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食屍鬼 -総龍会-  作者: 藤岡
望んだ世界
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02

「会長、僕の考えをお話してもよろしいでしょうか?」

声を少し震わせながらそう言ったのは陽平だった。

会長はニコリと微笑み頷いた。

陽平は涙をポタポタと零しながら頭を下げると袖で涙を拭い笑顔で顔を上げる。

「アニキ…あ、いや、燈龍隊長は……。」

「ははは、黒龍隊員は凱斗の事をアニキと呼んでいる事は知っている。呼びやすいように呼ぶといい。」

会長は畏まる陽平にそう言うと、陽平は「はい!」と返事をし続けた。

「アニキは僕の目標です。アニキは僕の光です。

いつも僕達の前に立ち護ってくれるアニキをいつかお護りしたい、その考えは今でも変わりません。

黒龍の隊員達は皆同じ考えだと思います。」

黒龍隊員達は静かに頷く。

「僕達の殆どは食屍鬼の被害にあい居場所を無くした所をアニキに助けられました。

憧れの隊長であり恩人でもあります。

その人を最後まで護る事が出来なかった事を悔やみます。

僕達はアニキが絶対、アニキが命令すれば僕達はそれに従う。それが当たり前だと思っていました。

ですが、先日のサルワの森でやっと、やっと気付きました。

アニキを護りたいと言う割に僕達はアニキに従ったままで、アニキが自らの命を投げ出し僕達を危険な目に遭わせないようにする事を知っているのにも関わらずあの日また僕達は待機をしていたんです。

