05
「いいから!喰わせろ!お前を吸収して!お前の力で!アイツを殺る!!!」
アンラは勢い任せで凱斗へと立ち向かうが、凱斗はニヤリと笑ったまま軽々しく全て避けてみせた。
「本気で来いよ。じゃないと次はもう無いよ。」
凱斗が笑いながらそう言うとアンラは森全体が揺れるほどの雄叫びを上げる。
すると、その声を聞いた食屍鬼があちこちから集まってきた。
「どんな手を使ってでも、お前を喰ってやるからなぁ!!」
アンラは凱斗の剣を狙い攻撃を仕掛ける。
凱斗は剣でガードしながら避けるが、集まってきた食屍鬼達も凱斗や桜庭を狙い口を大きく開ける。
「チッ」
凱斗は背後に立つ食屍鬼に捕まれそうになり思わず舌打ちをして剣を大きく横へと振った。
凱斗の剣が当たり叫びながら転がる食屍鬼。
それでもまだ森の奥から湧いて出てくる他の食屍鬼。
ニタリと笑いながら凱斗の首を狙い続けるアンラ。
桜庭の周りにも食屍鬼が集まり桜庭はそれを剣で斬り続けた。
「そろそろ腹の傷もきつくなってきただろ?大人しく喰われなよ、燈龍凱斗。」
アンラは素早く移動すると凱斗の首を目掛けて爪を伸ばすが、間一髪の所で凱斗はそれを避けた。
「大人しく喰われろって言ってるのにしつこいなぁ。」
「しつこいのはお前だよ。」
凱斗はハァハァと息を荒くしながらアンラを睨み付ける。
そんな凱斗を見たアンラは「僕の勝ち、だね?」とまたニタリと笑った。
「もうお前は僕のお兄ちゃんじゃない。
なら、僕はもう我慢する必要性がない。
大丈夫、残さず全部食べてあげるからね。」
アンラは、ふふふと笑いながらゆっくりと凱斗へと近付く。
伸びた爪をカチカチと鳴らすその音は凱斗の気に触れる。
凱斗はドクドクと血が流れる腹を押さえるが止まることはなく、視界がユラユラと揺れ出す。
剣を地面に突き刺しそれを頼りに立つ事しか出来なくなった凱斗は拳を強く握った。
「はっはは、哀れだね。結局人間はその程度。僕達の方が優れている。」
アンラは爪をカチカチと鳴らすのを辞め凱斗の額にそっと当てる。
凱斗の視界は少しずつ紅く染る。
「僕と一つになって、強くなろうね。」
アンラはそう言うと爪を離し周りにいる食屍鬼に向かって桜庭の方へと指を差すと、食屍鬼達はアンラが指差す方へとゆっくりと近付く。
「彼はいらないから。僕が欲しいのは凱斗、君だけだ。
マナフに喰わしてやりたかったが仕方ない。
マナフの分まで僕が強くならなきゃね。」
アンラは涙を一筋流し、愛しい者を想う瞳を向けた。
アンラが凱斗の首元へと向けて爪を突き刺そうと構えた時、森全体が大きく揺れた。
「なんだ?地震か?」
アンラや食屍鬼達は動きを止める。
暫くするとまた大きな揺れと共に耳を劈く程の雄叫びが聞こえた。
「ウオォオオオオオオオオ!!!」
アンラは目を大きく見開くと、歯をギリリと噛み締めた。
桜庭を庇うようにして立つ食屍鬼が地面を蹴り、叫んでいたのだ。
食屍鬼達は叫ぶ食屍鬼の周りに集まると皆座り込み出した。
「出来損ないが何をして──」
アンラは座り込む食屍鬼達に「ソイツも殺せ!敵だ!」と叫ぶが、誰一人アンラを見ようとするものはいなかった。
「何故だ?何を考えているんだ?」
アンラは苛立ち、凱斗の傍から離れると食屍鬼達の方へと歩き出す。
「サクラ、バ。カイ、トヲ。」
桜庭を大きく突き飛ばし、周りに座る食屍鬼にアンラを狙えと命令を下す。
食屍鬼達は一斉に立ち上がると、皆アンラの方へと視線を向けた。
アンラはその場に立ち止まる。
「お前……こういう時だけ父親面するのか?」
アンラがギロリと睨み付けると同時に大勢の食屍鬼達がアンラへ向かって走り出した。
「人間を狩る力が無いお前達に今まで人間を運んできたのはどこの誰だ!?
恩を仇で返すってのはこういう事なんだろうなぁ!!」
自分に向かって走ってくる食屍鬼達を見て口元を大きく歪ましたアンラは猛スピードでその集団の中へと突っ込んで行く。
次々と悲鳴を上げ血を流していく食屍鬼と、その血を浴びて笑うアンラの姿を見た桜庭は、自分が尊敬する人であろう食屍鬼の無事を祈りながら凱斗の元へと走った。
「雑魚が!僕に!俺に!!勝てるわけないだろ?!
