04
「俺がどこに居るか分かるか?凱斗。」
楽しそうにそう話すモロクの声は森全体に響き何処から発されているのか特定し難い。
桜庭は隊員達に互いを守り合うように伝えると凱斗の元へと走る。
自分の方へと向かう桜庭を見た凱斗は空を睨み付けた。
「あれ?バレた?」
上から不気味な笑顔が急降下してくる。
ソレは桜庭を目掛けて一直線に降りてくるが、桜庭に到達する前に飛び上がった凱斗の剣がモロクの首を貫いた。
「涎、どうにかしろよ汚ぇな。」
凱斗は横たわるモロクに突き刺さる剣を引き抜くと軽く振り剣に付いた赤黒い液体を落とす。
モロクは小さく呻いたまま動かず、しばらく経つと静かになった。
桜庭が近寄り確認すると、息をしていなかった。
「申し訳ございません。私がもっと上方まで注意していれば……。」
桜庭はモロクの亡骸を警戒したまま凱斗に話しかける。
「いや、問題ない。怪我は無いか?」
凱斗はチラリと桜庭を見る。
「はい、私は大丈夫です。……それにしても呆気ないですね。」
「あぁ。奴も所詮は食屍鬼。首さえやられりゃ生きていられない。」
凱斗もあまり納得がいかない表情を浮かべながら、座り続けるソレへと近付く。
「次はお前達だ。」
凱斗は静かにソレに剣先を向けると、一瞬少し寂しそうな哀しい目を向ける。
が、次の瞬間凱斗の目は元の闇に戻る。
今まで大人しくしていたソレは突然立ち上がると、凱斗の方へと両手を広げ口を大きく開いてきたのだ。
「凱斗さん!!」
桜庭が叫ぶ。
凱斗はソレへ剣先を向けるとソレは高く飛び上がった。
「オニィ、チャ」
「イキテ」
ソレの悲しそうな声が聞こえると同時に凱斗は赤い雨に濡れた。
「なっ…!?」
凱斗が慌てて上を見上げると、そこには優しく微笑む顔が浮かび、ドスンと鈍い音が響く。
「家族愛、ってやつかぁ?」
後ろから聞こえるはずのない声が聞こえる。
目の前には血を流し倒れる食屍鬼が転がる。
「凱斗、俺をそこらの雑魚と同等に見るなよ?はっはは。」
凱斗は振り向くことは無く目の前のソレを見つめ続けた。
桜庭と隊員達が凱斗を囲む。
「アナタの相手は私がしましょう。」
剣を構える桜庭がそう言うと、モロクは涎をポタリと垂らした。
「お前達に興味は無いが、腹が減った。飯の時間とするか。」
モロクはそう言うとピョンと飛び跳ね木の上へと立ち隊員達を凝視する。
「どいつにしようか?はっはは、そこの眼鏡の男が美味そうだなぁ?」
モロクは舌なめずりをすると目をカッと見開き桜庭を捉える。
桜庭はモロクを睨み付けると隊員達に下がるように言う。
「桜庭さん!」「俺達も一緒に!」
隊員達の声をニコリと受け止めると手をかざす。
「これでも私は黒龍の幹部。上の者が下の者を護るのが掟です。
ですが、隊長だけは皆命を呈して護らなければなりません。
皆さんは私より凱斗さんを頼みますよ。」
桜庭はそう言うと剣をキラリと光らせる。
「へぇ?俺に勝てるとでも思っているのか?
光斗を失ってから戦うことをやめたと聞いたが……腰抜け脱出かぁ?!」
モロクはケタケタと笑うと口を大きく開き「いただきまぁす!」と叫び桜庭へと一直線に飛び掛る。
桜庭は目をギンと鋭くし叫び声を上げながらモロクへと飛び掛った。
隊員達は心配そうに桜庭を見守り、凱斗はしゃがみこんで倒れるソレに触れていた。
「はっはは、心配するな。俺は腹が減っている。残さず全部喰ってやるよ。
さて、何処から喰われたい?」
モロクは桜庭の剣を掴むと顔を近付け笑う。
桜庭は腕に力を込め剣を大きく振ると、モロクは楽しそうに手を離し後ろへと下がった。
「私はアナタなんかに喰われたりしない!」
桜庭は体勢を整えるとモロクへと駆け出す。
「力は凱斗以下。威勢は凱斗以上。
はあ、教育係みたいなもんだろ?凱斗にもその威勢を与えてやって欲しかったなぁ!
桜庭だっけ?お前との遊びはもうおしまい。喰わせろ!!」
モロクは目をギンと見開くと向かってくる桜庭の腕を視界に捉えた。
「きーめた。」
モロクはトンと地面を蹴ると一瞬にして姿を消した。
桜庭は立ち止まり叫ぶ。
「出てきなさい!!」
森には不気味な笑い声が響く。
「怖いか?いつどこから殺られるか分からないと怖いか?!」
モロクの楽しそうな声が響く。
「くっ……。」
桜庭は神経を研ぎ澄まして辺りに注意を払う。
辺りに響いていた笑い声がやみシンと静まり返る森は不気味さを増し、暗さも深まる。
隊員達も皆構えたまま辺りを見回す。
「あれ?」
隊員の一人がキョロキョロとする。
「どうした?」
陽平が怯えながら聞くと、その隊員は倒れるソレを指差す。
「アニキがいない。」
隊員達は一斉に凱斗が居た場所へと目をやるとそこには胸の上で指を組み、穏やかな表情で目を閉じるソレだけが残されていた。
隊員達の声は桜庭にも届き、桜庭は動揺する。
「アナタの仕業ですか!?」
桜庭は怒りを込めた声で姿が見えないモロクへと叫んだ。
「凱斗が……いない?」
不機嫌そうな声が響くと、ガサガサと桜庭の横に立つ木の枝の間から顔を出す。
「凱斗は俺のだ!俺と一つになるべき者だ!!お前ら俺の兄貴を隠しやがったかぁあああ?!」
木が震える程の怒鳴り声が響き渡る。
大きく見開かれたその目は赤から赤黒く変色し隊員達を睨み付けると、辺りに黒い風が吹く。
「遊びは終わりだぁ、黒龍。俺が本当に欲しいのは兄貴だけ。お前らに用は無い!!」
モロクは隊員達を目掛けて勢い良く飛び出す。
隊員達は剣を構えるとモロクの首を狙った。
「俺の兄貴をどこにやったぁあああああああ!!」
怒りに支配されたモロクは、隊員達が構える剣とすんでのところで叫ぶことを辞める。
「俺はここに居る。」
低く圧をかけた声が聞こえると、モロクの笑い声が小さく響く。
キラリと光る黒の大剣が隊員達の前で大きく振られた。
「か、いと……喰わせ、喰わせろ!」
隊員達の前にゴロリと転がる首が話すと、凱斗は冷たい目でそれを見下ろしニヤリと笑う。
「うるせぇ、死ね。」
凱斗は剣を高く翳すと赤黒く染まった目に突き刺した。
隊員達と桜庭が耳を塞ぐ程の大きな大きな叫び声が響く。
凱斗が持つ剣は何度も何度も引き抜かれては突き刺し、モロクの顔を刻み続けた。