自分の意思で動こうとはしなかったんです。」

陽平はまた目を潤ませながら必死に続けた。

「あの時僕達が30分という時間を15分に縮めていればアニキはあんな目に遭わなかったかもしれない。

腹の怪我だけで済んだのかもしれない。

ですが、アビスに行った時僕はアニキの帰れという命令を聞かず我儘を貫きました。

その結果大きな被害を生み出しました。

僕の中で、アニキの命令を聞いていれば…その感情が大きくて、今回も勝手な行動をすればアニキが酷い目に遭うんじゃないか?そう思ってしまい動けずにいました。

でも、違ったんです。

僕がアビスでした我儘は僕自身の我儘で、サルワの森で命令に抗う事はアニキの護衛に繋がる事であって全くの別物だと。

僕は今の今までそんな簡単な事に気付けないままでいました。我儘と護衛は全くの別物なのに、僕は……。」

陽平は溢れ出る涙を拭うが拭っても拭ってもそれは止まることは無かった。

「僕はいつかアニキから頼られるような男になりたくて、必死に頑張りました。

僕は、アニキに認められたかった。

でもそれよりも、アニキが幸せに暮らせる世界を築きたかった。

ふとした瞬間に物凄く暗闇に覆われた瞳をする時があったんです。

それが最近では常にその目をしていて…

僕はアニキが闇に飲み込まれてしまうんじゃないかと不安な気持ちになりました。

アニキは一人で抱え込んでしまうから、だから力になりたい、頼られる存在になりたいって思っていたのに遅かったんです。」

会長や幹部、隊長、隊員達は静かに陽平の話を聞く。

「会長、これは僕の我儘かもしれません。

ですが、僕はアニキが人に悩みを打ち明けて少しでも抱え込まないようになるまでそばに居たいと考えます。

アニキは外で戦わなくてもいいです。

僕達の想像を絶する程辛い思いをしてきたと思うのでゆっくりして欲しいと願うのは僕も同じです。

ですが、まだもう少しそばに居たいです。

食屍鬼や悪人から護る事だけが護衛じゃないです、アニキをアニキ自身から僕は護りたい。」

陽平は「以上です。」と深く頭を下げると、会長が口を開く。

「凱斗を凱斗自身からとは?」

陽平は顔を上げまっすぐ会長を見つめる。

「アニキはいつも一人で抱え込み、その結果爆発してしまう時があるんです。

その時のアニキは人を守る為に命を投げ出すと言うよりは自分なんかどうでもいい!って感じで。

自分の命を軽く見ている気がしたんです。

僕達の命を大切に思うならまずは自分の命を大切にして欲しい、そう考えます。」

会長は「なるほどなぁ。」と顎を擦りながら言うと陽平は膝を付け頭を下げた。

「君達も色々と思うことはあるだろう。

だがこれはあくまで私や君達の考えであって凱斗の気持ちが優先だ。

凱斗がどう言うかはまだ分からない。」

会長は天井を見上げると目を閉じる。

「桜庭、今の凱斗の状況説明を。」

会長がボソリとそう言うと桜庭は軽く頭を下げ前へと出る。

総龍幹部からマイクを受け取り隊員達に一礼すると桜庭は背筋を伸ばし話し始めた。

「あの日から皆様には詳しくお話はしていませんでしたが、黒龍隊長の燈龍凱斗は今もなお入院中です。

怪我の具合は良好。ですが燈龍との会話は今誰も出来ない状態にあります。」

隊員はざわつく。

「お静かに願います。」

桜庭がそう言うと隊員達は一斉に口を閉じシンと静まり返る。

「先程会長からも説明がありました通り、燈龍は未成年のうちから総龍会で過ごしてきました。

当時私も燈龍の世話係を務めさせていただきました。

成人し正式に黒龍隊長に任命された時、私も総龍から黒龍へと移りずっと隣で彼を見てきました。

ですが、今の彼の姿は今まで一度も見たことがありません。」

桜庭は深呼吸をし、続けた。

「お医者様の話によりますと、蓄積され続けていた精神的ダメージが一気にのしかかったのだろう、との事です。

私達が想像をすることも出来ぬ程の大きなダメージを負っているのです。

その結果燈龍は会話所か目を合わすこともせず、ただひたすらに外を眺め続けているのです。

私は出来れば燈龍に隊長としこれからも皆を引っ張っていって頂きたい、そう願いました。

それは愚かな私の我儘。

そばに居たのにも関わらず、その言葉一つ一つが燈龍へのダメージを大きくしていたのです。

そんな事にも気付かずに私は燈龍に沢山のダメージ、プレッシャーを与え続けていました。償っても償いきれぬ程に……。」

桜庭は指で目頭を抑えながら上を向く。

「私は燈龍よりも龍を見ていた。

燈龍よりも燈龍の父を見ていた。

私は愚かな人間です。」

桜庭はそう言うと拳を強く握り頭を下げた。

隊員達は動揺しまたざわついた。

会長はヤレヤレと立ち上がると桜庭の隣に立ち背中をポンポンと叩いた。

「傍に居続けると性格まで似るらしいな、桜庭。

今のお前は、凱斗と同じような考えをしている。

相手がどう思っているのか自分の中で完結させ、自分を責める事で納得しようとする。

相手がどう思っているのか聞きもせずに。」

桜庭が顔を上げるとそこには笑顔で見つめる会長が居た。

「桜庭、凱斗が今のお前の言葉を聞いたらなんて言うと思う?」

桜庭は会長の問い掛けに少し首を傾げて考えた

「凱斗さんは……そうですねぇ……。」

考え続ける桜庭を見た会長はニタリと笑う。

「別にお前のせいじゃねぇよバーカ。」

会長の言葉を聞いた桜庭は少し目を大きくする。

「どうだ?私の凱斗のモノマネ似ているだろう?

ははは、もう私と凱斗も親子……いや祖父と孫のようなもの。

あの子が言いそうな事は大体わかる。

それに、桜庭もハッとしただろう?凱斗なら言うだろう、と。」

桜庭は頷くと会長はまた桜庭の背中をポンポンと叩いた。

「普段は生意気な態度でなぁ、生意気な口を利くけどあれが聞けないのは少し寂しい気もする。

凱斗が今後どうするかはゆっくり決めるとして、まずはそう深く考えずに私達が凱斗と会話する所から始めよう。

桜庭も、隊員達もそれで良いな?」

会長の問いかけに桜庭と隊員達は敬礼で返した。

会長はニコリと笑うと隊員達に「解散。」と告げ広間を後にした。

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