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食屍鬼 -総龍会-  作者: 藤岡
望んだ世界
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03

翌日。

総龍会本部で会長と桜庭、総龍幹部が病院へ向かう準備をしていた。

「今日は凱斗と話せるといいが。」

会長がそう言うと桜庭は静かに頷いた。


あの日凱斗と同じく病院へと送られた大橋の怪我は致命傷には至らず、病院で治療を受け数日入院すると回復した。

退院日である今日、総龍隊員達に迎えられそのまま総龍会本部へと連行される予定である。

「会長、大橋さんはどうなさるおつもりで?」

病院へと向かう道中、車の後部座席に座る桜庭は隣で外を眺める会長へ問いかけた。

「まずは薬や食屍鬼について全て話してもらう。どんな手を使ってでもな。

……と言っても気付かなかった私にも非がある。情けない話だよ。」

会長は目を細め平和になった街を眺めた。

人々は何事も無かったかのように道を歩き、買い物を楽しみ、笑い合っている。

「この当たり前の光景がこんなに素晴らしく感じる日が来るなんて十数年前では考えられなかったな?桜庭。」

「そうですね。

当たり前が当たり前じゃなくなった時、私達はそれがいかに大切なものであったか思い知らされるのです。

慣れというのは怖いものですね。」

二人を乗せた車は走り続け、凱斗がいる大きな病院へと到着した。

「今の凱斗の状況を知ってから黒龍隊員達も見舞いに行くと騒いでいるらしいがどうするんだ?」

凱斗の病室へ向かいながら会長が桜庭に問い掛ける。

「あー、そうですねぇ……とりあえず今はまだそっとしておいてほしいと伝えてはいますが不服そうですね。」

桜庭が苦笑いをしながらそう言うと会長はニコリと笑う。

「凱斗は愛されているな。燈龍達も鼻が高いだろう。」

「そうですね。きっと綺麗な空から誇らしげに見守っているはずです。」

二人はエレベーターに乗ると1番上の階のボタンを押す。

エレベーターの中は静まり返っていた。

エレベーターが止まりドアが開くと会長と桜庭、そして隊長二人が下り、一緒に来ていた残りの総龍隊員達はそのまま大橋がいる階へと向かった。

会長と桜庭と総龍隊員の二人は静かに凱斗の病室へと向かう。

そして会長と桜庭は扉の前で小さく息を吐いた。

「合間を見て何度か来ていますが……やはり緊張してしまいますね。」

桜庭がそう言うと会長はニコリと笑い桜庭の肩をポンポンと叩く。

「その緊張を感じ取るのが凱斗だぞ。」

会長の言葉を聞いた桜庭はパンッと自分の頬を叩き背筋を伸ばした。

そんな桜庭を見た会長はニコリと笑ったままノックをする。

返事は無い。

「凱斗、調子はどうだ?」

会長はゆっくりと扉を開け凱斗に声を掛けながら病室の中へと入って行く。

その後ろを桜庭が付いて入り、総龍隊員の二人が入口前に待機した。

ヨイショ、と会長がベッドの横の椅子に腰をかける。

「失礼致します」と桜庭が凱斗に挨拶をする。

ベッドの上で窓を眺める男の髪は少し伸び、顔は青白く少し痩せていた。

「凱斗、今日はいい天気だな。」

会長が問い掛けても凱斗は黙ったまま外を眺める。

雲一つない晴天にギラギラと輝く太陽が眩しい。

会長は桜庭の方を向き、首を横に振る。

「凱斗、私は少しお医者さんと話をしてくるからな。話し終わったらまた来る。」

会長はそう言うと立ち上がり扉へと向かう。

その後ろを桜庭がついて歩くと「ここにいてやってくれ。」と会長に言われ立ち止まる。

「頼んだよ、桜庭。」

