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ねみみに水の吸血樹  作者: 沙φ亜竜
第3章 ねみみの声に月夜の涙……
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-1-

 友樹は相変わらず、クラスメイトから笹雨との関係をからかわれ続けていた。

 つき合っていると言われ、冷やかされたりしていると、もともとは全然気にしていなかったとしても、さすがに少しは意識するようになってしまうもので。

 積極的にとまではいかないが、友樹と笹雨は、たまに声をかけ合ったり視線を交わして苦笑し合ったり、という感じにはなっていた。


 それを見られるとまた、主に薪と優助のふたりによって囃し立てられ、余計にからかわれる。そして仲よく頬を染めるふたり。

 クラスメイトからの冷やかしやからかいの言葉が途切れないのも、当たり前といえば当たり前だろう。


「笹雨、恋人同士なんだから、もっとくっつけよ!」

「ちょ……ちょっと、そんなんじゃないって……!」


 優助が笹雨の背中を押して、ちょうど椅子から立ち上がった友樹に密着させようとする。


「薪、そっち頼む!」

「おっけ~」

「きゃっ……! ちょっと……やめてよ~」


 優助に指示された薪が背後から両肩をつかみ、友樹が動かないように押さえつけた。

 ふたりの男子の成すがまま、背中を押された笹雨と押さえつけられた友樹は、ぴったりと抱き合うように密着する。

 笹雨も友樹も、嫌がっているような声を発しながらも、暴れて無理矢理逃れようとまではしない。


 笹雨のほうとしては、べつに嫌なわけでもないから、という理由もあったのかもしれない。

 一方の友樹は、男子につかまれているのだから逃れられないと、半ば諦めているようにも見受けられる。

 どちらにしても、薪と優助を殴るなり蹴るなりして怯ませ、本気で抜け出そうと思えば抜け出せるはずだ。

 だがそうしないのは、さすがにクラスメイトに暴力を振るっては悪いという思いもあるだろうが、ここ最近いつもこんな感じだったため、慣れてしまっているからなのだろう。


「お前ら、やめろってば」

「そうよ~、やめてよ~」


 ふたりとも困ったような表情を浮かべつつも、本気で相手を押しのけたりはしない。


「ほんとに嫌なのか~? 笹雨、そんなに仲良さんのこと、嫌いか~?」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらの優助の質問攻撃に、しどろもどろになってはいたが、笹雨はどうにか答えを返す。


「いや、べつに嫌いってわけじゃ……」

「ほうほう、そうかそうか。それじゃ、仲良さんはどうなんだ~?」


 笹雨の答えを聞くやいなや、優助はすぐさま質問の矛先を友樹に変えてくる。


「え……? ボ……ボクも、べつに嫌いじゃないけど~……」

「だったら、いいじゃんか!」


 その友樹の答えを聞き、優助はよりいっそうの笑顔をきらめかせながら、さらにぎゅうぎゅうとふたりを密着させる。

 友樹と笹雨は、赤くなって恥ずかしがるばかり。


 とはいえ、本気で力を入れているようには見えないものの、友樹のほうは両手で笹雨の体を押し返すような素振りを見せているのだから、密着度としては、さほどでもない。

 それならばむしろ、後ろから押さえている薪のほうが、友樹と密着している度合いが高いと言えるのかもしれない。

 現に、優助が笹雨をあまりに強く押すものだから、友樹もその反動で押され、彼女のショートカットの髪が薪の鼻をくすぐっていた。それにより、ほのかな髪の香りを感じた薪は、思わず頬を赤らめている、といった状態だったりもするのだが。


 ともかく、そんな感じで男子たちにからかわれ、ベタベタとくっつかれている友樹。

 自分の前の席でこんなことが繰り広げられていたら、ねみみが口を挟んできそうなものだが、いつの間にか彼女は姿を消していた。


 休み時間が終わるまで、このままなのかな。

 友樹がそう諦めかけていた、そのとき。

 唐突に男子たちを怒鳴りつける声が響いた。


「……ちょっと、やめなさいよ!」


 それは光林瑞菜だった。

 普段はおとなしい雰囲気の瑞菜からは想像もつかない大きな声に、怒声を向けられた優助たちだけでなく、友樹までもが驚きの表情を浮かべる。

 そんな表情なんて気にすることもなく、瑞菜は友樹の肩を押さえつけていた薪の両手をつかむと、バッと引きはがした。


「もう、女の子ひとりを寄ってたかって、恥ずかしいと思わないの?」


 じっと薪の目を見据えて怒鳴りつける瑞菜。


「う……うん、そうだよね……。ごめん」


 瑞菜の勢いに、薪は思わず素直な謝罪の声を返す。そのあいだもずっと、瑞菜は友樹の肩から引きはがした薪の両手を、ぎゅっと握り続けていた。

 瑞菜の登場で水を差された男子三人は、そそくさとその場を去る。

 その様子を険しい目線で眺めていた瑞菜だったが、三人がそれぞれの席に着くと、友樹に顔を向けて話しかけてきた。


「仲良さん、大丈夫だった? ……嫌よね、男子って。ほんと、子供なんだから」

「ありがとう、光林さん……。確かに、ちょっと困っちゃうよね。でもボク、びっくりしたよ。光林さんが助けてくれるなんて、思ってなかったし……」


 友樹の少し呆然とした表情を正面から見つめ、瑞菜は意を決したように笑顔を返す。


「だって……友達でしょ?」


 その言葉で、ぱーっと明るい笑顔になった友樹は、とても温かな気持ちに包まれていた。


 他のクラスメイトも周りにいる状態で、瑞菜がちゃんとした友達として友樹に話しかけたのは、これが初めてのことだった。

 しかし、嬉しさでいっぱいになっていた友樹には、そのことに気づけるはずもなかった。


 そして――。


 男子たちにくっつかれているあいだずっと、友樹のほうを、いや、男子――とくに杉崎薪のほうを、恨みがましいような、うらやましいような、そんな複雑な表情を浮かべながら見つめていた瑞菜の視線があったことにも、もちろん気づいているはずはなかった。


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