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ステラ

「初めまして、僕はミレイ。フェリス家の方から来た」


 朝のホームルームでクラスの女子たちに僕は姉の名前ではなく自分の名前を名乗った。編入するのは姉ということになっていたので、性別の方は偽っているけど。

 だから姿は女子の制服でも胸はまっ平らだし股間にはあるべきものがついている。


「と言ってもずっと孤児院にいて自分があの家の人間だなんてことは知らなかったんだけど。まあ、そんな育ちのものだから学校に通うのもこれが初めてなんだ。こちらの常識は知らないからきっとおかしな真似をすると思うけど、大目に見てほしい。それじゃ、よろしく」


 僕はいつも通りの口調で話した。女装はしていても身振り口振りまで女になるつもりはない。男のようなしゃべり方が物珍しかったようで、一斉に凝視されたけどね。


 自己紹介を終えて僕は教壇を降りた。

 少女たちの間を通って与えられた席に座るまでずっと視線と大きな耳が僕の方に向いていた。




 この世界の住人たちは地球人と微妙に似ている。両手両足があって手の指も足の指も五本。男女の別もそのまま。顔も体つきも体毛の生え方も、それだけなら地球人の中に混ざっても違和感がないだろう。

 ただし大きく異なる部分もある。

 一番目に付くのは耳としっぽだ。頭の上には猫のものとよく似た大きな耳があるし、お尻からは猫とよく似たしっぽが生えている。これでは地球人は名乗れない。


 僕が半人半猫のこの生き物に生まれ変わってから十四年が経つ。両親と暮らしたのは五年間で、それから後は孤児院にいた。フェリス家とかいう大きな家の最後の一人であることがわかってからまだ十日も経っていない。

 だから誇張ではなく、本当に右も左もわからない。フェリス家というのは貴族の家系で僕が押し込まれたこの学校も上流階級の子女が学ぶところだ。僕自身はついこの前まで最底辺の暮らしをしていたというのに。


 ホームルームが終わるとそのまま一限目が始まった。授業の内容はこの国の歴史についてだった。うん、さっぱりわからない。一か月遅れでの編入だし、庶民には歴史なんて知る意味がないから学んだことがない。そんなことよりまずは今日の食事だ。


 一限と二限の間に休憩時間があった。文化もどことなく前世と近い。

 クラスの女子たちは誰も動こうとしなかった。それぞれの席にいて、チラチラと僕を見て、隣の子たちとひそひそとささやき交わしている。

 何だか妙な雰囲気だ。


 さてどうしたものか。僕から話しかけてもいいんだけど、ボロが出ても困る。何しろここは女子校だ。姉に成りすました僕だけが唯一の男だ。まあ、周りが女だけだからって特にどうとも思わないんだけどね。僕たちの性欲は前世のことを思えば極端に乏しい。

 ともかく良家のお嬢様たちと何を話したものか、見当もつかない。


「お話してもよろしいかしら?」


 考えあぐねていたら隣の席の少女に先に話しかけられた。


 僕たちの種族の感情は耳に現れがちだ。だから耳と感情を関連付ける慣用句がしばしばある。少女はピコピコと耳を何度もおじぎさせた。慣用表現では『耳を(ひるがえ)す』という。つまり好奇心に溢れているときの仕草だ。

 好奇心を隠し切れないままに少女は言った。


「何だかお困りみたいね」

「自分の置かれた状況に戸惑っているんだ。口を聞いてくれたのは君が初めてだけど、こちらから話しかけてもいいのかな?」

「ぜひそうしてあげて。みんなあなたに興味はあるんだけど、孤児院で育ったっていう子は初めてだから、どう接したらいいかわからないの」

「なるほど、お嬢様学校だもんね。ところで、君は?」

「私はステラ。よろしくね」

「ミレイだ。よろしく、ステラ」

 ところが、名前を呼ばれたステラはウィンクと共に訂正した。

「ステラさん、よ。この学校では同級生と下級生は名前に『さん』を、上級生には『様』をつけて呼ぶことになっているの。おわかりいただけるかしら、ミレイさん?」

「教えてくれてありがとう、ステラさん」

「わからないことがあったら私に聞いてね!」

「是非頼らせてもらうよ」


 このステラという少女は髪も耳もしっぽの毛も全部が白。耳の先が少し外側に傾いているせいで間が開き気味で、それに先が丸いものだからあどけなく見える。耳の内側はピンク色に透けている。肌も白くて頬はバラ色で、瞳は明るい琥珀色だ。全体に毛がふわふわしていて、特にしっぽの毛はアンゴラみたいに柔らかくて、長い。


