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ねみみに水の吸血樹  作者: 沙φ亜竜
第2章 ねみみに酒は危険です!
11/31

-5-

 ねみみは最初、取り巻きを従えるお姫様のような扱いを受けていた。

 もっとも、それは精霊の力を使ってのことだったのだが。

 クラスメイトは誰も、そのことを覚えてなどいない。

 では、今のねみみはどんな扱いになっているのかというと――。


「や~、ねみみちゃんはいつも可愛いね~。なにか嫌なことがあっても、絶対にお兄ちゃんが守ってあげるからね!」

「ありがとうですねん~。怖いお化けが現れたら、守ってくださいですのん~」


 どうやら今度は、妹属性キャラになっているようだった。

 ただ、いつでも周りに男子が集まっているという感じではないので、友樹も文句を言ったりはしなかった。

 男子たちは、いつでもちやほやするという感じではなく、たまに声をかけてくる程度だった。

 ねみみとしても、男子たちをはびこらせて友樹の席のすぐ後ろに人だかりができると、結果として友樹に文句を言われることになるのがわかっているのだろう。


 お姫様扱いのときには、女子からは少し恨みのこもったような視線を向けられたりもしていたのだが、今はそんなこともない。

 それどころか、女子も一緒になって妹のように扱い、可愛がっているようだ。

 クラスメイトなのに妹というのもどうかとは思うが、妹のように可愛い雰囲気を持った女の子、という位置づけになっているのだろう。


「……ねみみちゃん、いいな~……」


 友樹はそんなねみみを、うらやましく思っていた。

 妹扱いでみんなにちやほやされることが、ではない。

 そんなふうに、人が感じる自分の印象を意のままに操れる能力のほうを、うらやましく思っていたのだ。


 とはいえ、そう思ったところでどうなるものでもない。自分は精霊にはなれないのだから。

 自分は自分らしく、生きていくしかないんだ。

 そう決意を固める友樹。

 そんな友樹に穏やかな視線を向けて、ねみみは優しく友樹の頭を撫でるのだった。



 ☆☆☆☆☆



 昼休み、友樹はいつものように机をくっつけて、ねみみとともに給食を食べていた。

 もちろん、ねみみは給食には手をつけず、マイグラスに注がれた水を美味しそうに飲むだけなのだが。


 今日は汗ばむほどの陽気だからか、友樹の食はなかなか進まない。

 それに反して、ねみみの水を飲むペースは速かった。

 早々にグラスを空にするねみみ。


「お代わりがほしいですのん。友樹ちゃん、お願いですねん」

「え~? ボクまだ食べ始めたばかりなのに……」


 渋る友樹に、ねみみはなおも駄々をこねる。


「む~、でもウチ、早くお水が飲みたいですのん~」


 そんなねみみの目に映ったのは、ひとりの男子生徒が持っているビンだった。


「あっ、檜山くん! それ、ちょうだいなのですのん!」


 ねみみは素早く席を立ち、薪や笹雨に見せびらかしていたビンを優助から奪い取る。

 そしてそのビンのフタをおもむろに外すと、中の液体をマイグラスに注ぎ込む。

 すぐにグラスは透明な液体でいっぱいになった。


「わっ、倉梳さん、それは……!」


 慌てて止める優助の声が空しく響く中、あっという間にねみみはその液体を飲み干してしまった。


 友樹は、気づく。

 ビンに貼られたラベルには、「大吟醸・檜山桜」と書かれてあるということに。


 一瞬にして、ねみみの顔が真っ赤に染まる。


「きゃはははは! ウチ、なんだかとっても、いい気分ですのん~♪」


 思いっきり酔っ払ってしまったようだ。

 さすがに慌てる周りの面々。


「あうあう、ねみみちゃん、大丈夫~? っていうか檜山くん、なんでお酒なんて持ってきてるのよ~?」

「いや、うちで作ったお酒を笹雨たちにも宣伝して、親に勧めて買いに来てもらおうかと思って……。先生にも勧めようと思ってたしさ……」


 優助の家は、檜山酒造という酒屋なのだそうだ。それにしたって、わざわざ本物を持ってくることもないだろうに。

 ともあれ、今はそんなことを言っている場合ではない。

 どうにかしようとねみみのほうに向き直り、友樹は声をかけ続ける。


「ねみみちゃん、落ち着いて! あっ、そうだ。檜山くん、グラスに水を!」


 立ち上がってはしゃいだ声を飛ばすねみみの正面に回り、友樹はすかさず、横にいた優助に指示を出す。

 そのとき顔を横に向けたのが、油断となったと言えるのだろう。


「うふふふ~、友樹ちゃん、か~わい~♪」


 ガバッ。

 思いっきり強く抱きついてきたねみみに、友樹は慌てた声を上げる。


「ちょ……、ねみみちゃん! 痛いよっ! それにお酒くさいってば……」

「むっ、友樹ちゃん、ひどいですのん! ウチがくさいだなんて~!」


 ねみみはどうやら、酔っ払うと執拗に絡んでくるようだ。

 手がつけられない状態のねみみに、友樹は抱きつかれながら、どうしたものか思案に苦しんでいた。

 とにかく、涙目でいじけているねみみを、なんとかしてなだめないと。友樹はそう考える。


「ねみみちゃんがくさいだなんて言ってないよ~。お酒のほうだから~」

「スキありっ!」


 どぶちゅっ!

 いきなりねみみが、友樹に唇を重ねた。


「んんんんんん~~~~~~~~っ!?」


 あまりのことに、声にもならない友樹。

 いや、唇が塞がれているのだから、声を出せるわけもないのだが。

 それにしても、絡んでくるだけでなく、キス魔になってしまうとは。


(ファーストキスがお酒の味なんて、イヤ~~~! で……でも、ねみみちゃんは女の子だし、そもそも精霊なんだから、ノーカウントってことで……!)


 お酒の臭気のせいもあったのか、パニック状態でそんなふうに考えながらも、友樹はねみみから唇を離すことすら忘れていた。


「ぷふぁっ!」


 長いキスを堪能したのか、唇を離したねみみは、


「あはははははは!」


 と笑い声を響かせたかと思うと、自分の机に突っ伏して、ぐーすかぴーと寝息を立て始めた。


「仲良さん、水、持ってきたよ! ……って、あれ?」


 グラスに水を注いで持ってきた優助の声は、呆然と立ち尽くしている友樹の耳には届かない。


「水……どうしよう……」


 優助もグラスを持ったまま、呆然と立ち尽くすしか成すすべはなかった。


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