02
桜庭の言葉を聞いた隊員達はざわついた。
「静粛に願います。」
隊員達は口を閉じ、静かに桜庭の言葉を待つ。
「それでは、部隊分けを行います。顔を上げてください。」
皆が顔を上げると、桜庭と凱斗の間に大きなモニターが用意されそこに文字が連なれていた。
「まずは下級層の皆さんは屋敷に残って頂き引き続き黒龍地区を中心に見回って頂きます。」
下級層は静かに頭を下げる。
「中級層の半数は下級層と共に行動して頂きます。
残り半数は上級層と共に屋敷を出て頂きます。
残る者はモニターに名前を出しますので、各自確認をして頂きますようよろしくお願い致します。」
中級層はモニターを見て自分の名前を探す。
陽平と悠司も自分の名前を探した。
「あっ……!」
陽平と悠司は顔を見合わせる。
「俺達の名前が無いって事は……。」
「俺と陽平は一緒に行くって事か…?」
二人は顔を見合せたまま頷き、頭を下げた。
「上級層は数名残っていただきますが、それ以外の者は皆同行するようにお願い致します。
残る者は同じくモニターに名前を出しますので各自確認をして頂きますようよろしくお願い致します。」
上級層はモニターに目をやり、頭を下げた。
桜庭は隊員達が皆頭を下げたのを確認すると凱斗にマイクを渡す。
凱斗はマイクを受け取ると隊員達を見渡した。
「今回は今までとは違い、根っこの部分を狩りに行く。
研究者の高山の研究結果により、これまで俺達が命を懸けて戦ってきた食屍鬼は下位に当たるモノと判明した。
今から行く所にいる食屍鬼は今までとは違う強さを持つと想定される。」
隊員達は黙って凱斗の言葉を聞く。
「一部の隊員は知っているが、白龍の隊長が瞬間的に命を奪われる程の力を持つ食屍鬼がいる。
少なくともそれ程の力を持つ食屍鬼は俺が知る限りでは三匹いる。
今回はソイツらの首を取る事が目的の中に含まれている。」
凱斗は闇に覆われた目を隊員達に向けながら続けた。
「死者を出さずに全員が無事に屋敷へ帰って来るのが俺の願いではある。
が、現実は厳しいだろう。
だから……だから、怖いと思う者、戦えないという者はモニターに表記されていなくとも残ってくれて構わない。」
隊員達は騒ついた。
「情けない話だが、俺はお前達を失う事が何よりも怖い。
俺が護ってやるから安心してついてこいと言いきれないのが情けない。申し訳ない。」
凱斗は深く頭を下げる。
そんな凱斗の姿を見た桜庭は慌てて凱斗に頭を上げるように言うが、凱斗は頭を下げたままだった。
隊員達は前で慌てる桜庭の声を聞き、頭を上げ凱斗の姿を捉える。
自分達が敬い慕っている人が自分達に頭を下げている。
自分達を隊員として受け入れどんな時も一番前に出て自分達を護ってくれた人。
優しく笑いかけてくれた人。
時には厳しく真剣に叱ってくれた人。
誰よりも深い闇の中を歩き続けてきた人。
隊員達は皆それぞれに顔を合わせると、一人の隊員が立ち上がり大きく口を開いた。
「アニキ!
俺達は今までアニキに頼りっぱなしで、たくさん護ってもらった。
居場所を無くした俺達を受け入れてくれた。
本当は隊員が隊長を護らなきゃいけないはずなのに、俺達はずっと護られる立場だった。
今回は俺達がアニキを護るから……だから!アニキは大舟に乗ったつもりでいてください!!」
凱斗はゆっくりと頭を上げ言葉を発した人物に目をやり微笑む。
「大舟に乗ったつもりで?その舟は沈まねぇんだろうな?陽平。」
陽平は力強く頷くと、凱斗はヘラッと笑う。
他の隊員達も立ち上がり凱斗に向けて次々と言葉を発した。
「アニキを護るぞ!」
「アニキは俺達の後ろにいてくれ!」
「俺達黒龍が負けるわけがねぇ!」
盛り上がり騒ぐ隊員達を見て桜庭はハァッと大きく息を吐き、凱斗と目を合わせて笑う。
「さすが凱斗さんに育てられた方々。騒がしいったらありゃしない。」
「それは褒めてんのか?」
「凱斗さんの好きなように捉えていただいて構いませんよ。」
ふふ、と笑う桜庭を見て、凱斗は口元にマイクを近付け手を上にあげる。
隊員達はシンと静まり一斉に地に膝をつけた。
「みんなありがとう。黒龍は俺が思ってたより頼もしい奴らの集まりらしい。」
隊員達は嬉しそうに頬を緩ませた。
「この数ヶ月お前達が必死に訓練を続けてきたのを見てきた。だから、頼りにしてるぞ。」
隊員達は嬉しそうに頷くと、凱斗はニコリと微笑む。
「今回の大本命はお前らも知っている研究者の大橋。
研究所から行方を晦ましていたが居場所が分かった。
人ってのは探し物をする時どうして違う場所ばかり探すんだろうな?すぐソバにあるのにそれに気付かない。」
凱斗はニコリとしていた表情から真剣な表情へと変わる。
「今総龍会隊員達がサルワの森全体を囲い中から外へ出る事を許していない。
アイツはすぐ近くに潜伏していた。この後向かうのはサルワの森だ。」
隊員達は少しザワザワとするが凱斗が口元に人差し指を当てると皆すぐに静かにした。
「総龍の空からの捜索で判明した。
木に覆われたあの森の中なら見つからないと思っていたのだろう。
ただどうやってサルワまで来たのかはまだ分かっていない。
アビスからクレセントへと続く地下の道があったように、どこかから繋がる道がサルワの中にあるのかもしれない。
その道があるとすれば大橋がそこから逃げている、という可能性も有り得るが行ってみないと分からない。
常に監視出来ている訳でもなく、移動を繰り返している可能性が高く、今サルワの中のどこに大橋がいるのかはまだ判明していないが見つけ次第捕獲してくれ。
俺は大橋と食屍鬼の関係性は普通では無く親密な物と睨んでいる。
もしかすると、大橋を守る為に俺達を狙ってくる可能性もある、という事を踏まえた上で突入してくれ。」
隊員達は黙ったまま下を向いていた。
「さっきも言ったが、俺を護るって考えは有難いが怖気付いたままの同行は望まない。
残りたい者は遠慮なく残ってくれ。
日が暮れてから向かうのは食屍鬼の首を取る為の総龍からの命令だ。
視界は悪く向こうが有利な立場となる。
だから準備を怠らないように。以上だ。」
凱斗は桜庭にマイクを渡すと階段を下り扉へと向かい歩き出す。
「それでは同行する皆さん、用意をしてください。
出発する五分前にアナウンスをかけますので、用意が出来次第声が掛るまではご自由にお過ごしください。」
桜庭の言葉を聞いた隊員達は立ち上がり頭を下げると次々と広場から出て行く。
桜庭は隊員達を見送った後マイクとモニターを片付け広場を後にした。