「私はカリン! 私のことも頼っていいよ!」


 ステラの背中にひっつくようにしてもう一人の少女が現れた。

「ああ、よろしく、カリンさん」

 そう言うとカリンはステラにのしかかるようにして手を伸ばして来たので、握手した。


 カリンの髪の毛はオレンジがかった明るい茶色だけど、耳は同じ色の中に少し色味の濃い毛が縞状に入り混じっている。もちろんしっぽも縞模様だ。瞳は翡翠色で、それこそ猫の目のようにクルクルと表情が変わる。カリンに関して言えば耳よりも目の方が物を言っているかもしれない。耳の毛としっぽの毛は短い。髪も肩にかかる程度のミディアムヘア。

 僕たちは耳としっぽの毛の質は大体同じだけど、この二人は髪の毛までもそろえているようだ。


 二限目は数学だった。これはわかりやすかった。経営や利殖のためと銘打たれてはいたけれど、前世で言えばせいぜい中学生レベルの内容だ。教科書をパラパラっとめくってみたけど複利計算に必須の対数もないし。女にそこまで高度な内容は求めていないということなのだろう。僕たちの数学が遅れている可能性も否めないのだけど。


 体感だけど、おそらく一限当たり前世の単位で九十分の授業なんだと思う。二限で午前の授業が終わって昼食になった。

 昼の食堂は校内にある。テーブルを選んで座るとステラたちに誘われてようやく他の子たちも寄ってきた。

 そして僕は質問攻めにされた。


「ねえ、どちらの町にいらしたの?」

「ミケーネって町。小さな田舎町だから知らないと思うよ」

「孤児院にいらっしゃったってことは、ご家族は……?」

「事故でね。僕が五歳の時に」

「まあ……。でも、お婆様とはお会いになれたのよね。確かまだお一人だけ残っていらっしゃったはずだから。お婆様はお元気?」

「残念ながら。おかげでここに来ることになった」


 なかなか食事にたどり着けない。まあいいや、今のうちにやってしまおう。質問に答えながらパンをちぎってスープに浸すと女の子たちはそろって微妙な顔をした。なんだろう? 僕はじっとパンを見た。


「──ああ、そうか。このパンは柔らかいからそんなことをしなくていいのか」

「いえ、そうじゃなくて」

「……あれ、そうなのかな?」

「どうだろう? カチカチの堅いパンをスープで柔らかくして食べるのが孤児院流さ」

 僕がそう言うとステラは困った顔をした。

「普通はそんなことしないの。ちょっと、品がないかな」

「そうなんだ」

 あいにくこちらはアーバン育ちの野良猫だ。僕は肩をすくめた。

「本当に知らないんだ。そういうことは一切ね。ここって礼法の授業とかないの?」

「ないわ。ここに来る子は皆子供の頃には身に着けているから」

「困ったね」


 そんな話をしていたら、やはり食堂にいた担任の女教師が──いや強調するまでもなく教師も全員女なんだけど、目ざとくやって来てステラに言った。

「あら、ステラさん。ちょうどいいわ。それじゃあなたにチューター役をお願いしようかしら」

「え?」

「あなた、こういうことはお得意でしょう? ミレイさんにここでのやり方を教えてあげて頂戴な。食事のマナーに限らず、何でもね」

「ええ、そうですね。承りました」

 ステラは優雅にお辞儀をした。


 僕は笑いかけて口元を覆った。

 姉のフリをした僕は実年齢より二歳鯖を読んで編入した。だから彼女たちが年上というのは本当だ。でもステラは耳だけではなくて眉の形も、それから目が大きくて丸いのも子供っぽい印象に拍車をかけている。この顔で先輩ぶろうとするものだから、少し面白い。とはいえこれから何でも教えてくれるという相手を笑うのも失礼だろう。