桜庭は頭を下げ会長を見送ると、扉は静かに閉められ、閉まったことを確認した桜庭はゆっくりと頭を上げると凱斗の方へと視線を戻した。

外を眺める後ろ姿は、命懸けで戦っていた男とは思えぬほどに小さくなっていた。

「凱斗さん、再び失礼致します。」

桜庭は凱斗に声をかけるとベッドの横の椅子に腰をかける。

凱斗はまるで置き物のようにピクリとも動かず外を眺めたままでいた。

桜庭は持ってきた鞄の中から沢山の封筒を取り出すと、凱斗のベッドに備えられているテーブルの上へと並べる。

「凱斗さん。

黒龍隊員達、それに白龍、青龍、赤龍隊員達からのお手紙です。

シェフと麗華さんからも預かってきました。」

凱斗は手紙に見向きもせず、外を眺めていた。

「それと、これは凱斗さんが好きないちごミルクの飴。それに、クッキーもありますよ。」

桜庭は可愛くラッピングされた袋を取り出すとそれもテーブルの上へと置く。

それでも凱斗は見向きもしない。

ただ黙って外を眺める。

その瞳に映る空は暗い暗い空だった。

何の反応も示さない凱斗に桜庭は頭を抱えた。

「凱斗さん、話したくはありませんか?」

桜庭の質問に凱斗は応えない。

「凱斗さん、私は貴方に謝りたい事があります。」

反応を示すこと無く外を眺めたまま。

「私が貴方を苦しめていたと気付きました。」

瞳に映る空は暗いまま。

「私がいなければ、貴方はもっと楽だったのかもしれません。」

瞳に映る暗い空に白い太陽が映り込む。

「燈龍さんじゃなく、私があの時命を落とせば良かったと何度も思いました。」

白い太陽がジリジリと焼き付ける。

「貴方を護ると言っておきながら私は何も出来ないままでいた。

貴方じゃなく私が噛まれていれば、私が標的になっていれば良かった……。」

瞳の中央に映る太陽は、右へ右へと流れて行く。

「凱斗さんがこうなってしまったのは全て私のせいです。

何の罰でも受けます。申し訳ございません。」

桜庭は立ち上がると涙を流しながら頭を深く深く下げた。

医者との話を終え戻ってきた会長は病室での光景に目を丸くする。

「桜庭……。」

会長は頭を下げる桜庭に声を掛ける。

「会長。申し訳ございません。私は謝ることしか出来ません。」

桜庭は頭を下げたままそう言うと涙をポタリと垂らす。

「桜庭、顔を上げろ。」

「いえ、私は凱斗さんから言葉を貰うまでこのままでいます。

何時間だろうが何日だろうが何ヶ月、何年でも!」

桜庭は下唇をギュッと噛み締める。

会長はそんな桜庭を見て頭を搔く。

「こう言ってるが、どうするつもりだ?凱斗。」

桜庭は下を向いたままでいた。

「凱斗。」

会長が凱斗に声を掛ける。

「相変わらずだな。」

会長はそう言うと桜庭の背中をポンポンと叩き笑う。

桜庭は何故会長が笑っているのか理解できないまま頭を下げ続けた。

「桜庭、顔を上げなさい。」

会長はまた桜庭の背中をポンポンと叩くと桜庭は「いえ、ですから私は」と話している途中で言葉は遮られる。

「桜庭、顔を上げろ。」

桜庭は聞きたくて聞きたくて堪らなかった声が聞こえ、幻聴かと疑いながら恐る恐る顔を上げた。

そこにはテーブルに肘をつきながら此方をニヤリとした表情で見ている男がいた。

「凱斗……さん。」

「うーわ、涙とか鼻水ですっげぇ顔汚い。洗ってこい。」

桜庭は顔をクシャっと歪ませると、凱斗に抱きつき声を上げて泣いた。

そんな桜庭を見た会長は嬉しそうに微笑み、凱斗はジトッとした目で桜庭を見ながら頭を撫でた。

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