03
「大橋てめぇ……何が目的だ!?
俺の家族だけでなく一般市民にまで手を出し、繁殖させて……一体何がしたい!?」
凱斗が大橋に怒鳴りつけると、大橋はニタリと笑う。
「神秘的でしょう?
喰らった者をそのまま吸収し、知能や身体能力が向上する。
それを知った時私の心は弾みました。
自分で掛け合わせて強くしていく……簡単に言えばゲーム感覚ですよ。」
大橋の言葉を聞いた凱斗は目を見開くと剣を構え大橋に狙いを定め走り出した。
「ふざけるな!お前のその遊び感覚でどれだけの人が悲しみ苦しんだと思っている?!」
凱斗の剣が大橋の目の前に到達すると同時に凱斗は後ろへと大きく吹き飛ばされる。
凱斗は転がり大木に身体を強く打ち付けた。
「凱斗さん!!」
桜庭が慌てて凱斗に駆け寄り手を差し出すが、凱斗はその手を取ること無く立ち上がる。
「お兄ちゃん、何度も同じことを言わせないでくれないか?先生に何かしたら許さない。次は殺すよ。」
アンラとマナフは殺気を放ちながら大橋の前に立ち凱斗を鋭く睨みつけた。
凱斗は黙ったまま、アンラとマナフの隙間から見える大橋の笑みに苛立つ。
「凱斗くん、私はまだ全てを話していない。
人の話はきちんと聞きましょう。
……総龍は、そんな当たり前のことも教えていないのですかぁ?
へっへへ、教養のない暴力集団だから仕方ありませんねぇ?」
大橋は地面を叩きながら笑う。
「瑠璃さんが何故黒龍の屋敷内で食屍鬼にならなかったか?気付きませんでしたかぁ?
屋敷の前までモロクが抑制剤を運んでいた事を。
何故瑠璃さんが屋敷を出てサルワの森の近くまで来ていたか、疑問に思いませんでしたかぁ?
彼女の言動全て、凱斗くんを私達の理想体に近付ける為に私が指示した事。
おかげで貴方は強くなった。
屋敷内に他人を入れるのならば!きちんと身体チェックをした方が宜しいですよ?敵は味方の振りをして近付きます。
今後注意した方がよろしいですねぇ!
へっへへ、凱斗くんがまたあの屋敷へと戻る事が出来れば、ですが。」
大橋は話終えると湖を眺める食屍鬼の方へと視線を向けた。
「本当はもっと早い段階で完成するはずだったのですよ。
ですが邪魔が入りましてねぇ。
龍崎 良昌。この人を一番最初に喰わせるはずだったのです。
当時はまだ下っ端の彼でしたが力は他の者より優れていました。
結果龍崎の手によって私の可愛い子は命を落としました。
さすがは総龍会の会長になられただけある。
次に狙いを定めたかったのですが中々龍崎を超える者が現れないまま時は流れやっと現れたのが燈龍光斗。
長かった……本当に長かった。
そして私の新しい可愛い子は無事吸収することが出来たのです!
へっへへ、ですが先程も申し上げた通り彼は食屍鬼に吸収されると力を失いました。中々思う通りには行きません。
何もかも上手くいかずに苦しくて自ら命を絶ちたくなる時もありました。
ですが凱斗くん、貴方の存在が私を生かし続けた。」
大橋は凱斗へと視線を戻すと涙を流しながら笑う。
「凱斗くんはアンラとマナフに喰われたいですかぁ?」
凱斗は黙ったまま剣を構えると、アンラとマナフも戦闘態勢に入る。
桜庭は凱斗の隣で「お供致します。」と告げると剣を構えた。
「おや、どちらでも良いという解釈で大丈夫ですかぁ?」
大橋はニタニタと笑うとアンラとマナフに向け大きな声で「有難く食すのですよ。」と言った。
その言葉を聞いたアンラとマナフは涎をポタリと垂らすと赤い瞳で凱斗を捉え猛スピードで近付く。
凱斗は光の無い闇の中にアンラとマナフを捉えると一気に駆け出し、その後を桜庭も追った。
大橋はヘラヘラと笑いながらその様子を楽しそうに眺めていた。
「お兄ちゃぁぁああああん!ずっと、ずぅううっと我慢してたんだよぉおおおおお!!!」
マナフはキャッキャと笑いながらそういうと口を大きく開け凱斗の首を狙う。
アンラは口元を緩ませたまま桜庭へと狙いを変えた。
「桜庭、一匹任せて大丈夫か?」
「私をあまり見縊らないでくださいよ。」
凱斗と桜庭はチラリと目を合わすと大きく飛び上がった。
凱斗とマナフの目が合い、桜庭とアンラの目が合う。
凱斗と桜庭の剣が振りかざされ、アンラとマナフの鋭い牙がキラリと光った。
その時、湖の方で断末魔が聞こえた。
アンラとマナフは素早くその場から離れ湖の方へと視線をやると、黙って湖を眺めていた食屍鬼が立ち上がり大橋の首を後ろから掴んだまま此方を見ていた。
「お父さん、何をしている?」
アンラは声を震わせ食屍鬼の手元をジッと見つめた。
「先生?!」
マナフは食屍鬼の方へと向かい地面を強く蹴りあげた。
「マナフ!ダメだ!!」
アンラはマナフの後ろ姿へと叫び、マナフはキョトンとした顔で振り向くと同時に視界が天を向いた。
「マナフ!!!」
アンラはコロコロと転がるマナフの首を見て叫ぶ。
転がる首はアンラの近くで止まる。
キョトンとした表情のまま動かないソレを見たアンラの目から涙が流れた。
凱斗と桜庭は地に足をつけるとその光景を見続けた。
目の前にはつい先程まで自分に殺意を抱き喰らおうとしていた者が転がり、片方は涙を流す。
湖の前には表情一つ変えずに手を赤く染める者。
凱斗へと小さく手を伸ばし助けを求める者。
少しの沈黙が辺りを包むとアンラが小さく口を開いた。
「お父さん、残念だけど貴方を今殺さなければならない。
先生に怪我をさせただけでなくマナフを殺した……お父さん、お兄ちゃんの前にあんたを僕に……」
アンラは転がる首から食屍鬼へと赤い視線を戻す。
「喰わせろよ。」
アンラは一瞬にして姿を消すと同時に食屍鬼が暴れ出す。
「ウァアア、アアアアアアッッ!!!!!」
食屍鬼は大橋から手を離すとその場に倒れ込む。
突然身軽になった大橋はそのまま地面へと顔を打ち付けた。
「弱いくせに調子に乗ってんじゃねぇぞぉ?クソ親父。」
倒れ込んだ食屍鬼の上を跨ぎ顔を覗き込みながらアンラがそう言うと、食屍鬼はまた大きく暴れ叫んだ。
大橋は首から血を流しながら凱斗と桜庭の元へと這って行く。
凱斗と桜庭はそんな大橋を全く気にせず食屍鬼とアンラを見ていた。
「動きが速すぎます……それにあの食屍鬼は……凱斗さん、どうします……って凱斗さん?!」
桜庭が隣に立つはずの凱斗の方を見るとそこには凱斗の姿は無く、慌てて視線を戻すとアンラの真上で剣を構える凱斗が目に入った。
「なっ……あの食屍鬼に負けない程のスピード……いつの間に貴方は……。」
桜庭は剣を構えると大橋の隣を駆け抜けていく。
大橋は桜庭の足を掴もうとするがその手は届かずに終わった。