はっはは、そんな事も分からないからお前達は失敗作って言われるんだよ!!」
アンラは鋭い爪で次々と食屍鬼の首を落として行く。
アンラへ立ち向かった食屍鬼達は指一本触れることも出来ずに呆気なく命を落とした。
一瞬にしてその場一体は赤く染まり、酷い悪臭に包み込まれた。
「はぁ、はぁ、……はっはは、時間稼ぎのつもり?笑わせないでよ。僕は、成功体だよ?燈龍光斗。」
アンラは爪についた血をペロリと舐める。
「さて、次はあんただ。
その後あんたの大事な大事な息子と部下を頂くよ。
有難く思えよ、同じ腹の中に入れてやるんだからさぁ!!」
アンラは地面を強く蹴りあげ飛び上がると、ソレも同時に飛び上がり、高い高い場所で二人は赤い目で睨み合った。
宙に浮かぶ二人は雄叫びを上げながらお互いを殴り合った。
二人は地に落ちても素早く立ち上がると相手へと向かい走り出し、口を大きく広げて首を狙った。
桜庭は二人を気にしつつ凱斗の腹の傷にハンカチを押し当て木の影へと移動させた。
「凱斗さん、少し休んでいてください。」
桜庭が眉をひそめながらそう言うと、凱斗は腹を押えながら膝を立てる。
「アイツに父さんは殺らせない。俺が護らなきゃ。」
凱斗は眉間に皺を寄せるとゆっくりと立ち上がり剣を持つ。
そんな凱斗を見た桜庭は小さく息を吐き笑う。
「貴方って人は……無茶はなさらないでくださいね。」
凱斗はチラリと桜庭を見て笑うと、湖の前で暴れる二人を視界に捉える。
周りに転がる食屍鬼を盾にし自分を守り、時にはソレを投げつけ相手の隙を伺うアンラに対し、少し疲れを見せる父。
凱斗は強く剣を握り締めるとアンラへと向かい走り出す。
その後を桜庭が追い、二人は高く飛び上がるとアンラの首を目掛けて剣を振り下ろした。
アンラは怒りに満ちた目をお父さんから凱斗へと移すとニタリと笑う。
「先に……お前から喰うか?」
アンラは鋭く尖った爪を凱斗へと向け飛び上がろうとした。
その時、アンラの口から大量の血が溢れ出る
「カハッ…」
アンラはそのまま地へと叩きつけられ横になったまま動けずにいた。
凱斗と桜庭は地に足を付けるとアンラを見下ろした。
二人の剣はすんでのところで当たっていない。
二人はお父さんの方へと視線を移すと、お父さんの手は真っ赤に染まりその手には何かが掴まれていた。
「許さ、許さない!お前ら、みんな、みんな、死ね!死ね!死ね!死ね!!」
アンラは顔を歪ませながら叫ぶと自分の腹へと手を当て回復を試みるが、それを凱斗が許さなかった。
「もうお前はここで終わりだ。ゆっくり眠れ。」
凱斗はアンラの首へ剣先を向けると、高く振り翳す。
「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だよ、お兄ちゃん。」
アンラは涙を流しながら凱斗を見つめた。
「俺は、僕は、何の為に生まれたの?お兄ちゃんに殺される為に生まれてきたの?ねえお兄ちゃん、教えてよお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」
凱斗はアンラの言葉を聞き眉を顰める。
「僕は家族と幸せに暮らしたかっただけなんだ。家族を守りたかっただけなんだ。」
アンラは息を荒くしながらか細い声でそう言うと、また涙を流した。
凱斗は剣を振り翳したままアンラの言葉を聞き頷いた。
「ああ、お前の気持ちは分かるよ。なりたくてなった訳じゃないもんな。辛かったな。」
凱斗が小さな声でそう言うと、アンラは笑う。
「へへへ、お兄ちゃん。そうだよ、辛かったんだよ。
人間は僕の家族や仲間を殺しても賞賛される。
でも僕達は憎まれる。可笑しいよね、同じ事をしているだけなのに。
人間は僕の家族や仲間を殺しても焼いて無かったことにする。
僕達は人間を殺しても全部美味しく頂いた。」
アンラは腹を押えながら話す。
「人間だって動物を食べる為に殺すのに、どうして人間は同じ事をされると怒るの?
自分がされて嫌な事は他の人だけじゃなく生き物にもしちゃいけないんじゃないの?
人間はそんなに偉いの?
……ボクタチヨリモ、ヨワイクセニ。」




