04
「お前から喰って、その後はアイツだ。俺が全員喰ってやる!!!」
アンラは食屍鬼の首を掴むと口を大きく広げる。
が、違和感に気付き片手を上へと突き出し、黒い剣を握った。
「バカ兄貴は大人しく向こうで待ってろよ。なぁ!?」
アンラは食屍鬼の首を掴んだまま顔を凱斗の方へと向けると剣ごと凱斗を振り払うが、凱斗は近くの木を蹴りニタリと笑うとそのままアンラへ突っ込んだ。
「待ってろっつっただろ?!何、それとも先に喰われたいの?」
アンラは赤黒く染めた目で凱斗を捉えると食屍鬼の上から飛び上がり凱斗へと向けて地を蹴りあげる。
「今度は護るんだよ。」
凱斗が剣を振りかざすと、アンラは口元を緩ませ凱斗の腹を狙う。
「隙だらけ。」
アンラはそう言うと凱斗の腹へ鋭い爪を突き刺した。
「アアアアアアッ!!!!!」
ドサリと倒れ込み悲痛な叫び声を上げのたうち回る。
その姿を見てニヤリと笑うと舌なめずりをしてみせた。
「刺された所は痛いか?痛いよな。俺も痛いよ。……あれ?……名前なんだっけ、お前。」
暗い森の中で月夜に照らされた銀髪から覗く闇は倒れ込むソレをジッと見つめた。
叫びのたうち回りながら凱斗を睨みあげるアンラの目は今まで見たことがない程に赤黒く染っていた。
「くそっ!くそっ!くそぉっ!!」
アンラは片目を押えながら叫び続ける。
抑える手からはドロドロとした血液が滴り地面へと落ちる。
「人間舐めてんじゃねぇぞ。」
凱斗がアンラの首元に剣先を向け冷たく言い放つと、アンラは下を向いたままカタカタと身体を震わせる。
「じゃあな。」
凱斗がそう言うと黒く輝く大きな剣は高く振り翳された。
「待って!!待ってくれ!!」
凱斗の剣が振り下ろされる直前、這いながら此方へと向かう大橋が叫ぶ。
「待ってくれ凱斗くん!
成功体はもうその子しかいない!その子まで奪われたら私は……。今までの私の努力は全て水の泡になってしまう!!」
大橋は手を伸ばし桜庭の足を掴んだ。
「ちょっと、離してください!」
桜庭は慌てて大橋を振り払おうとするが大橋はしがみつき離れなかった。
「凱斗くん、お願いだ。その子を此方へ渡してくれ。」
大橋はそう言うとガサゴソとポケットを漁り、一本の注射器を取りだした。
「何の真似だ?大橋。」
凱斗は剣を下ろし大橋を睨み付ける。
「へっへへ、私は研究者。
食屍鬼がいない世界なんて要らない!
その子を奪うと言うのならば……私はまた貴方から奪うまで。」
大橋は桜庭の足に注射器を向けるとニタリと笑う。
「桜庭くん、動かないでくださいね。
少しでも動けば刺します。凱斗くん、その子を私の元へ。」
凱斗は大きく息を吐くとアンラに向かって「行け。」と告げる。
アンラはカタカタと震えたままゆっくりと立ち上がると大橋の元まで歩いて向かった。
「凱斗さん!私の事は良いからソイツを!!」
桜庭は必死に叫ぶが凱斗は首を横に振った。
そんな二人を見た大橋はニタニタと笑う。
アンラが大橋の元へと辿り着き、大橋にしがみつきながら叫ぶ。
「あの野郎!俺の!僕の!俺の!目を!!!」
怒りに満ちた残された目はギラリと光り、怒りで身体を震わせる。
「アンラ。すぐに元に戻そう。一緒に研究所へ帰ろう。」
大橋は桜庭の足を離すとアンラを抱きしめ頭を撫でた。
桜庭はゆっくりとその場から後退りし剣を構える。
そんな桜庭を見て大橋はまたニタリと笑いながらアンラを撫で続ける。
アンラは黙ったまま撫でられていたが、身体の震えが収まると共にゆっくりと大橋から離れた。
「先生、俺は!今!!」
アンラは鋭い牙を剥き出しにするとグルリと首を回し凱斗を睨み付ける。
「アイツヲクイタイ」
「いやぁ、アンラ。君の気持ちはよく分かる。
だけどね、凱斗くんは私達の想像を遥かに超える力を備えていた。
へっへへ、だからね……確実に落として頂こう。」
「だけど先生!コイツは俺の目を!それにあのクソ親父!マナフをこんな目に遭わせやがった!!!」
アンラは転がるマナフの首を見て地面を強く殴る。
「自分の家族の死がキッカケで俺達の仲間や家族を殺して回るお前らが憎い!憎くて憎くて堪らない!!
それになんだ?!どうして父親が娘を殺した?!マナフはあんたの娘だろうが!!!なあ、お父さん、どうしてだ!?」
アンラは興奮状態で凱斗と凱斗の後ろにいる食屍鬼へと言葉を投げかけた。
「ソレ、ハ
ムスメ、ジャナイ」
食屍鬼はアンラに付けられた傷を回復し立ち上がると、凱斗の前へと立ちアンラへ言葉を返した。
食屍鬼の言葉を聞いたアンラは目を見開きその場で暴れ出す。
「俺やマナフやモロク、それに……他の奴らだって!お前達から生み出されたんだろうが!!娘じゃない?!ふざけるな!!!
マナフが娘じゃないなら、俺も、僕も……息子じゃないって事か!?」
食屍鬼はアンラの問いにコクリと頷く。
それを見たアンラは目を閉じ大きく息を吸うと、クックックっと笑い出した。
「そっか。じゃあもうあんたは僕のお父さんじゃない。
そこに居る男もお兄ちゃんじゃない。
だからもう……情けをかける必要は無い。」
アンラは力強く地面を蹴りあげるとその場から姿を消した。
桜庭は剣を構えたまま凱斗の元へ向かおうと振り向いた時、凱斗の後方から凄まじい殺意を纏った塊が凱斗の首を目掛けて向かってくるのが見えた。
「凱斗さん!」
桜庭は凱斗の名を叫び全力で走るが、凱斗の前に立っていた食屍鬼に止められる。
「ダイ、ジョブ」
食屍鬼は桜庭にそう言うと凱斗を指差す。
「オレ、ノ。ムスコ、ダゾ。サクラバ。」
桜庭は食屍鬼が指差す方へと視線をやると、凱斗は高く飛び上がりアンラの攻撃を避けていた。
「そんなに殺気放ってたら嫌でも気付くけど。」
凱斗はストンと地面に立つと呆れ顔でアンラを見下ろした。