 午後は実学ということでこの日は裁縫の授業だった。それで一日の講義が終わった。


 放課後はクラブ活動のようなことをしている子たちもいるけど僕は昨日もらったばかりの部屋に戻った。なけなしの荷物を片付けて、逆に足りないものを確認しておきたかった。

 部屋は個室だけど狭い。これは多分、僕たちは狭いところが好きだからだろう。実際、広い部屋に一人きりだと落ち着かない。このくらいがちょうどいい。


 僕が入ったこの女学校は上流階級専用だ。上流階級と言っても王家が滅んだこの国では資産家のことだけど。一クラス二十人程度で一学年に三クラス、三学年あって三年間クラスは変わらない。僕の編入がイレギュラーだ。

 寮は三つあってクラス単位で同じ寮に入る。例えば一年生のAクラス、二年生のAクラス、三年生のAクラスが同じA寮に入る、という形だ。この世界の文字はABCのアルファベットじゃないけど。


 上流階級向けの女学校だけど、生徒の自主性を養うという方針のために使用人の連れ込みは認められていない。掃除や洗濯など身の回りのことは自分でしなければならない。

 今時の大抵の寄宿舎はそうだ。この国ではストイックなのが良しとされているから。その辺りがゆるゆるな学校というのは要するにバカ息子バカ娘の行くところで、その後の人生の展開はずいぶんと違ってくる。


 寮のシャワー室とトイレは共同で、掃除当番がある。シャワー室のお湯が出る時間は決まっていて、それ以外の時間に浴びても水しか出ない。もし入浴時間以外にお湯が欲しければ厨房に行ってもらってくることになっている。まあ、それも厨房に人がいる間だけのことだけど。

 電気なんてものはこの世界にはまだない。照明はロウソクかランプ、あるいはガス灯だ。さすが上流階級の寄宿舎だけあってここではガス灯が使われていた。とはいえこれも時間になると元栓が閉められてしまう。つまり一斉に消灯だ。

 料理だけは調理人がやってくれる。朝夕は寮の、昼は学校の食堂で食事を摂る。これも時間が決まっている。ここではすべてが時間通りに動く。エントランスの振り子時計を巻き上げるのは寮母の仕事だ。




 編入から三日が経った。馴染めているかどうかは正直微妙なところだけど、生活のリズムはつかめてきた。

 ところがその朝はパーツが一つ欠けていた。仲良しの二人はいつも連れ立ってやってくるんだけど、今朝はステラの隣にカリンの姿がない。僕は彼女の後ろの方を見回してみた。


「あれ、カリンさんは?」

「お休み。今日は強い日なの」

「?」

 首をかしげるとステラはこっそり耳打ちしてきた。

「あの子発情が強いから。ちょっと人前に出られなくなってしまうの」

「ああ」


 僕たちには耳としっぽだけじゃなくて性質にもどことなく猫らしさがある。高いところが好きで登ってみたはいいけれど降りられなくなってしまった子供なんてものはしばしば見る。

 一番猫っぽいのは発情期があるところだろう。ひと月のうちの数日間、女は性的に興奮して様子が変わる。これには強弱があって、人によってはまともな日常生活が送れなくなってしまうほど乱れるらしい。男の孤児院にいた僕は見たことがないけど。


 ステラはプレートに朝食を乗せてカリンの部屋に持っていった。

「カリン、これ」

「……ん」

 ドアが開いて、隙間からステラはプレートを渡した。

「食べたら外に置いておいてね」

「ん……」


 カリンは丸二日部屋から出てこなかった。


「あ、発情期きちゃった」

 カリンが復帰してから五日後のことだった。昼食を終えて午後の授業に向かう途中でステラがそんなことを言い出した。確かにちょっと顔が赤いかもしれない。

「大丈夫よ、私は軽いから」


 ……なんて笑っていたステラだったけど、だんだん様子がおかしくなってきた。顔が赤いだけじゃない。息が荒いしきょろきょろ左右を見回して落ち着きがない。どうも視点が定まらないようだ。まともに授業を受けられるような状態じゃなかった。


「変だわ……」

「部屋に帰った方がいいわよ」

 フラフラしているステラにカリンが忠告した。

「送って行くよ」

 僕はステラに肩を貸した。ステラはしがみついて顔を伏せながら「ありがとう……」と小さく言った。

「お安い御用さ」

 ステラには普段お世話になっているのだからこのくらいはサービスしないと。


 寮にステラを送りながら僕は鼻をひくつかせた。何だかいい匂いがする。うっすらと漂うこの匂い……そうだ桃の香りに近い。

 注意深く香りの源を探ってみると、匂いの元は隣のステラのようだった。何だろう、このいい匂いは。


 ステラの部屋はいかにも女の子らしかった。柔らかなレースとパステルカラーのカーテンが目を引いた。布団や枕のカバーにもフリルがついているし、ベッドの上にはぬいぐるみがいっぱいだ。寝床がぎゅうぎゅうだと安心するからな、僕たちは。

