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食屍鬼 -総龍会-  作者: 藤岡
目的と誓い
58/85

03

「お父さん、お母さん、香夜。」

凱斗は自室の壁に飾られた物を見つめながらポツリと呟く。

「やっと、終わらせる事が出来るかもしれない。

長かった。本当に、長かった。

真実は分からないから、終わるかどうかも分からないけれど……これで終わって欲しいと願う。

アイツは俺達に教えていない食屍鬼の秘密を持っている。そう思うんだ。

お父さん、俺はあの時に見た夢はね、お父さんが俺に何かを伝えようと見せたものだと思っているんだ。

お母さんと香夜を護れたはずなのに、やっぱり護れなくて。

あの時見る事が無かった二人の悲しい姿を見る事になって…。

お父さんまでも目の前で失って、俺は更なる絶望を味わった。

なんて酷な夢を見せるんだよ、って。

なんで二度も失わなければいけない?って。

悲しくて辛くて、三人に会いたくて。

でも、あの時に見る事が無かった食屍鬼を見て、コイツ達が俺の大事な人達を奪ったんだって憎しみと怒りが増した。

お母さん、香夜。

貴女達はどれほどまでに辛くて痛く苦しい思いをしたのだろう。

お父さん、貴方はあの時どんな思いで家に帰ってきたんだろう?どんな思いで俺を置いて行ったのだろう?

お母さんと香夜を護れなかった、辛くて憎くて悲しくて。

護れる者を危険に晒したくない、これ以上失いたくない。

自分の身がどうなろうとも残る者だけは最後まで護りたい。

今ならお父さんの気持ちが分かる気がするんだ。

あの時のお父さんと同じ黒龍の隊長になって、やっと気付いたんだ。

護るべき者が多ければ多いほど力は湧くが、それに伴わない自分の無力さに反吐が出る。

でもね、お父さん。

俺は今日隊員達(かぞく)を護ってみせるから。

だからね、だから…俺に力を分けてください。

もう俺は、誰も失いたくない。

俺は、最期まで護る立場でありたい。」

凱斗は壁に飾られた三つの宝を手に取ると、それを抱えて座り込んだ。

「絶対に、俺がこの手で終わらせるから。

だから、終わるその瞬間を三人で見ていて。」


「黒龍隊員は屋敷門前に集合せよ。」

屋敷にアナウンスが流れると隊員達は門へと向かった。

「お父さん、お母さん、香夜……行ってきます。」

凱斗は立ち上がり宝物を壁へと戻すと部屋を出る。

すると、部屋の前に桜庭が立っていた。

「凱斗さん、共に参りましょう。」

凱斗は頷くと玄関へと向かい歩き出す。

その後ろを桜庭がついて歩く。

日が暮れて風が心地よく感じる。

「桜庭。」

「はい。」

「正直に言うと俺は負けないと、自分には力があると思い上がっていた。」

桜庭は黙ったまま凱斗の背中を見つめる。

「成功体と呼ばれるモノを目の当たりにし、沢山の家族を失って、非力な自分が情けなくて、自信を失った。

でも、家族の夢を見て、猫八と再会して……このままじゃいけないと思った。」

凱斗はピタリと立ち止まると桜庭も立ち止まる。

クルリと桜庭の方へと向けた凱斗の顔を見て桜庭は少し目を大きくする。

「俺はもう隊員達(かぞく)を失わない。」

凱斗はそう言うとニコリと笑い歩みを進めた。

桜庭は小さくなっていく背中を見つめる。

「貴方って人は、なんて哀しい目をするのです。

その思いを何故家族と呼ぶ私達にぶつけないのですか。

……本当に、血は争えませんね。」

桜庭は一歩、また一歩と進む。

「貴方を見ていると私は懐かしく思うのです。

あの頃の黒龍にいるような、そんな気持ちになるのです。

燈龍さん、貴方の息子さんは貴方にそっくりです。

立派に育ちました。どうか、どうかこれ以上あのお方が苦しむ事のないようお守り下さい。」

薄暗い空を見上げ微かに光る星に願いを込めた。


総龍会黒龍屋敷門前。

銀の龍を背負う黒い隊服を身に纏う男達は皆真剣な眼差しで一人の男を見つめた。

隊員達の視線を集めている男は黒い隊服の背中に金と銀の二匹の龍を背負う。

少し伸びた銀色の髪はそよそよと吹く風に靡き、右手に握られた大きく黒い剣を肩に乗せるとトントンと叩く。

男の隣にはいつも傍に居る黒髪眼鏡の男が立つ。

二人は少し話した後、隊員達の方を向いた。

「覚悟は決まっているか?まだの奴は足手まといになる前に屋敷の中に入れ。」

肩を叩いていた剣を隊員達へ向ける。

隊員達は誰一人動かず真剣な眼差しを向けたままだった。

「ほぉ。全員覚悟は出来てると?」

ニヤリと笑い隊員達をジッと見る凱斗は、少し嬉しそうだった。

そんな凱斗を見た桜庭もつられて微笑む。

「よし、じゃあ行くか!」

凱斗がニッと笑いそう言うと、隊員達は気合を入れ叫び車に乗り込んだ。


黒龍隊員達を乗せた車は屋敷を出てサルワの森へと向かった。

これから起こる事が凱斗にとって辛く悲しい出来事になるとはまだ誰も知らないまま。

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