あいすくじ〜とあるMMORPGに捧ぐ〜
「……あっつう」
夏の盛りの8月半ば。夏期講習を終えた僕は、照り付ける太陽を忌々しく思いながらも帰路を歩んでいた。
家まで後20分はかかる。本当に自転車通学の奴等が羨ましい。学校も夏休みくらい全生徒に使わせてくれたって良いだろうに。
……はぁ。なんだか喉が渇いてきたな。ジュースでも買うか。
えーと、何処かに自販機は————
「……暑いねぇ少年」
「ッ!?」
背後から突然話しかけられた。振り返るとアイスを売る屋台と不気味に笑う女性の姿が。
…………いや待てさっきまで屋台なんて無かったぞ!
一瞬で開設した? いやそんな馬鹿な……疲れているのか僕は。ぼけっとしてて見逃しただけだろう。
「……くくく、買っていくかい? このアイスくじを?」
「……あいす、くじ?」
見ると看板には確かにアイスくじの文字が。一回300円。一個300円ってことか? 地味に高いな……。
だけど周囲に自販機はない。ちょっと高いがこれで我慢しよう。僕は財布から300円を出し女性に渡す。
「一つください」
「一つだと……!? たった一つで当てるつもりなのかい君は!?」
女性が目をむき出しにして叫んだ。顔こええ……。
というか当たるってなんだよ食中毒か? 洒落になってないんだが……。
「……当たるとどうなるんですか?」
「凍るよ」
「凍る!?」
何がだよ。
「勿論君のカラダが」
心を読みやがった!? というかカラダが凍るってなんだよ! 凍死か? 凍死するのかこの夏場に!?
「でも心配ご無用! 大丈夫だよ。うちのアイスは凍らなくて評判だから」
凍らなくて評判ってなんだよ。……まあ冗談か。サービストークの一種かな? 露店の人は不気味だし、言ってる事はよくわからないがアイスは美味そうだ。ともあれ一つ頂こう。
「ちなみに凍ったら30万円あげるよ」
「追加で10個ください!」
「ふっ……、毎度あり」
3000円を渡すとコーン付きのアイスを一つ渡された。
残り9個はどうなってんだと女性を睨むと、急いで二つ目の用意に取り掛かった。
……まあいいか。10個なんて持てないし。というか食べる事だって無理だ。ノリで動いちゃったなぁ。キャンセル出来ないだろうか?
取り敢えず一つ目を食べようかと口を付けたその突如、
——かちん。
「……は?」
「あ、やば」
僕の体を覆う様に氷が出現した。
えっ? 何コレ? 凍るってレベルじゃねえだろ! というか息は出来てるな。指一本動かせないけど。でも冷んやりと涼しい…………いや待てどう考えてもヤバい状況だろこれ!
女性の方を見ると泣きながら頭を下げていた。
「まさか一回目で凍るなんて…………なんてツイテないの」
いやツイテないじゃねんだよ! コレどうするんだよマジで!
「でも私……30万円持ってないだからさ……」
金とかどうでもいいんだよ! 早く助け…………
「sorry sorry」
————シュン。
青白い光と共に女性は消えていった。アイスくじの露天とともに……。
は? どういう事? 僕の頭は暑さで駄目になってしまったのだろうか? それとも…………、
————パキン。
「あ、治った」
周囲の氷は砕け散り、僕は自由を取り戻した。
凍っていた筈なのに身体はなんともない。足元にも氷の跡はかけらも無い。濡れてすらいない。
白昼夢って奴なのだろうか?
だが先程までの暑さは露と消え、財布の中には御札が一枚も入ってなかった。
「一体何なんだ……アイスくじとは……」
冷たさとは別の寒さが僕の背筋を走っていた。




