01
数日経ち凱斗は無事に退院し黒龍の屋敷へと帰った。
隊員達は喜びの涙を流し、その日は日が明けるまで皆で祝った。
その翌日。
凱斗と桜庭は隊員達に見送られ総龍会本部へとやってきた。
会長に出迎えられ会議室へと通される。
会議室のモニターには研究者の高山、赤龍青龍の隊長が映し出されており久々に食屍鬼に関しての会議が行われた。
各地区でおこった食屍鬼に扮した殺人事件について会長が報告を上げる。
「大橋への尋問で判明した事だが、この時から我々は大橋の思惑通りに動いていたことが分かった。
元々は人間同士の争いから発展した殺人であったが、それを利用し我々を分散させ誘い出したものとされる。
各地区へ成功体と呼ばれる食屍鬼を放ちターゲットを定め、発見されやすい場所へ遺体を移動。
殺人を犯した者が未だに発見されていないのは成功体が喰ったのだろう、との事だった。」
会長は机の上に置かれた資料に目を通しながら進めた。
「では何故我々を分散させたのか。
大橋の目的は燈龍凱斗を成功体に吸収させより強い力を得る事であった。
だが黒龍地区で何かが起これば、他の龍が直ぐに集まり作戦は失敗する、そう考えた大橋はアビスやクレセント、アズール、ゼファーに目を付けたそうだ。」
会長は資料を1枚捲り続ける。
「各地区での遺体発見報告が上がってすぐにアビス地区の者は絶滅へと追いやられた。
それは黒龍がアビス地区へ向かう事が分かったからだ。
大橋の頭の中には凱斗の存在が大きく、いかにして凱斗の隙をつけるのか伺っていた。」
皆が会長の話を聞き顔を歪ませる中、凱斗は顔色一つ変えずにジッと会長を見つめ話を聞いていた。
「猫八に関しては向こうも想定外の出来事だったそうだ。
胸糞が悪いが、成功体に凱斗を吸収させた後に繁殖させ、その中から出た成功体に各龍の隊長を狙わせる予定をしていた、と。」
会長は資料から凱斗へと視線を移す。
「大橋は燈龍家も狙って襲った。
それはお前の父親の力を欲していたから。
だがその前に私を狙っていたが失敗に終わったという話も聞いた。
奴は昔から我々総龍を狙う者だったと知った時、私は膝から崩れ落ちたよ。
私がもっと早く気付いていれば防げていた事だった。凱斗、すまな──」
「会長が謝る必要は無い。悪いのは全部大橋だ」
凱斗は会長の言葉を遮ると天を見つめ口を開く。
「ずーっと俺達は遊ばれていた。
俺達は知らぬ間にデスゲームをさせられていた。そんな感覚だ。」
凱斗の言葉を聞き皆強く拳を握った。
「会長、大橋は今どこに?」
会長が「総龍地下部屋だ。」と答えると、凱斗は口角を上げた。
「後で挨拶に行くよ。」そう小声でボソリと言う凱斗の目を見た会長は小さく震えた。
会長はもう一度資料に目を通す。
「では、次へ。
黒龍の屋敷に居た山内瑠璃さん。
携帯電話で大橋と連絡を取り、成功体が黒龍屋敷まで抑制剤を運んでいた。
そのやり取りが行われたのは決まって夜遅い時間だったという。
黒龍がアビスへ向かう事も何かしらで情報を得た彼女から大橋へ連絡がいった、そう考えられる。」
「抑制剤の運搬か。
見張りはどうした?気付かなかったのか?桜庭。」
凱斗は背もたれに体重をかけ桜庭に問い掛けた。
「はい。見張りの者に気が付いた者は誰一人といませんでした。ただ、1つ新たな情報が。」
「新たな情報?」
「はい、見張りの者は恐れ黙っていたそうですが、時折急激な眠気に襲われそのまま眠ってしまった事が何度かあった、と言っていました。
もしかするとその時に……。」
「なるほどな。眠らせるナニカを使った。
見張りをしなければならないのに眠ったとなると桜庭に叱られるのは子供でも分かる。
黙る事を予測していたか。」
凱斗は大きなため息を付くと目を閉じる。
「セキュリティを破って入り込まれていたら俺達は全員喰われていたかもしれないな。
もしも瑠璃が抑制剤を手に入れることが出来なければ、それでも俺達は被害者を出していた可能性がある。
これに関しては俺の責任だ。申し訳ない。」
凱斗はそう言うとゆっくりと立ち上がり桜庭に頭を下げた。
「凱斗さん!やめてください!
私ももっと早く調べていれば早期発見出来ていたかもしれない。
ですがアビスに気を取られ疎かにしてしまいました。申し訳ございませんでした。」
桜庭も立ち上がり凱斗へと頭を下げた。
そんな二人を見た会長は二人に顔を上げ座るように言う。
二人は従い悲しい目をしたまま座り直すと、会長が咳払いをする。
「彼女に関しては大橋が送り出したスパイ認定だ。
だが、彼女が話した家での出来事は真実だった。
酷く辛い思いをして過ごし、その中で絶望と希望の光を与えたのが大橋。
それよりも早く私達が手を差し伸べる事が出来ていれば……そう後悔をしている。
が、残酷だが彼女はもう居ない。人は失ってから後悔をする。
この出来事を忘れることなく、同じ思いをする人が一人でも少なくなるよう、私達はこれから更に守りに徹しなければならない。」
凱斗と桜庭は黙ったまま頷いた。
「だがな、凱斗。」
会長は凱斗をじっと見つめる。
「お前はもう休んでいい。お前はこれからは私達龍に守られる側になっていいんだよ。」
優しい口調でそう言う会長を凱斗はジトリとした目で見つめた。
「その事に関してなんだけど。」
凱斗は会長の目を見たまま続けた。
「俺は抑制剤が無いと生きてはいけなくなってしまった。俺はあの日からずっと守られる側じゃなく殺される側という認識だ。」
会長は黙ったまま凱斗を見つめ、桜庭は眉を下げた
「あの……。」
沈黙が続き重い空気が漂う空間に高山の声が響く。
「抑制剤の事で少しお話したいことがあります。」
皆が高山に注目すると、高山は手元の資料をパラパラと捲った。




