06
「だが今回は相手が悪かった。」
会長は指で涙を拭うと、言葉を続ける。
「生身の人間では無い。相手は食屍鬼と呼ばれる者。」
「食屍鬼?」
「簡単に言えば、人の肉を喰らい生きる者。
自分の腹を満たす為ならば手段は選ばない。」
「それに喰われた…?」
会長は静かに頷く。
「どうして?!食屍鬼なんて…ニュースでも聞いた事が無い…。」
「我々も昨日までは我々に対して恨みを持つ者の犯行だと思っていた。
が、燈龍が警察と捜査に出た時に出会ったんだよ。」
会長は大きく息を吐く。
「見た目は人とそこまで変わらない。
違いと言えばカタコトで話していた、と言う事位しか今はまだ明かされていない。」
「誰からそれを?」
「燈龍と一緒にいた警察だ。
燈龍は警察を守るべく前に立ったそうだ。
警察の目の前で噛み付かれる燈龍を助けようとしたが、それを燈龍に拒まれた、と。」
自分の父親のあまりにも悲しい最期を知り、凱斗は身体を震わせる。
「何度か発砲もしたそうだ。
だがそれも虚しく敵は怯むことは無く、泣く泣く引いたと。」
凱斗は声を震わせながら問う。
「お父さんを襲ったソイツがお母さんと妹を?」
「まだ分からないが、今の所目撃されたのはこの一匹のみ。
恐らく同一じゃないか?と睨んでいる。」
凱斗は震えたまま俯く。
「これからの総龍会は警察だけではなく、国民も同時に守らなければならない。この食屍鬼からな。
今までは密に活動をしてきたが、食屍鬼が繁殖した場合表に出て活動する事となるだろう。」
会長は少し前のめりの体勢になり、凱斗の両肩を掴む。
「そうなった場合、食屍鬼の弱点を探らなければならない。
活動時間や繁殖方法、どれだけの量を食すのか。
それを総龍会も知る必要がある。」
凱斗はゆっくりと顔を上げる。
「総龍会は原則二十歳からの活動しか許されない。
未成年のうちは、食屍鬼のみならず他の者にも負けぬ力を身につける為の訓練をすることになるだろう。
それは、苦しく逃げ出したくなる事の方が多いだろう。
だから無理強いをするつもりは無い。
凱斗、お前の人生はお前が決めなさい。」
会長は凱斗の肩から手を外し、自分の太腿をポンと叩く。
凱斗は深く考える事もなく口を開く。
「苦しく逃げ出したいのは今です。
父も母も妹も失った。
初めて聞くソイツに奪われた。
……今すぐにでも家族に会いたい。」
会長は黙ったまま凱斗を見つめ話を聞く。
「殺してやりたいんだ。
それが悪だと言われようが、この手で殺したいんだ。」
八歳の少年から発せられる「殺したい」という言葉が会長の心に重くのしかかる。
子供が冗談で言うのとは違い、心の底からの本心。
「ソイツを殺せるなら、この手で殺れるなら…俺は総龍会に入ります。」
そう言った凱斗はジッと会長の目を見る。
その目は少年とは思えぬ程奥深くまで暗く、覚悟を決めた目であった。
「凱斗は大人というか、な……。」
会長は幼き子供の在るべきではない姿を目の前にして、言葉を詰まらせた。
総龍会に入ると言ったある青年と同じ目をしていた。
「血は争えないな。」
会長はそう言うと立ち上がり、凱斗を連れて屋敷中央広間へと向かう。
そこには沢山の黒スーツの者達が集められ、凱斗が二十歳になるまでの十二年間、守り鍛えるよう伝えられた。
黒スーツの者達は皆頭を下げていて表情は見えないが、僅かに震えながら涙を流している事を凱斗は見逃さなかった。
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一晩にして家族を何者かによって奪われた燈龍凱斗。
原則二十歳からしか入る事を許されない総龍会の会長から声をかけられ、二十歳になるまでの十二年を総龍会で過ごした。
二十歳になるその日の朝。
白龍、青龍、赤龍の隊長と幹部が集められ、総龍会本部である会長の屋敷にて、正式に総龍会 黒龍の隊長へと任命された。
この十二年間、一日たりとも家族を忘れたことは無かった。
この十二年間、必死で力を身につけてきた。
八歳という幼き子供から、二十歳までの十二年間は他の者とは違う暮らしをしてきた。
黒龍を背負う者。
父と同じ立場になった凱斗は、何色にも染まらない漆黒の瞳で相手に有無を言わせなかった。
家族を手にかけた犯人は未だに見つかってはいない。
他の食屍鬼の数は増えていくばかりであった。
被害者を、自分と同じ思いをする者を一人でも多く減らすべく、凱斗は黒龍としての活動を始めるのであった。