 部屋に着くなりステラは床の上に女の子座りでへたりこんでしまった。


「大丈夫?」

「大丈夫、じゃ、ないかも……」

「先生を呼んでくるよ」

「待って」


 袖をつかんで引き止められた。


「行かないで」

「医者に診てもらった方がいいよ」

「そういうのじゃないから! ごめんなさい……わ、私、今日はおかしいの。こんなこと、なかったのに……」


 ステラは瞳が潤んで艶めかしくて、袖をつまんだ指先に全体重が込められていた。こんな子を放って帰ることができる男なんて、絶対にいない。


「横になろう」

「うん……」

 とりあえず引っ張り起こしてベッドに横たえる。

「何かできることある?」

「おなか、なでて……。つらいの……」

 僕はベッドの横に膝立ちになって、ステラのお腹をさすった。服の上からだから大丈夫だろう。

「こう?」

「もっと、つよく」

「こ、こう?」

 制服の生地の下に柔らかな感触があった。


 女の子の体は男と全然違っていた。僕の体とは本当に違っていた。ってことは、あまり密着したら絶対バレる。触れるのは手だけにしておこう。


「んんっ!」

 へその下を圧迫したら特別な反応があった。僕はそこを中心的に攻めた。指の先を揃えて、グッ、グッ、グッとリズミカルに、指先が沈むほどの力で押した。


「ふぅっ……うぅぅぅ……」

 泣いているような声が漏れた。顔は真っ赤で、目は涙ぐんで、耳はピンと立って、口は開きっぱなしで浅い呼吸を繰り返している。


「んっ……あっ、あっ、あっ」

 子供の夢を詰め込んだ部屋に似つかわしくない大人の声が響く。手を胸の前でギュっと握り合わせて、指先を開いたり閉じたりするのに合わせて身をよじっている。よく見たらスカートの下でステラは股間にしっぽを挟んで太ももをもじもじと擦り合わせていた。


 カリンが発情が強くて休んだ日があった。うん、これは確かに人に見せられる姿ではない。


 ふと、無心に手を動かし続けている自分に気がついた。何だか暑いぞ? いや、体が熱い。芯からほてる。スカートの下で僕自身たぎっている。


 ──ヤバイ。


 自覚があった。これはもしかしなくても、僕も発情してる?

 男の発情は女のそれに誘発されて起きる。半分猫だから、そういうことになっている。ずっと女から切り離されて暮らしてきた僕には初めての体験だ。

 考えてみたらステラをベッドに横にさせた辺りから僕もおかしくなっていた。言われたからって女の子のお腹なんて撫でないだろ、普通は。

 多分この匂いが悪いんだ。桃のような、得も言われぬ、かぐわしい香り……ずっと浸っていたくなる……。


 ヤバイ、思考能力が低下している。それ以外のことは考えられなくなっている。


 離れろ──


 僕は無理矢理自分の執着を振り切った。吸い付くような感触にいつまでも触れていたいとせがむ指を引き剥がして立ち上がる。


「ごめんね、戻らないと」

「あ、もっと……」

 ステラはまた腕を伸ばしたけれど今度は空を切った。腰が立たないようだ。

「ごめん」


 閉じる前のドアの隙間から切なさに悶える顔が見えた。


 教室の前にトイレに寄った僕は自分で処理した。滅茶苦茶気持ち良かった。それでようやく落ち着いた。


 あ、危なかった……。


 これが発情か。母が──というよりは両親が、誘惑に負けてしまった気持ちもよくわかる。こんなの、抗えるわけがない。


 発情期にすることをしたら即妊娠だ。僕は男だってバレてしまって学校は退学になる。ババアは怒るだろうし孤児院にもクレームが行くだろう。寄付金を返せなんて言われるかもしれない。

