01
「ふーん。少しは殺れるようになったか。」
唐突に聞こえた声に凱斗は耳をピクリとさせ素早く抜刀した。
その声を聞いた陽平は震え出し悠司に支えられた。
桜庭は凱斗の後ろへと付き辺りを見回した。
「久しぶりだな。ちょっとはマシになったみたいでなにより。もっと時間がかかると思っていたが……さすが凱斗。」
姿は見えないまま声だけが響き渡る。
「ゴチャゴチャうるせぇよ。次はお前の首を落としてやるからさっさと出てこい。」
凱斗の低い声が響くと、笑い声が少しずつ近寄って来る。
「首を落とせる程になったか?生半可な攻撃じゃ、俺達にはなんの意味もないぞ凱斗。」
言葉が終わると同時に凱斗の頭上にハラリと一枚の葉が落ちたかと思えば、その上に見覚えのあるモノが不気味に笑いながら凱斗の首を目掛けて降り掛かってきた。
「凱斗さん!」
それに気付いた桜庭は大きく叫び剣をソレに向ける。
凱斗はニヤリと笑い、後ろに立つ桜庭を力いっぱい蹴り飛ばした。
桜庭は転がり隊員達に受け止められる。
凱斗はニタァッと笑うと降り掛かるソレの腹を目掛け剣を突き刺した。
「おいおい、マジかよ。」
ソレは驚いた表情を見せ大きく後ろへと跳ねる。
「首って言ったのは凱斗だろ?言った事は守れよな。ってぇな。」
突き刺され血を流す腹に手を当てながら凱斗を見ると、ソレは目をキラキラと輝かせた。
「凱斗ォ、お前……なんて良い眼をするんだよォ!!
そうだよ、それだよ、その眼を待ってたんだよ!!!」
嬉しそうに笑い話すソレに凱斗は不機嫌そうな顔を見せ剣先を向ける。
「馴れ馴れしく名前呼んでんじゃねぇぞ。なんなんだお前ら。」
ソレを睨み付けながら舌打ちをする凱斗を見て、ソレは更に目を輝かせた。
「俺はモロク。アンラとマナフと同じ成功体。
つまりは凱斗の弟にあたるモノ。」
凱斗は眉をピクリと動かす。
「何が弟だよ。俺には妹しかいねぇ。」
凱斗はモロクの首を見つめる。
「まぁそう慌てんなよ凱斗。
そう言いながら気になってるんだろ?どうして俺達が凱斗の弟や妹を名乗るのか。
はっはは、いや気付いているけど気付いていないフリをしているだけか?」
モロクは両手を上にあげながら話す。
「何言ってんだお前。」
凱斗はジロリとモロクの目を睨み付けた。
「くぅっ!かっこいいよ兄貴。
その眼だ、その眼でもっと見てくれよ。
俺達はずっとずっと待ってたんだよ、この日が来ることを!!」
モロクは嬉しそうに凱斗へ笑いかける。
凱斗は睨み付けたまま剣を握る手に力を入れた。
モロクは目を赤く染め隊員達へと視線を向ける。
「お前達は良いな?凱斗に家族と呼ばれて。」
モロクの顔から笑みは消えゆっくりと凱斗の方へと視線を移し見つめる。
「自分より弱っちい者だと思うからこそ、守らなければならないと思う。
可哀想になぁ、凱斗。
自分と対等または自分より強い者の集団ならばお前自身は更に力をつけることが出来たはず。
それなのに、隊員達に時間を奪われ成長を妨げられた。」
「は?」
凱斗は睨みを強める。
「俺は残念に思うよ。
自分の兄が、弱肉強食の世界であるのにも関わらず弱き者に手を差し伸べ自らが喰われそうになる愚かな生き物である事に。」
凱斗は足に力を込める。
「俺は何か間違った事を言っているか?
