03
麗華は「疲れたでしょう?」と椅子から立ち上がり「食堂に行こう!」と瑠璃の怪我をしていない方の手を引く。
瑠璃は麗華と一緒に医務室を出て、麗華がダイエットをしているという話を聞きながら食堂へと向かった。
「ケーキ食べたぁい!」
食堂に入るとそこには白いエプロンを身に纏う男女がキッチン内で調理をしていた。
そのうちの一人を捕まえて麗華は「ケーキが食べたい!ないの?」と詰め寄っていた。
「麗華さん、ダイエットしてるって言ってたじゃないですか。あってもあげませんよ。」
「シェフの意地悪!!ダイエットは明日から!」
麗華はそう言うと瑠璃に手招きをする。
「せめてこの子には出してあげて!お客さん!」
シェフはチラリと此方に視線を向け、瑠璃を視界に捉えると頭を下げる。
「お客様がいらっしゃるなら早く言ってくださいよ!
今日は特別ですよ。用意が出来ましたらお持ちしますので席に掛けてお待ちください。」
シェフはそう言うと女性スタッフにケーキと紅茶を用意するように言う。
麗華はルンルンとしながら席に着く。
「麗華さん…ケーキなんていいんですか?」
瑠璃の問い掛けに麗華はニコッと笑い
「今日はいいの!あのバカと長時間一緒に居たから疲れちゃったー!」と答えた。
瑠璃が、あははと愛想笑いをしていると食堂にぞろぞろと人が入ってきた。
「れ、麗華さん!人がいっぱい!」
瑠璃は慌てて麗華にそう言うと、麗華は入口の方に向かって片手を上げ「お疲れ様!」と声を掛ける。
麗華に気付いたその人達はみな声を揃えて「お疲れ様です!」と頭を下げる。
「麗華さんってもしかして偉い人なんですか?」
瑠璃が恐る恐る尋ねると、麗華はまたニコッと笑う。
「私はただの専属医師!
皆が怪我したら診るってだけで偉いとかじゃないよ!ここで偉いのはただ一人、あのバカだけー!」
麗華がそう言いケタケタと笑うと、ケーキと紅茶が運ばれてきた。
「あまり燈龍さんの悪口は言わないように。」
麗華と瑠璃の前にケーキと紅茶を並べながらシェフが言う。
「シェフもそうだけどー、皆凱斗に甘くない?」
麗華はフォークを手に持ちながら返す。
「燈龍さんは、幼き頃からの苦労者。
ここに居る殆どの人は燈龍さんに助けられた者達。麗華さんもそうでしょう?」
シェフはそう言うと軽く頭を下げキッチンへと向かう。
麗華は口をへの字にしたままチラッと瑠璃を見る。
「怒られちゃったー!へへ、ケーキ食べよー!」
麗華は少しだけ微笑み「いただきまーす!」とケーキにフォークを差し込む。
「いただきます。」
瑠璃もフォークを手に取り、ケーキを口に運ぶ。
「美味しいねぇ!」と次々とケーキを口に運ぶ麗華を見て、瑠璃は一旦手を止める。
「ここにいる人達って、あの銀髪の人に助けられたんですか?」
瑠璃の言葉を聞き、麗華も手を止める。
「うーん、まあそうね。
全員ではないけれど、食屍鬼に襲われた被害者達は凱斗に助けられてここにやって来た。私含めてね。」
麗華はフォークを置き、ティーカップを手に取る。
「居場所を無くした者達、それでも戦う力が無い者はシェフ達みたいに料理を作ったり、屋敷内の掃除をしたり。
力があって、本人に戦う意思があれば凱斗の下で共に食屍鬼を討伐しに行く。
だからアニキって呼び名で慕われているのよねー。」
麗華の言葉を聞き頷きながら瑠璃は辺りを見回す。
戦いに出ていたのか、服が汚れた人達で次々と席は埋められていく。
「女性は見かけないですね?」
瑠璃がポツリとそう漏らすと、麗華は自分を指さして「ここにいるよ?!」と言った。
「あ、違う!違います!麗華さんとキッチンの中に居た女性以外に見かけないな、と思って。」
瑠璃は慌てて訂正する。
「総龍会には女隊員もいるけど、黒龍にはいないね!
凱斗が頑なに嫌がるのよねー。
どうしてもってなった時は女隊長がいる青龍、赤龍の元へ送っているって聞いた事はあるけれど。」
麗華はまたフォークを手に取りケーキを頬張る。
「ここに居る女性は私とキッチンにいる子と掃除をしてくれる人が2人かな?