 というか僕の両親は発情に負けて子供ができて家を追い出されたんだ。そういう悲しい轍は踏みたくない。


 それにしても、女の発情には「こうしたら終わり」というのがないから大変だな。ただ波が収まるのを待つしかない。

 ステラはその日夕食の席にも現れなかった。


 翌日、朝食に起きてきたステラは向かいの席に座った。少し顔が赤かった。

「もう大丈夫なの?」

「ええ。昨日はごめんなさいね」

「気にしてないよ」


 ステラは大丈夫と言った割には一日中調子が悪そうだった。さすがにもう送るのはやめておいたけど。


「──ふんふん、なるほど。そういうわけで王政が打倒されてこの国は共和制に移行したわけか」

 その夜。寮の自室で僕は消灯までの時間を利用して全然知らない歴史を自習していた。早いとこ追い付かないと。


 コンコンコン。


 ドアをノックする者があった。こんな遅くに誰だろう。


 コンコンコン。


 もう一回ノックされた。やれやれ。僕は椅子を立った。


「はーい」


 返事をしておいてドアを開けると、そこに立っていた夜の訪問者はステラだった。上流階級の女子には一般的なネグリジェ姿で、何故か枕を抱えている。


「……いらっしゃい、こんばんは。何か用?」

「こんばんは。うん、あのね? 添い寝してあげようかと思って」

「……はい?」

「その、お母様がいらっしゃらないのでしょう? 今夜は、私が代わりをしてあげるから」


 そんなことを言いながらステラは勝手に部屋に入って来て、勝手にベッドに入った。

 言動が完全におかしい。……あっ、さてはまだ発情期が続いてるな? すれ違う瞬間に桃の香りが漂った。


 勝手に横になったステラは毛布をめくり上げて、隣のスペースをポンポンと叩いた。


「ほら、いらっしゃい」


 いやいらっしゃいじゃないだろう何を言っているんだ、そんなことできるわけないだろうなどと考えつつも僕はベッドに入っていた。か、体が勝手に……。至近距離にステラの顔が……。

 そうしたらステラはそっと僕の頭に腕を回して自分の胸にかき抱いた。


「あなたのお母様だと思っていいのよ?」


 ステラは抱え込んだ僕の後ろ頭を優しく撫でた。柔らかな肉体の熱い体温が、追憶の底に眠る母の姿を呼び覚ます……


 わけないだろ! こんな肉感的な母親があるか!


 下着つけてないよ、彼女。ネグリジェの薄い生地を通して柔らかな感触がダイレクトに伝わってくる。何が母親だよ。これは家族じゃない、手を出しても許される女の体だ。あー、イライラする。いやイライラじゃないな、これ。何だろうこの感覚。

「なんだろ、ソワソワする……」

 ステラが相変わらずモジモジしながら言った。それ。


 そうこうしているうちに明かりが消えた。ガス灯のガスは一酸化炭素だ。危ないので、各部屋で消すだけではなく元栓で閉められてしまう。暗闇の中で感触と匂いが強調される。

 丸みを帯びた豊かな胸が目の前にある。というか顔に押し付けられている。他に(たと)えるもののない柔らかさだ。あまりの心地よい感触につい離れられなくなってしまう。そしてその深い谷間の奥からじっとりと汗の匂いが滲んでいた。例の桃の香りだ。ああ、なんてかぐわしいのだろう。無限に嗅いでいられる。

 ふと、頭頂部に風を感じた。気づいたらステラも僕の耳と耳の間に顔を埋めて深く息を吸っていた。僕自身も匂いを嗅がれていた。母親がこんなことするわけないだろ! 口実としても無理がある。

 ステラのしっぽはやはり股の間に挟まれて、太もももまたじりじりとより合わされていた。その仕草だけで僕も(たぎ)った。真似をしてしっぽを前に回してごまかした。


 僕たちは心ゆくまでお互いの匂いを堪能した。おかげで朝まで眠れなかった。


「おはよう……」

「ええ、ごきげんよう……」

 ステラも眠れなかったようだ。朝の光の中で目が真っ赤に充血して、下まぶたの縁に翳りが見えた。


 その日の僕たちはまるで使い物にならなかった。夜はさすがに自分たちの部屋に帰って、また日が昇るまで死んだように眠った。

 次の朝になってようやくステラの発情は収まっていた。

 元々別の話を書きかけていたのですが早々に行き詰ってしまい、気分転換におバカなエロコメでも書いてみようかな、と書き始めたらなんだか書けてしまったので投稿します。

 思い付きで始めたもので先のことを全然考えていなくて、これからどうなるのか私にもわかりません。

 どうぞお付き合いくださいませ。

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