09
凱斗と猫八はヘラッと笑い合う。
「オレノ、ハ、ハナシ、キキキイテ、クレックレッル?」
凱斗はこくりと頷き猫八の肩から手を離した。
猫八は嬉しそうに笑うと凱斗の耳元へと顔を近付ける。
一生懸命に伝える猫八の話を聞いて、凱斗は手を震わせた。
「オレガ、シッシッテルコトッハ、ゼンブ、ハナッハナシッタッ」
猫八は凱斗から離れその場に座り込む。
「カイット、サイゴ、サイゴニ、オレッオレッノ、タノミヲ、キキイキキキイッテ?」
凱斗はしゃがみ猫八の目を見つめる。
「何?」
猫八はへへへと笑う。
「オレヲ、オレッヲ、コ、コロコロッコロシッテクレ」
猫八の言葉を聞き凱斗は目を閉じ首を横に振る。
「猫八、それは出来ない。」
猫八は首を振る凱斗を見て下唇を噛み締めた。
「オレハッ、ショクシキダッダゾッ
リュウナッラ、コクッリュッリュウノ、タイショッタイショウナッラ、コロサナキャ、ナッ?」
猫八は凱斗の腕を掴んで一生懸命に話す。
凱斗は自分の腕を掴む猫八の手を上から握る。
「あぁ。
でも猫八、お前はそこら辺の食屍鬼とは違う。
話が出来て何より俺達が得ていない情報を持っている。
生きたまま捕獲し総龍会に送る……いいな?」
猫八は凱斗の目を見てニコリと笑うと、首を横に振った。
凱斗は握る猫八の手が徐々に震え出している事に気付く。
「猫八……どうしてだ?」
猫八は凱斗から目を逸らし息を荒くする。
「モ、モウ、ガマッガマンッデキッナイカッラ」
ハァハァと荒い息を吐きながら涎をポタリと垂らす。
「ナァ、カイト。モッモウッ、ゼンブ、ゼンッブ、ハナシタ。タノッム…ラクニ……ラクニッシテッ…」
凱斗の方をチラリと見る目は赤く染まり綺麗な涙を流していた。
口元からは涎がポタリポタリと垂れ、その涎は凱斗の手の上に落ちる。
凱斗はそれでも猫八に剣を向けようとはせず、手を握ったまま見つめ続けた。
「ハヤック、バットウシテ」
更に息を荒くし、手をガタガタと震わせる猫八を見ても凱斗は変わらず見つめ続ける。
「カイット!!!
オネ、オネガイ、ダ、ダカラ…」
猫八は歯をカタカタと鳴らし凱斗の手をジィッと見つめ鼻をヒクヒクとさせると、少し口を開き大量の涎を垂れ流した。
「オレハ、オレ、オレレ、オレハ、ヒト、タベタクナイ。タベタク、タベ?タベタイ?タベ、タベタイ!」
猫八は、ハハハッ!と笑い出し凱斗の手を力強く握った
「オイシ、オイシソ、オイシソナ、ニオイ」
掴んだ凱斗の手を見つめ涎を垂らしながらニタリと笑うその姿は、凱斗が今まで見てきた食屍鬼と変わらなかった。
それでも凱斗は手を握られたまま動こうとはしない。
「猫八。俺はお前が大好きだ。
いつも明るくて元気で……うるせぇけど嫌じゃなかった。
お前が居るとその場は凄く明るくなるよな。すげぇよ、本当に。」
猫八は話を聞こうと凱斗の方を見ようとするが、凱斗の手から目を離せずにいた
「あの時俺がもっと強ければお前がこんな目に遭うこともなかった。ごめん。ごめんな猫八。」
猫八は耳をピクピクとさせながら赤い目を大きくし、少しずつ口を広げていくが、もう片方の手で一生懸命に自分の口を抑える。
「俺の事、喰いてぇか?」
猫八はバッと凱斗の目を見ると首を大きく横に振るがすぐに凱斗の手へと視線を戻した。
今にも噛み付きそうなほど顔を近付け、涎をボタボタと垂らす猫八は目から涙を零す。
凱斗は掴まれた自分の手を見て、猫八を見る。
もう片方の手は剣を掴んでいた。
「ア、アァ…アアァアアァァアアアッッッ!!!」
猫八は凱斗の手を離し立ち上がると頭を抱え上下に振る。
「ヤメッヤメテ!アァ!!カイトッッ!!!!」
「ナカマ、ナラ…タノムッカラ…」
「オネガイ、ダ…シハッシハイッサレッル、マエニッ!!」
叫びながら、顔をグシャグシャにしながら、懇願する猫八を見て凱斗は抜刀し剣先を猫八へと向けた。
「今度はちゃんと白龍に連れて帰ってやるからな。」
歪んだ視界で猫八を捉え、構える。
凱斗の姿を見た猫八は自分の顔や頭を殴りつけ、ハァハァと息を吐きながら笑顔を見せる。
凱斗は唇を噛み締め、そのまま猫八に向かって走り出す。
猫八は両手を後ろで組み目を閉じる。
「アリ、ガトウ」
凱斗の耳に言葉が届くと同時に猫八はバタリとその場に崩れ落ちた。
凱斗は自分の剣に付いた真新しい血液がポタリと地面に落ちるのを見て、瞳の闇を濃くした。
その場に剣を落とすと座り込み目の前に転がるモノを抱える。
「ごめんな。出来るだけ痛い思いはしないように……したつもりだけどどうだった?」
答えが返ってくることはない。
風が吹き草がカサカサと音を立てる。
凱斗は抱えるモノから零れ落ちる雫を指で拭うが、何度も何度も零れ流れる。
「なんで……どうして……何をした?どうして?なんで?なんで?なんで?どうして?猫八が何をしたって言うんだよ?」
凱斗の涙は口を伝い赤い涙を落とす。
「最近泣いてばっかだよ。なぁ、猫八。
……どうせ、泣いてんじゃねぇって笑ってんだろ?なぁ……笑ってくれよ……。」
凱斗はモノを見つめながらボソボソと話を続ける。
「なぁ猫八。
同世代でこんなに親しく接してくれたのはお前だけだったよ。
同じ立場っていうのもあるんだろうけど……すげぇ嬉しかった。
俺の中でお前は友達より大切な存在だった。
食屍鬼が居なけりゃ出会わなかったかもしれない。
でも、食屍鬼が居るからお前を失ってしまった。
いや、違うか。俺が弱いから失ってしまった、か。」
凱斗は空を見上げ。
「なぁ、猫八。そこに神様はいるか?いたらさ、あんたは意地悪だって伝えてくれよ。」
ボヤける月を見つめながら微笑む。
「自分で言えよって言われた気がした。
まぁそうだよな。いつかそっちに行った時自分で言うよ。
猫八はそっちでさ俺が行くまでゆっくりしててくれよ。」
凱斗の頬を伝う涙は抱えるモノの上に落ちる。
そのまま暫く凱斗は空を眺め続ける。
歪んだ月は徐々に形をハッキリさせていった。
その月を映す瞳は暗闇より暗く空よりも輝かせていた。