他は全員男!むさくるしくて仕方ないよー!」
「私がここに居たい、って言ったら…と、燈龍さん?は何て言うと思いますか?」
瑠璃の言葉を聞いた麗華は目をパチパチとさせ、フォークを置いた。
「瑠璃ちゃんここにいたいの?」
麗華の問い掛けに瑠璃は頷く。
「えー!!どうして?怖くなっちゃった?」
麗華は少し不安げな表情で問いかけた。
「実は私…帰る場所がなくて。
あ、あの家はあるんですけど…その……。」
瑠璃の声はどんどん小さくなり下を向く。
「なにか事情が?話せるなら話して欲しいなー!」
麗華はそう言うと、紅茶を一口含む。
瑠璃はゆっくりと顔を上げ、口を開いた。
「幼い頃に両親は離婚しました。
それからは父と二人暮しで、ずっと父から暴力を受けて生きてきました。」
瑠璃の言葉を黙って聞く麗華。
「暴力と言っても、殴ったり蹴ったりとかじゃなくてその…性的暴力で……。
親子でする事は普通だと父に教えられてきました。
でもある日友達にその話をすると、その日を境に周りから人は居なくなりました。」
瑠璃は大きな目から、涙を零す。
「それから私は父と関係は持てないと断り続けましたが、怒った父は私を縛り付けて無理矢理…。
私は父から逃げることは出来ない、そう思っていた時に彼と出会いました。」
「彼って…今日の?」
「そうです。
バイト先の文房具店にお客様として友達と来た彼に声をかけられたのが始まりでした。
趣味が合って、話すと楽しくて…ずっと、ずっと一緒に居られたら幸せなのに…そう思っていました。」
瑠璃の目から溢れる涙は、ケーキの上にポタポタと落ちる。
麗華はポケットからハンカチを出し瑠璃に渡す。
麗華からハンカチを受け取った瑠璃は「ありがとうございます。」と涙を拭く。
「瑠璃ちゃん大丈夫?無理はしないでね?」
麗華は心配そうな表情で瑠璃を見つめる。
瑠璃は「大丈夫です。」と笑ってみせるがその笑顔はとても悲し気な表情であった。
「神様は意地悪です。
私から次々と大切な人を奪っていく。
お母さんも、友達も、彼も…誰もいないんです。
私にはもう父しか残されていないんです。」
「神様は意地悪、ね。そうだな…分かるよ。」
唐突に背後から聞こえた声に瑠璃は身体を跳ねさせる。
「ちょっと!勝手に会話に入ってこないでよ!!」
麗華は瑠璃の後ろに向かって怒る。
「飯食いに来たらダイエットしてるって言ってる人の前にケーキの残骸があるのが見えたからさー。」
そう言って瑠璃の隣の椅子を引き座ると、シェフが小走りで近寄ってくる。
「お疲れ様です、燈龍さん。」
「お疲れ様。
なにか食わして。腹減った。」
凱斗がそう言うとシェフは頭を下げていそいそとキッチンへと向かっていった。
「で、ダイエットはどうした麗華?」
凱斗は麗華の方を見てニヤリと笑う。
「あ、明日からするから!今日は瑠璃ちゃんもいるし……。」
「そうやって言い訳していつまで経ってもやらねぇのはどこのどいつだよ?出来ないじゃなくて、やる気が無いってんならもう周りにダイエットするなんて言うな。」
凱斗はそう言うと、返す言葉が見つからずモゴモゴとする麗華を横目に瑠璃の方へ体を向ける。
「で、お前は何?」
「なに、とは…」
暗い暗い瞳にジッと見つめられ、瑠璃の身体はまた少し震える。
「神様は意地悪だー、とか言ってたけど。
神様に甘やかされてる奴を俺は見た事ねぇぞ。」
凱斗は自分の腹をさすりながら「シェフまだー?」と大きな声で呼びかける。
「他の人よりも…」
「ん?」
「他の人よりも私は意地悪をされています…きっと可哀想な人間なんです。」
瑠璃がそう言うと、凱斗はわははと笑う。
笑われるとは思っていなかった瑠璃は目をパチパチとさせた。
「他の人よりも意地悪されてんのかー、そうかー!そりゃー可哀想だ。」
凱斗は笑いながら続ける。
「俺、自分が一番可哀想だとか言う奴すげぇ嫌い。」
凱斗はそう言うと席を立ち、隊員が居る席へと向かう。
凱斗が「よぉ」と声を掛けると、皆立ち上がり「お疲れ様です!」と頭を下げた。
アニキここに座ってくださいよー!と言われ、ニコニコと笑顔を見せる凱斗を瑠璃は歪んだ視界で見続けた。




