女子にまで思ってもいなかった反撃を受け、冬野もさすがにたじろぐ。
「な……っ!? ちょっと、あなたたち、文句あるっていうの……!?」
それでも懸命に虚勢を張り、言葉を返すものの、その顔には焦りの色がありありと浮かんでいた。
そこへ、とどめとばかりに追い討ちをかける声が響く。
「嫌ですわねん。あの人、野蛮ですのん。ウチ、怖かったです~。……友樹ちゃんもそう思うよね?」
「え……う、うん……」
いきなりねみみから質問を振られて戸惑いながらも、友樹は思わずそう答えていた。
怒りで真っ赤になって肩を震わせる冬野だったが、それ以上反撃を続けられるほどの根性までは、さすがに持ち合わせていなかったようだ。
「ふんっ!」
素早くその身を反転させると、なにも言わずに立ち去っていった。
そのあとに続く取り巻き――唯、幸緒、美春の三人は、軽く肩をすくめて苦笑を浮かべながらも、冬野の背中を追いかける。
残された友樹とねみみの周囲は、沈黙に包まれていた。
ともあれ。
すぐに、まるで何事もなかったかのようにもとの空気を取り戻し、冬野が口を挟んでくる前とまったく変わらない、ほがらかな笑い声の響く会話が再会されるのだった。