01
「オイシソウ、オイシ、オイシ」
「い、いやっ!やめて!!近寄らないで!!!」
暗い道で女性が一人ペタリと地面へ座り込む。
女性の方へ、ゆっくりゆっくりと近寄る男。
「オイシソウ、ダネ?ネ?」
男はニヤァッと不気味な笑みを女性へ向ける。
恐怖に支配され声を出すことも出来なくなり、ただ涙を流しながら身体を震わせ下を向く女性。
「イタダキ、マス、マス」
男が両腕を上げ女性に飛びかかると同時に、辺りに温かい雨が降る。
「アレ?アレレレ?レレ?」
女性の前にドサッと倒れ込む男の胴体に不気味な笑みを浮かべた顔は無かった。
女性は何が起こったのか分からず動けないままでいた。
「大丈夫か?」
別の男の声がする。
女性は震えながらゆっくりと顔を上げるとそこには月明かりに照らされた男が立っていた。
「…大丈夫か?」
男は返事をしない女性にもう一度問掛ける。
「だ、大丈夫…です。」
「そうか。
もう少ししたら俺の仲間が来る。ここでの出来事はそいつらに話せ。」
男はそう言うと、女性に背を向けひらひらと手を振る。
女性は、助けてくれた男の名前を尋ねようと立ち上がるが、振っているのとは逆の手に持たれている不気味な笑みを浮かべたものを見て声を殺した。
女性が立ち尽くしていると、男が言った通り同じ服装をした人が数名駆け寄ってくる。
その中の一人が不自然に転がるものを見て女性に問う。
「これは誰が…?」
女性は先程の男の容姿を伝える。
「ソレは男の人が倒してくれて…銀髪で……えっと、後は……」
女性が他の特徴を伝えようとする言葉を遮り、その場に集まった皆が口を揃えて「アニキか」と言った。
「アニキ?」
「あ?あぁ、俺らは総龍会黒龍の者です。
アニキは黒龍の隊長で、一人で勝手に処理しちゃうんですよね。」
ははは、と笑いながらそう言う男は転がる物を片付けるように他の者へ伝える。
「あのぅ…私はどうしたら…?」
女性の問い掛けを聞き、男は頭をポリポリと軽く搔く。
「怪我とかしていませんか?
とりあえず専用医務室に連れていきますけど、噛まれたりとかしているなら今のうちに言っておいてください。」
「噛まれては無いです……。」
女性の言葉を聞き、男は女性を車がある場所へと連れて行き乗るよう伝える。
「少しお話も聞かせてくださいね。」
女性が車に乗り込むと男はそう言いドアを閉めた。
後部座席の窓には黒いカーテンが付けられており、外を見ることは出来なかった。
女性は黙ったまま下を向き、震える手をギュッと握る。
綺麗なネイルが掌にくい込み、少し血が滲む。
人間の見た目をした化け物がいる事はニュースで度々耳にしていた。
まさか自分が遭遇するとは思いもしなかった。
女性は静かに涙を流し、小さな声でポツリと漏らす
「さようなら。」
「つきましたよ、っと。」
助手席にいた男がそう言うと、停車しドアを開く。
後部座席に座ったままの女性は自分でドアを開けようとするが、その前に男の手によってドアは開かれる。
「ついてきてください。」
男はそう言うと女性に手を差し出すが、女性はその手を取らずに車から降りた。
男は行き場を失った手をプラプラとさせた後、ドアを閉め歩き出す。
女性は辺りを見回した。
石垣で囲まれた屋敷。
所々に赤提灯が飾られており、真ん中にはデカデカとした門がある。
門の左右に置かれた黒い龍の置物は、まるで部外者が立ち入る事を許さないと言わんばかりに牙をむき出し此方をキッと睨みつけていた。
恐る恐る歩みを進め、門をくぐり中へ入る。
少し歩くと、屋敷の入口へと辿り着く。
「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。
話を聞いたらちゃーんとお家まで送りますから!」
男は振り返り笑顔を見せた。
女性は少しホッとした表情を見せ、男について屋敷の中へと入る。
「じゃあ先に医務室に…」
「貴方って人は!!!!!!!!!」
男が女性に話しかけている言葉を遮り、誰かの怒鳴り声が屋敷内に響き渡る。
女性は驚きその場に固まった。
「うるっせぇな!!!声がでけぇんだよバカ!」
「貴方も大概でしょう?!」
ドスドスと大きな音が近付いてくると、その後ろからバタバタと慌ただしい音が付き纏う。
「分かったから!もう分かったから付いてくんな!腹減った飯!!」
「なっ!本当に貴方というお方は…今回の事、会長に報告させて頂きますからね!!!」
言い合いをしながら近付いてきた音は女性の前で止む。
「会長に報告だぁ?」
圧をかけた話し方をする男は、ハァと大きく溜息を吐き、気配に気付いたのかチラリと女性の方へと視線をやる。
「あれ?お前何してるんだこんな所で。」
男は少し気怠そうにしながら、女性の目をジッと見つめた。
「あの…えっと…」
「アニキィ!ただいまでっす!
女性は念の為医務室に!まだ話も聞けてないんでゆっくり聞こうかと思いまして!」
言葉を詰まらす女性を庇うようにしてアニキと呼ばれる男に言葉を投げかける。
「ふぅん。陽平、お前その女好みだろ?襲うなよ。」
男は、わははと笑いながらまた背を向けて手をヒラヒラとさせながら歩いていく。
その後ろを「話はまだ終わっていませんよ!」ともう一人の男の人がついて行く。
「ったく、襲うわけないっての。
普通に話聞くだけなんで安心してくださいね。」
陽平は女性にそう言うと靴を脱ぎ、此方ですと案内を再開する。
女性はいそいそと靴を脱ぎ、一度アニキと呼ばれる男が歩いていった方へと目をやるがそこにはもう誰も居ず、小さなため息をついて陽平に付いて行った。




