08
暫く歩き続けたが女性が一時間程度でこれ以上進むことは出来ないだろうと引き返す凱斗。
凱斗は隊服の首元に付いたマイクのスイッチをいれる。
「一回車に戻ってこい。」
そう言うと各々から返事が聞こえる。
凱斗は瑠璃の無事を祈り車へと向かうと、先に戻った隊員達が数人立って待っていた。
凱斗も隊員達の所へ辿り着くと、まだ帰ってきていない隊員達を待つ。
しかし、五分、十分経っても隊員達は帰ってこず、マイクで話しかけても返事は無かった。
凱斗は一緒に待っていた隊員の半分に屋敷に戻り桜庭へ伝えるように言うと、残りの隊員を連れて戻らない者達が向かった先へと向かい歩き始めた。
凱斗の隣に二人が立ち懐中電灯で凱斗が歩く道を照らす。
その後ろに三人並び辺りを照らしながらついて歩いた。
暫く歩いて行くと、サルワの森の近くでシクシクと女性の泣き声が微かに聞こえた。
「瑠璃?」
凱斗達は立ち止まり声が聞こえる方へ声を掛けると、泣き声は止んだ。
風が吹き嫌な臭いが漂う。
「と、燈龍さん……?」
消えるような声で名前を呼んだかと思うと、突然大きな声を出す。
「これ以上近付かないで!!」
瑠璃の声に少し驚きつつ抜刀し、ガサガサと草を掻き分けながら動く者に剣先を向ける。
「そこにお前と誰がいる?」
凱斗がそう言うとガサガサと鳴る音は止んだ。
隊員達は音が鳴った方を照らしながら剣を構えた。
「瑠璃、そこにいるのは誰だ?」
凱斗はゆっくりと近付きながら問い掛けるが、瑠璃は何も答えなかった。
瑠璃が答える代わりにまたガサガサと音を立てる。
凱斗はその音の鳴る方へと集中する。
また音が鳴り止んだかと思うと、次は別の場所からガサガサと音が鳴り始める。
その音は嫌な臭いと共に凱斗達の方へと向かってきた。
「イイ、イイニオイ」
声が聞こえると同時にニタリとした表情が姿を現し凱斗の方へと走って向かってくる。
凱斗は鋭い眼で捉えると剣を構え飛び上がろうとした時、横から黒い影が飛び出してきて凱斗に向かってきた食屍鬼の首が転がった。
「ア、、アエ?アェレレレ?」
転がる首は不気味な笑みを浮かべたまま隊員達の足元で止まる。
凱斗は飛び出してきた黒い影を見て、目を大きく見開くと、剣を地面へと落とした。
隊員達も黒い影を見て目を大きくする。
「どうしてお前が……?」
黒い影は凱斗の方を見て、不器用に笑ってみせた。
黒い影はフラフラとしながら凱斗へ近付く。
隊員達はサッと剣を構えるが、そらを見た凱斗は隊員達に剣をおろすように手を翳す。
隊員達は少し戸惑いつつも、ゆっくりと剣を鞘へと戻した。
「お前達は瑠璃の保護に行け。」
隊員達をチラリと見てそう言うと、凱斗は落とした剣を拾い黒い影へと向かい歩き出す。
「アニキを置いて行けないですよ!」
一人の隊員がそう叫ぶと他の隊員達も頷き騒ぎだす。
ギャアギャアと騒ぎ立てる隊員達の声を聞き、凱斗はピタリと足を止めた。
「他にも食屍鬼がいたらどうする?俺達はここに何をしに来た?……なぁ?」
首を回し隊員達を見る鋭く闇深い眼は隊員達を震え上がらせた。
「それに俺は大丈夫。お前達も分かってんだろ。瑠璃の保護に回れ。今はコイツと二人にしてくれ。」
背を向ける凱斗にもう誰も何も言わない。いや、言えなかったのだ。
恐ろしく冷たい眼で見る男のその声や剣を握るその手は、今にも壊れそうなほど震えていたのだ。
隊員達はビシッと敬礼をし「何かあれば直ぐに呼んでください!!」と声をかけた。
凱斗は声を出さずに手をヒラヒラとさせた。
隊員達はガサガサと草を掻き分け瑠璃の名を呼ぶ。
すぐ近くで蹲り震える瑠璃を保護したと報告を受けた凱斗は、車に戻るように伝える。
ガサガサという音は段々と小さくなり、聞こえなくなった。
食屍鬼の嫌な臭いが漂う。
目の前には不器用に笑いながら立ち竦む黒い影。
凱斗が一歩近寄ると、黒い影は一歩下がる。
まるで自分の事を見ないでくれと言っているようだった。
「なぁ、なんで逃げんだよ。」
凱斗の問い掛けに笑顔のまま答えない。
「さっきは助けてくれたんだよな?」
笑顔のまま答えない。
「……ありがとう。助かったよ。」
笑顔のまま答えない。
「俺はお前を助けられなかった。
たった数日前の事なのに、なんでこんなに懐かしい気持ちになってるんだろうな。」
笑顔のまま答えない。
「ごめん、ごめんな。痛かったよな。」
笑顔のまま首を横に振る。
「……お前は変に優しいよな。アレが痛くないわけねぇだろ。」
笑顔のままジッと凱斗の目を見る。
「なぁ、俺の言葉はちゃんと通じてるんだよな?お前は話す事は出来ないのか?」
笑顔が少しずつ消えていき、首を横に振る。
「じゃあ少し話そう?」
哀しそうな表情で首を横に振る。
「なんでだ?嫌なのか?怒っているのか?」
今にも涙を流しそうな程目を潤ませ大きく首を横に振る。
「じゃあなんで話してくれないんだ?」
黒い影は何かを決意したような目を凱斗に向けた。
スゥッと息を吸い込み、数秒目を閉じる。
凱斗は黙ってその姿を見つめていた。
フゥと息を吐いた黒い影はまた不器用に笑い口を開いた。
「カ、イト。コ、コンッナ、ハナシシカタッデモ、キ、キ、キライナナラナイ?」
黒い影の声を聞き、凱斗の目から一筋の涙が零れ落ちる。
当たり前に聞いていた声が懐かしく感じる。
少し上を向いて二度三度と目をパチパチとさせると、黒い影の方へと視線を戻した。
「バカじゃねぇの?嫌いになるわけねぇだろ。」
涙を堪えながら笑顔で話す凱斗を見て、黒い影はポタリと涙を零し笑った。
「ヨカ、ヨカッタタ。ヨカッヨカッタ」
凱斗は剣を鞘に戻すと黒い影にグイッと近寄り腕を掴んで強く抱きしめた。
「何でここにいるんだよ?って聞きたい所だが……その前に一言だけいいか?」
「ナ、ナニ?」
凱斗は黒い影の両肩を優しく掴み目を合わせニコリと優しく微笑む。
「おかえり、猫八。」