はっはは、現にこうして俺に立ち向かおうとしているのは凱斗、お前だけじゃないか。
他の奴らを見てみろ!恐怖に支配され震える愚かな者、自分の上の者を守ろうともせずただそこに突っ立っている者。
これら全てを守る?そんな馬鹿らしい事はもう終わりにしよう?」
「うるせぇな。ちょっと黙れ。」
凱斗は剣先をキラリと光らせると力強く地面を蹴り上げモロクへと飛びかかった。
「あーあ。馬鹿な兄貴を持つ俺達の身にもなってほしいよ。」
モロクは呆れた顔をすると、スルリと凱斗の攻撃を交わした。
「なあ、凱斗。少し落ち着けよ。」
攻撃を外した剣は間髪入れずに横へと振られソレはモロクの頬を掠めた。
「動揺……しているのかぁ?」
モロクは、はははと笑いながら頬を押さえると高く飛び上がり前に立つ木の上へと移動する。
「逃げてんじゃねぇぞ。」
凱斗の目はモロクを捉えたまま離さない。
「逃げる?まさか!俺は話そうと思って距離を取っただけ。……今の凱斗ならすぐに殺れる。」
凱斗は更に睨みを強くする。
「俺はお前と話す事なんて無い。」
凱斗の言葉を聞いたモロクは、ふぅん?と凱斗を見下ろす。
「話す事は無い、ね?嘘は良くない。
凱斗は俺達から聞きたい事が山ほどあるはずだ。
俺も凱斗に聞きたい事がある。」
モロクは太い枝に腰をかけ足をプラプラとさせる。
「今から俺と話をすれば、そこにいる弱き者達が俺へ立ち向かおうとするまでの時間を作る事が出来るが、話さずにこのまま俺に殺られるか?
こんな所まで来て何も知らぬまま死ぬか?凱斗ぉ。」
「さっきからいい加減にしろよお前。俺がお前を殺るんだよ。」
凱斗とモロクのやり取りを見て、桜庭は入る隙を伺う
隊員達は剣に手をかけたまま、初めて見る食屍鬼に動揺を隠せないままでいた。
陽平はあの日の事がフラッシュバックし震えていたが、悠司に支えられ時間が経ち落ち着きを取り戻す。
モロクはふぅとため息をつきながら、再び呆れた顔を見せた。
「凱斗は驚く程にお父さん似だな。
頑固で自分よりも人を守る事に徹する。
自分より人を優先し過ぎると良くないぞ凱斗。
人に優しくしすぎるな、信用しすぎるな。
人とは他者の優しさにつけ込み悪事を働く者。」
モロクの言葉を聞く凱斗の顔が少し綻ぶ。
「はっはは、凱斗!
今頃お前が大事にしている屋敷はどうなっているかなぁ?!
お前が今まで大事にしてきた屋敷や人はどうなっているかなぁ?!」
ははは、と高らかに笑うモロクを見て凱斗はニヤリと笑う。
そんな凱斗の顔を見てモロクの顔から笑みが消えた。
「何をニヤついている?」
凱斗は手に持つ剣をドンと地面に突き刺し口を開く。
「俺が大事にしている屋敷と隊員達、それに専属医師やシェフに清掃員達に手は出させねぇよ。
お前らの考えに気付くまで時間は掛かったが、お前らが思い描いているような世界は作られていない。
安心してくれ、黒龍の屋敷は離れていようと俺が護るからよ。」
モロクは少し首を傾げ、凱斗の言葉を組み立てる。
「隊員達、専属医師……シェフと清掃員………はっはは!凱斗ォ!!!…いつから気付いていた?」
モロクは嬉しそうに凱斗を見下ろす。
「さぁ?……おい、こっちに連れて来い。」
凱斗は隊員達の方を向き手招きをする。
後ろの方にいた隊員が大きな布袋を抱え凱斗の前へと運ぶと、凱斗に下がるように言われる。
凱斗は布袋の縛り口を緩め少し後ろに下がると、布袋はモゾモゾと動き顔を覗かせた。
それを見たモロクはニタリと笑い凱斗を見た。




