04
食屍鬼の手掛かりがあまり掴めず、人間の悪行の方が目立っていた時代。
大橋は食屍鬼の情報提供の為に会長に呼ばれ総龍会へと足を運んでいた。
そこで会長は大橋に話した。
今、黒龍の隊長が極悪犯を捕まえた、と。
捕らえた場所が総龍の近くだったので今地下で仕事中だ、と。
大橋は興味本位で断られる事を前提に見学を頼むと、邪魔をしないのであれば良い。と会長に地下へと連れられた。
地下の扉を開け見える奥の部屋の前に黒龍の隊員が二人震えながら立っていた。
会長は「この部屋から様子を見ることが出来る。」と隊員が立つ手前にある扉を開けた。
その中は白い壁と床で汚れ一つなく、フカフカのソファーの前には大きなモニターが置かれていた。
会長は大橋にソファーへ腰をかけるように言うとモニターのスイッチを押す。
モニターに映し出された光景を大橋は真剣に見つめた。
鉄の椅子に拘束された大柄の男は、黒い服を身にまとった銀髪の男に罵声を浴びせていた。
それを聞いた銀髪の男はニコリと笑うと、男を椅子ごと蹴り倒し上に跨るとそのまま顔を踏み付ける。
手足を動かそうと必死に藻掻く男を見て、足を退けそのまま蹴りを入れると男の口から白い物が幾つか飛び出し転がった。
その白い物を拾った銀髪の男は砕き男の口の中へ放り込むとそのまま押さえ付けた。
男は抵抗するが銀髪の男にそれは全く通用せず、そのまま鼻を摘まれてしまう。
息苦しさで暴れる男に何かを言う銀髪の男。
その言葉を聞いた男はゴクリと喉を鳴らすと銀髪の男は嬉しそうに手を退ける。
そのまま銀髪の男はトンカチを手に持ち男に見せると、男は泣き叫んだ。
銀髪の男は躊躇なく口元へと振り下ろす。
銀髪の男の目に光は無く、心に情も見当たらない。
大橋から見たその姿は、幼子が悪気無く玩具を乱暴に扱い壊す、それに似た感覚だった。
大橋はあの時の凱斗を思い出し、抵抗するだけ無駄だと諦める。
急に抵抗しなくなった大橋を見て、頬を掴む凱斗の手が緩む。
「急になんだ?学習したか?」
凱斗はニッパーをカチカチ鳴らしながら大橋を見下ろす。
「抵抗するだけ、無駄だ。
君は徹底して罰を与える、私は知っているよ凱斗くん。」
大橋の言葉を聞いた凱斗は大橋から離れると椅子に座る。
「俺の家族にした事はお前に出来ない。
食屍鬼を使わないと同じ事ができない。
お前を殺しても家族は戻らないし、お前を殺した所で俺の心は晴れることは無い。
それでもお前をどうにかしてやらないと俺の気が済まない。
死ぬギリギリのラインまでジワジワ攻めてやろう、そう思っていたけどやっぱやーめた。」
凱斗はニッパーをポイと投げると大きく伸びをする。
「結局それじゃ俺の私情になる。
私情となれば警察も黙っちゃいない。
加害者が被害者の指を全部折りました!だから俺が変わりに加害者の指を全部折ります!これは成り立つけど、ムカつくからお前の肋も折ります!は許されない。
ま、尋問中の拷問に関してはグレーだけど。
警察も龍を敵に回したくないから目を瞑ってるだけで本来なら宜しくない。」
凱斗は大橋の目をジッと覗き込む。
「でも俺達龍にとっちゃこれが普通。
普通の人達には理解出来ないだろうけど、俺達はこれを仕事としてしなきゃいけない。
仕事じゃなきゃやりたくねぇよ。臭いし汚いし煩いし。
お前があのまま抵抗し続けてたら俺も頭に血が登ったままお前の事いたぶり続けてた。
お前には特別腹が立っているからな。」
凱斗はそう言うとニコリと笑うと、大橋はブルッと身体を震わせた。
「大丈夫、もう痛い事はしない。
後は反省して、これからは国民の為に頑張ってくれればもうそれでいいよ。
総龍がどういう判断するのかは知らないからお前が頑張ることを許されれば、だけど。」
凱斗は指の骨を鳴らし立ち上がると大橋に背を向け扉へと向かう。
大橋は凱斗の背を見つめる。
「凱斗くん。」
大橋が小さな声で凱斗の名を呼ぶと凱斗はピタリと立ち止まった。
「君は特別だ。」
凱斗は眉をピクリと動かす。
「こんな事を言うのはあまりにも身勝手だと思うが、私は今後君の為に頑張りたい。」
凱斗の拳は強く握られる。
「君の家族を奪った罪は一生を掛けても償いきれない。
犠牲者となった者達への罪も、償いきれない。
だけど、少しでも私に罪を償う時間を与えてくれると言うのなら、私は第一犠牲者の君へ償いたい。」
凱斗の拳は微かに震える。
「その償いは他の犠牲者への償いに繋がるだろう。
凱斗くん、私にチャンスを与えてはくれないだろうか?」
凱斗は背を向けたまま何も言わずに部屋を後にした。
薄暗く狭い部屋の中にポツンと一人残された大橋は下を向き、謝り続けた。
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数日後。
総龍地区にある病院の手術室のベッドの上で凱斗は眠っていた。
研究者の高山と研究員と医者が凱斗を囲む。
その間凱斗は夢を見た。
幼い自分と可愛い妹が小さな庭でボール遊びをしていると、見慣れた車が家の駐車場に止まる。
その車から下りてきたお父さんは不器用に笑うと二人を抱き上げ家の中へと入って行った。
家の中は良い匂いが漂い、台所には優しいお母さんがいて美味しい料理を作っている。
四人で料理を囲むと楽しそうにそれを口へと運ぶ。
一人一人が幸せに満ちた笑顔を浮かべる。
そんな四人を遠くから見つめて笑う。
自分の中にある家族はこの時から動かない。
それでもいい。確かにあったその幸せを思い出すことが出来るのだから。
人は声を忘れると言う。
だけど、ハッキリ聞こえるんだ。
凱斗、と呼ぶ二つの優しい声が。
お兄ちゃん、と呼ぶ愛しい声が。
自分の中で生き続ける限り、忘れはしない。
幸せそうな家族を見て心を満たすと、辺りは眩しく輝いた。




